花冷えの昼ヶ岳環縦走
平成16年 3月20日(土)
【天候】曇り一時小雨
【同行】別掲
行者山の南、487m峰付近から昼ヶ岳の北峰(左)と南峰


 三田市と猪名川町それに宝塚市の境界地域は、猪名川、羽束川、波豆川などの川に分か
たれて、幾筋かの山並みが南北に延びている。高いものでも大船山の653mと、概ね4
00から600m程度の低山だが、恐竜の背状に激しく起伏していて登り応えがある。今
日はそんな山域を、三田市大磯と宝塚市香合新田を結ぶ通称「香合道」の途中の高畑峠か
ら北へ三市町の境界尾根を辿り、内田池(うったいけ)を跨いで西側の尾根筋を南下、大
船山の北の登山口でもある十倉峠へ戻るという趣向。いわば波豆川の分水嶺をグルッと周
回する環縦走である。高畑峠から南の高畑山、寺山、広照寺山は以前に縦走したけれど、
寺山の登りは厳しかった記憶がある。さて、今回はどうであろう。波豆川の水源である内
田池まで林道があるので、適当な所でいつでもエスケープが可能なだけに、この誘惑に惑
わされず、さて、さて、無事完踏できるものやら....。

 どんよりとした天気が気になったが、高曇りらしく能勢の山並みもハッキリ見える。こ
の分ならパラッとは来ても大した降りはなさそう。7:00にもぐさん、7:10に幸さ
んをピックアップして、途中、コンビニに寄ったりしながらも、8:10過ぎには集合地
のカナディアン大磯手前の空き地に到着。大磯の方から見慣れたたぬきさんの車がやって
来る。いつもながら低徘メンバの集合時間は正確だ。

 わいわいと四方山話に花を咲かせながら準備を整えて、車を止めた空き地から直ぐのY
字路を右に向かう。カナディアン大磯の建物を左にして、すぐに山沿いの道になる。土手
にはフキノトウが芽を出し、ヒメオドリコソウが背を伸ばしている。のんびりした山里風
景だ。再びY字路。山に入っていく右の地道にテープの巻かれた木がある。

大磯から鳥飼山(烏帽子)

 右に沢や小さな溜め池を見る。枯れた蔓草や倒木、手入れの悪い細い杉などで、道は荒
れた感じでやや暗い。やがて、見覚えのある、篠竹が野放図に延びた小広い平地に出る。
ここは前述の寺山に登った時、大舟寺から辿ってきたのだった。その時もこの山中の平地
を不思議に思ったことだったが、今は下手にある大舟寺が昔、大船山から降りた時、一旦
はこの付近に建てられていたのだという。

 細流を土橋で渡る。赤いペンキの塗られた木の立つ切開きが北へ続いており、ここから
も鳥飼山に登れるらしいが、ここは当初の計画通り峠へ向かう。綺麗に踏み固められた広
い道を進めばまもなく高畑峠。これも見覚えのある粗末な木組に石が積んである。五郎太
地蔵とでも呼ばせて貰おう。

 暫く憩って、ここから北に。最初は一寸狭い感じの踏み跡だったが、良く踏まれた感じ
の良い道である。ここにも赤ペンキが塗られている。それに市町界杭。右に方向を変える
辺りで北に鳥飼山の全容が現れる。暫くして尾根に乗り、西北に変針し、本日最初の急登
を喘ぐと、狭い鳥飼山の山頂である。三角点が無いのが不思議なほどの山である。展望も
良く、特筆すべきは大船山と北摂の槍ヶ岳ともいうべき寺山の姿である。

 鳥飼山は地元の呼び名では『烏帽子』。実は高畑峠への道を確かめるべく、事前に地元
のおじいさんに聞いたところでは『ヨゴシ』と聞こえたように思う。名前通り狭い山頂で
ある。
鳥飼山頂で憩う

