三郎ヶ岳〜往きはよいよい帰りは大変

平成13年 7月 8日(日)
天候: 晴れ
同行: 東大阪のご夫婦
高城山から木の間隠れに三郎ヶ岳の端正な姿


 今週も梅雨の晴れ間。天気予報もいい方に外れてくれる。しかも前線は南下し、北から
の空気が入って風が爽やか。こりゃどこか行かずばなるまい。そこで今日は、かねて気に
なっていた室生の三郎ヶ岳。

 ここはMLの大家でもあるあきゆきさん夫妻が毎年歩かれている所。NHKの朝ドラの
「あすか」のロケも行われたそうだから、きっと雰囲気の良かろうということで、気軽な
山歩を期待したのだが...。

 奈良の山へ行く時の定番コース、名阪国道針インターからR369で榛原を目指す。い
つもは右折する玉立のバイパスを今日は直進。近鉄のガードを潜って左折、内牧川沿いに
15分も進むと高井の集落で、ここを左に入る道が仏隆寺への道である。

 宿場町の雰囲気のある集落の中は初めての者にはやや分かりづらい。おばあさんに道を
聞いたりしてようやく寺への道が分かった。要するに最初の辻を左に。その後は川沿いに
進むのだ。民家の軒先、物干しに洗濯物がヒラヒラしている所も、庭ではなくて一般道路
でした。(^^);

 狭い道を徐々に登っていくに従って、フロントグラスの前に静かな山里風景が展開する。
高台に点在する農家、棚田には早苗が風に靡いている。白洲正子さんがその著書で書かれ
た『隠れ里』のイメージとはこういう風景ではなかろうか。その一番奥まった所に真言宗
摩尼山仏隆寺はあった。茅葺きの東屋の横、トイレと無人の野菜販売所のある砂利の敷か
れた駐車場に車を入れる。

 先行車があると思いきや1台の車も無い。今日は車を降りても夏特有のムーッと来る熱
気がない。生駒山の標高600mに匹敵する位の高さがあるからでもあろうが、夏を感じ
させるのは涼風が運んでくるニイニイゼミの鳴き声と新緑から深緑に変わった木々の緑。

 左に見える仏隆寺の石段。先程の東屋には脇侍を従えた大きなお地蔵さん。やや上を望
むと、室生へ向かう山道(室生古道)横には水車小屋が眺められる。今は失われてしまっ
た懐かしい日本の村の原風景。

茅葺きの東屋におわす地蔵菩薩

 道標がある。高城山へは駐車場上の舗装路を行くようだ。左手に真新しいお寺の本堂風
の建物を見て道なりに歩いていくと、前方に先行するハイカーの姿が見えた。これが東大
阪から来られたという山好き御夫婦。どういう縁か、これから先、お二人と今日の山行を
共にすることとなる。

 上俵の集落を抜ける。大和棟というのか、立派な茅葺き農家にはお年寄りが日陰に椅子
を持ち出して涼んでいる。ホタルブクロやキツネノカミソリが土手に咲き乱れている。
カトラノオの白い穂。長閑だなぁ。

白壁と藁葺きのコントラストが美しい大和棟の農家

 民家も途切れて、赤埴城址への道標を過ぎると、道は桧の植林下となり、右手には額井
岳と榛原の新興住宅地がよく見えるようになる。やがてそれも隠れ、両側が桧林になった
頃である。先を歩いていたご夫婦が大きな声を上げ、飛び退いた。何と足元に30cmほど
のマムシ。思わず踏みそうになったとの事である。それからというもの、一寸足元が気に
なるのは致し方なし。

 右に池、左にログハウスを過ぎてしばらくすると、右手が小さな広場になっていて児玉
稲荷の石碑が建っている。その向かいに切り返すように階段状に登る小径があり、これが
墓地への道だが、道標もなく一寸分かりづらい。

