百里ヶ岳から木地山峠
              〜至福の江若尾根
 
平成18年11月 5日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲
美しく紅葉したハウチワカエデ


 江若から若丹の尾根にかけては、京阪神などの都会から遠く不便なこともあいまって、
まだまだ多くの自然が残されている山域である。所謂、鯖街道と呼ばれる峠道が数々走り、
今尚残る古道の雰囲気は、訪れる者にある種の郷愁を感じさせるところがある。山歩きを
始めて以来、根来坂、能登越、粟柄越など幾つかの江若の国境の峠を歩いたが、石地蔵な
どが置かれ、いにしえ、苦労して歩いたことであろう旅人に思いを馳せたことだった。今
回はその内の一つ、上根来から木地山峠経由で百里ヶ岳。気が向けば根来坂へと荒々決め
たコースで回遊することにした。

 集合は朝6時。11月に入るとこの時間でも辺りはまだ薄暗い。朽木へと向かう道で、
もぐさんのブログ友達で今回初参加されるさかじんさんと偶然伴走することとなる。とな
ると車は2台。当初は上根来から木地山峠経由百里ヶ岳ピストンの計画だったが、さかじ
んさんの参加のお蔭で周回が可能になる。しかも根来坂方面からならすこぶる楽ちん。(^^;
というわけで上根来の林道をスタート地点の遠敷(おにゅう)峠まで登ることに計画変更
だ。

 上根来は山間の小さな集落。熊の檻が仕掛けてあるのを見ると、やはり里に出没する熊
の多さを実感せぬわけにはいかない。車1台を根来霊園と名づけられた小さいが新しい墓
地の前に置かせてもらい、もう1台で更に林道を進む。廃された畜産団地横を通り、遠敷
川を見ながら山肌をうねるダート林道。15分ほど進めば、渋い色に黄葉した木々が我々
を迎えてくれる。その林道の一番の高みが遠敷峠。ここにも立派な祠があり、お地蔵さん
が祀られていて、その後ろの斜面を登っていけばクチクボ峠への、江若から若丹へと続く
稜線道である。ここはまた雲海の名所なのだそうで、確かに近江側の生杉や芦生方面の谷
筋は快晴の空とは対照的に乳色に沈み、朝日に上部を白く光らせている。

快晴の遠敷峠。根来坂へは林道
クチクボ峠へは祠の左の尾根を行く

遠敷峠から近江側の生杉付近の雲海

 林道を少し近江側へ歩く。左手に裸地があって根来坂や百里ヶ岳への質素な道標がある。
それに従い潅木の中をゆるゆると登り始めれば、すぐに明快な山道が尾根に続く。裸地か
ら5分ほどで871m峰。トクワカソウとオオイワカガミが混在する岩尾根にはブナの白
い肌も見られる。やがて左手下に広い道が上がってきて、合流した所が根来坂である。

 大きなブナの木、一字一石塔も健在。お地蔵さんの唇は今もほんのりと紅がのっている。
残念ながら若狭の海は見えなかったが、昔なら旅人がキセルを持って一服でもしているよ
うな茶店の一軒でも建っていそうな、しっとり落ち着いた雰囲気がある。一幅の絵である
なあ。

 白石山は根来坂からすぐのCa860m山。道はここで左(東)に直角に曲る。そこかし
こにブナの大木が立ち、そこから舞い散った深い落ち葉の斜面を下ると、前方にようやく
百里ヶ岳が姿を表す。

 何度かアップダウンを繰り返す。左が植林でやや暗くなった辺りから少し登った高みで
右手から百里新道が合流し、その先の岩の台地からは三年前と同じく百里新道の尾根の向
こうに武奈ヶ岳や蛇谷ヶ峰が見渡せた。
三年ぶりの百里ヶ岳山頂

 下草がなく、黄葉、紅葉を纏った木々が林立する百里ヶ岳の最後の斜面は虎ロープも用
意されていて結構きつい。あえぎながら行き着いた三年ぶりの百里ヶ岳山頂は少し様変わ
り。大きな木もなくて小広いのは同じだけれども、もっと広くなったように感じるのは、
確か当時、あったように思う大きな山名表示板が、嵐か何ぞに吹き飛ばされたのか見当た
らないからだろうか。一等三角点は欠けも無く健在。その横で、さっきの取付きの裸地に
1台あった車の持ち主なのか、ご夫婦ハイカーが休憩中である。出発してきたのが早かっ
たのでここで食事も考えられたが、まだ10時過ぎで幾らなんでも少し早すぎるかなとい
うことで、もう少し先まで行ってみることに。それではと水を補給して北への江若国境稜
線に向かう。

