鴨内峠から油良坂〜丹波の分水嶺縦走
平成16年 6月 5日(土)
【天候】快晴
【同行】別掲
五大山から踏破した分水界の稜線を見る。
左から五台山、小野寺山、鷹取山


 この週末の土曜は梅雨入り前の最後の晴天だという。丁度、その日は日本山岳会創立百
周年記念事業で、日本の中央分水界を踏査する企画の一環として、ペンギンさんが自身が
担当される兵庫県氷上郡の鴨内峠から由良坂までを歩かれる由。何処へ行くかしっかり決
めていなかったこともあって、渡りに船と乗せて頂くことにした。

 前日の夜、ガイド役のたぬきさんに連絡を入れると、8時30分に春日IC集合とのこ
とで、当日は6時半に出発する。宝塚の先であった思わぬ事故で渋滞したが、幸いR17
6のバイパスで大半を端折ることができ、大して影響も受けずに8時きっかりには春日I
C。でも奈良からのペンギンさんの車はその頃、渋滞の真っ只中であったろう。

 8時20分、たぬきさんがやってきたが、やはりペンギンさん夫妻から遅れるとの連絡
があったらしい。四方山話などしていると、9時過ぎ、ようやくペンギンさんの車が到着、
久闊を叙するのも程々に、早速、次の集合地の南油良の公民館へと向かうことにした。

鴨内集落から鴨内峠を望む(しまださんの車から)

 南油良は今日の下山地。ここでしまださんが合流、車をデポして更に出発地点の鴨内へ
と移動する。

 鴨内の集落を抜けて、鴨内谷川沿いに山裾に分け入っていく。鬱蒼とした人工林の中、
次第に道幅が狭まる内に、鴨内峠と書かれた木札が現れ、その横には数台が駐車できる広
場がある。車外に出るとワンワンとアブかブヨらしき虫が飛び交い鬱陶しい。慌てて虫除
けを手や首筋に塗る。

 暫くは川沿いの短い草が生える林道。歩く一行の前後は相変わらず虫が飛び回る。それ
にしても道沿いに地名なのか面白いプレートが目に付く。曰く『弁当畑』、『つんぼ畑』
等。その内の『弁当畑』で橋を渡って川の左岸に出、10分程歩いた所の分岐を右に折れ
る。道標がなければ直進してしまうだろう。

 つづら折れを繰り返して徐々に高度を稼いで行くと、いつしか雑木が多くなり、切通し
のような鴨内峠に出る。

 この峠は4月に親不知から降りて来た時に免許証を落としたりで妙に印象に残っている。
その時は北のクロイシ山から下りてきたのだったが、当時あった倒木類は撤去されて綺麗
になっている。聞けば5/30に開かれた五台山まつりで整備されたのだとか。事故が起
きては...」と思う気持ちも分からぬではないが、何でも整備すれば良いってもんじゃ
ないと思うが如何だろうか?

 さて、小憩をとっていよいよ分水界縦走の始まりである。それにしても降った雨が西の
氷上側は加古川を経て瀬戸内海へ、東の市島側は由良川で日本海へとは不思議なものだ。
古い川柳を思い出した。「可哀想だよ 分水嶺の雨水 右と左に泣き別れ」ちょっと違っ
たか?(正しくは「可哀想だよ ズボンの○○○ 右と左に泣き別れ」でした。(笑))

 登山道には夏特有の、日光の直射で醸し出された松やツツジから発散される酸っぱい様
な匂いが充満し、鼻孔をくすぐる。暑いが空気が乾燥しているお蔭で木陰は涼しい。間も
なく稜線に上がって、457mピークは山頂を踏まずに左の肩を抜けていく。キツツキの
ドラミングを耳にしながら、ダラダラと登って行く内にやっと展望が開けて、北の方角に
は若狭の青葉山らしき双耳峰が霞むのが目に入る。

 寺の跡ではないかと思われるような平坦な部分もあって、五台山の山頂付近は広い。ジ
グザグを切りながら切り開かれた山頂に出る。香良から登ってきたのであろう小父さん2
名が景色を愛でているのみ。意外に静かである。ここへは今日で二度目の訪問。相変わら
ずの大展望で、箱庭のような氷上の町並みや篠ヶ峰から千ヶ峰、安全山、粟鹿山等が指呼
である。南の小野寺山が更に大展望なので、記念撮影の後、そちらへ向かう。

 人工林に囲まれた鞍部で香良からの道を分け、大分成長したシャクナゲの林の遊歩道を
歩いていくと直ぐに南に開けた小野寺山で、これから向かう分水界の山々が居並ぶのが見
える。五大山まではまだまだ遠い。その前には氷上槍と呼ばれる鷹取山や愛宕山の深いア
ップダウンが待ち受けている。じっくり行きましょう。

