稲村ヶ岳〜大峰の春は遅く

                           平成12年 4月30日(日)
                           天候: 曇り一時晴れ
                           同行: 単独

 GWがやってきた。思えば昨秋の藤無山以来、千m級の山に登っていない。シャクナゲ はどうだろうと久々に大峰に行ってみたくなり午前5時の起床。6時前に家を出て一路天 川へ。車の中でラジオ体操を聴くのも久しぶりである。8時、洞川温泉前の村営駐車場に 到着。いそいそと準備を整える。桜は未だ七分咲き、間近でウグイスが囀る。  洞川のメインストリート、何となく活気が感じられる。そういえば、まもなく戸開式だ。 陀羅尼助を売る店や土産物屋、旅館等を横目に歩いて行くと、名水豆腐の店にスチロール の箱を抱えたオバちゃんの客。店番の人に豆腐は有るかと尋ねると午前の分は売り切れた が、午後の分はあるという。しめしめ、早速3丁予約する。  家並が途切れ、五代松新道の登山口を右に過ごすとゴロゴロ水の水場。整備されすぎて 一寸風情が無くなったが、もう水汲みの人がいる。中には何と軽四輪の荷台にポリタンク 満載の剛の者もいた。  出て来る時にトースト1枚だったので、腹ごしらえにと茶店で草餅を買って、母公堂の 登山口に着くと張り紙がある。「今年は近年にない大雪の為、1500m以上ではアイゼ ンが必要な場合があります」という内容の注意書きである。去年も今頃残雪があったが、 もっと多い?一寸不安が頭をかすめる。  杉林の中に吸い込まれていく丁度1年ぶりの登山道は意外に急。しゃりバテなのか体が 重い。五代松新道出合で小休止、草餅とお茶でエネルギーを補給。  左に折れて蛇谷を横断し、黒床谷の源頭部を過ぎる。エンレイソウが特徴のある姿で花 を開いている。しかし今年は全体的に花が遅いのか、ハシリドコロは蕾。ミヤマカタバミ も花が無い。  登山口から1時間弱で法力峠到着。再び小休止、果汁ゼリー摂取。ここから左にカーブ すると植林帯から抜け出て雑木の林となる。しかし大峰の春は遅く木々の芽は淡い。  廃屋となったトイレ小屋を過ぎると、ようやく大日山の尖峰が顔を出す。川迫川を隔て て山襞に雪を残した弥山、頂仙岳が大きい。  再び良く手入れされた植林帯に入り、また抜け出すと植相が変化したのが分かる。トウ ヒ、シャクナゲが現れてきて、下草のササ、ブナとあいまって日本庭園の雰囲気である。 水子地蔵の辻からは南側が開けて、カヤトの観音峰山に続く山稜を通して金剛、葛城の山 並が霞んでいる。「たたなづく 大和し うるわし」を実感する瞬間である。    見覚えの有る景色と思えば山上辻であった。去年は工事中であったがそれも終わり、ソ ーラー式の真新しいトイレが建っている。山荘の方は風力発電設備が整えられていた。広 場には10人ほどの登山客が三々五々憩っている。当方も空いた床机にザックを置いて、 草餅を頬張る。  ヒメザサが茂る中の急登。大日山の尖峰が近づいてくる。 「おっ。」太陽の光線の加減であろう。大日山にイースター島のモアイに似た人の顔が、 西を向いて浮かんでいるではないか。昔の修験者なら、さしずめ仏の顔と感じたに違いな い。
モアイの像か大魔神?朝の大日山の姿

 さて、登山道はその大日山の北から東を巻いてキレットに出るのだが、その北側に到達
して驚いた。去年もここに残雪があったが、今年はその比では無い。岩壁からガレた斜面
一面に深さ50p程の雪が残っている。その残雪の斜面を、岩壁に沿いに約10m越えね
ばならない。先人の足跡に、更につま先を刺し込む感じで慎重に乗り切る。

 ようやく大日山のキレットに到達。その大日山の登り口にも中吉野警察署の注意書き。
「ザックの盗難が頻発しているので残置して登らぬように」とのこと。マナーも地に落ち
た感がある。
 南に向かっていた登山道が西に向きを変えると山頂は近い。シャクナゲの群生の中を喘
ぐと狭い頂きに三等三角点。その横が展望台である。

