百里ヶ岳〜落ち葉踏み踏み鯖街道
平成15年 11月15日(土)
【天候】晴れのち曇り
【同行】のりかさん
百里新道のシチクレ峠手前の馬の背から百里ヶ岳

 京都、滋賀、福井の府県境付近は癖になる山域である。自然林が多いのと静かな歩きが
愉しめる事が大きな理由だろう。以前は京都府の園部町廻りで芦生などを訪れていたから、
大阪からは余程遠いというイメージがあったのだが、東の滋賀県経由なら、考えてみれば
台高へ行くより早い時間で行けるのだ。少々高速代が高いのが難点ではあるが。というわ
けで、またまた向かった江若国境。今日は鯖街道を歩いてみたくて百里ヶ岳である。

 6時に江坂でのりかさんと待ち合わせ。名神をひた走る..。という手筈であったのだが、
中環横の中国道での追突横転事故に気を取られたのか、うかっと載った先は近畿道。「あ
ちゃー」大チョンボである。(^^; 時間もだが、とりわけ代金のロスは痛かったぁ。トホ
ホ。(T_T)

 朽木村生杉迄は京大演習林へ行く時と同じルート。大宮神社で右折すると直ぐにニ叉路。
再び右に折れてくねくねと坂を上がると間もなく左手に数台駐車可能な広場が見えてくる。
ここが百里新道の取り付きで、地元の方々手製の緑色の案内標識がある。えらく沢山の車
があるなと思えば、写真愛好家のグループの方々で、山にたなびく霧でも撮影していたの
か、やがて下へ降りていかれた。それでも先行者の車らしい2台が残る。

百里新道の小入谷峠登山口。登山口表示の裏から
小入谷の集落への踏み跡がある

 尻尾に似た小さな尾根の突端に分け入るように踏み跡がある。今日は暖かいが山々はも
う初冬の装いだ。木々は殆んど葉を落とし、その落ち葉が降り敷いた踏み跡の縁にある群
れ生えるイワカガミの葉だけが艶々しい。

 ゆっくりとした勾配の道は、ウォーミングアップには最適で、徐々に北の高みへといざ
なう。最初の道標のある小さなピーク。薄日が差して清潔な感じの明るい雑木林だ。滋賀
県造林公社のプラ杭があって、若い桧が植えられている。下草のクマザサは刈り取られ、
非常に歩き易い。時折、西側が開けると谷を隔てて小入谷林道が白い帯の如く延びている
のが手にとるようだ。右手に見えるピラミダルな山は659mピークらしい。百里ヶ岳と
思しき峰はどうも805mピークで、まだまだ本体は姿を見せない。結構奥深い山である。

百里新道の明るい雑木林。ほとんど葉はありません

 斜面の次は平坦、また斜面と繰り返していく内にブナの姿も増えてくる。梢で小さな鳥。
白黒鮮やかな、割に大きな鳥も見かけたが、はて名前は?

 大きなブナの倒木のある付近で初めて小休止。GPSで調べると805mピークの南端
らしい。一息つきお茶で喉を潤す。

 ここから805mピークは5分程。もっこりしたピークで、前方に裸木を透かして、百
里ヶ岳らしい姿がようやく見えてきた。

 次第に細る尾根。イワウチワがへばり付く岩を越えると、所謂馬の背。一気に視界が広
がって、右直下は北川の源流、南谷の深い谷。右前方に百里ヶ岳の全貌。童心に帰って「
ヤッホーッ」と叫ぶと、綺麗に木霊が返ってくる。遙か下からは水音が聞こえる。

百里新道のシチクレ峠手前の馬の背から東方面
北川の谷。奧は蛇谷ヶ峰


 シチクレ峠はそこから少し急登をこなした先で案外近い。ちょっとした広場で道標があ
る。昔は小入谷と木地山を結ぶ道があったらしく、地形図にも点線が引かれているが、今
は廃道とガイドにある。確かに木地山方面は踏み跡があったが、小入谷方面はハッキリし
ない様子である。

 シチクレ峠から少々きつい登りで10分足らずの県境尾根出会いは、百里新道から来る
とT字路で、左は根来坂、帰路に歩く道だ。杉林の下に小浜山の会の道標が立つ。右の百
里ヶ岳へは初めは穏やかな登り。だが、次第に尾根も細ってきて岩混じりの部分も現れて
くる。小さな偽ピークもある。右手にある大きな杉は芦生杉の様に株立ちや曲がりくねっ
たりしておらず直幹であるのが面白い。

 益々傾斜は増す。虎ロープが張ってあるところもある。イワウチワがびっしり付いた岩
を越えると、右手がテラス状になっていて、東側の展望が頗る良し。武奈ヶ岳、蛇谷ヶ峰
を初めとして比良山系が起伏を繰り返す手前には、805m峰を中心に、歩いてきた百里
新道の稜線が望める。
百里ヶ岳南稜からの眺め。手前中央やや左が
805m峰奧には比良山系の武奈ヶ岳

