北八ヶ岳逍遥【第3日】
              〜『にゅう』から白駒池〜
 
『にゅう』の三角点から丸山。中腹に高見石と小屋が見える。
遠くは北アルプス。(左に穂高連峰、中央に槍ヶ岳)
平成19年 8月13日(月)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 ここはしらびそ小屋。缶ビールを飲んで、何だか眠たくなって、前夜7時半から床につ
いたけれども、寝たような寝なかったような。ウトウト眠りで気がついたら5時過ぎ。そ
うだ、小屋のご主人が言っていたっけ。日の出前、目の前の天狗岳の東斜面が赤く染まる
と。所謂、モルゲンロート。もっともモルゲンロートは”朝焼け”のことで正しくはアル
ペングリューエンというらしいが、まあ朝焼けに染まる山肌なのだから、固いことは言わ
ないでおきましょう。 (^^; 慌ててデジカメを持って表へ出ると、Hちゃんがもう起き
て荷物の整理をしています。「ちょっと遅いかも」の非情な声を後に残してミドリ池の前
へ。何とか間に合ったような間に合わなかったような。というのはモルゲンロートを今ま
で見た覚えがないので、悲しいかな、断言できないのです。(^^; とりあえずシャッター
を切ります。カメラを構える間にも赤から白みを帯びた黄色に刻々と変わる天狗の姿はな
かなか崇高なものでありました。

モルゲンロート?朝日に赤く映える天狗岳東峰

 6時に食事を摂った後、再びミドリ池の前。餌に誘われたホシガラスやウソがやってき
て落花生やひまわりの種をついばむ姿や、餌を上手に両手に抱えるニホンリスの姿を間近
に見る栄誉に浴しました。Tちゃんに依れば、実は深夜にはカモシカが小屋間近にまでや
って来ていたそうです。
餌につられてやって来たニホンリス

 いよいよ今日は北八の最終日。又冬にどうぞというご主人や仲良くなった飼い犬にも別
れを告げて、6時50分、中山峠へ向かいます。昨日歩いてきた本沢温泉からの道を左に
して、しばらくはかつて間伐材を運び出していた錆びたレールが残るトロッコ軌道跡を進
みます。まもなくその軌道跡とも別れて、ダケカンバが林立する中の道になります。昨日
までの道に比べたら半分位の幅ですが、赤布が頻繁に付けられていて迷うようなことはあ
りません。しかもその赤布は目の上の高い所にある。きっと雪の時のスノーシューコース
でもあるのでしょう。ここもゴゼンタチバナが目立ちます。

迫力ある稲子岳の南西岩壁が迫る

 ゆっくりとほとんど勾配のない道です。一度、一気に段丘を上がるような部分がありま
すが、すぐ又平坦になります。しかしこんなものでは済みません。地形図を見れば一目瞭
然、峠の間近が非常に急峻であり、それは昨日、中山峠を通った際にこの目で確めていま
す。その証拠に曽爾の屏風岩に似た山肌が木の間越しに眺められます。稲子岳の斜面のよ
うです。それがだんだん近づいて来るに従って、道の傾斜も厳しくなってきました。風が
ほとんどなく早くもたらたらと首筋を流れる汗。傾斜は二段構えで、大分登ったと思った
ら、まだ先に屏風のような斜面があります。鎖場を過ぎ、休憩回数が増えだしました。そ
れでも斜面が草付きになれば峠も近いはず。累々とした岩の間を乗り越えると、ようやく
見覚えのある落書きがある峠に到達。少し風も出てきました。ザックを下ろし小休止。フ
ーッ。後続のみんなを待ちます。

 少し遅れて他のメンバもやってきました。その間にも黒百合ヒュッテに向かう親子連れ
や、天狗岳直登コースに挑む若者パーティが通過していきます。振り返ると天狗岳の東峰
がニョッキリと青空に聳えていました。