 ぐーんと下って後は徐々に下る。市島町と氷上町の町界尾根は概して市島町側が雑木、
氷上町側が植林。歩きやすい道が続くが、鷹取山に近づくと高度差100mの一気登りと
なる。小野寺山から眺めた姿そのままに、これが半端ではない。引いていた汗があっとい
う間に噴き出す。足元が土と落ち葉で滑るから余計に疲れる。要所に用意されているロー
プや立ち木を持って、体を持ち上げていく。登りきったら食事だと人参をぶら下げてみて
もシャリバテの体は進まない。それでも何とか登り切って鷹取山の頂上。雑木が伐採され
てベンチが置かれ、真ん中に四等三角点と「雷大御神」と刻まれた大正6年4月建立の石
柱が並んでいる。しまださんによれば雷の落ちた痕ではないかというが、そうならば後世
に残す限りはかなり大きな落雷があったのであろう。山火事でも発生したのではないだろ
うか。

 何はともあれ昼食タイム。例によってカップ麺を持参したが、熱い物を食べる気にもな
れず、赤飯おにぎりとお握り弁当だけにする。空気が乾燥しているので水分の消耗が激し
いのかしきりに喉が渇く。1L持参したのだが、もう少し大目でもよかったか?

鷹取山から前途。中央に愛宕山、左に五大山

 ここも素晴しい展望に恵まれている。西は雑木で駄目だが、まずは北に青葉山、大江山、
三岳山に弥仙山。親不知に歩いてきた五台山。北東は長老ヶ岳、南には多紀アルプス連山
に北摂の深山、高岳、大野山。正月登った猿藪に高山。白髪岳、松尾山と一際目立つ西光
寺山。と主だったところでもこれだけ。眼下には池を中心にエルム市島、たぬきさんの仕
事場、舞鶴若狭道が山裾を縫っているのもよく見える。高谷山からパラグライダーが飛ん
でいるらしかったが小生は見落とした。

 鷹取山、別名氷上槍と呼ばれるだけあって、距離は短いけれども登りも下りも厳しい。
油断大敵。折角稼いだ高度を惜しげもなく吐き出すと、ようやく落ち着いて快適な分水界
の歩きになる。何処やらで長閑なツツドリの声が聞こえ、道には黄色いコナスビの花が彩
りを添える。

 鷹取山の頂にあったものと同じ青いベンチが設えてある先が美和峠。氷上観光協会の賑
やかな道標が香良の岩滝寺や独鈷の滝を示す。その道も、以前はやぶやぶして、分かり難
かったそうだが、今は整備されて歩き良さそうだ。

 美和峠からは上り基調で左に折れる。暫くほぼ平坦な尾根が続き、伐採地からは前方に
愛宕山の山容が見えてくる。峠から約15分。烏帽子山の分岐を経ると、鷹取山に勝るとも
劣らない急登が待ち受けていた。だが、こちらは岩混じりでまだ登り易い。トラロープの
助けを借りながら、ふと下を覗くと結構な高度差である。下山時や雨の時は一寸いやなと
ころだ。

愛宕山への岩混じりの急登を行く

 一旦緩んだ傾斜がまた厳しくなるが、愛宕社のお堂が木の間隠れに視界に入ればホッと
する。1年半ぶりの山頂である。寛保3年の石灯籠がある社は今でも月参りの地元の人々
に親しまれているのだという。京都山城の本社を見晴るかす遥拝所付近も整備されている。
汗を拭いて水分補給。小憩の後に向かう次のピークは五大山。

愛宕山の岩の尖端で記念撮影

 ここは昨年の1月に雪の中を歩いた道だが、冬と初夏では全く印象が異なるものだ。ミ
ニ岩場歩きを楽しみながら、エルム市島への道が分岐する高圧鉄塔の立つ岩場を抜けると、
ヒカゲツツジの目立つ山道で、そのヒカゲツツジも乾燥を防ぐ為か葉を丸めている。そし
て痩せた尾根伝いに進めばすぐに山頂に飛び出す。

 五大山の狭い山頂には剥き出しの三等三角点と幸世村の石柱、それに白骨木が一本。高
い木がないので展望は良いが、その代わり陽光を遮るものがなく暑い。ヒョロッとした松
の陰に隠れて小休止である。