 北を望むと、昼ヶ岳と思しきピークへ続く起伏が波打つのが分かる。先は長い。さて、
先に進むことにしよう。山頂の西側の細い立ち木にテープがある。そちらを眺めると岩が
ごろごろしたかなりの急斜面。それを数m下ると北に向かう踏み跡が見つかる。もっとヤ
ブかと想像していたのに意外や歩き易い。市町境界を示す石標のあるやや痩せた尾根筋は
気持ちよく歩くことができる。ミツバツツジやモチツツジ、ヤマツツジ等のツツジ類が多
いので、もう少し経てばツツジの回廊になるのではなかろうか。

 踏み跡がしっかりしているのはいいが、折角稼いだ高度をどんどん吐き出していく。「
おいおい、もうええやん」と思えるぐらい惜しげもなく下る。一旦鞍部に下った後、もう
一段下ってようやく最低鞍部に到達。554m標高点峰の南のCa520m峰が、さっき迄
は同じ位の高さだったのに今はやけに高く見える。凡そ80mを一気に下ったことになる
が、そこから今度は同じ高度に登り返さねばならない。しかもこの登りが半端ではない。
埋まった岩の間は土の斜面。おまけに落ち葉が堆積しているときているから滑る事この上
なし。只、距離が短いのが救い。潅木を支えに体を持ち上げる。息を弾ませ登りつくとそ
こは小さな岩がごろごろ転がるCa520m峰。感じの良い場所だが、突然響きだしたバイ
クの爆音が耳障りだ。猪名川町側にあるモトクロスのサーキット場からの騒音である。反
対側の山影に入れば全く聞こえないのであるが、尾根や山頂に立てば容赦なく耳をつんざ
く。おまけにライダーに指示するスピーカーの音までが山肌を伝いあがってくるのには閉
口だ。
「うるさーい!」

 そこここにあるヒサカキの白い花からプーンと春の匂い。独特のガス臭だが、これを嗅
ぐと春を感じる。小憩を取りながら554m峰を越えると、昼ヶ岳南峰がようやく近づい
てくる。この辺りは緩い傾斜地でリョウブ、ヒサカキ、アベマキ、アセビが目立つ雑木林
だ。左手に小さな流れが現れる。尾根歩きなのに水の流れがあると書かれた山行記があっ
たが、これのことらしい。右手には大きな岩。更に左手には古い炭焼窯跡とさっきの細流
の源らしいヌタ場が現れる。そしてやや踏み跡のはっきりしない緩斜面を登れば明瞭な道
に出、右手(東)にはフェンスに囲まれた関電の反射板が立つ。ここでコースと分かれて反
射板に行ってみるとこれが素晴し展望であった。目立つのは愛宕山の双耳峰。堂床山に丸
山。竜王山、三草山。高岳の登り口である猪名川の変電所も指呼。箕面から五月山の連山
の向こうには大阪市街、遠く生駒も望める。しかし昼ヶ岳の東は急峻で、砕石場らしい施
設が直下に見える。こっちから登るのは少し骨だろう。

 暫し、展望を堪能した後、コースに戻って北西の高みを目指すとすぐに雑木にプレート
が懸けられた南峰に至る。どこが山頂なのか良く判らない、何の変哲もない場所である。
勿論、展望も皆無だが雑木で囲まれ静かである。

 南峰からはまた下り。鞍部に達すると西への明瞭な踏み跡が延びている。私製プレート
があって、波豆川と書かれている。よく整備されているところを見ると、先程の関電反射
板の管理道に使われているのだろう。更に先には今度は東の清水への分岐があるが、これ
はサーキットの近くに出るらしい。してみると、この鞍部はやや変則の十字路である。

 いよいよ今回の最高点岳北峰への登りは高度差約70mの急斜面である。一気呵成にク
リアすれば狭い北峰の山頂に行き着く。

 賑やかにプレートがぶら下げられている。メジャーなガイド本には取り上げられないに
も係らず、派手な大船山の影に隠れて意外に人気の山らしい。知る人ぞ知る山なのかもし
れない。ここで食事も考えたが、サーキットのバイク音には耐えられず、幸さん差し入れ
のおはぎで内田池まで我慢である。

