貴公子花紀行
     〜釈迦ヶ岳でお目当て探しに大童
 
平成17年 6月 5日(日)
【天候】曇りのち晴れ
【同行】別掲
北側の奥駈道から眺める釈迦ヶ岳


 まだ見ぬツガザクラの花を求めて、今年二度目の大峰は都合三度目の釈迦ヶ岳。皆で目
を皿にしての大捜索?を展開したけれども容易には見つからず。そして諦めかけたまさに
その時に、運命の女神は希少な植物とのご対面を叶えてくれたのでした。『サクラ』とは
いってもツツジの仲間。派手さは無いが、目立たずひっそりと咲く姿に満足感はひとしお
でした。

 R168沿いのローソンを集合場所に20分前に到着したら、もう皆さん全員が集合し
ている。全員の車で行くのは勿体無いので、小生の車に乗り合わせることにして、一路、
釈迦ヶ岳に向かって南下する。

 大塔村役場から夢の湯までは十津川右岸の迂回路。それにしても聞きしに勝る十津川の
崩落現場だ。未だにその時の姿で倒れたままの杉がある。川には土砂と転がった岩が積み
重なっている。「臨時」と名づけられたバス停。復旧まで相当かかるだろう。

 奥吉野発電所の看板を目印に国道から折れて、旭の集落を抜け、長丁場の林道。130
0mまで一気に1000mの高度を稼ぐのだが、所々に拳大から、野球のボール大の角ば
った落石が転がっている。山肌を見れば方解した岩が剥き出しで、何時落ちてきても可笑
しくない。小さくてもあんなものが当たった日には、車はえらいことになりそう。(^^;
ガードレールのない道端から数百m下で岩を噛む宇無ノ川の渓谷を横目に、まだかなり上
の方に見える稜線を目指す。この林道、不思議なことに上に行くほど道が良くなる。山陰
のヤマツツジ、ガクウツギが綺麗だ。

 8時半過ぎに峠の駐車場着。もう10台以上の車。少し行き過ぎた路肩に駐車して、準
備している間にも次々上がってくる車。去年は連休でもこんなことはなかったように思う
が、まあすごいもんだ。そして何時の間にやら、真新しいトイレが出現、取付きも木製の
階段が取り付けられている。えらく整備が進んだものだ。これも世界遺産に指定された為
だろう。そういえばアプローチルートの林道もダート部分がなくなっていた。願わくば過
剰な整備だけはしないで貰いたいものだ。

整備された峠の登山口。トイレもある

 清々しいブナやヒメシャラ、モミ、トウヒの林立するクマザサの切り開き道からシャク
ナゲの咲く道へ。ギンリョウソウの蕾やサラサドウダンの花に、一時歩みを止めながら、
新緑を楽しむ。秋に訪れた時、紅葉が美しかった大きなシロヤシオは地面が白くなるほど
花を散らしているが、まだまだ枝先は花で真っ白。今年はどこも花の当たり年だ。

 徐々に雲が取れて青空が顔を出す。漏れた日の光にイタヤカエデ、ブナの新緑が鮮やか。
乾いた涼風がその葉をきらめかせる。バイケイソウの大群落。その蔭でワチガイソウの小
さな花がそよぐ。ツツドリやカッコウの鳴き声が響く谷を隔てた向かいの尾根には奥駈道
が走る。ガスが取れた大日岳の尖峰が一際鋭い。中腹がシロヤシロで真っ白である。

釈迦ヶ岳西南尾根の登山道。別天地だ

 小休止やカメラ休憩を取る間にも、幾組かのパーティが追い抜いていく。まるで蟻の熊
野詣ならぬ釈迦詣だ。(笑) 真新しいクマの爪痕も見つかったが、クマが出てくる暇もな
さそうだ。

 古田の森のピークを過ぎ、目の前にガスに覆われた釈迦ヶ岳が姿を現すと、徐々に傾斜
が増してくる。千丈平で一旦緩むものの、奥駈出合まではバイケイソウの中の厳しい登り。
この辺りにはいつも鹿が出没するが、今日も1頭見かける。

ようやく釈迦ヶ岳が見えてきた。でもガスが...