 小休止のご夫婦に失礼して先に進む。植林の下の小さな墓地の周囲はササが茂り歩きづ
らい。失礼して墓地の中を歩かせてもらう。

 すぐに林道に出て、左に凡そ20m程登り、更に左に折れる。ここからが本格的な山道。
良く踏まれた道が植林の間に伸びている。やがて明るい場所に出ると前方には一気に傾斜
を増した斜面。丁度腰掛けるに手頃な高さの大きな切り株があったから座ろうとすると、
耳元でブーンと何だか不吉な羽音。スズメバチだ。こりゃヤバイわと後ずさるうちに飛び
去ってくれたが、マムシといい、蜂といい、今から思えば、前途を暗示するようなハプニ
ングである。(^^);

 眼前に迫るような急斜面に見えたが、ジグザグに切られた道をゆっくりと同じペースで
進むと意外に楽。大して汗もかかずに高度を稼ぐ。真新しい鎖が架けられた小さな岩場を
過ぎれば、傾斜は一気に緩んで感じの良いツツジ等の雑木のトンネルとなる。何かひらが
なのような文字が彫られた大きな石が鎮座する横を過ぎると、トンネルからポッカリと抜
けだし、あっけなく無人の高城山の頂上に到達。

高城山から手前は袴ヶ岳、奧左手が高見山、右は薊岳方面

 東西に長い頂上の片方には祠と素朴なベンチに展望図。もう一方には東屋が建ち、南方
面の展望が良好。左手の大きな山容は高見山。しかしここから見る高見山は意外にダル。
奥には薊岳か国見山らしき山と、頂上にアンテナの立つジョウブツ山。山上ヶ岳や白髭岳
も見えるはずだがやや霞んで判然とせず。右手には榛原の街や烏ノ塒屋山とそれに続く音
羽山塊も見える。いい眺めだ。

 先程のご夫婦も上がってこられて、東屋で小休止されている。涼しい風が吹く中、相前
後して三郎ヶ岳へ向かって出発。

 すぐにこれから向かう三郎ヶ岳の姿が右手の木の間越しに眺められるポイント。なかな
かピラミダル。頂上の木が疎らそうだからきっと展望も良さそうと期待が膨らむ。

 ここから三郎ヶ岳迄は稜線縦走で3つのピークを超える。大きく降るのではと心配した
鞍部もそれ程でもない。桧林の下草の良く繁茂したササの間に明瞭な踏み跡が続く。やが
て稜線が細ってくる頃、岩上の間を行くようになり、イワカガミが目立つようになる。枯
れた花柄が沢山あったから、花時はさぞやと思わせる。

 やや左に巻いた前方、屹立するように三郎ヶ岳がようやく姿を見せる。ここからは高城
山より更に急登。但し高度差60m位だからそれ程つらくはない。葛籠おれの道を辿るに
従って、背後に額井岳方面が顔を出してくる。一歩一歩踏みしめながら、最後は灌木の生
える山肌を斜めに上がると、二等三角点がある狭いが明るい三郎ヶ岳の山頂である。

三郎ヶ岳山頂から高城山と額井岳方面を眺める

 数枚の山名プレートが懸かる。だが、圧巻はその大パノラマ。木々が伐採され、真東を
除きほぼ300度は遮るものなしなのである。東に倶留尊山系の国見山、住塚山、背後に
は古光山。椀状にカヤトと思しき広がりが見いだせるのは倶留尊高原だろうか。それにし
ては日本ボソなど周囲の山が低すぎるような。遠くには局ヶ岳らしき尖峰や高見山から明
神平へ続く北部台高の山並み。北東は名張市街から青山高原。北は額井岳、貝が平山。西
に金剛葛城山系と生駒らしき山影。南に大峰山系とすぐ側に袴ヶ岳の特異な姿と、なんと
も素晴らしい眺めを三人占め。それにしても、「分け入っても分け入っても青い山」種田
山頭火の句が思わず脳裏に浮かぶ景色である。やや暑くなってきたので、直射日光を避け
て灌木の陰で昼食。