 北東方向から徐々に東方向へ。すると北へ下っていく踏み跡があり、間もなく周囲の景
色は沢の源頭になり、更に一つ二つ沢の源頭を合わせていく。勢いのない山桜の古木が数
本。やがて、広やかな部分に出ると、幅50cm程の人工的な溝が現れ、その土手が道にな
っている。溝は北へも延びているが、内田池はここからは西なので、溝に沿って下流に向
かう。

 桧の植林を透かして白く光る水面が見えてくる。内田池の上池である。溝が南へ離れて
行く頃、左に下池も見え、その間の堤防を進めば大磯からの林道終点である転回広場に出
る。

 何処からか湧き水でもあるのだろうか?こんな高所に満々と水を湛えているのは不思議
といえば不思議だ。大した窪みでもないから、周囲から沢が行く筋も流れ込んでいるわけ
でもなかろうに。
静かな内田池から昼ヶ岳北峰を望む

 内田池の西側の堤防からは西が開けていて奥山、峰ヶ畑、向山に囲まれた末吉の集落が
俯瞰できる。誠に山間の別天地の雰囲気がある。そんな景色を楽しみながら昼食に興じる
面々である。

 食事も終わり懸けた頃、池の水面に細かな波紋が疎らに広がりだした。体感できない位
の微かな雨である。荷物を片づけて後半戦だ。

 林道の終点の車の転回地点の西に小さな松の生えた砂地の崖がある。その上は小さな支
尾根の先端。そこに取り付いてみようと登ってみると、黄色いテープが巻かれてあって、
薄い踏み跡が見つかる。

 往路とはうってかわって、松の倒木も多く、ツツジ等の雑木の枝が張り出して鬱陶しい
が、よく見ると小さな人一人が歩く程度の切開きがある。歩き易い所を選りながら、手元
のGPSで方向を確かめて尾根を外さない様に南へ進む。境界杭と時折見つかる古いテー
プがいい目印になる。進路が南西方向から西に変わると前方に行者山が立ちはだかる。こ
こも最後は標高差50mの急登である。

 山頂には『行者山頂』と書かれた50p位の手製のプレートが木にぶら下がる。建物の
土台らしき石垣が残り、石の祠の残骸らしきものもある。役行者像が祀られていたと思わ
れるが、はっきりとは分からない。西の麓の川原辺りでは『行者はん』と親しまれて呼ば
れているそうで、昔はよく登られていたに違いない。三角点『上カイホ』がある尾根道が
参道であったのではと他の山行記にあったが、今回は確かめずにパス。

行者山頂の石組。役行者の祠の名残?

 山頂をあちこちうろうろしたものだから、東から上がったことを忘れて、方向を取り違
えて下山方向を間違えそうになってしまった。くわばらくわばら。ポイントポイントでは
方向を必ず確かめるべきです。(^^;

 踏み跡は明瞭になったり、薄くなったりを繰り返す。時たまクモの糸が顔に絡みつくの
には閉口。そして後ろへ引っ張る奴が。「誰や」と振り返ると、雑木にザックのベルトが
引っかかっているのである。枝で脱げた帽子を被りなおしたりしながら、往路の昼ヶ岳南
峰、北峰の稜線がよく見えるビューポイントがあるCa530m峰を抜けると今度は急降下
である。地形図に依れば、下った先の峠には波豆川と川原を結ぶ点線道があるはずだが、
白テープが巻かれてあったが、明瞭な踏み跡は認められなかった。

 487m峰付近は本コース一番の難所ではなかろうか。明快な尾根筋が無く、踏み跡も
非常に薄い。只、この付近にはちょっとした砂地のテラスがあり、歩いてきた鳥飼山から
昼ヶ岳の稜線が見渡せて、感慨無量である。

 雑木の枝に悩まされながら、南南東の500m峰を目指して進む。崩れた小屋跡、ワイ
ヤが巻かれた木が転がる他、倒木も多くやや荒れ加減。こういう時のGPSの威力は大し
たもので、雑木藪だから弱受信になることもなく、衛星を捕捉する。500m峰、鞍部、
続いて489m峰手前のCa480m峰と順調にこなす。

