静寂と翠嵐の西大台
平成16年 5月29日(土)
【天候】晴れたり曇ったり
【同行】単独
西大台の展望台から西の滝


 入梅間近。何処へ行こうかつらつら考える内に、シロヤシオツツジを眺めに大台ヶ原に
でもという気が頭を擡げる。そこで問題は空模様。名うての多雨地域とはいえ、森の中に
入れば大丈夫だろうと少々の雨なら決行と決めてはいたものの、降る降らないで気分は雲
泥の差だ。生憎、TVの予報は曇りのち雨だけれど、ピンポイントで上北山村を確かめれ
ば15時まで曇り。なんとか天気ももちそうだと準備開始。折畳み傘と、スパッツ、ザッ
クカバーを突っ込んでおく。おおっ、もう12時半。寝なきゃあ。

 明朝。窓を開ければ、どんよりした空だが雲は高く明るい。その内、薄日も射してきた。
案外、山日和かも。(笑)

 6時に家を出、8時過ぎに大台のドライブウェイへ。靄で白く霞んではいるものの青空
が広がり、大峰の主稜には白い雲がかかっているものの視界は悪くない。だんだん気分が
乗ってきた。(笑)

 川上辻で一旦、車を止める。実は事前に明確なコースを決めていなくて、去年歩いた三
津河落山を再訪しようかなぞと漠然と考えていたのだが、見れば『通行止』の大きな看板。
以前は三津河落山への踏み跡に「ここは遊歩道ではありません。植生保護の為、立ち入り
禁止云々」程度のプレートがあったのみで、筏場への道そのものは歩けたのだが....。
行って行けぬことはないけれど、これだけ大書されると善良な小生としては敢えて逆らう
こともせず。大人しく西小台に方向転換である。(こんな状況にもかかわらず、新聞社系
ツーリストが三津河落山周辺を歩くバスツアーを主催していますが、どうなっているんで
しょうねぇ?)
筏場道には大きく通行止の札が

 この時期、いつもはもう満車状態の山上駐車場だが、6分程度の入りと空いている。昼
から雨の予報にマイカー観光客が二の足を踏んだか。それなら外れの予報も満更捨てたも
のじゃないなとエゴイズムの塊の小生、一人ほくそえむのでありました。(笑)

 駐車場入口横から樹林に入る。歩道の工事とかでいきなり迂回路である。右に大台教会
の建物を見る頃、元の道に復帰する。ところで、少し気になることはこの教会からの排水
がそのまま垂れ流しになっていること。沢の水質に影響がなければいいのだが。

 さて、筏場への分岐を過ぎて暫くすれば道は二分する。直進すれば七つ池を経由して開
拓分岐、左折すればナゴヤ谷沿いに開拓分岐。丁度、西大台を周回できるわけである。今
回は初めて西大台を巡った時と同じく七つ池から歩くことにする。

 間もなくコバイケイソウとトリカブトが繁茂するナゴヤ谷の川原に出る。大台一帯はテ
ン泊禁止だけれど、ここはそのテン泊をするには最高のロケーションであろう。蝦夷探検
で有名な松浦武四郎は晩年、大台ヶ原を何度も踏査したという。その分骨碑は、川原から
200mほど奥に入った小さな台地の上にある。昭和40年に建立された高さ2m位の立
派な石碑である。不思議だったのは分骨碑から、凡そ20m南に墓石や地蔵の石仏があっ
たこと。昭和14年、小森、那須、古川とあったが近くの大台教会と関連があるのだろう
か。
苔蒸す松浦武四郎の分骨碑

 寝不足なのと空腹が重なったのか、些か気分が重い。分骨碑から川原に戻った所で小休
止。定番の赤飯お結びを一個、腹に入れる。陽光がせせらぎに反射して美しい。

 沢から離れて山腹を巻いていく。エゾハルゼミというのかハルゼミというのか。音痴の
ヒグラシの様な声で鳴くセミの合唱音が周囲に満ちる。と、左手に現れた黒いネット。鹿
の入れない部分とそうでない部分とで比較調査でもするのであろうか。

 七つ池に出る。昔は湿地だったというが今はその面影もなく、平坦な大地という雰囲気。
ちょっと迷いやすい地形であるが、今は以前にはなかった道標や誘導ロープが設置されて
いる。ところでこの西大台、地味な為か東大台に比べて格段に入る人は少ないのだが、そ
れでも数年前に比べれば道標も増え、格段に歩きやすくなっている。しかし一旦ガスれば
平坦なだけに道を誤ることもある。地形図と磁石は必携であろう。

 中の谷やわさび谷の沢を飛び石伝いに渡る。周囲が平坦な盆地状になれば『開拓』の樹
林。麓ではとっくに深緑に変わった木の葉もここではまだまだ新緑。最近の雨でヌタ場の
ようになった低地はコバイケイソウに埋めつくされている。そろそろ蕾をつけたものも見
受けられる。一斉に咲けば壮観だろう。

開拓付近のコバイケイソウの群落

開拓分岐から逆川の源流を渡って展望台への低い尾根に登る。シロヤシオツツジが目立っ
てくるが、殆ど花は終わり。かろうじて枝先についている花も花弁の先端が変色しだして
いる。今年は例年に比べて開花はかなり早いようである。

