貴公子花紀行〜
   ベニバナヤマシャクヤクは恥らう乙女

平成18年 6月17日(土)
【天候】曇りのち雨
【同行】別掲
大峰の稜線をバックにベニバナヤマシャクヤク


 ヤマシャクヤク(Paeonia Japonica) というボタン科の多年草がある。山地の明るい木
陰に咲く清楚な花だが、そのはかなげで白い花はせいぜい数日の寿命でしかない。ところ
がこのヤマシャクヤクの亜種にベニバナヤマシャクヤク(Paeonia Obovata)というのがあ
る。一度拝見してみたかったのであるが、「咲き始めましたよ」という山仲間からの情報。
いつもの仲間の車に便乗させてもらって、久方ぶりの大峰方面へ。予報より早まった天候
悪化は残念だったけれど、実際にお見合いしてみれば、噂に違わず、そして思っていた通
り、ピンクの薄絹を纏った恥らう乙女のように、はかなげでそれでいて淡い色気を感じさ
せる花でありました。

 過去の山行記を紐解いたら前回は平成11年9月26日というから、観音峯山は7年ぶ
り。9時半過ぎ、虻トンネルの東側にある観音峯山登山口の駐車場に着く。幾台かの車の
中に、なかいさんやフェアさんの車がある。

 朝早かったので小腹が空いた。クリームパンを頬張って、とりあえず腹を宥めておく。
準備を整えて山上川に架かる吊橋を渡る。道標完備、道はハイウェイ並み。安心して歩け
るハイキング道である。杉林の中にフワリ。何処からともなく甘い香り。葛篭折れの道の
両端を見ればコアジサイが満開で、至る所で照り葉の間から薄青い繊細な花を咲かせて、
馥郁とした香りを振りまいているのだ。サワギクも黄色い花を精一杯これ見よがしに開い
ている。そして楚々たるフタリシズカ。愛でながら歩けばすぐに『観音の水』。柄杓が置
かれている。今回も一口頂くことにした。

 やはり梅雨時、気温はそれほどでなくとも湿度が高い。眼に汗が入って鬱陶しい思いを
し始めた頃、第一展望台に到着だ。団体さんが休憩中なので、一渡り眺めた後で直ぐに出
発する。

 建物跡と思われる石積みのみが残る狭い平地を通過する。右手が開けて、ピラミダルな
山容が見えるのだが何であろう?などと話す内に、山中を切り開いたような広場に東屋と
石の鳥居が見えてくる。

 マツカゼソウがそよいでいる。黒い御影石の休憩石に座って一息入れる。幸さんから冷
凍パインのお裾分け。汗ばんだ体には冷たくて美味い。山へ登ると酸っぱくて甘いものが
欲しくなるものだ。また山を降りると今度は無性に甘いものが欲しくなるものだが、小生
の場合はコーラだ。それに含まれる液糖は、すぐさま血液中に流れ込むのだそうだ。

 さて、余談はさておき、階段を上がってお歌石から岩屋へ寄っていくことにする。前回
も寄って行った覚えがある。説明書きが無ければ、まあ、何のことはないどこにでもある
穴倉であるが、中に不動明王か役行者の石像らしき何かが納められていて、今も信心する
人がいるようだ。

 折角、岩屋まで登ったのに、また戻るのも業腹なのでそのままトラバースしようという
ことになる。あたりを探ると岩屋に向かって左手に薄い踏み跡がある。胎内潜りみたいな
岩があって、その隙間は30p位だろうか。(肥えた人は通れません。(笑))辺りは緑
の実をつけたヤマシャクヤクの群落だ。踏まないように歩いて、何とか胎内潜りを通り抜
け、土で滑りそうで歩きにくい斜面を辿ると、距離にして100m足らずであろうか、案
外早く正規の登山道に合流した。
胎内くぐりのような岩を潜るもぐさん

 ギンランもウメガサソウも花期を逸してしまったのか見つからない。石灰岩の大きな石
がゴロゴロとした部分を抜けると、一気に尾根に上がるジグザグ道だ。そうして潅木がな
くなると観音平は近い。尾根筋をゆるゆる登って石の記念碑のある展望台に行き着く。曇
り空ながら展望はまあまあで、白倉谷を隔てて、怪異な大日山や稲村ヶ岳。その先に鋸の
如く凹凸を繰り返すバリゴヤの頭。弥山や頂仙岳が眺められる。7年ぶりに見る風景であ
るが、相変わらず雄大。北摂では味わえんなあ。(笑)