 ここから『にゅう』分岐までは昨日辿ったコースです。ただし、逆に歩くと何だか感じ
が違って初めて歩く尾根のような気がします。時折見える東側は佐久平。やはりこちらは
昨日同様、1500m付近にやや雲が多く、その上、逆光なのでやや霞んだ感じです。左
手は中山。時折、遠くに、谷筋に雪を残す高山。どうも乗鞍岳のようです。

 『にゅう』の分岐までは20分ほど。針葉樹とダケカンバの混交林。何という小鳥だか、
綺麗な声を奏でます。木々で覆われているので目立ちませんが、東側は100m位の崖で
す。時たま踏み跡があってその崖近くに出ること出来ます。その一つに出てみると、谷底
に何やら金属製らしい白いものが。Nちゃんの双眼鏡で覗くとそれはカメラ見たいな機器
で、その周囲にピンクの花らしきものも見える。ひょっとしてコマクサをライブカメラで
撮っているのだろうかという意見もありましたが、我々が見ている崖の砂礫部分にもピン
クの塊はあってそれはイブキジャコウソウの群落です。とすれば、イブキジャコウソウを
写しているのか。でもライブで映すほど珍しい花でもないし。それともロボット雨量計か
なにかかな?それ以上はよく分かりませんでした。

まさに木の根道の『にゅう』への尾根

 岩や木の根の目立つやや不明瞭な踏み跡を赤布を頼りにぐんぐん降りていきます。そろ
そろ『にゅう』でしょう。標識があるか注意します。すると水のない沢の小さな源頭みた
いな場所を越え、再び尾根に出た時、前方に岩峰が見えてきました。あれが『にゅう』で
しょう。昨日、『にゅう』分岐近くで会ったご夫婦は『にゅう』まで行き着けなかったと
言っていましたが、間違えようもない道なので、さっきの下りまで来た辺りで、早々と諦
めて引き返されたのかもしれません。

『にゅう』の南面

 白駒池への道を確めておいて、岩の塊の『にゅう』へ登りましょう。幾組かのパーティ
が小休止している間を縫って最高点へ上がると、岩の間に三等三角点がありました。点名
『乳岩』。どんな謂れがあるのでしょう。それよりもここも大展望です。東は大樹海。そ
の向こうに佐久平。天狗山や大菩薩嶺、秩父方面の山々が見えています。北に白駒池や遠
くは蓼科山や浅間山。そうして丸山の中腹には高見石と一昨日宿泊した小屋の赤い屋根も
指呼です。更に背後に顔を巡らせれば、天狗岳や硫黄岳も姿を見せています。でも何とい
っても圧巻は昨日に引き続き、再び北アルプスの槍や穂高が眺められたことです。デジカ
メに納めましたが、果たして再生した時、判別できるか期待と不安が交錯するところです。

快晴の下、『にゅう』より南方面を眺める。
左に硫黄岳、中央に天狗岳東峰、西峰

 小腹が空いたのでここでブレーク。日陰でコーヒーを沸かし、パンとカロリーメイトを
齧ることにします。カロリーメイトこれはいい携帯食。これからは愛用することにします。

 さて、後は下るのみです。ザックはまだまだ重いですが今までに比べたらすこぶる楽チ
ンです。相変わらずのゴロゴロ道。途中、稲子湯への分岐が二つ現れますが、そこにある
『にゅう』への道標の表記がいい加減で思わず笑ってしまいます。『にゅう』はいいので
すが、『ニュウ』や『ニュー』もあり、挙句の果てに『ニュー中山』とはこれ如何に。私
製ならまだしも、町や営林署が立てたオフィシャルな道標なんですよ。少なくとも真ん中
に中点を入れるとかして区別が欲しいところです。『ニュー中山』なんて、なんだか場末
のビジネス旅館のようですね。(笑)