木地山峠への稜線のブナ林
フカフカの落ち葉の絨毯だ

 ブナやハウチワカエデが色づく尾根は広く、明るく、何処でも歩けるから明確な踏み跡
が無い。やがて杉の植林下になると薄暗いが、今度はかえって踏み跡ははっきりする。

 杉林の中の776m標高点を過ぎる。この辺りでは踏み跡はやや尾根の下で、その先、
771m峰までの中間地点までやってくると切り開きがある。伐採木を降したのか、朽ち
錆びたワイヤーが転がっている斜面からは東方向が開け、東西に方向を変えた江若国境の
稜線が見晴るかせる場所に出る。笠を被ったような駒ヶ岳が遠くに。下の谷は木地山の渓
谷だ。10時半。気分のいい所なのでここで昼食タイム。

 711mの小さなピーク付近は雑木の林。幾つかの露岩が集まって日本庭園のような趣
きがある所もある。それらを愉しみながら進むと、緩やかな傾斜の中、徐々に木地山峠の
先の825m峰が近づいてくる。

 木地山峠はすこぶる峠らしい峠で木地山方面にも、上根来方面にも古道らしく綺麗な踏
み跡が通じていて、祠に小さなお地蔵さんが一体鎮座している。ほっと一息つくにはいい
場所である。先着の上根来からやってきた単独小父さんが、休憩を終えて百里ヶ岳方面へ
向かって登って行った。今回、最後に遭ったハイカーだ。
木地山峠。左が上根来、右は木地山へ

 時間もあるので、825mピークまで駒ヶ岳方面への縦走路を少し辿ってみることにし
た。お地蔵さんの祠の横を抜ける。少し踏み跡は薄いが、ここも下草がないので非常に歩
きやすくどこでも歩ける。だが勾配がすこぶるきつい。とりわけ稜線に乗る直前はかなり
のものだ。ダート主体のざれた斜面で滑りやすく、しかもすがる立ち木は少なく、枯れた
物も多い。とても直登できたものではなくトラバースしながら斜めに上がっていく。が、
そうして登りきった稜線上は、すばらしいの一言。ふかふかの落ち葉のブナ林は適度な間
隔を置いて青空に幹を伸ばしている。登ってきた甲斐があるというもの。右に折れて10
0mも進めば825mの標高点ピークである。

 汗を拭きつつ倒木に座れば百里ヶ岳への稜線や、重畳と続く武奈ヶ岳方面の山々が青く
広がる。うらうらとした陽射しにいつまでもここに居たい気分だ。が、登った限りはまた
下らねばならない。木地山峠まであの斜面を下るのかと思うと少し尻込みしたい気分なの
だったが、水谷さんの発案で、825m西尾根をトレースして最初の尾根を下れば上根来
への道に飛び出すに違いないということで行ってみようということになる。地形図を見れ
ば明快な尾根はそれ程きつくもなく、しかもかなりのショートカットが見込めそうだ。

825m峰の西尾根
テープはないがそれだけに清浄な極楽尾根だ

 先ほど登ってきた斜面を左に過ごす。その時気づいたけれど、木地山峠への小さな木製
プレートが木に架けられてある。そこから先の西尾根はバリエーションルート。テープ類
は一切無い。だが、やっぱりここも下草はなく、ブナもまっすぐ伸びて素晴らしい尾根だ。
アセビらしき木々の枝が露岩の間に思い思いの枝を伸ばして少しうるさいが、大したこと
はない。やがて広く丸い感じの台地になると、左方向に下りるべき尾根が見えてきた。コ
ンパスとGPSで確認、間違いない。そして降りかけると、足元にある植物をみかける。
夏に綺麗な花を咲かせる類とだけ言っておこう。ロゼット状の緑の葉の中央にまだ花柄が
ついている。近くには今日の朝まで使っていたような鹿の寝床もあって、ほんとに手付か
ずの自然の中を歩く感じ。傾斜もそれほどきつくは無く、ブナの黄色、ハウチワカエデや
ウリカエデの赤を楽しみながら、コンパスとGPSを駆使して方向と現在位置を確かめつ
つ下る。その内に杉の植林が現れた。途端に少し薄暗くなるが、もうそろそろだろうと思
えば左の植林下に予想通り広い峠道が現れた。そうしてその先50mほどで峠道は地形図
にあるとおり、尾根を乗っ越しているのだった。
バリエーションルートの潅木帯を行く

