乳色のとばりに包まれ釈迦ヶ岳
平成15年 10月12日(日)
【天候】曇り一時雨
【同行】単独
鮮やかな紅葉の向こう、乳色の海に佇む
山頂の釈迦如来像


 先日歩いた行者還岳のお陰で、また大峰に行きたくなってしまった。豊中からは遠いこ
ともあって、今まで余り足を向けなかった大峰方面。しかし、修験道のメッカであったこ
とから自然林が多く残され、その新緑、黄葉は素晴らしいものがある。今回の釈迦ヶ岳も
天候には恵まれなかったけれど、その期待に違わず、白いガスに包まれた幻想的なブナや
シロヤシオの黄葉、紅葉を愉しむことができた。その一端が以下の文章で伝わりますかど
うか....。(笑)

 生憎、この三連休は余り芳しくない予報。最も良いと思われた土曜は野暮用で動けず。
日、月の何れか良い方にと思うが、予報は二転三転してハッキリしない。土曜の夜、兎に
角、準備だけは整えておく。

 まだほの暗い明け方。どんよりした空模様に眠いのも重なって、心の隅では明日にしよ
うかとの囁きも掠めたが、雲に切れ目があり、ヤフーのピンポイント予報も15時迄は曇
り予想だ。まあ行くだけ行ってそれから考えればいいだろう。で、とりあえず6時半に出
発。

 七面山オフの集合地、大塔村役場を過ぎて尚も南下し、吊橋で有名な谷瀬手前の旭口で
関電奧吉野発電所に向けて左折する。もみじ街道と名付けられた川沿いの道を走っている
と、懸念が現実となって、とうとう雨がポツポツとフロントガラスに当たり始めた。真向
かいに見える山の五合目以上はガスに覆われている。少し悲観的になる小生。(T_T)

 道は予想したより良く、事前に聞いていたダートも二箇所で合わせて1q位だろうか。
道は登るに従って広くなる。とはいうものの、それまでは欄干の壊れた橋やガードレール
の無い一車線の部分も多く、覗くと100mはあろうかという遥か下に不動小屋谷の流れ
が見え、背筋が寒くなる箇所もあるから気は抜けない。峠の登山口は不動小屋谷林道の登
山口のまだ先。更に車を進め、門柱に似た大きな岩を右に見て、大きく右にカーブすると
峠で、先着の車が数台止まっている。この天候なのに物好きな人も多いんだなと、自分の
ことは棚に上げて一人ごちる。林道途中で追いついたスズキの四駆からは、親子だろうか
男女二人連れが降りてきた。ガスで展望はとても期待できないということで、天川方面へ
行くと戻って行かれたが、今思えば壮年男性の方はその風貌に微かに見覚えが有るような
無いような。何処で見かけたのだろうか?

釈迦ヶ岳の峠登山口(帰還時に写す)

 ガスに切れ目は無いが雨も上がった。ここまで来たら引き返す手はない。準備を終えて
歩き出そうとしたら何者かが地面を這っている。見れば大きな蝦蟇だ。水溜まりに舌を伸
ばして何かを捕食している。早速撮ろうとするがこういう時に限ってデジカメの調子が悪
い。色々試している内に切替えスイッチの接触が悪いらしいと気付く。何とか回復し、ほ
っとする。それにしても今日は蝦蟇が多い。登山道往復で数匹は見かけた。冬眠前に栄養
をつけるのだろう。(笑)
突然現れた蝦蟇

 登山道は峠の尾根の始まり部分につけられている。「おわせよちよち山の会」の小さな
道標。隣は和歌山県にある会社の私有林道である。

 人の背丈程もあるクマザサの間だが良く整備された道を行く。雰囲気もそうだがプンプ
ンとやたら獣臭い。カサコソという音にもすわっ、何か出てくるのかと少しビビリ加減。

 徐々に登って道標のある1434mの標高点ピークで左に折れる。ここからは釈迦ヶ岳
の南西尾根沿いにほぼ一直線の尾根道。その真ん中にまっ赤に紅葉したシロヤシオが忽然
と現れる。

シロヤシオの紅葉
ブナ林の黄葉

 ぬた場を過ぎて、シャクナゲとクマザサのブッシュを抜け出ると、左から林道登山口か
らの道が合流する。丁度、地形図の1465m標高点付近。漸くトウヒ、シラビソの針葉
樹も増えてくる。クマザサが姿を潜め、代わって一面のイトザサ。白い幹のブナの林。そ
の中に付けられた一筋の道。清々しい気分になる。

まさに山水画の世界
はや葉を落としたブナ林の中、一筋の道を行く

 平坦な尾根あり、コンクリの境界標がある小さな痩せ岩山あり。忠実に尾根を辿るので
ガスが出ても心配はない。バイケイソウやカワチブシと呼ばれるトリカブトがシーズンに
は咲き乱れると云うが、トリカブトも今は立ち枯れの残骸のみ。ひとりマムシグサの朱色
の果実が鮮やかだ。

 古田の森は注意しないと気付かないでふと行き過ぎてしまう。小高い1618mピーク
に立てられた『古田の森ピーク』と書かれた小さな道標が目印。本来ならばここから釈迦
ヶ岳のピラミダルな姿が拝めるはずだが、なーんにも見えない。その時、ふと何気なく人
の気配に気づき振り返ると、渓流ブーツを履いた単独兄さん。なんと新潟からとか。今ま
で登った山が600有余というから鍛え方の違いが歴然、あっという間に先行して行かれ
た。

