稲村ヶ岳〜憧れの大峰


                           平成11年 5月 1日(土)                            天候:晴れのちにわか雨                               同行:単独         
  日頃、一度は歩きたいと思っていた大峰の地。今年のゴールデンウィークこそはその念  願を果たしたいもの。が、如何せん片道100キロと遠いし、それを日帰りするとなると   ..。と考えた末、比較的とっつき易そうな稲村ヶ岳を選択。しかし、歩き易いとは云え、  アプローチに3時間以上かかるとのこと。9時迄には登山口に着きたいと前日に準備を済  ませての早朝出発となった。(何時もとはえらい違いです (^_^)/ )           天川へのR309は以前に比べだいぶ改良されており、新笠木、新川合と立派なトンネ  ルが開通している。おかげで8時過ぎには洞川到着。村営駐車場に車を駐める。(※註..  駐車場奥に洞川温泉センターが出来た為、その駐車場を兼ねているのか有料だったのが無  料になっていました)                                 支度を整えて洞川のメインストリートを抜ける。特産の陀羅尼助の店が軒を接する。面   白いことにそれぞれの店によって包装袋の色が異なるようだ。また各旅館も何となく活気、  3日の戸開きを前にして、準備に余念が無いようである。                 家並みが尽きた頃、右の杉林の中へ誘う様にある稲村ヶ岳の登山口(五代松新道)は倒   木で通行止め。おまけに五代松鍾乳洞まで土砂崩れで閉鎖との事、去年の台風を思い出し、  もう一つの登山道は大丈夫かと不安がよぎる。                      蟷螂の岩屋を左に、七尾山本堂を右に見るとやがて「ごろごろ水」。日本百名水とあっ  て、もう水汲みに人だかりである。小生もその中に混じったのは云うまでも無い。      朱塗りの母公堂が見えてきた。「従是女人結界」の石碑がデンと立つ。修験道の祖役小  角が、母親の白専女とここで相見えたのが由来との事、今は安産に霊験あらたかだとか。   この母公堂の手前に小さな標識がある。ここが稲村ヶ岳へのもう一つの登山口である。  立看板があって、「マスコミは騒いでいるが、大峰は女人禁制を守っている」との意、俗  世間の波は容赦無くこの山懐にも押し寄せているようだ。                 鬱蒼とした杉の植林帯の中へ分け入る。左に蛇谷の沢音が高い。足元にはポツポツと白  い花、ミヤマカタバミが暗い林間に浮き出ている。                    沢音が消え徐々に高度を上げていくと、10分程で五代松新道との出合である。天理大  WV部の古い道標。                                  前方に人声がする。男女5名ほどのパーティだ。追いついて挨拶ついでに声を懸けた。  「どちらからですか?」                               「池田です。」と女性。                               「ほーっ。僕は豊中からです。」                           「僕は箕面ですよ。」と別の男性。                          こんな所で北摂の方に会うとは奇遇です。この後、このパーティの方々とは前後しながら  頂上までお世話になることになる。                           道は1m幅のしっかりした道である。概ね山腹を巻く形で延びている。左に大きく湾曲  して苔むした岩の転がる蛇谷を越える。エンレイソウの特徴の有る姿がそこここに。その  中に茶色い筒状の花が目に付いた。ハンショウヅルに似ている。が、花弁が分かれていな  い。とりあえず、写真に納めておく。(※註..帰宅して調べたところ、猛毒のハシリドコ  ロと判明)                                      少し明るくなったと思えば杉林が途切れて、左手に洞川の町並みが箱庭のようだ。学校  の体育館、かりがねの吊橋も良く見える。                        左手がいつの間にやら深い谷となっている。カラ谷である。ガレ場を鉄橋で渡るとすぐ  に黄文字の標識が目に入った。法力峠である。でもあまり峠という感じがしない。登山口  から1時間弱。一本とる。先程のパーティ一行も到着されており、蒟蒻ゼリーをお裾分け  頂く。ありがとうございました。                            ここは観音峰への道が分岐している。少し辿ってみたが尾根道に要所にテープが巻かれ  てある。が、現在は木々の成長で眺望が思うに任せなくなっているそうだ。         さて山行再開。植林から雑木に植生が変わり明るくなる。そして再び良く手入れされた  杉林の中へ、下草はササ。                               