展望求めて再び釈迦ヶ岳から大日岳
平成16年 4月30日(金)
【天候】晴れ
【同行】単独
大日岳から眺める釈迦ヶ岳東面。鞍部に深仙ノ宿。
左の稜線が峠の登山口に続く


 噂の大展望と錦繍の風景を愛でに昨年出かけた大峰の釈迦ヶ岳。生憎の小雨模様でガス
が濃く、燃えるような紅葉には出会えたけれども、残念ながら肝腎の展望は得ることは叶
わなかった。そんなところへ、気の向くままに買ったヤマケイの「ちょっと山まで」を眺
めていたら、眼に飛び込んできた釈迦ヶ岳からの展望写真。去年のリベンジもあるし、急
に行きたくなって、この連休に再訪。ついでに途中で目に付いた尖峰の大日岳へ奧駈道を
辿ってピストン。お陰で充実した山歩きとなりました。

 6時半前に家を出て、R168の旭口から奧吉野発電所を目指して脇道に入る。実はこ
こからが長い。約20qの林道走行である。例年のことであろう、雪、崩落等で3/31
までは通行止めの看板がある。それがあらぬか、路面上には大小の落石が転がっている。
「大丈夫かいな?こんなの落ちてきたらえらいこっちゃ」

 大分標高を稼いで、ある一つのカーブを曲がった先にスコップ持ったおじさんが立って
いた。「行けますかねぇ」の問いに「うん、行ける」と心強いお言葉が返る。前方でエン
ジン音がすると思ったら、ショベルカーが路面の落石を片づけてくれていた。感謝感謝。
m(_ _)m

 峠の登山口には先着の車が3台ほど。中には静岡や広島ナンバーがあって吃驚する。後
刻、また聞きした所によると日本二百名山巡りをしている人なのだそうである。羨ましい。

 登山口にはいきなり「熊注意、鈴携行」の物騒な注意書き。そういえば、去年、行者環
岳で熊に襲われたご夫婦がいたっけ。恐いけど遭遇してみたい気もないではない。

 尾根の上、根曲がり笹の中の切開きを進む。直ぐにツクシシャクナゲの群生の中を歩く
様になるが、ここでも裏作らしく殆ど蕾はない。標高が1300mもある為か、その他の
木々も概ね芽だし前。去年はまっ赤に色づいていたドウダンツツジも未だ芽吹いていない。
それでもウラジロモミの葉の緑は明るんでいるし、コバイケイソウはその特徴ある葉脈が
目立つ黄緑の葉を他に先だって展開し始めている。

 笹の丈が低くなってくると、不動小屋林道から上がってくる登山道と合流する。去年の
あのガスの中では全く気付かなかったが、もうこの辺りで釈迦が岳が古田の森のピークの
肩越しに見える。左斜め後ろには車で上がってきた林道が小さく。やがて顕著な尾根筋に
出ると右手に赤井谷を隔てて、大峰奧駈道が走る稜線も眺められるようになる。大きな鞍
部には赤い建物が見える。あれが深仙ノ宿らしい。そしてその右に盛り上がる、稲村ヶ岳
近くの大日山に似た尖峰。エアリアを出すと大日岳とある。気になるなぁ。

気になる尖峰は大日岳。左の鞍部に建物(深仙ノ宿)

 アオゲラというのだろうか、大きなキツツキが白骨木のてっぺんに止まっては幹を叩い
ている。ツツドリが意外に近くで吃驚するような音を立てた。境界杭の立つ尾根の突端に
立てば微かに谷底の沢の音が響いてくる。それ以外は静寂だ。こんな自然の音だけという
のは贅沢この上ないのではなかろうか。足元の小さな可憐な白い花はヒメイチゲ

柔らかな古田の森への稜線

 古田の森のピーク(1619m)へ登ってみようと道を外したときだ。さーっと動く褐
色の長い影。「うわっ。マムシや!」すんでのところで踏まずに済んだが・・・。どんな
奴か確かめようとしたが、岩の下に隠れて二度と姿は現さなかった。しかし、驚いたなぁ。

古田の森から釈迦ヶ岳を望む。左の台地が千丈平

 大きなモミが根元からぼっきり折れている鞍部を抜ける。釈迦ヶ岳がそのうねるような
稜線の全貌を現してくる。ヒメザサの明るかった尾根道も、千丈平に入るとトウヒ、ウラ
ジロモミ、イタヤメイゲツが目立つ、やや鬱蒼とした森に変わり、大きなヌタ場を過ぎる
と、足元しか見ないきつい登りが待っている。そんな時、ふと目を上げると30m程先で
動くものが。目を凝らすが分からない。こちらも暫く固まっておく。すると、ソロソロと
動く物体。ややっ?鹿だ。雄1頭に雌数匹の群。なんとも羨ましい。小生、羨望の眼差し。
この群れ、気配を窺うものの、近づいていっても逃げない。犬を呼ぶように口笛を吹くと
吃驚したように距離を取った。それにしても白い尻の毛を精一杯膨らませるのは何のシグ
ナルだろう?
千丈平に現れた鹿の群れ