観音平の記念碑。右奥が観音峯山

 数名の先行者がたむろしている中に、別働隊ののりかさん・フェアさんペア、その先に
単独で先行していたなかいさんがいた。聞けばベニバナシャクナゲは花の時期が数日と短
いのだが、タイミングはばっちりだという。なんと、なかいさんは2時間もうろうろして
いたのだとか。そうして我々もこの後、やや恥じらい加減に花開いたベニバナヤマシャク
ヤクを堪能させてもらったのである。

 一息入れて、先に稲村ヶ岳方面に向かったなかいさんを追いかけ、法力峠へ向かう。あ
ら?なにか勝手が違うなぁと思えば、前回来た時に茂っていたカヤトのヤブが完全になく
なっているではないか。尾根筋を行く踏み跡も幅広くなっていて随分歩き良くなっている。
ゆっくり登ってリョウブ、ブナ、ミズナラ、アカマツ、カエデが茂る樹林帯に入る。遠く
なったり近くなったりするカッコウの声を聞きながら、小さなアップダウンをこなしてい
く。その時、突然、パラパラと葉を打つ音。曇り空からとうとう雨が落ち始めたらしい。
一旦あがって、薄日も射しはじめたのだが、観音峯山の三角点の手前まで来た時、再び空
が泣き出した。今度はやや激しい。樹林帯なら木々が傘代わりになってくれてあまり濡れ
ずに済むけれど、法力峠から稲村ヶ岳の登山口へ出た後は街中を歩いて戻らねばならない。
ザックカバーは用意してきたが、傘はザックに入れた覚えがない。(実は先週からザック
に入れたままだったのだが...)山姿で街中を濡れて歩くほど嫌なものはなく、このま
ま進むか戻るか。皆さんも車に弁当を忘れた水谷さんを筆頭に、どちらでも良いような雰
囲気。というわけで法力峠までは行かずに三角点までピストンに急遽変更だ。前回もピス
トンだったから、二度続けて法力峠まで行けず。まあしようがない。

 鞍部から最後の登りを我慢して観音峯山の三角点に立つ。相変わらずトリカブトは繁茂
しているものの、この付近もササがなくなって小さな広場のようになっている。幸い雨も
小止みになり、なかいさんも合流してここで食事とした。

笹の茂みが消えた観音峯山山頂

 なんだか、わんわんと小さな虫が飛び回っている。ブヨかヌカカのようだ。観音平にも
飛んでいたが、なかいさんは目の辺りをやられたらしい。動いていると気にならないのだ
が、静止すると手足に纏わりついてくる感じ。慌てて持参の虫除けを顔や手に塗ったので
あるが、流石に遅きに失した感は否めず、その時はどうもなかったのだけれど、翌日から
痒いの痒くないの。この時間差攻撃には参った。やっぱり恥じらい美人に逢う為の代償は
高くて、痛い、否、痒かったのである。(笑)  数えたら手や足首に計15箇所もの発赤が
あったのである。

 雨は強くなったり小降りになったりして間断なく降るようになったが、幸い観音平では
小止みになる。さっきまで見えていた稲村ヶ岳も白いベールの彼方に姿を隠している。記
念碑の周りはカメラを抱えた男女が二人ばかりが残っているだけである。

 また雨が強くならぬ内にと、観音平を後にする。下るに従って再び雨脚は強くなるが、
樹林のおかげで大して濡れずにすむ。だが登山口の赤い橋まで来ると、雨脚ははっきり見
て取れるほどであった。とりあえず東屋で雨宿り。法力峠へ出ていたら、傘があってもず
ぶ濡れだったろう。戻って正解であった。

 予報よりも天候悪化が早く、山頂ピストンになったけれど、お目当ての可憐なベニバナ
ヤマシャクヤクに逢えて、小父さんは満足。満足。雨は大阪に戻っても本格的なのでした。

■ベニバナヤマシャクヤクの舞(三幕)

ベニバナヤマシャクヤクの蕾

ベニバナヤマシャクヤクの艶姿(1)

ベニバナヤマシャクヤクの艶姿(2)


■同行 幸さん、なかいさん(帰途から)、水谷さん、もぐさん、(五十音順)


【タイムチャート】
7:00千里中央ローソン前(集合地)
9:40〜9:50虻トンネル洞川側駐車場(駐車地)
9:57〜10:00観音の水
10:10〜10:12第一展望台
10:37〜10:45神社跡
11:15〜11:45観音平展望台
12:10〜12:30観音峯山(1,347.4m 三等三角点)
13:16神社跡
13:50虻トンネル洞川側駐車場(駐車地)


観音峯山のデータ
       仲秋の大峰〜観音峯山』を参照下さい
【参考】エアリアマップ『大峰山脈』



観音平から望む。左から大日山、稲村ヶ岳、バリゴヤ谷の頭、鉄山、弥山、頂仙ヶ岳

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