 漸く汗が額から滴ってきた。エッチラオッチラ。更に登ると今度は左手が開けて、ああ、
日本海が。双耳峰は青葉山。意外に近い。海岸近くに蟠る島の名前は何だろう。

 百里新道が丁度良いウォーミングアップになったのか今日はわりに体が軽い。稲妻状に
付けられた登山道で最後の斜面をこなすと開けた山頂に飛び出した。

 周囲は切り開かれて明るい。中央に流石は一等三角点、大きな石標が埋設されている。
北に向かう木地山峠への道標がある。江若国境縦走路記念を兼ねた立派な山名板の横には
朽木西小学校の児童が架けたプレートが微笑ましい。

 先着は食事の準備で忙しい御夫婦2人のみ。
「すみません。カメラのキャップ落ちてませんでしたぁ?」と奥さん。
「はい。これでしょ。5千円です。」返す小生であります。

 思いの外、静かな山頂。心配された空模様も悪化の兆しであるうろこ雲が目立つものの、
まだまだ青空で暖かい。早立ちだった為か、山頂に立って急に空腹感を覚えた。こちらも
早速食事の準備。

 のりかさんにはブランデーを頂き、持参のレギュラーコーヒーに入れ、家でもあまり飲
まないカフェロワイヤル。馥郁とした芳香が漂う。

 空腹を満たした後はお目当ての展望。登るに手頃な立ち木発見。他の人もそうするのか
幹に光沢がある。1m程登って眺めると、リアス式の入り組んだ海岸線が見えるではない
か。方向と島影から察するに常神半島と御神島らしい。ならばあれが久須夜ヶ岳かなと思
うが判然としない。西は良く似た山並みがたたなづく。どれが八ヶ峰なのか、これも良く
判らなかった。
百里ヶ岳山頂から北北東に日本海が見える
常神岬の先に御神島が浮かぶ

 交通不便だとはいえ近百、関百の山だ。静かだった山頂もお昼に近づくに従って、次々
に登山者が上がってくる。そろそろ下山しようかと相談し始めた11時半頃には20人に
はなったのではなかろうか。その少し前頃から、結構強い風が出始めた。日が翳り、かな
り雲の量も増えてきている。山頂も手狭になってきたことだしと下山にかかる。

 風の影響かやや視界が良くなったようだ。さっきのテラスからは伊吹山らしい山影も望
める。県境尾根出合を直進。まもなく大谷出合と標識のある箇所に出るが、合流する道は
不明。その辺りで自分の幹を自分の枝で締め付けている奇妙な木に出会う。

 今までほぼ平坦だった尾根道が登りになる。きつい登りである。白石山と呼ばれる80
6m峰。ここで道は右に90度折れる。細いブナの林。右手に百里ヶ岳が望まれる。左手
直下に林道が見えてきて、狭くなった尾根を下るとこれまたお目当ての鯖街道、祠のある
根来坂に飛び出す。

 根来坂を越える道は所謂、鯖街道の一つで針畑越とも呼ばれる。鯖街道といえば、他に
杉尾坂、五波峠、知井坂などがあるが、最もその雰囲気を残すのがこの根来坂という。戦
国期、朝倉・浅井勢に追われた徳川家康も越えたという由緒のある峠が、林道工事で破壊
されなくて本当に良かったと思う。

 峠には大きなブナが一本。寛政7年に南の麓の生杉の住人によって建てられた自然石の
大乗妙典一石一字塔が建つ。真新しい祠には最近鎮座したお地蔵さん。唇の紅が艶々しい。
峠の真ん中に立って、北の上根来(かみねごり)方面を眺めると踏みしめられた山道の彼
方に、日本海が意外な近さで眺められたのには驚いた。(尚、尾根上には道が続き、三国
峠まで辿れる様である)

鯖街道の根来坂。中央奧に一石一字塔がある。
右は三国峠への尾根道(画像をクリックする
と祠のお地蔵さんが見られます)

 小入谷へは下ってきた尾根道から引き返す様に南へ下っていく。右の直下にはガードレ
ールは立派だが、地道の林道が山肌を引っ掻く様に付けられている。しかしながらこの鯖
街道、些か幻滅だ。というのは林道を歩かなくて助かるのだが、新しく整備し直したのか
岩屑が敷き詰められて歩きにくく、何とも風情のない道なのである。擬木階段もあり、こ
れが巷に喧伝されるあの鯖街道なの?とげんなり。とはいうものの、暫く歩けば一気に南
の斜面が開けて大展望が広がったのには感激である。京大演習林の中の山々や遠く比良山
系が一望なのである。西には八ヶ峰や頭巾山と続く若丹国境が重畳と続いており、いかに
も山深い思いを新たにする。