 水場近くには黄色と青のテントが二張り。どこかへトレッキングに出かけているらしく
無人のようである。去年は枯れていた水も今日は塩ビパイプの口から流れ出している。一
口、口に含むとこれが冷たく誠に甘露。続けざまに二口三口。

 奧駈道と合流すれば釈迦ヶ岳へは近い。10分足らずで山頂の釈迦如来が見えてきた。
そして360度の大展望に唸ることになる。まずは北。痩せ尾根の先に孔雀岳、仏生ヶ岳。
一際大きい八経ヶ岳に弥山。大普賢岳も顔を出す。右手に霞むドライブウェイの走る稜線
の先は大台ヶ原である。左手には七面山の大岩壁。アケボノ平は馬の背中のような鞍部だ。
その先が槍の尾。遠くには金剛山と葛城山が意外に近く眺められる。西には和歌山の峰々
が波の如くたたなづくけれども、顕著な峰がないので同定が困難。南に転ずれば、笠捨山
が目立つ。水面が見えるのは北山川の上流の池原ダム湖。遠い三角形は那智山らしい。

釈迦ヶ岳から北方の奧駈道が走る稜線
孔雀岳(右)と仏生ヶ岳
山頂から右に仏生ヶ岳。奧に八経ヶ岳
七面山。東峰(中央右)と西峰の南面は大岩壁。左は
槍の尾。鞍部のやや茶色っぽい部分があけぼの平
最も遠い稜線は金剛葛城の山並み

 孔雀岳への稜線を眺めていると、法螺、錫杖、額に兜金の三人の行者が上がってきた。
先達2人に若者1名。聞けば弥山を朝4時立ちで、今日は前鬼へ降りるのだとか。小生に
はとてもまねできない。こちらが食事の準備をしていると、釈迦如来の前で般若心経を唱
和し始めた。最後にブオーブオーッと法螺貝の音が山々にこだました。

 しげしげとあらためて釈迦如来を眺めてみた。手は施無畏印と与願印だから下生。更に
それぞれ中指と親指を接しているのは下品を現している。理解の薄い凡夫を救おうとする
姿なのであろう。蓮弁には六道や理源大師等の線刻が施されている。こんな目立つ山の上。
幾度となく落雷があったのではなかろうか。

 昼食や何やかやで1時間ほど山頂で過ごした後は、時間も少しあるので、修験道で重要
な位置を占めるといわれる深仙ノ宿も訪れてみたかったこともあるけれども、往路で姿が
気に入った大日岳へ向かうことにする。

 ヒメザサに覆われた中に鹿がつけた道のような稜線歩きだ。それが「オイオイ」という
感じでぐんぐん下っていく。右手は次第に千丈平から古田の森の稜線の全貌が見渡せるよ
うになる。しばらくして先行していった三人の行者に追いついた。若者は歩く合間に法螺
貝の練習。でも難しそうでなかなか思う音が出ない様子である。

 この辺りはなぜか白っぽい石の破片が多い。それは深仙ノ宿の周辺になると目立ってく
る。その白い石に足を取られながら、最後の急降下をこなすと深仙ノ宿に到着である。

深仙ノ宿。赤い屋根が灌頂堂

 悠に百人は座って読経が可能な広さがある台地には、今はコバイケイソウがあちらこち
らに葉を広げる。北股川の鬱蒼とした渓谷に向かって東面すれば、右に大日岳の尖峰、左
に香精水の大岩。やはり修験の清浄な空間となるべきシチュエーションではある。灌頂堂
には役行者の座像があるが、その縁側に黒いザック。周囲を見渡すと単独ハイカーが香精
水の岩場で休憩中であった。

深仙ノ宿から見る大日岳

 灌頂堂、深仙ノ宿避難小屋を抜けると白い岩。これが五角仙だろうか。奧駈道は再び登
り基調で左へ曲がっていく。灌木の間にミツバツツジらしい赤紫の花、ヒメザサの原を辿
ると前鬼、太古の辻へと奧駈道は右に降りていく。古い石標が立っているが梵字以外は摩
滅して分からない。奧駈道と分かれて無名の峰を一つ越した所に小さな鞍部。左側がザレ
てやや危険。そのザレ場を抜けるといよいよ大日岳だ。ザックをここにデポして空身で登
ることにする。
いよいよ近づいてきた大日岳
行場である岩場が見える。右にトラバース道有り