 出合で左に折れて10分も登れば釈迦ヶ岳の山頂だ。釈迦如来の銅像の周りは多くの人
が休んでいる。この連休に登った湖北の赤坂山状態だなぁ。(笑) かく云う我々も前鬼へ
向かう奥駈の稜線がよく見える山頂の隅で昼食。今日もおにぎりとカップ麺の代わり映え
せぬメニューだけど、山で食べると何でも美味いのです。

 昼食の後は、未踏の孔雀岳方面を歩いてみる。フェアさんは山頂で昼寝でもしていると
いう。そこで3人だけで気楽に向かうことにしたが、孔雀岳方面の奥駈道はその思惑と反
して、正直、ちょっとビビる程の険しさでした。

 釈迦ヶ岳山頂の西側から奥駈道は急降下するが、山頂北側にも踏み跡があって、山頂の
直下で合流している。そっちから降りてこられた夫婦の方は我々を孔雀岳から来たものと
勘違いされ、なんだか狐につままれたような顔色である。

釈迦ヶ岳北側の奥駈道は険しい馬の背

 奥駈道はぐんぐん下る。ガラガラした石片が転がり、しかもシロヤシオの枝なんかが張
り出して歩き難い。やっと鞍部に着いたと思ったらギザギザの馬の背だ。ガスが下から湧
き上がってきて余計に高度感を増してスリル満点。何か体がむずむずする感じ。金属杭を
4本打ってある岩があるが、握るとその金属杭が動くのだ。「ヒエー」。雑木の生えてい
る所があると、怖さが薄れてちょっと安心するくらいだ。奥駈道はやはり修験の道で、生
半可では危険だとつくづく思う次第。そんな狭いごつごつの馬の背がしばらく続き、短い
鎖場を降りたり、アップダウンを繰り返す。岩にはコイワカガミが張り付くように。ヒカ
ゲツツジなどもあるが、なんといっても多いのはシロヤシオ。いたるところで満開だ。そ
れに比べると少ないけれど、遠くから目立つのはアケボノツツジ。(はっきり確認してい
ないのでアカヤシオかもしれない。)

 大きな岩壁を左に見て巻いて、ヒメザサに覆われた緩やかな斜面から再び尾根筋に出た
りしながらの道。大きなテーブル状の岩の上にまた岩が乗って、まるで僧兵か何かに似た
岩もある。その内、徐々にガスが晴れて、西には七面山の西峰や東峰の絶壁、あけぼの平
から槍の尾の姿がはっきり見える。何年前かに訪れたことが昨日のように甦ってくる。直
下には賽の河原を思わせる白い石が敷き詰められた宇無ノ川の源頭の枯れ谷がある。仏生
ヶ岳の向こうの弥山は頭をまだガスに隠している。

宇無ノ川源頭のキレットから七面山
左が槍ノ尾、鞍部があけぼの平

 大岩の横、テラス状の部分を巻いていくと、やがて背丈を越える岩が50p位の間隔を
空けて、門のように左右に控えている場所に出る。ここが両部分けらしい。ここから北が
金剛界、南が胎蔵界を現すという。時刻は午後一時を少し過ぎる。GPSを見れば、孔雀
岳へは直線距離で約800mの地点。孔雀岳も大分、近づいてきて、山頂の木々の枝ぶり
もはっきりしてきたけれど、釈迦の山頂でフェアさんを余り待たせるわけも行かず、今回
はここまででUターンとした。

両部分け付近から眺める孔雀岳
両部分け。向こう側が金剛界
こちらが胎蔵界

 往路では気づかなかったが、両部分けから少し戻った岩の影には青銅の蔵王権現像がお
かれている。沢山の碑伝が供えてあるのを見ると、ここがの「橡の鼻」らしい。なぜかこ
こは靡きではなく、ついさっき見た僧兵に似た岩が「空鉢岳」という靡きらしい。

