七面山〜あけぼの平で『もう帰りたくない!』

平成14年 5月 2日(木)
【天候】 曇り時々時雨のち晴れ
【同行】 大加茂さん、かいさん
     もぐもぐさん
七面山西峰の西麓斜面から「あけぼの平」と「槍の尾」


 R309を集合地の大塔村役場へ向かって車を走らせていると、制服を着た子供達が三
々五々。村営のスクールバスがやって来る。そうか今日は学校のある日か。高い山の上や
谷底の家からの通学はさぞ大変だろう。ちょっと切ない気持ちになる。

 村役場へは8時ジャスト。既に大加茂さん、もぐもぐさんが立っている。やや遅れて久
しぶりのかいさん。今日の総勢は4名らしい。念の為、15分程待って七面山へ向かって
出発。

 大塔温泉「夢の湯」の建物を右に見て、県道をゆく。舟の川に沿う道の途中には山肌に
へばり付くようにして、中井傍示、惣谷、篠原と3つの集落がある。惣谷ではクリンソウ
らしきピンクの花が満開。そしてシャクナゲも満開でひょっとして咲いているかもと期待
を膨らませる風景が展開する。最奧の篠原を過ぎると人家はない。林道は所々ダート。穴
があるので慎重に進む。
 
 林道篠原線の終点には車を数台置ける広場がある。これから先は王子緑化の私設林道で
ある。既に1台の車がある。が、これは渓流釣り客の車であろう。ここに車を置いて大加
茂さんの車でもう少し上がることにする。すると、前方から軽四輪が降りてきた。地元の
おじいさんが顔を出す。
「釣りかいな?」と問うので「いや、山です」と答えると「林道工事の車が入ってるから、
この辺に車置いたが良いで」と気になる言葉。そういうわけで私設林道ゲート付近の路肩
で車を降りた。

 ワイヤーだけが残った古い吊り橋の跡がある。コンクリートの沈下堰堤で沢を渡って林
道を進む。若緑が眩しいほどだが、空は一面雲に覆われ、遠くの明星が岳方面の高みでは
頻りにガスが蠢いているのが分かる。大阪では想像できない天気である。

 途中、滝を見物しながら徐々に高度を上げていくがなかなか登山口へは行き着かない。
「あそこと違たかなぁ?なんか見たことある感じやけど...。」と期待を込めて急ぐとこ
れが裏切られるのである。そんなことを二度三度繰り返す内に麻痺してしまった。(^^;

 ぐるっと大回りして裸地の上に出た時である。下からうんうん唸る音が響いてきた。
「車の音やで」「さっき聞いた林道工事の車かなぁ?」と言い交わす間に、下に大きなコ
ンクリートミキサーが姿を現した。林道幅一杯の10屯車である。避ける為に路肩に寄ると
くわえ煙草の運ちゃんがローギアでエンジンをわんわん云わせながら慎重に登っていった。

 そこから林道工事の現場はまもなくで、二台のミキサー車が停車している。林道はヘア
ピンで更に高みへと上がっていくようで、ひょっとすると七面尾の鼻先を削って行くのか
も知れない。

 遙か上に見えていた隣の山も同じ高さになった頃、正真正銘見覚えある灌木が見えてき
た。大塔村の標識も立っている。やれやれ。下からほぼ一時間を要した林道歩きであった。

 小休止して七面山に取りかかることにする。最初はジグザグを切るが、後は植林の中の
相変わらずの一本調子の急登が続く。去年以上にきつく感じるのは、雨で滑るからだけで
はあるまい。林道歩きが確実にスタミナを奪った結果であろう。30分ほど頑張ればおしま
いだと言い聞かせながら登る。

 見覚えあるササが現れれば、取りあえずここの急登は終了。ブナが茂る七面尾の分岐に
出る。標高は約1300m。下では若緑の木々がここではまだ芽出したばかり。やはり相
当の気温差があるようだ。

 ところで人の記憶はあてにならないもの。いやなことは忘れるきらいがある。もう大し
た登りはなかったはずと思っていたのだが、実はこれからもアップダウンがあって、特に
ピーク手前は短いが厳しい登りだったのをてっきり忘れていたのである。しかも濃いガス
が流れ、トウヒの梢からは水滴が容赦なく落ちてきて冷たい。更に風が容赦なく吹き付け
るので体感温度はかなり低いであろう。

霧に浮かぶ幽玄な風景は正に山水画の世界
(1397mピーク付近にて)

 1392mピークを越え、木の根道の痩せ尾根からシャクナゲのブッシュに出たが、や
はり残念なことに堅い蕾でその数も少ないようである。裏作なのかも知れない。その代わ
バイカオウレンの可憐な白い花を見たのは収穫であった。

 ヌタ場のある小さな鞍部を抜けて笹尾根の登りをこなすと、漸く西峰のピークである。
取りあえずここで昼食とする。風が強い。ちょうど倒木が根こそぎ倒れた窪みがあったの
でそこに入り込んで湯を沸かす。

