明神平はガスの中

平成13年11月 4日(日)
天候: 曇りのち晴れ
同行: 単独
明神平にガスが流れる。背後は水無山の稜線


 土曜は久しぶりのまとまった雨。祭で腰を痛めたというKさんの見舞いやらサボってい
た衣替えやら。秋の山を狙っていた低徘の皆さんも出鼻を挫かれた感じだろう。予想より
速く低気圧が東進したので、日曜は急速に天候回復だという。台高の紅葉もそろそろ終わ
りだというので、半年ぶりに明神平を訪う事にした。当初、雨上がりだし空気も澄んでい
るのではと、展望が良い薊岳にもついでに足を伸ばしてみるかと思っていたが、予期せぬ
出来事に予定は狂うことに..。(^^;

 雨から一夜明けて、日曜の空。青空が明るい。こりゃいい山日和かもと期待をかけ、7
時に家を出る。ところが西名阪で、府県境にあるトンネルを抜けて奈良県に入ると曇り空
で、金剛、葛城の山頂部もすっぽり灰色の雲の中。(その頃、雨が降っていたそう)
「?」すっかり晴れを信じて疑わず雨道具の用意は皆無。少し不安がよぎる。R166の
東吉野村鷲家で大又に向かう道に折れる頃には、青空はすっかり無くなり、路面も濡れて
いる。やばいかもなぁと思うが、フロントガラスに雨滴がついていないのが救いだ。

 前方を行く他の同好者の車の後について、大又林道の終点近くに着くと、路肩が広まっ
た駐車地には早くも10台以上の車。今日も人出が多そう。

 砂防堤工事で四郷川はやや荒れている。無理な植林で発生したと思われる山崩れ跡は、
まだそのままで痛々しい。手っ取り早くコンクリートで固めることだけはやめて欲しいも
のだ。

 工事で付けられた林道は二階滝を過ぎて漸く山道になる。鉄橋を渡ってまもなく旧あし
び山荘。登山路崩壊による迂回路は川の対岸につけられて、梯子や虎ロープの補助がある
が、川を渡る際の飛び石が、昨夜来の雨でやや増水しているのか、水の下になっているの
もあって、濡れて滑って歩きにくい。しかもゴロゴロの浮き石と濡れ落ち葉が輪をかける。

 結構きつい登り。汗が眼鏡を濡らす。キワダサコ谷で岩の乾いたのを選んで小休止。朝
はトースト1枚だったから、ここでおにぎりを一個ぱくつく。

 沢音が一段と高まってくると、普段よりやや流量が多い感じの明神滝。ふと足元を見る
と白い花が目に付いた。季節はずれのツリフネソウが一輪。が、何かが違う。色だ。普通、
赤紫色をしている花が白い。初見参の白花ツリフネのようである。早速、撮影モード。

 明神滝で登山道は谷から外れ、山腹を葛籠折れに登っていく。再び現れた谷を木橋で跨
いだ辺りから、この登山道のハイライトが始まる。ヒメシャラ、ブナ、カエデ。雑木の明
るい道。しかも地面は落ち葉で錦の絨毯。だが、カエデ以外の落葉樹は、もうほとんど葉
を落とし冬支度。その中にあって、イタヤメイゲツやイロハカエデ等のカエデ類は、赤、
橙、黄色とそれぞれ鮮やかな彩りの綾錦でこの秋の掉尾を飾っている。何処から獣の濃い
匂いが漂う。地面に目を向けると所々にシカの糞。早朝などに現れているのだろうか。

しばしうっとりするほどの鮮やかな紅の舞い
緋に染まるモミジ。その美しさはさながら綾錦

 空は相変わらず鉛色。雨は大丈夫かなと稜線を眺めると白いものがサーッと現れて、一
気に山の姿を隠すではないか。

落ち葉散り敷く雑木林にガスが忍び寄る

「えっ?上はもしかしてガスの中?」水場を過ぎ、桧林を抜けて明神平に上がると案の定、
乳色のガスの為に水無山や三つ塚も見えない。

乳色のベールに覆われ幻想的な明神平

 スキー小屋の跡の空き地でケルンに花束を供えている方が居た。ご子息がスキー小屋の
火事で命を落とされたのだと伺う。3月のことだったという。それからは月命日に登って
こられているのだろう。あたら若い命を無くした無念のやる方無さが伝わってくる話であ
った。