 倒木などで少し荒れた風情の登山道も、しばらくすると平坦になります。コバノイチヨ
ウランの群落などもあって、もっと探せば色々な植物が見つかるだろうと思われます。や
がて木道が出てくるとワタスゲが目立つ湿地帯。その西側の木々の間から高見石が見て取
れます。手元のGPSでは直線距離約900mとありました。

 湿地といってもそれほど見るべきものもなさそうなので、先を急ぐと前方に白く光るも
のが現れ、やがてそれが水面であることがはっきりしてきます。白駒池で、一昨日歩いた
周回遊歩道を左に取れば、白駒荘は間もなく。その近くの湖畔が涼しいので昼食です。可
愛い小学生くらいの女の子が店番をする売店でコーラを購入します。なぜか山から下りる
と無性にコーラが欲しくなるのですが、体が砂糖っ気を要求するのでしょうか。Nさんは
冷えたトマトを買って皆に振舞ってくれました。美味いです。

 多くの観光客が行き交う針葉樹林帯の中の遊歩道を15分くらいで駐車場に出ます。重
かったザックを下ろしてせいせいしました。こうなると下山後の温泉ですっきりしたくな
ります。何が何でも石鹸で体を洗いたい。八ヶ岳自体が火山ですから、付近に温泉は沢山
ありますが、石鹸が使える風呂なら少し山を下って下界に近い方がいいでしょうというこ
とで、国道沿いの乙女滝温泉に立ち寄りました。鉱泉ですが、深い渓谷を見下ろす半露天
風呂はなかなかいい湯加減でした。でも腕や首筋が痛い。気付けば皮膚が真っ赤、滅茶苦
茶焼けているのでした。(^^;

 下界といってもまだまだ標高は高く1000mくらいはあるのでしょうか、休憩所で涼
む折りに谷筋から吹きこむ風は、ひやっとした感じで頬を撫でます。おかげで額の汗もす
ぐに引っ込みました。

 さあ、三日に亘る夏山遠征もついにフィナーレ。思えば自称、日本最高所の野天風呂、
ペルセウス座流星群、野生生物観察、アルプス遠望と盛り沢山の見所たっぷりの山歩きで
した。しかも初の山小屋泊りは勉強になりました。とりわけ水の貴重さ。トイレは紙は別、
顔洗いもコップ一杯程度、チューブ入り歯磨きは駄目。勿論、風呂なし。消灯8時半など。
でも1畳に2人とかの芋の子泊りはやっぱり願い下げですね。(笑)

 帰りもごったがえす逆方向の車線を尻目に、それほどの渋滞にもあわずに帰阪。すっか
り病み付きになりそうな八ヶ岳遠征はこうして無事、終了したのでした。同行の皆さん、
本当に有難うございました。



■同行:たらちゃん、然ちゃん、ハム太郎さん(五十音順)

【タイムチャート】
6:55しらびそ小屋
7:03本沢温泉分岐
8:18〜8:30中山峠
9:48〜10:26にゅう(2,351.9m 三等三角点)
11:05稲子湯分岐
11:20湿地
11:40〜12:15白駒池(白駒荘前)(昼食)
12:30白駒池駐車場

■第一日目『北八ヶ岳逍遥【第1日】〜白駒池から高見石小屋〜に戻る
■第二日目『北八ヶ岳逍遥【第2日】〜天狗岳から本沢温泉経由しらびそ小屋〜
 に戻る
■花の写真集 北八ヶ岳逍遥を見る


にゅう』のデータ
【所在地】長野県南佐久郡小海町
【標高】2,329.6m(三等三角点)
【備考】
北八ヶ岳の白駒池の南、天狗岳の北尾根に連なる岩です。
流石に三角点が選点されただけあって、岩上に立てば3
60度の展望が開け、天狗岳や北八ヶ岳の自然林は云う
に及ばず、浅間山、北アルプス、中央アルプス、佐久平
等が一望出来ます。白駒池から1時間半弱です。
【参考】
2.5万図『蓼科』



   トップページに戻る

inserted by FC2 system