桜井市の大三輪中学の登山記念碑を過ぎると又雑木に変わり、朽ちたトイレ小屋がひっ  くり返っている。そして今やっと芽吹いたばかりという木立の隙間から異様な姿が目に飛  び込んできた。大日山だ。成る程、稲叢を立てたような姿である。しかしまだ遠いなぁ。  右に霞むのは弥山かなぁ。ということは、現在地はドアミ付近らしい。エアリアマップに  よれば水場があるとの事だが、暫く進むと左に沢が現れた。樋で水が引かれてある。掬っ  て飲んでみる。甘露とはこの事。先行していたパーティの方達もここで小休止でした。    高度は手元で1300mを越えている。植生がブナ、トウヒの混交林に変化した。幹は苔蒸  し、日本庭園の趣、素晴らしいプロムナードである。再び杉林を抜けると今度はシャクナ   ゲの群落が目立ち出した。しかし蕾みは無く、今年は裏作かもしれないなぁなどと独り言。   右手が開けてきた。下は白倉の深い谷。「おおっ!」遠くに金剛・葛城から和泉山脈が  一望のもとではないか。意外に近いのには驚いた。                    水子地蔵さんの角を曲がると、朽ちて倒れた小屋が現れ、今度は右にカーブすると赤い  屋根が見えてきた。稲村ヶ岳山荘である。只今工事中らしく建築材料が積まれていた。因  みに缶ビールは500円也。                              さてここからが本日のハイライト。ヒメザサの茂る斜面を直登する。前方に大日山の尖  峰が迫ってきた。そしてその左の足元を踏み跡は通過する。右の斜面には残雪。左はガレ  場、目を上げると山上ヶ岳が雄大。                           大日山の岩峰を通過すると突然冷たい風が吹き上げてきた。それもそのはず、右側がス  パっと切れている。これが大日のキレットか。噂に違わぬ姿だ。大日山への登路案内があ  るが、今は足が一寸上がらんなぁ。帰りに登ることにする。                踏み跡はますます傾斜を増す。長いアプローチがボディブローの様に効いてきた所へ、  最後の直登はカウンターパンチであった。足が上がらず、トレッキングポールにすがりつ  つやっと体を持ち上げる始末。体力の無さを痛感。右にカーブして上方に展望台が見えた  時は文字通り、ホッ。                                 展望台下にポツンと三等三角点が埋まっている。その頭を平手で思い切り叩いて展望台  へ上がる。そこで息を呑んだ。眼前に広がるは今までの苦労を補って余りある大景観。東  には神童子谷を隔てて山上ヶ岳から大普賢岳、行者還岳と続く大峰主稜。その間から顔を  出すのは大台ヶ原だろうか。南には一際雄大な弥山、八経ヶ岳。その横の鋭峰は頂仙岳ら  しい。西は名も知らぬ山また山のうねり。北には意外に近く紀ノ川の平野とその向こうに  金剛山、葛城山が青く霞んでいる。流石は近畿の屋根です。                眺望を堪能している内に、いつの間にやら展望台には多くのハイカーが集まってきた。  くだんのパーティも到着したようだ。早速、皆さんと「あれは曽爾の鎧岳?」、「そんな  ら高見山は?」、「山上ヶ岳のお花畑に人が居るよ」、「どれが西の覗きや?」等と楽し  い時を過ごす。その時ほら貝の音が微かにしたのは空耳だったか。             大景観を肴に昼飯とする。いなり寿司と巻き寿司。新発売とんこつカップヌードル、デ  ザートにコーヒーの豪華版?と云ってもいつもと変わり映え無し。 (^^;;         いつまでも眺めていたかったのだが、大日山へも登りたいし、下山後は温泉も。しかも  大台辺りは灰色の雲に隠れてしまった。名残を惜しみつつ、展望台を後にする。マンサク  がひっそり咲いていたのが印象的でした。                        キレットに戻り、大日山にアタック。これが聞きしに勝る険しさ、要所にロープ、梯子  が有るものの文字通り手足を駆使して攀じ登る感じである。ザック等は麓にデポした方が  無難でしょう。                                    狭い頂上には仲良く二つの祠、右側に大日如来の石像が印を結んでいました。そしてこ  こにも五代松さんの名が。大峰の主のような人です。更に一つの発見。あきゆきさんの山  行記によく出てくる「イセ一貫堂」の記念プレートと初めて遭遇したのである。そも何物  なんでしょうか?                                   さて、ガイドに拠れば大日山には亜山高山植物が多いそうだが、目に付いたのはイワカ  ガミ、シャクナゲの類。オオヤマレンゲには残念ながら気づかず。             登り以上に足元に気を付けながら下山、ついでに西に張り出したテラスのようなところ  が途中にあるので寄ってみる。白倉谷の源頭部分から冷たい風が吹き上げてくる。体が冷  えてきたのはそればかりが原因ではなさそう。眼下の切れ落ちた岩に吸い込まれそうだ。   頬にポツリと来た。