 左に白毫寺へのルートを分けて、赤い山ツツジの咲く踏み跡を南へ下る。前方にこんも
りとした三日月山が見える。一寸した急斜面を下る。去年歩いた時より、余程歩き易くな
っている。三日月山の分岐付近は五大山から眺めた通り、雑木に囲まれたのっぺりした所
で、尾根を誤りやすい所でもあるがここも道標完備。直進は千丈寺山から黒井城址への道
で、天王坂方面へは右に折れて南東尾根を下る。

 ここからはもう大きな登りもなく、小刻みにアップダウンしながらの下り基調。登り返
した所が417mピークで、春日町山田へのルートが分かれる。

 やや右に振りながら赤松林の中を急降下していく。ここがまたよく滑る。松葉が堆積し
てフカフカなのは良いのだが、その滑ること滑ること。油断をすると途端に尻餅。ズルッ
と尻セードした方もおられた様だが、幸い小生は今回はセーフでありました。(^^;

 やがて関電の巡視道が現れる。由良坂へはこの巡視道を辿るのが無難だが、分水界にこ
だわる今回はそのまま尾根。といってももう由良坂までは、GPSの指示を見ると直線で
150m程だ。尾根突端の急斜面の杉林を強引に下ればもう由良坂である。

 再び小休止。今日の面白かった分水界歩きもエピローグへ。西に折れて南油良へ歩き出
す。昨年のボタン鍋オフの時はここで男性組と女性組とに分かれて歩いたのだった。男性
組は下に見える谷沿いに歩いたのだが、女性組の方は水平道を選択して圧倒的に早く下山
していた。というわけでその水平道。やや荒れた作業道という感じで山腹を巻きながら徐
々に下っていけば、小さな流れに出て、やがて畑と人家が見えてくる。猪除けだろうかネ
ットが張られていて、所々に扉がある。適当な所で扉を抜けると、見覚えのあるコンクリ
ート護岸の川に出た。

 道標も兼ねた地蔵の石仏がある。例によって石仏評論家?の島田氏は前垂れを脱がしに
掛かる。彫られていたのは「ひだりやまみち みぎくろいみち」だったろうか。突然現れ
た胡散臭い輩に、すぐ近くの民家の庭先の犬がほえるのでその方に顔を向けると、さっき
のネットが山際に続いていて、そこに「登山道」と標識があるのだが、初めて訪う者にと
ってはとてつもなく分かり難いであろう。「ありゃ絶対見落とすよなぁ。間違いない」

 車をデポした公民館はそこからすぐそこで、父たぬきさんがアイスキャンデーとお茶を
持って待っていてくれたのには感激であった。干天に慈雨とはこのことで、すぐさまキャ
ンデーをぱくつき、冷えたお茶を一気に飲み干したのでありました。

 これで北から親不知、五台山、鷹取山、愛宕山、五大山と、旧来の五台山の修験道を繋
いで歩いたことになると同時に、氷上の中央分水界を形成する山々の核心部を歩いたこと
になる。一部はもっと藪っぽいかとも思っていたのだけれど、どこも地元の方々の整備が
行き届き、気温は高かったが、カラッとした空気と相まって気持ち良く歩ける山道であり
ました。これぞ「丹波の山道」だ。ご同行の皆さん有難うございました。

 ルート概念図はこちら

■同行  たぬきさん、のりかさん、はりまおさん、ペンギンさんご夫妻

【タイムチャート】
6:30自宅発
8:00〜9:00春日IC(集合地)
9:45〜9:50車デポ地を経て鴨内谷(駐車地)
10:22〜10:26鴨内峠
10:30457mピーク
10:57〜11:12五台山(654.6m 二等三角点)
11:20小野寺山
11:54〜12:35鷹取山(566.4m 四等三角点 昼食)
12:45〜12:50美和峠(氷上越)
13:00烏帽子山分岐
13:20〜13:30愛宕山(Ca570m)
13:44高圧鉄塔
13:49〜13:58五大山(569.2m 三等三角点)
14:10三日月山(Ca540m)
14:22417mピーク
14:50〜14:56由良坂
15:17車デポ地


鷹取山のデータ
【所在地】兵庫県氷上郡氷上町、市島町
【標高】566.4m(四等三角点)
【備考】  兵庫丹波と京都丹波の分水嶺をなす山脈の中で、五台
山の南に位置する山です。氷上槍とも呼ばれる尖峰で、
頂上直下は急登です。近年、山頂が伐採整地され北、東、
南の良い展望が得られます。
■五台山は『五台山〜丹波の春は麗らかに
■五大山、愛宕山は『雪と戯れつつ氷上の愛宕山から五大山
 を参照下さい。
【参考】2.5万図『黒井』




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