 植林尾根を下って一旦、林道に出るが直ぐに左に案内標が出て、旧道に入る。さっきは
幻滅と感想を述べたが、前言撤回!ここからはいやぁ素晴らしい道に大変貌なのである。

 降り積もった落ち葉、紅葉。柔らかい木漏れ陽。いかにも古道という感じ。深く掘れた
幅50p足らずの細道が山腹を巻いていく。その中に岩を刻んで自然の階段の如くになっ
た部分があった。幾多の人々が歩いてそうなったのであろう。思いは大正、明治、江戸へ
と自ずと馳せる。
錦繍に彩られた鯖街道
フカフカとした絨毯道が続く

 再び林道と落ち合った所の地蔵堂に鎮座する焼尾地蔵。未だに崇敬を受けていると見え
て、花や新しい供え物が置かれている。左手には朝に歩いた百里新道の尾根が緩やかにた
たなづいている。暫く林道を歩くと再び風情のある古道が別れる。速く歩くのはもったい
ないなぁ。そんな思いに駆られる程のいい道であります。

鯖街道から歩いてきた百里新道の稜線を見る

 近く遠く聞こえていた沢の音が徐々に高まってくる。すると左手に谷川が見えてくる。
シチクレ谷らしい。ジグザグ道を降りていくと荒れた林道が合流してくる。丸木橋を渡っ
て植林の中の林道を歩く。その先に二箇所渡渉しなければならない場所がある。雨で増水
した時は、渡るのに難渋しそうだ。

 右から川沿いに下ってきた林道小入谷線と合流する。地道から舗装道に変わった道をテ
クテク。蔵が崩れた廃屋を右に見て進むと小入谷の集落。車を置いた峠迄ショートカット
があるが分かり難いとガイド本に書いてあったから、障子の白さが眩しい藁葺き屋根の民
家から、丁度、軽四輪に乗ろうと出てきたお姉さんに、念の為、道を聞く。
「百里新道の登山口へ近道あると聞いたんですけど...。あの橋渡るんですか?」
「ええ。案内標がありますよ」

 小入谷のバス停手前にある小入谷橋。渡ると左は数台の車がとめられる広場で、成る程
朽木山の会の案内標識があるが、ちと分かり難い。とりあえず道なりに直進すると左に清
雅な農家、確かめてみる。
「峠の駐車広場は真っ直ぐですか?」
「小川に沿って杉林を真っ直ぐ行ったら良い。7分位で行ける」とお爺さん。小さな池に
はマゴイ。鶏小屋にはナゴヤコーチンが10羽。山積みされた干したカブの赤紫色が鮮や
か。なんだか古代中国の竹林の七賢人を髣髴とするような生活だなぁ。羨ましい。

 お礼を返して杉林へ。教えられた通り、小川沿いに進むと上がり勾配の道はやがて二股。
どっちにするかなと少し思案だが、右手上に電柱が見えたので、ということは車道がある
んだろうと右手に延びていく道を行く。結構、きつい勾配だったが飛び出した所は、何と
百里新道の案内板の裏でありました。

 その後は道の駅と朽木温泉『てんくう』に寄り道して、土産を手に取り、汗を流してさ
っぱりして締めくくり、帰途に着く。フロントグラスに雨粒。今日も山行終了後の雨。晴
れ男の面目躍如だなぁ。(笑)

 江若丹国境の山々は雑木が多く本当に飽きさせない山域だ。その中にあって百里ヶ岳は
想像以上に良い山。憧れの鯖街道も落ち葉折り敷く情緒溢れる古道である。通い詰めてし
まいそうになるが、その抑止力が自分の懐具合とは少々淋しい今日この頃であります。(笑)
同行ののりかさん、楽しいひととき、有り難うございました。

【タイムチャート】
5:50自宅発
6:00江坂(集合地)
8:15〜8:25小入谷峠(駐車地)(501m)
9:20〜9:30805mピークの南尾根
9:35805mピーク
9:55〜9:57シチクレ峠
10:05県境尾根出合
10:30〜11:35百里ヶ岳(931.3m 一等三角点)
11:55県境尾根出合
11:57大谷出合
12:15〜12:20白石山(Ca860m)
12:25〜12:30根来坂
13:10〜13:15焼尾地蔵
13:36大倉谷林道出合
13:50小入谷橋
14:00小入谷峠(駐車地)(501m)


 百里ヶ岳のデータ
【所在地】福井県小浜市、滋賀県高島郡朽木村
【標高】931.3m(一等三角点)
【備考】 京大芦生演習林の北、江若国境にある名山です。百里四
方が見渡せることから名付けられたと云われます。一等
三角点のある頂上からは、北に若狭の海、東に比良山系、
南に三国峠、西に八ヶ峰等が望めます。また、西の肩に
は、若狭から京都への鯖街道が通じており、浅井、朝倉
勢に破れた織田勢の殿(しんがり)を守る使命を帯びた徳
川家康も越えたという根来坂には、その当時の雰囲気が
残っています。交通不便な山域であり、アプローチはマ
イカーが無難です。
■近畿百名山■関西百名山。
【参考】2.5万図『古屋』



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