先を急ぐことにする。                       13:42 山上辻着。レンゲ辻へも踏み跡が続くが、遠距離となるので今回はパス、法力峠  へ戻ることにする。   やはり人気の山。ポツポツまだ上がってくる人が居る。ドアミ付近だったろうか、背負  子に青いシートを被せたかさでかい荷物を背負って、単独の方がゆっくりと登ってくる。  キャンプでもするのかな?と拝察したのだが、挨拶を交わしすれ違った時、振り返ればト  イレットペーパーが...。山荘へ補給品を運搬されている方だったのだ。あの姿を見れ  ば缶ビール500円は安いです。                            蛇谷付近で猿の声を二度聞いたような。そして一時止んでいた雨が、登山口に戻る頃に  は本降りである。                                   再びゴロゴロ水で水補給。杉の梢の下を選んで雨を避けつつ道を急ぐ。          土産に名水豆腐を買っていくことにする。よく売り切れるそうだが、案の定一軒目は売  り切れ。でももう一軒には残っていた。ついでにコンニャクも購入。その間に店のおばち  ゃんとよもやま話。これがまた地方へ山行した際の楽しみの一つだ。           「山から降りてきてからの雨か。精進のいいことで」とおばちゃん。           「これから風呂で汗を流して帰りますわ」と当方。                    強さを増した雨の中、四丁の豆腐と二丁のコンニャクを抱え駐車場へ。その後は、車に  常備のタオルを掴んで、往復18kmの疲れを癒しに洞川温泉センターへ直行とあいなっ  た。                                         その感想は「いで湯の落し文」で後日報告することにする。               いつかは行ってみたかった憧れの大峰。今日はその魅力の一端に少々触れることが出来  ました。そしてあらためて山の雄大さ、その懐の深さに気づいた一日でもありました。機  会があればまた訪れたいものです。黒滝村まで戻ると雨の形跡も有りませんでした。    ■写真集「憧れの大峰〜稲村ヶ岳への道」を見る。                
    【タイムチャート】         5:55     自宅発       8:14〜8:20  村営洞川駐車場(約810m)       8:44     ごろごろ水       8:52  母公堂      9:02     五代松新道出合       9:45〜9:50  法力峠(1217m)      10:16     ドアミ付近の水場      10:45     水子地蔵      10:55〜11:00  山上辻      11:15     大日のキレット      11:40〜12:55  稲村ヶ岳山頂(1725.9m 三等三角点)      13:05      大日のキレット      13:15〜13:20  大日山山頂(1700m)      13:31     大日のキレット      13:42     山上辻      14:28     法力峠      14:58     五代松新道出合      15:03     母公堂(登山口)      15:40     村営洞川駐車場
   稲村ヶ岳のデータ     【所在地】 奈良県吉野郡天川村      【標高】  1725.9m(三等三角点)     【備考】  大峰山寺のある山上ヶ岳から西に延びる山塊に位置し、           大峰山脈主稜と神童子谷で隔てられています。           戦前はここも女人禁制でしたが、戦後開放され、女人大           峰とも呼ばれます。           遠くから眺めると、稲藁を束ねた姿に見えることから名           づけられたようで古くは雨乞いの山でもあったようです           が、神奈備山とも考えられます。           近鉄下市口から洞川温泉行の奈良交通バスがあります。           ■近畿百名山■関西百名山        -------------------------------------------------------     大日山のデータ     【所在地】奈良県吉野郡天川村     【標高】 1700m     【備考】 本来の稲村ヶ岳の主峰はこの大日山ですが、現在はキレ          ットで隔てられた、三角点のある南峰の方が主峰の感が          あります。          稲束を立てたような、大台ヶ原の大蛇グラに似た荒々し          い岩峰ですが、シャクナゲ、オオヤマレンゲなどの亜高          山植物が豊富で初夏を彩ります。片側が絶壁の部分もあ          り、三点確保で特に下りに注意です。     【参考】 エアリアマップ 山と高原地図『大峰山脈』
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