 板状に風化した白い岩に足掛かりを見つけつつ体を引き上げる。左手に自然木を針金で
結わえただけの丸太の梯子。上がりきると眼前は釈迦が岳の東面の大樹海(冒頭の画像)。
五百羅漢が屹立していて、高度感も並大抵ではない。そしていよいよ斜度60度はあるか
という一枚岩。鎖が懸けられているが足掛かりもない。高度感と相まって生来のびびり屋
の小生には単独行で登るのは少しきつい。眼はもう巻き道を捜している。で、早々と断念。
一旦引き返し、梯子を下って左手を見ると登って行けそうな灌木帯があるではないか。し
かも黄色いテープ。「ハハーン」合点してテープを追うと、稲村の大日山に似た感じで、
そんなに苦労もせず山頂に行き着くことができた。

 猫の額ほどもない山頂の雑木の中には智拳印を結んだ金剛界の大日如来が安置されてい
る。釈迦ヶ岳と孔雀岳の間が両部分けで、こちら側は胎蔵界曼陀羅になるはずだがと、そ
んな小難しい理屈はこの際抜き。例の山想遊行と書かれた札もぶら下がる。ところで山頂
からは北から西が大展望。深仙ノ宿の灌頂堂の前で読経している行者3名が小さい。しか
し眼下の谷間に吸い込まれそうだ。へっぴり腰で後ずさりする。それにしても樹海に屹立
する四角柱の背の高い大きな岩は何というのだろう。

 深仙ノ宿に戻り一息ついた後は香精水を頂きに大岩へ。まず目に付くのは、大きな桧の
枯れ木の横の神変大菩薩髭塚。肝腎の香精水は水量が無く枯れることもあるそうで、ブリ
キの柄杓に岩からしみ出る水が受け止められてあるのだが、これが何とも旨い。でも何故
こんな岩の間から水が出るのだろう。一説には天の臍から出る水だという。

 さて、ここから標高差250mの登り返しはきつい。もうへろへろ。10m登っては立
ち止まるの繰り返し。極楽の都津門って何なのか確かめるのも忘れていた。ほうほうの態
で漸く旭口分岐へ。へたり込んで喉を潤す。「ふーっ」(千丈平への巻き道があるそうだ
が見落とした)

 千丈平のテン場ではもうテントが撤収されている。水場でゴクゴクとまた水を飲む。ゴ
ールデンレトリバーを連れた兄さんがいる。さっきまであった青テントの方の持ち主で奈
良から来たという。顔つきからもかなりのベテランとお見受けした。四方山話をする。去
年は七面山に登ったと、犬にダニ除けを塗りながら話すのだった。

 さっきまであそこにいたのだなと大日岳を眺めながら古田の森からの尾根を戻る。峠の
駐車地の車は半分に減っていた。

 展望にも満足、地球は丸いのだとあらためて感じ入った釈迦ヶ岳。またまた帰りたくな
い想いが。次回は大山蓮華の頃にでも弥山に行きますか。西に傾いた陽の中、まだ散り染
めの山桜が残る林道を帰途に着く。


【タイムチャート】
6:20自宅発
9:30〜9:40峠登山口(Ca1300m 駐車地)
10:20〜10:26不動小屋林道コース出合
10:46〜10:53Ca1540m尾根
11:05〜11:07古田の森(1618m)
11:27千丈平
11:45奧駈道出合(前鬼、旭分岐)
11:50〜12:50釈迦ヶ岳(1799.6m 一等三角点)
12:55奧駈道出合(前鬼、旭分岐)
13:16深仙ノ宿
13:27前鬼分岐
13:42〜13:44大日岳(1568m)
14:00前鬼分岐
14:10〜14:18深仙ノ宿
14:50〜14:52奧駈道出合(前鬼、旭分岐)
15:00〜15:05千丈平
15:25古田の森(1618m)
15:48不動小屋林道コース出合
16:10峠登山口(Ca1300m 駐車地)


釈迦ヶ岳のデータ
乳色のとばりに包まれ釈迦ヶ岳』を参照下さい。
大日岳のデータ
【所在地】奈良県吉野郡十津川村
【標高】1568m
【備考】  大峰山脈主脈上の岩峰で、釈迦ヶ岳の南に位置します。
山頂からの景観は良く、深仙ノ宿から釈迦ヶ岳、孔雀岳へ
と続く大峰主脈と五百羅漢などの怪異な岩峰群を見ること
が出来ます。山頂には大日如来があり、大日岳を特徴付け
る岩は奧駈道の靡の一つです。
【参考】
2.5万図『釈迦ヶ岳』




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