 とりあえず三つ塚へ向かう。シダが茶色く枯れた中に付けられた道はぬかるんでいる。
明神岩付近ではガスが一気に周囲を包み、すぐ先の岩も乳色にかすみだす。しかも汗が冷
えて殊の外寒い。手もかじかむ。慌てて、ウインドブレーカ、手袋をザックから取り出し
た。
前山方向、霧の海に浮かぶブナ達
ガスの晴れ間に前山のブナ林と笹原

 三つ塚分岐。薊岳の方面を少し辿るがガスが晴れそうにない。大普賢岳方向の展望を期
待したのだが、無理な様で暫く様子見の為、逆方向の明神岳に向かう。稜線上を10分ほ
ど辿ると明神岳。山名板がなければ見逃す尾根上のコブ。更に狭い尾根上を辿るテープが
あったが、池小屋山にでも向かうのだろうか。

 風が出てきた。と、南の方のガスが晴れて青空が見え、大台方向の山並みが顔を出した。
川上村側の中奥川が作る谷は急傾斜でえらく深い。

 西の方はどうかなと再び、三つ塚。が相変わらずガスが速い速度で次々に湧いて来て足
早に通り過ぎていく。薊岳は諦めて又今度の楽しみに置いておくことにした。

 お昼近く。轟々と枯れ枝を鳴らす風を避けて、尾根から降りると嘘のように風がない。
湯を沸かしてカップヌードルで暖を摂る。

 明神平に戻る。その前に明神岩(1390m)に登ってみる。穂高明神の祠でもあるか
と思ったら何もなかった。(^^;)

 天理大学の小屋から水場まで行ってみることにする。気持ちの良い雑木林だ。まもなく
水音が聞こえてきて5分程で小さな沢に出た。沢沿いにテープがあったのは千秋林道へ通
ずる踏み跡かも知れない。

 東屋に戻ると、何時の間にやらガスが薄くなっていて、青空が見えだしているではない
か。西方向には、金剛、葛城、生駒の山並みに奈良盆地も望めるほど。国見山や伊勢辻山
も姿を現している。あと1時間早ければなぁと悔やまれるが、こればっかりは人間業では
どうにもならない。

 柔らかい陽を浴びて降る。モミジが一層、陽に映えている。あと二三日すれば散る運命。
最後の輝きにも似た鮮やかさである。

陽に映える紅葉を見ながら下る

 下りは案の定、二度ほど滑る。ズボンは無事だったが膝を擦りむいていた。

 林道をブラブラ降る。標高の高い所の紅葉は終わりのようだが、大又川沿いの辺りは、
まだまだ見頃である。山腹を飾る紅葉はあたかも緋おどし鎧を髣髴とさせる。

 駐車地に行き着くと、櫛の歯を抜いたように車が無くなっている。帰り支度の最中も1
台の車が帰っていった。

 帰りは「七滝八壷」で少し道草する。名前の「七つの滝に八つの壷」とは理屈に合わな
いが、縁起を担いで七転び八起きをもじって命名したとのこと。立派な石の標石の横、四
郷川に架かる釣り橋を渡ると、轟々と流れ落ちる第一の滝。ベンチが置かれている。更に
岩に刻まれた細い急坂を登って行けば、直ぐに第二の滝があり、その上、テラス状の広場
に出ると、高さ30m以上はありそうな滝が5段に分かれて流れ落ちていてなかなか壮観
な眺め。夏はさぞかし涼しそうだ。

 帰りの渋滞が気になるが、山の仕上げは一っ風呂が欠かせない。大豆生のやはた温泉が
帰り道だが、今日は違う所へ。丹生川上社で右に道をとり、木津川を遡ってR166に合
流した後に木津へ出て、国道沿いにある東吉野温泉「高見山の湯」に寄って帰ることにし
た。

 思わぬガスで幻想的な景色の中、最後の紅葉にぎりぎり間に合った感じの今日の山歩き。
帰途、新木津トンネル付近から眺める高見山の夕陽を浴びた鋭い姿が、荘厳でした。



【タイムチャート】
7:00自宅発
9:00〜9:05大又林道終点(駐車地)
9:34旧あしび山荘
9:45〜9:50キワダサコ谷
10:00明神滝
10:35水場
10:44明神平
11:15〜11:20三つ塚
11:32〜11:50明神岳
12:00〜12:35三つ塚
12:40〜13:10明神岩付近うろうろ
13:20〜13:25明神平
14:40駐車地



明神平のデータ
落ち葉さくさく、晩秋の明神平』をご覧下さい。

【参考】  2.5万図『大豆生』



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