 相変わらずガスは次々流れてくるが、昼食後は東峰へピストン。ここらあたりが本日で
最もコンディションが悪かったのではないだろうか。痩せ尾根は風の通り道でトウヒの梢
を渡る風は物凄い音を立て、悪いことにみぞれまで降り出したようだ。手がかじかみ感覚
が無くなってくる始末。距離的には大したことはないが一人ではきっと戻っていたに違い
ない。中峰を巻いて濡れた岩に注意しながら進むと、日本庭園の枯山水に似た東峰に到着。
ややガスが切れて大峰の主脈に懸かる雲が見えるが、釈迦が岳に懸かる雲だろうか。眼の
高さにまるで飛行機から眺める姿で流れているのが印象的である。

 大ーの頭部分を見物した後、とって返して西峰。いつの間にか風が収まってきた。とか
くする間に薄日まで射してきて暖かい。先程までの冷たさは嘘のよう。やはり大峰は本格
的な山である。里山の様には行かない。常に天候の急変に備えよということである。

 天候も回復基調にあることであるし、昨秋行けなかった『槍の尾』へ向かう。倒木を跨
いで西に向かうと、ヒメ笹に綺麗なトレースがある。元は鹿道だったのであろう。それを
ずんずん降っていくのだが、瞬間、前方が急激に晴れて『槍の尾』とその先の1300m
台地が姿を現した。それだけではない。『槍の尾』の手前は何なのか?台高の桧塚に似た
たおやかな笹原が広がっているではないか。『あけぼの平』らしい。早く行ってみようと
気がせく。そして行き着いたそこには素晴らしい景観が目の前に展開したのである。

 ガスは仏生が岳の稜線を津波の如く乗っ越すと、一気に下に崩れ落ちていく。見ている
と東峰のシルエットが徐々に輪郭を明確にして行くのが分かる。風がやや弱まりガスが徐
々に晴れていくようだ。その内に一気に吹き払われたように視界がはっきりし、東峰、中
峰、西峰が全貌を現した。
「おおっ!、凄おーい!」一様に感嘆の声。特に東峰の南面は、通称『大ー』と呼ばれる
400mの絶壁がスパッと切れ落ちている。さっきまであんな所にいたのか。そして、仏
生が岳の山腹にかけて沢山の岩が露出し、さながら五百羅漢の姿であった。

 『あけぼの平』に酔うみんな。でも、とりあえず七面山の三角点にタッチしなくては。
『槍の尾』は『あけぼの平』からは直ぐ。身の丈程のクマザサとシャクナゲに囲まれたピ
ークである。ザックをデポして空身で向かう。ヒメササ原から一転、雑木とササのトンネ
ルの中に突入する。縦横に鹿の道があるのでテープに忠実に登っていく。ササが張り出し
て歩き難いが、暫く登る内に朽ちた避難小屋が忽然と現れた。広さは凡そ一坪。なぜか古
い一升瓶が転がっていた。三角点はここかと思えば更に奧。20m程西のシャクナゲの林
に囲まれた狭い地点に綺麗な三等三角点があった。木の枝に数枚のプレートが懸かってい
る。
石楠花に囲まれた『槍の尾』の狭い山頂には三等三角点

 展望はシャクナゲの枝を透かして木の間越しに見えるのみであるので、数分憩った後、
再び『あけぼの平』にとって返す。

 更にガスは吹き払われてピーカンの青空が広がる。斜面の下にピンクのツツジがある。
アケボノツツジかなぁと甲斐さんと共に写真を撮りに降りると、残念ながらそうではなか
った。ミツバツツジの一種らしいが、雄しべの数が8本。葉も展開しておらず同定は出来
なかった。

 何時までも見飽きない風景に一同、異口同音に
「ああ、帰りたくないなぁ」
後ろ髪を引かれる思いで『あけぼの平』をあとにする。

大塔温泉で缶コーヒーを飲みながら「お疲れさまでした。」肝腎の石楠花は見られなかっ
たものの、大峰の奥深さを思い知らされた1日でした。皆さん本当にお疲れさまでした。


ここをクリックすると写真集「あけぼの平千変万化点描」が見られます。



【タイムチャート】
6:00自宅発
8:00〜8:15大塔村役場(集合地)
9:00〜9:12林道終点(王子製紙私有林道入口)
9:21〜9:26王子製紙私有林道ゲート前
10:22〜10:26登山口
10:55〜10:57尾根手前の笹場
12:00〜12:30七面山西峰(1619m)
12:47〜13:03七面山東峰(1624m)
13:20七面山西峰(1619m)
13:40〜13:50あけぼの平
13:57〜14:03槍の尾(1556.4m 三等三角点)
14:10〜14:35あけぼの平
15:05〜15:15七面山西峰(1619m)
16:05〜16:15七面尾分岐
16:35〜16:37登山口
17:37王子製紙私有林道ゲート前
15:35林道終点(王子製紙私有林道入口)



七面山のデータ
 『七面山〜大峰の秋に酔うを参照して下さい。

【参考】2.5万図『釈迦が岳』



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