 ヒメシャラ、ミズナラ、ブナの混生林は小鳥の天国。名も分からぬのがもどかしい。根
元が西洋カボチャの如く膨れ上がったミズナラの巨木や七色の木を眺めながら、10分ほ
どで展望台。やや?誰もいない。今日はこの景色を独り占めだぁ。(笑)

 展望台といってもそんな建物があるわけではない。東の川の深い谷を隔てて、大蛇ーや
千石ーと対峙した裸地があるのみ。水音が響いてくるのは木の間に見え隠れする西の滝の
音らしい。あとはセミと野鳥の囀り、それに風にそよぐ葉摺れの音のみ。人工の音は一切
聞こえない。なんと贅沢な事か。そんな中で昼食の用意。湯が沸く間、双眼鏡で覗くと、
二人が大蛇ーに取り付いているのが見えた。岸壁に点々とついたピンクの模様はアカヤシ
オかアケボノツツジらしい。西の滝は双眼鏡の中でますます迫力を増して見えた。

 開拓分岐に戻って、吊橋方面へ。この辺りにもシロヤシオは多いのだが、盛りを過ぎて
いるよう。残念。

 吊橋を二つ渡ると涸れ沢のようなゴロゴロ石の歩きにくい道を登ることになる。ところ
が右に見える逆川は、小生が歩く方向に流れていて、まるで高みに向かって流れていくよ
うな錯覚に陥る。これが名前の由来かもしれない。

 道が平坦になると大きな岩。その岩の下から力水と呼ばれる美味い水が流れ落ちている
のだ。手のひらで何度も受けて飲み干す。いつ飲んでも本当に美味い水だ。

 このあと木橋を二つ。橋の下を覗くとアマゴらしい姿もある。

 いつの間にか右に見える谷の水は逆方向に流れている。木陰に点々と白いギンリョウソ
ウ。今日はじめて会う15名ほどの団体さんとすれ違う。やがて沢から分かれて斜面を登れ
ば往路との合流点で、駐車場は間もなくである。

 この時間でも車は少なく6分程度だろうか。他には数台のバスが駐車。車掌のバイトの
高校生が手持ち無沙汰である。13時半。下山には少し早いので、経ヶ峰の三角点を探し
に行くことにする。GPSに経ヶ峰をセットして、ドライブウェイを2kmほど下る。路肩
の脹らんだ所へ車を置いて、取り付きを探す。山際はコンクリート壁で登れない。100
mほど戻ると、人一人が潜れる様な隙間があった。

 倒木や枯れた笹がある他は落ち葉でふかふかで至って歩きやすい。20mも登ればすぐ
に尾根である。左に折れて高みを目指していく。振り返れば日本鼻から大和岳だろうか笹
に埋もれた稜線が眺められる。

経ヶ峰から大和岳、如来月の眺め

 半ば埋も大きな岩が現れた。そこをつづらに登ればシロヤシオツツジが満開の白い花。
そして標石が狭い頂に鎮座しているのが見えた。

 こんな所にも三角点を踏む会とか奈良山岳会とかが設置したプレートがある。「ふーん」
と感心していたら突然ガサガサという落ち葉を踏む音。はっとして振り返ると一頭の雌鹿
が吃驚した様に逃げていく。尻の真っ白い毛が目に焼きついた。

 大台側からは大した高みでもない経ヶ峰も北は崖状の急斜面。少し見難いけれど、池小
屋山から白髭岳方面の山並みが見渡せる。しかしどれがどれだか。(^^;

 取り付きに顔を出すと、おりしもドライブウェイを一台のセダン。ドライバーが怪訝な
顔をして通過していった。(笑)

 遊んでいたらいい時間になった。林道を降りて、去年は入りそびれた小処温泉に浸かっ
て帰ろうか。

 些か蒸し暑かったけれども天気もいい方に外れて降られることもなし。これも日頃の行
いが良いからでありましょう。(笑)翠嵐の大台も堪能したし、目当てのシロヤシオにも
会えたし。帰りも大した渋滞もなく6時過ぎ帰宅。これで阪神が勝てばいうことはなかっ
たのだけれど....。そうは問屋が卸してはくれませんでした。


【タイムチャート】
6:00自宅発
8:45〜8:55川上辻(駐車地)
9:10〜9:15山上駐車場
9:25ナゴヤ谷の川原
9:32〜9:36松浦武四郎分骨碑
9:40〜9:50ナゴヤ谷の川原
10:25七ツ池
11:05開拓
11:13開拓分岐
11:27〜12:05展望地(昼食)
12:16開拓分岐
12:40力水の大岩
13:21山上駐車場
13:40ドライブウェイ路肩
13:52〜14:56経ヶ峰(1528.9m、三等三角点)
14:05ドライブウェイ路肩


経ヶ峰のデータ
【所在地】奈良県吉野郡川上村、上北山村
【標高】1528.9m(三等三角点)
【備考】  大台ヶ原の中の一峰で、西大台の高野谷、ワサビ谷、
カツラ谷の源流を形成する山です。南の肩をドライブウ
ェイが走っていますが、稜線上はコバイケイソウ、シロ
ヤシオツツジが多く、ブッシュも少ない清澄な感じがし
ます。
【参考】2.5万図『大台ヶ原』、エアリアマップ『大台ヶ原』




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