三郎ヶ岳山頂。後ろは重畳と波打つ緑深い山また山

 山頂には3方向から踏み跡が集まってきている。一つは先程登ってきた道。南は開明寺
から諸木野へのコースだろう。もう一つ、北からの踏み跡がある。

 当初、諸木野へ降る予定にしていたのだが、ご夫婦がバスの便の良い室生へ北のコース
で向かうという。水車の見えていた林道に降りる事が出来るという。こりゃ南からより駐
車地に近いなぁ。ということで、ご一緒させて頂くことにする。ところがこれが運の尽き。
距離を端折ろうとしたが為に、後半はえらい難儀に遭う羽目に...。(^^);

 最初は薄暗い植林の中の急降下だが、すぐに落ち着いてテープも所々に巻かれて歩きや
すい。しかし余り歩かれていないのか、次第にツツジなどの雑木が枝を張り出し倒木もそ
のままの歩きづらい道となる。分かり難い尾根の分岐もあるが、何とかテープを拾って降
っていく。背後の三郎ヶ岳が姿を見せやがて姿を消した。下草のササが膝から腰の高さに
茂り、その下の倒木が見えない。蛇を踏んでも分からない。少しく不安。

 すると唐突という言葉通りに、うす暗い植林の中からパァーッという感じで林道に飛び
出した。(林道ハイタテ線)
 
 道はここで寸断されているが、すぐ目の前のササ原に踏み跡。再びササ原へ突入する。
ここも腰辺りまでのササが被さっているが踏み跡ははっきりしている。が、相変わらず倒
木が多い。色褪せたテープを伝い、しばらく登れば822mピーク。尾根上の小さなコブ
で生え込みがきつく憩える場所もない。ま、兎に角、時間をメモろうとウエストポーチを
探ると無いっ!手帳が!。「?」焦る。さっき滑って尻餅をついた辺りかなぁ?しばらく
戻って捜してみたのだが見つからない。こうなればデジカメで代用するより仕方がない。
悔やまれることにマップポインタも手帳の中であった。トホホ。(T_T)

 植林、雑木林を繰り返す中、尾根の上の踏み跡は薄くなったり現れたり。その内にやや
顕著なピークにさしかかる。登り切ると「カラト山」と2枚ほどのプレートが懸かってい
る。周囲は植林と雑木で全く展望無し。北側は急傾斜の植林帯である。が、頭上が開けて
いるのでやや明るい。小休止。おばさんからオレンジのお裾分けを頂く。旨い。

ササが踏み跡を隠す唐戸峠へのコース。この辺り迄
はまだ良かったのですが...。

 さて、一息ついてテープが巻かれた方向へ降っていく。累々と根こそぎひっくり返った
倒木が転がる稜線に出る。室生寺の五重塔が損傷した時の台風の爪痕らしい。岩の為に地
下深く根が張れなかった様だ。踏み跡もかき消され歩き難い事この上なし。

 この辺りからテープの代わりに、町界を表すらしい赤いプラ杭と、木に画かれた二重の 
赤ペンキが現れこれを辿ることになった。と同時に踏み跡がほとんど消えて、獣道然とし
てきた。しかし、時々垣間見える摩尼山らしき尖った山の頂上が、何時の間にか同程度の
高さになり近づいてきているので、大筋は間違いなかろうと3人で。尾根もやや広まって
読みにくいが、歩き易い箇所を選び、忠実に尾根を辿ることにする。

 何かの供養の為なのか、人為的に建てられたように思える長細い自然石を見てすぐであ
る。先程からあった二重の赤ペンキが左の斜面を降っていく。直進方向は倒木で塞がれ、
踏み跡が皆無そうだから、左の谷へ降る事にしたのだが、下から先行したおばさんの「駄
目」と落胆の声。どうも斜面が切れ落ちているそうな。ペンキは山主が境界を表す為、付
けた目印なのかも知れない。誤ったかな?仕方がないので元へ戻って、少々頭をもたげた
不安を押さえて、倒木を越えて更に直進してみることにする。

 全く踏み跡らしきものはない。が、倒木をやり過ごし岩の下に出て、ためつすがめつし
ていると、待望の林道が50m程下にチラッと垣間見えるではないか。もうそろそろと思
っていただけに、やっと出現したかと安堵の溜め息。