 幾つかのアップダウンを繰り返し、笹原の小山を左に見て、やや平坦な針葉樹の林に出
る。左手には大きなヌタ場がある。千丈平に着いたらしい。緩やかに登っていけば右手に
木を平らにしただけのベンチと大きな袖付き椅子。『前鬼、大日岳』への分岐がある。水
場には細いパイプが差し込んであったが、殆ど水は出ていないようである。

千丈平。此処までくれば山頂も近い
千丈平付近のブナ林

 イタヤカエデやブナにトウヒ等の針葉樹が混交する中、やや傾斜を増した斜面を喘ぐ内
にやっと奧駈道に合流。『前鬼140分、釈迦ヶ岳10分』の指導標が立つ。左の高みに
向かって更に傾斜を増した斜面を行く。露岩が目立ち始めるとやや細長い山頂は直ぐで、
白く霞んだ空気の中に、奧駈四十番目の靡である山頂のシンボル、釈迦如来の姿が朧気に
現れてくる。そのすぐ横には、かなり露出した大きな一等三角点があるが角が大きく欠け
て痛々しい。

 青銅で出来た釈迦如来の像は想像以上に大きい。鬼雅といわれる強力が前鬼から担ぎあ
げたというが、幾つかに分けたとしてもそれぞれ目方は軽く30貫はあったろう。今の柔
な日本人にはとても無理だろうな。裏に大正13年7月、大阪佛立会建立と彫られていて、
協賛者には役の行者の従者であった前鬼の末裔、五鬼助氏の名前も見られる。蓮弁を眺め
れば、役の行者や餓鬼の姿も彫られているは分かるが、何故か加藤清正の騎馬像もあるの
が不思議といえば不思議。側に高さ凡そ30pの石仏が安置され、その白い姿とシロヤシ
オの紅葉のコントラストが面白い。
「正覚の峰にのぼりてながむれば 五百らかんは れん台の下」

 暫くガスの晴れるのを待つ。時折、薄日が射すが一向に晴れる気配はない。晴れていれ
ば、西の宇無ノ川と東の前鬼川の深い峡谷に挟まれた恐いほどの高度感と、高さ数百mの
七面山の南壁、五百羅漢、孔雀岳への痩せ尾根を始め、360度の大展望が得られるはず
なのに。う〜ん。残念。また来いということか。それならシロヤシオの頃にでも。(^^)

 山頂は風も強く、仕方がないので食事は千丈平のベンチへ戻ってからとした。後ろ髪を
引かれる思いで再び千丈平。葉の落ちたブナ林の中。湯の沸くのを待っていると、遠くで
鹿の鳴く声が聞こえる。
山頂と千丈平の間の斜面で見かけたイタヤカエデ

 食事中、大日岳方面から数人のパーティがやって来た。和歌山から来たそうで、出発は
何と午前二時というから驚く。しかもリーダーはザイルからシュリンゲ、ツェルトまで常
備、そのザックの重さは30s以上。猛者であります。

 腹拵えも終わった後は、ぶらぶらモードで下山にかかる。風の所為でバラバラと木から
滴が落ちてくるのかと思っていたら、林道コース分岐を過ぎた頃だったろうか。小康状態
だった雨がついに本降りに。濡れたササにシャツはずぶ濡れ。低気圧の所為で暖かいので
少々濡れても寒くはないのが助かる。泥濘もあって滑るので足元に気を付けながら急ぎ足
で歩く。ズンズン下ってやっと登山口に着いて、ほっとしたら小降りになるから腹が立つ。
しかもガスも晴れてくるではないか。でも1500m以上の稜線はまだガスの中。自分だ
けがアンラッキーじゃなかったんだ。良かったと変なところで納得した。(笑)

 自然林に囲まれて、奧大峰の清々しい空気と雰囲気に触れることが出来た今回の釈迦ヶ
岳。展望が今一だったと贅沢は云うまい。また来る理由が出来たというもの。大塔温泉
夢の湯』で一汗流し、こんぴら館で柿と栗の土産を手に、帰路についたのでした。



【タイムチャート】
6:30自宅発
9:18〜9:35峠登山口(Ca1300m 駐車地)
9:541434mピーク
10:10林道コース出合
10:35古田の森ピーク(1618m)
10:56〜10:58千丈平入口
11:00大日岳、前鬼分岐
11:10奧駈道出合(前鬼、旭分岐)
11:17〜11:53釈迦ヶ岳(1799.6m 一等三角点)
11:57奧駈道出合(前鬼、旭分岐)
12:05〜12:44千丈平(昼食)
13:05古田の森ピーク(1618m)
13:25林道コース出合
13:49峠登山口(Ca1300m 駐車地)


 釈迦ヶ岳
【所在地】奈良県吉野郡十津川村
【標高】1799.6m(一等三角点)
【備考】 大峰山脈の主稜線上、最も南に聳える1800m峰です。
何処からも目立つピラミッド型の鋭鋒で、頂上には「鬼
雅」と呼ばれた強力が前鬼から担ぎ上げたという青銅の
釈迦如来像が立っています。前鬼からのコースは距離が
長く健脚向の為、峠コースが楽ですが、車以外でのアプ
ローチは難しく、又、16qもの林道は一寸疲れます。
(笑)
■日本二百名山■近畿百名山■関西百名山
【参考】2.5万図『釈迦が岳』、エアリアマップ『大峰山脈』



   トップページに戻る

inserted by FC2 system