 十倉峠へは時々姿を現す大船山を目標に歩けばよい。西側の眼下に見える池は十倉から
の大船山登山道横の池だろう。踏み跡は西南に振りながらどんどん洗掘された明瞭な道に
なっていく。うねうねとしたその道を下ると前方が空いて、見覚えある十倉峠であった。

 後は大磯方面へ下るのみ。幅は広いが石がごろごろした道で、下るに従って右が沢らし
くなってくる。左に三十三箇所の石仏が置かれたミニ巡礼道。石灯篭には万延の文字があ
るから江戸時代末期のものだ。水子供養の地蔵像がズラッと並んでいるのには少し異様な
感じがする。

 やがてキャンプ場のテン場、管理棟、フィールドアスレチックの施設が現れるが、トイ
レもロープで閉鎖してあり、開店休業状態で森閑としている。そんな一寸侘しげな中を歩
いて入口に出て、右に曲がれば駐車地の広場はすぐである。

 装備を解いて、たぬきさん差入れのおはぎを頬張り寛いでいると、ウグイスがすぐ傍で
囀る。ヒサカキの匂いといい、ダンコウバイの花といい、やや寒かったけれども、そここ
こに陽春間近を思わせるものばかりが目に付いた今日の山行。花好きにはそわそわする季
節がもうすぐそこにとの感を新たにさせてくれた北摂の雑木山歩きでした。同行の皆さん
に感謝です。

 それにしても珍しく他に誰にも会うこともなく、バイクの音がなければ特筆物のルート
と思えるのにとその点は少し残念ではありました。


■同行 幸さん、母たぬきさん、もぐさん
ルート概念図はこちら

【タイムチャート】
6:50自宅発
7:10桃山台バスロータリー
8:10〜8:25カナディアン大磯手前Y字路(駐車地)
8:42大舟寺道出会い
8:50〜8:52高畑峠
9:17〜9:26鳥飼山(528m)
9:58〜10:03Ca520mピーク
10:08〜10:11554mピーク手前の尾根(小休止)
10:16554mピーク
10:30〜10:40昼ヶ岳南峰の反射板
10:42〜10:45昼ヶ岳南峰(595m)
10:50〜10:53Y字路(波豆川分岐)
10:55清水分岐のコル
11:04〜11:16昼ヶ岳北峰(595m)
11:33〜12:10内田池の西堤(昼食)
12:37〜12:45行者山(559m)
12:54Ca530mピーク
13:05487m標高点北のコル
13:15487m標高点
13:34Ca500mピーク
13:50〜13:55489mピーク北のCa480mピーク(小休止)
14:00489mピーク
14:05〜14:15十倉峠
14:35カナディアン大磯手前Y字路(駐車地)


昼ヶ岳のデータ
【所在地】兵庫県三田市、川辺郡猪名川町
【標高】595m
【備考】 波豆川と猪名川に挟まれた南北に連なる山並みの主峰で、
雑木林が主の知る人ぞ知る名山です。なだらかな南峰と
尖った北峰からなり、南峰にある関電の反射板からの眺
めが良く、北摂の山々を西から俯瞰する事が出来ます。
鳥飼山のデータ
【所在地】兵庫県三田市、宝塚市
【標高】528m
【備考】 三田市大磯、宝塚市香合新田を結ぶ香合道の峠の北に位
置する山です。峠の南にある寺山に劣らず三角錐の形の
良い山容から、大磯からは「烏帽子」と呼ばれています。
岩の転がる狭い山頂からは、良い展望が得られます。
行者山のデータ
【所在地】兵庫県三田市
【標高】559m
【備考】 波豆川の西、昼ヶ岳に相対する位置にあります。山頂に
人工的な石組と思われる物があり、以前は役行者を祀る
石祠があったようです。尚、波豆川の西の山域は、整備
された登路は無く、地形図とコンパスが必携です。
【参考】2.5万図『木津』



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