橡ノ鼻の岩壁下の蔵王権現

 往路では「すごいとこ歩くんやな」が偽らざる感想。いわばジェットコースターに乗る
前の心境みたいで、躊躇半分、面白さ半分みたいなところがあったけれども、少し様子が
分かってきた帰りは面白みが克つ。周囲の風景を楽しみながら登り返すことができる。

 大岩壁を抜けて、小さなピークに戻った辺りから眺める釈迦ヶ岳は端正。全くの緑の三
角錐。(冒頭の画像)その釈迦ヶ岳の斜面から振り返ると、ちょうどガスが晴れたとみえ、
孔雀岳の東側に林立する五百羅漢がくっきりと見えた。

奇岩累々の五百羅漢

 あれだけひっきりなしに登山者がやってきた山頂も、今はフェアさん以外は学生風の3
名のパーティだけである。ガスも取れて笠捨山辺りの山並みも見て取れる。再び4名にな
った後は、テン場の丸太のベンチで最寄の水場で汲んだ水を使ってコーヒーブレークと洒
落こむことにする。ニホンジカが数頭、上の登山道に姿を現す。コマドリが「ヒンカラカ
ラ」と囀る中でのコーヒーはまた格別である。

 すっかり晴れ渡った空の下、峠目指して降りて行く。ガスの有無でこれだけ雰囲気が異
なるものか。しかも誰にも遭わず静か。キツツキのドラミングがすぐそこで聞こえる。本
当に名残惜しいなぁ。

 峠に戻ったのは4時40分。もう3台ほどの車しか残っていない。やや赤っぽくなった
日の光を浴びて、林道をくだり、五條へ戻ったのは6時半前である。車のデポ地で散会し、
それぞれの帰途に着く。余韻に浸りながらの晩酌のビールが美味かろう。皆さん有難うご
ざいました。

 そうそう最後に肝腎の花のこと。なんとか目当てのツガザクラとも対面できて、充実の
花紀行。今回の山歩きで対面した主な花々の画像を以下にまとめておこう。


釈迦ヶ岳で見られた花々

模様が美しいサラサドウダン

ギンリョウソウの蕾

爛漫のシロヤシオ

釈迦ヶ岳をバックにコイワカガミ

鮮やかなピンクはアケボノツツジ

また出会ったオオミネコザクラ

ツガザクラ。大捜索の末にやっとご対面


■同行   nakaiさん、のりかさん、フェアさん

【タイムチャート】
5:30自宅発
6:40〜6:55五条市のローソン(集合地)
8:20〜8:30峠登山口(駐車地)
9:10〜9:12不動小屋谷コース出合
10:30千丈平
10:50奥駈道出合
11:00〜11:50釈迦ヶ岳(1799.6m 一等三角点(昼食))
13:05ツツジ道乗越
14:20〜14:35釈迦ヶ岳
14:50〜15:10千丈平(コーヒーブレーク)
15:40古田の森
16:10不動小屋谷コース出合
16:40峠登山口(駐車地)

釈迦ヶ岳のデータ
【所在地】奈良県吉野郡十津川村
【標高】1799.6m(一等三角点)
【備考】 大峰山脈の主稜線上、最も南に聳える1800m峰です。
何処からも目立つピラミッド型の鋭鋒で、頂上には「鬼
雅」と呼ばれた強力が前鬼から担ぎ上げたという青銅の
釈迦如来像が立っています。前鬼からのコースは距離が
長く健脚向の為、峠コースが楽ですが、車以外でのアプ
ローチは難しく、16qもの林道は一寸疲れます。
■日本二百名山■近畿百名山■関西百名山

展望求めて再び釈迦ヶ岳から大日岳
乳色のとばりに包まれ釈迦ヶ岳』を見る。
【参考】
2.5万図『釈迦ヶ岳』



   トップページに戻る

inserted by FC2 system