 がここからがくせもの。踏み跡もなく荒れているので、林道までどう接近するか。直接
は行けそうにもないので、左に巻いて比較的緩そうな沢へ出ることにする。そうする内に
石がゴロゴロと転がる涸れ沢に出た。イバラやキイチゴの棘もこの際構っていられずとい
うわけで強引に雑草を分け、何とか林道に行き着いた。やれやれ。林道に座り込む。

 期せずして3人同時にフーっと溜め息。西か北に進めば林道があるとは分かっていたも
のの、一時はどうなることかいなと不安もあったから、林道に出て飲んだ茶の旨さは最高
であった。そしてキツリフネが一輪、風に揺れているのが目に入った。と同時に、今まで
気づかなかった手足の痛みに気づく。見れば半ズボンの太股付近はササの擦過傷だらけ。
薬指も滑った時に擦りむいて血がにじんでいた。そしてとどめ。「ありゃ?タオルもない
わ」我ながら、今日はなんとまぁよく失くすことよ。財布と車のキーが無事だったのが幸
いでした。(^^ゝ

 林道を降っていくと驚いた。ものの10分もせぬ内に往路で見えていた水車小屋が現れ
たではないか。唐戸峠に出るつもりが、何処でどう間違ったのか大きく西に逸れていたの
だ。後日、地形図『大和大野』を購入して調べると、カラト山から西へ派生する尾根に乗
って、そのまま200mほど西の辺りに降り立ったらしい。う〜ん勉強が足らん。(^_^;;

 それはともかく、水車小屋の冷たい水で手足を洗って、やっと人心地がつく。親水公園
風に整備された岩井谷沿いに降る。右手に仏隆寺の鎮守であったらしい白岩神社の鳥居。
大きな緑陰を作っているのが千年桜らしい。流石に大きい。
 
 出発点の駐車場。「榛原まで送りましょうか」と誘うと、室生へ向かうというご夫婦は
「ブラブラ歩きが好きなので。」とおっしゃる。そんなわけでお世話になったことを謝し、
名残惜しいがここで別れることにした。

 帰りはかねて予定していた美榛温泉に寄って、汗を流して帰る。露天風呂はないが、ア
ルカリ性の良い湯であった。山帰りにうってつけの場所を又一つ見つけた気分である。
 
 さて、今日は登りコースの気楽さに比べて、下りはハラハラドキドキのコース。『往き
はよいよい、帰りは...?』を地で行く三郎ヶ岳でありました。結局、登山者は我々だ
けの静かな山行でした。

 最後に、名前はお聞きしなかったが、氷の入ったお茶、ゆで卵、オレンジを分けて下さ
り、快く部外者と同道下さった東大阪のご夫婦と、よく遊んでくれた「三郎さん」に感謝
です。(^_-)
 
【追記】それにしても足が痒い。ササ原歩きが長かった所為で三郎さん、ダニのお土産ま
    でくれたのかな?
    尚、唐戸峠へのコースは倒木が多く、踏み跡が薄い部分がありますので、一般向
    きではありません。



【タイムチャート】
8:30自宅発
9:50〜10:00仏隆寺駐車場
10:35高城山登山口
11:10〜11:25高城山(810m)
11:55〜12:45三郎ヶ岳(879.0m 二等三角点)
13:10林道が走る峠
13:20822mピーク
13:45〜13:48カラト山(846m)
14:45〜14:50林道カトラ線(室生古道)
15:05仏隆寺駐車場



三郎ヶ岳のデータ
【所在地】 奈良県宇陀郡室生村・奈良県宇陀郡榛原町
【標高】  879.0m(二等三角点)
【備考】  室生火山群の西部に属する独立峰です。榛原町の市街に
      近いにも関わらず静かな山歩きが楽しめる山です。南麓
      に伊勢本街道が通り、往古は栄えたであろう名残がそこ
      ここに見られます。真言宗の摩尼山仏隆寺もその一つで、
      樹齢千年に及ぶ桜と、赤埴の美しい山里風景は一見の価
      値があります。近鉄榛原駅から奈良交通バスで高井バス
      停下車が最寄りです。
【参考】  エアリアマップ 山と高原地図『赤目・倶留尊高原』



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