 相変わらずの大パノラマに舌を巻く。後から来られた関東からの遠来の登山客は、大台
ケ原を教えられ、昨日あそこに居たんだなァ感慨深げにしておられた。

稲村ヶ岳の展望台から残雪の弥山。手前はバリゴヤ谷の頭
 今年も展望台で食事を済ませ360度の眺望を満喫していると、山慣れた感じの単独行 の方がおられる。Sさんで、時候の挨拶から話が弾み、聞くと明石市から来られ、前夜は 駐車場で車泊されたという。大峰の話や明石近辺の山の話で盛り上がる。そこへ若いカッ プルがやって来たのをしおに、お先に失礼し大日山に向かう。  大日山の尖峰へは整備が進み、真新しい木の梯子が取り付けられていて楽になっている。 そして相変わらず狭い山頂。大日如来の祠に挨拶して早々に降る。点々とイワカガミ。が、 蕾はなかった。
登山道に残る雪。斜面に落ちたら...
こわごわの通過でした
 再び今日一番の難所、大日山の北側の残雪の斜面。やはり下りは滑落先である100m 下のササ谷が見えるだけに恐怖感は倍増。格好など気にしていられない。へっぴり腰で座 りこみ、三点確保を守ってそろそろと降る。こういう時に限ってズルっと行くから怖い。 右の山上ヶ岳の景観も目に入らない。冷や汗かいての通過であった。  ここで先程のSさんと偶然また一緒になり、山上辻に戻る。山荘の方2人が黙々と作業 をしている。往きには10人程いた登山者もベンチに腰掛ける1人だけ。その1人残った登 山客はなんと外国人で、熱心にエアリアマップに見入っている。Sさんが気軽に声をかけ た。オーストラリアはシドニー出身の青年で、なかなか堪能な日本語だが、それもそのは ず、京都で英会話の教師をしているのだと言う。これからどうするのだと聞くと、決めて いないが山上ヶ岳から大普賢岳、弥山を廻ると言うのだが、天気は下り坂だし、1日では きついので大普賢岳から和佐又山へ降りては?とはSさんのアドバイスであった。  ドアミ付近の水場に到着。鉄製の橋が架かっているのだが、口を湿らせようと目を水流 に向けた時である。突然足が空を切った。と思う間もなく視界は90度回転していた 我 に返ると右膝外側から鈍痛。見るとズボンがかぎ裂きになり、捲くると擦り傷から血が滲 んでいた。Sさんがバンドエイドを下さる。  幸い大事には至らなかったが、すぐ横に尖った石があり、一歩間違えれば大事故であっ た。後から思えば一寸足元に油断があったようだ。事故はこういう時に起きるのだろう。 しかも単独行、今後は心したいものだ。  暫時休憩、Sさんにはお先に行って頂く。擦り傷以外の怪我が無いことを確認して歩行 を再開。その内にポツリポツリときだした。先を急ぐことにする。  五代松新道出合い。永らく通行止めだったが、復旧しているようなのでそちらに向かう。 良く手入れされた植林帯の中の道で、左に飲料水用だろう黒いパイプが並行する。植林帯 を抜け出るといつしか右は崖になり、五代松新道完成記念のレリーフの有る岩や、役の行 者像を安置した石窟を見て降っていくと昭和の初期に発見された五代松鍾乳洞の入り口で あった。入口の扉にはカギがかかっており、入洞希望者は管理人を呼ばねばならないそう だ。後にSさんのメールで若いカップルが管理人と上がってきたので一緒に入洞したとの 事。その管理人がまた別嬪さんだったそうな。惜しかった。(^^)ゝ  名水まつりで賑わう洞川の街。予約した豆腐を受取り、ついでにコンニャクも買って駐 車場に戻る。シャクナゲを購入しようと思ったが3千円もするので諦めた。  恒例、帰途の一っ風呂は黒滝村の御吉野の湯。これは『出湯の落とし文』に譲ることに する。まだ早春の雰囲気が残る大峰に、久しぶりに山歩きを満喫した一日でした。

   【タイムチャート】
    5:50自宅発
    8:00〜8:10村営洞川駐車場(約810m)
    8:40母公堂登山口
    8:50〜8:55五代松新道出合
    9:33〜9:38法力峠(1217m)
   10:30水子地蔵の辻
   10:40〜10:45 山上辻
   11:00大日山のキレット
   11:23〜12:35稲村ヶ岳山頂(1725.9m 三等三角点)
   12:45大日山のキレット
   12:51〜12:54大日山山頂(1700m)
   13:01大日山のキレット
   13:15〜13:23山上辻
   14:20〜14:25法力峠
   14:53五代松新道出合
   15:10五代松新道登山口
   15:35村営洞川駐車場
 

 
 稲村ヶ岳のデータ

         『稲村ヶ岳〜憧れの大峰』をご覧下さい。
    【参考】エアリアマップ 山と高原地図『大峰山脈』



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