初春の弥十郎ヶ岳


   薄曇りの春分の日、薄日も射してきた。天気もこれ以上悪くならないであろうというこ   とで、前から訪れてみたいと思っていた弥十郎ヶ岳を目指すことにした。考えてみれば、   ここのところ丹波の山ばかり訪れている。お彼岸の為だろうか、思わぬ所で渋滞に巻き込   まれ、登山口の篭坊に着いたのは13時過ぎ。急いで用意を整える。    下篭坊バス停の前の羽束川に架かる赤い橋から出発。温泉コースと名付けられている。   案内板の所に初老のハイカー。入山するようだ。声をかけてみる。一庫の近くにお住まい   とのこと、雑談を交わしながら進む。    杉木立の中の路だが、右側が沢になっており、案外明るい。沢の清い流れの音が心地よ   い。いつしか木々の主役は雑木に代わり枝先には新芽が膨らんでいる。着実に春は近づい   ているようだ。    しばらくすると大きな倒木が前を塞いでいる。乗り越えて進む。やがて道は左に折れ、   水がほとんど無くなった沢を行く。リョウブ、ヤブツバキ、コナラなどの明るい道だ。急   登もなくあまり高度は稼げない。それでもややきつめの登りを乗り越えると、農文塾コー   スとの合流点。立派な道標と共に、日置村なる石標もある。ここで10名位の下山途中の   パーティと出会い、挨拶を交わす。丁度、丈山との鞍部となっているようだ。   一服して山頂への路にかかると、大きな裸木。樹齢7,80年程のブナではないだろう   か?    路は相変わらずだらだらとアップダウンを繰り返し、いつしか周囲は又、杉や檜の植林   帯となる。足下にはレンギョウに似た葉をつけた匍匐性の木だか草だかが繁っているが、   如何せん名が分からぬ。高度は手元のエンペックス社のフィールドシスコムで見る限り、   依然として650m内外である。ハハカベの石標を過ぎると、南側に大野山がようやく顔   を出すようになる。やっと尾根筋に入ったようだ。    ところで、ここまでで結構、下山中のハイカーにすれ違った。人気コースなのでしょう   ね。    さて、剣尾山の風吹峠の様な痩せ尾根を過ぎ、急登をクリアすると、左より後川上(し   つかわかみ)からの竹谷コース。もう頂上は間近とのこと。その一言にほっとする。    ミツバツツジ、アカマツなどの疎林越しにふりかえってみると南方が展けていい景色だ。   立ち止まり、それをしばし堪能する。    やがて頂上が見えてきた。時刻も遅いのか、我々2名のみ。大きな山名板と二等三角点   の石標。更に、大きな赤松が2本、背を比べるように並んでいるのが印象的である。山頂   は北側と西側の木々が切り払われており展望がひらけている。北には先週登った、多紀ア   ルプスの三嶽、西ヶ嶽、小金ヶ嶽が居並び、西北には高城山が円錐形の姿を見せている。   西方にはその名を知らぬ山々が並ぶが、一際高いのは白髪岳かな?    同行の人と山名板の所で、写真の取りっこをする。その後、おにぎりとお茶の遅い昼食   をとり、30分程、山々の眺望をひとしきり楽しんだ後、下山を開始、先ほどの南側の眺   望が開けた所へ移動する。同行の方は「お先に」と下山され、残るは小生のみ。風の音以   外何もない静寂の世界だ。              
弥十郎ヶ岳山頂にて
   さて、ここからの眺望も素晴らしい。一寸霞んでいるが、真南にパラボラアンテナを戴   いた大野山、その左に高岳、さらに左に剣尾山、深山の雨量観測所も手前の丈山と思しき   峰の稜線の後ろに認められる。大野山の右には、大船山の尖峰と羽束山も居並んでいる。   その奥には六甲の山並みも霞む。    展望写真を幾枚か撮って、ゆっくりと再び下山を開始。農文塾コース手前で先ほどの方   の後ろ姿が見え隠れしだした。登りと同様、温泉コースで下山されるようだが、こちらは   農文塾コースを採ることにした。    こちらも山腹を巻くようなアップダウンを繰り返す路だが、暑い時期は木が繁って一寸   歩きにくいかもしれない。しばらく進むと、農文塾への道標が見えてきた。右に折れるよ   うだ。鬱蒼とした杉、檜の植林帯の中へ入る。   かなり急な斜面を縫って路は続く。所々踏み跡は不明瞭になるものの、要所にテープが巻   いてあり迷うことはない様だ。ここも結構倒木が多い。    さっきまでサラサラという沢の音が右手下方からかすかに聞こえていたが、一気に下降   した為か、いつの間にやら流れがすぐ間近に来ている。10分程もずんずん降りていくと、   前方が明るくなり、藁葺きの建物が見えてきた。昔、日本のどこにでもあった懐かしい風   景だ。これが「たんば農文塾」で、外国人向けに日本の農業文化を教える所だという。    イノシシよけのフェンスの間から茶畑を抜ける。茶の木は綺麗に刈り込まれている。い   たずら心を起こし、建物を覗いてみたが、一寸荒れているようだ。建物の遠景写真を一枚   撮る。 まもなく原への舗装林道に合流。流れに沿っての路を南へ向かう。ウグイスが美   しい声で一声、疲れを癒やしてくれた。    10分ほどたっただろうか、見覚えのある建物が見えてきた。渓山荘だ。以前風呂に入   りに来たことがある。水車の廻る川沿いの公園も以前のままだった。その前の県道との合   流点に神姫バスの出会橋のバス停。時間は丁度16時であった。  【タイムチャート】   11:25 自宅発   13:05 篭坊着(約405m)   13:10 出発   13:39 農文塾コース合流点(約635m)   13:47 道標(約665m)   13:56 ハハカベ山(約660m)   14:12 竹谷コース合流点(約690m)   14:20 弥十郎ヶ岳山頂(715m)二等三角点   14:54 下山   15:02 竹谷コース合流点(約690m)   15:15 ハハカベ山   15:25 農文塾コース合流点   15:31 農文塾コース道標   15:41 たんば農文塾   15:47 農文塾コース登山口   16:01 出合橋バス停   16:04 下篭坊バス停   18:10 帰宅                平成9年3月20日(木)   

   弥十郎ヶ岳のデータ

   【所在地】 兵庫県多紀郡篠山町
   【標高】  715m
   【備考】  篠山盆地の南側に位置し、篠山町街を隔てて多紀アルプスと対峙し
         ています。麓に籠坊温泉があります。秋の松茸シーズンは入山禁止。
  

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