 少し緊張のバリエーションルートをこなして、古い峠道に良くあるようにジグザグに高
度を下げていけば左に小さな沢を見るようになる。さっきから聞こえていた少し大きい流
れを持つ沢が右から合流してきて、その先で流れを渡る。このあたりは杉の植林帯。その
杉林の中に大きな露岩が目立つ場所もあるが、少々単調。それよりも炭焼き窯がいくつか
残っており、昔は雑木林であったことを思い出させる。杉の太さから見て、植林が始まっ
たのは、日本中が戦争の荒廃から抜けようと全国で植林を一斉に始めた頃であろう。空気
抜きの茶色い煙突もまだ残っている。
深く洗掘された上根来への古道

 道は次第に沢の上をいくようになる。斜面に引っかいたような狭い踏み跡は、大雨が降
ればすぐ消え入りそうな頼りなさ。事実何回も消えたのであろう。油断すれば斜面をずり
落ちそう。どうも昔の谷道自体が崩壊して後から付けられた迂回道のようである。

 本当にこの道でいいのかといささか心細くなった所で小浜山の会の道標が出る。やはり
歩いてきたのは迂回路で、本来の道が谷沿いにあり、これは途中で崩れているのであろう。

 昔の隠し田のような段々には杉が植えられている。ここまで来れば里も近い。梢の間か
ら民家の屋根が見え出す。そして民家の軒先をかすめるように道標のある辻へ出てくると、
今日の山行もフィナーレだ。

上根来の集落に出てきた。
地形図の点線路とは異なっている

 無人の家もありそうな上根来の集落だが、物置に置かれた自転車には地元の高校のプレ
ート。ここから通っているのか通っていたのか。いずれにしても大変だろう。冬はどうし
たのか思いを馳せていると、もう霊園の前。ザックを下ろし、デポした車で遠敷峠へ戻っ
たのだった。

 当初の上根来からのコースなら、825m峰にも、それに続く極楽尾根にも向かわなか
ったろう。しかも今回下った経験から言えば当初のコースは、思っていたよりかなりハー
ドなコースだった。それもこれもさかじんさんの参加のおかげ。空模様も絶好、コースも
絶好。申し分の無い江若尾根の一日。皆さん有難うございました。それにしても本当に癖
になる山域。しばらくは気になって仕方の無いことだろう。


■同行 さかじんさん、水谷さん、もぐさん(五十音順)

【タイムチャート】
6:00北急桃山台駅西ロータリー(集合地)
8:10上根来墓地前(デポ地)
8:35〜8:45遠敷峠(駐車地)
8:55871m峰
9:00〜9:05根来坂
9:10白石山(Ca860m)
9:30百里新道出合
10:01〜10:10百里ヶ岳(931.3m 一等三角点)
10:25776m標高点
10:35〜11:15776m標高点・711m標高点中間点(昼食)
11:20711m峰
11:34〜11:40木地山峠
12:04〜12:15825m峰
12:27825m峰西尾根(南西尾根へ)
12:45〜12:50根来道出合(尾根乗越)
13:07沢出合
13:37上根来集落(木地山峠登山口)
13:40上根来墓地前(デポ地)


百里ヶ岳北方、776m標高点と711m峰の中間点から眺める江若尾根
■江若尾根歩きGPS軌跡...後半は杉林の渓谷沿いで弱電波の為、所々途切れています。
 (罫線は10秒=約300m 国土地理院2.5万地形図閲覧サービス、
  フリーソフト『カシミール』を利用しました)  先頭へ



百里ヶ岳のデータ
百里ヶ岳〜落ち葉踏み踏み鯖街道』をご覧下さい。
【参考】2.5万図『古屋』



   トップページに戻る

inserted by FC2 system