山歩満喫、爽秋の山上ヶ岳

平成11年10月 9日(土)
天候: 晴れ        
同行: 単独        
川瀬谷の林道出合から山上ヶ岳。右の岩峰が西の覗

 先月は通行止をくらって諦めた山上ヶ岳。天川村役場に確かめると道路も復旧している という。9日は晴天の予想。こりゃ行かずばなるまい。                 かみさんの許し?を得て、6時過ぎ出発。R310で五条へ。金剛トンネル付近から見 る五条の街は雲海の下。幻想的な雰囲気を醸し出す。                  洞川の町並みを抜け、大橋茶屋の横の駐車場に車を駐める。先行車1台。茶屋を抜ける と左に川瀬谷に懸かる清浄大橋。橋を渡らず直進するとレンゲ辻コースだ。が、行きは正 当?コースを採用し赤い橋を渡る。山頂まで5570m。                
清浄大橋の女人結界門。杉木立の中へ登山道は続く
 道の左右は大峰講の記念碑が林立。その中に女人結界門がある。それをくぐると一間程 の広さの石ゴロ道が鬱蒼とした杉の植林の中に続いている。すぐに分岐があるがここは左 へ。                                        うねった道を辿って行くとまもなく一ノ世茶屋。9月23日で大峰は閉扉。茶屋も来年 5月まで閉店である。崩れた床机が寂寥感を際立たせる。                まもなく、左(北西)側が開け毛又谷を隔てて、大天井ヶ岳(1439m)が三角形の姿を 現してきた。そのすそに五番関トンネルの入り口。その手前にはあずまやも。        ピンクの雄しべが目立つミカエリソウや白っぽいツリフネソウがひっそりと咲いている。 それらを眺めながら、講が寄進した鉄の橋などを渡って一本松茶屋に着く。全国各地の講 の張り紙が所狭しと貼られている。山頂まで3960m。                  自然林に代わって辺りが明るくなる。左側は深い毛又谷。その向こうが奥駈道の通じる 稜線の様だ。北摂の山々に比べるとやっぱり山懐が深い。                 道が右に大きくカーブする地点に出る。ここで水分補給の小休止。朝日が当って明るい。 一寸したいわゆるクラになっている。観光協会か何かが設置したゴミ袋のポストが置かれ てある。                                      再び杉林に入るとまもなく『お助け水』。役の行者の祠の横に湧水がある。時折ゴボゴ ボと湧き出す音がする。その前の床机に先行していた二人組のおじさんが休憩中。氷砂糖 をお裾分け頂く。                                  左の沢が次第に上がってきて源頭となる頃、暗い杉林の下、道が右に折れる所に石仏が 立っている。二少年遭難碑とある。心なしか少し陰気な感じ。山頂まで2260m。      また周囲が自然林に変わり、階段道を登っていくとほのかに線香の香り。前方が開けて きて石の垣根が現れる。ここで吉野からの奥駈道が合流。千日回峰では吉野と山上ヶ岳を 毎日往復するのだが、往復40km以上。凄まじいエネルギーとしかいいようがない。   ここからはトウヒなどの針葉樹や落葉樹が混交する中の尾根道で、両側には先達の石碑 が林立する。すぐに洞辻茶屋。名物大峰うどん、ビールが500円、コーヒー250円と閉めら れた窓口の上に貼り紙だけが。う〜ん。熱々のうどんが食べたくなってきた。        次に現れるのが陀羅尼助の売店。そして松谷売店を過ぎると表行場、草鞋替え場である。  左の順路を採ってまもなく出現するのが通称『油こぼし』といわれる岩場。10m程、 鎖を掴んで登るのだが、足を乗せるステップもあり、それ程危険は無い。         それより凄いのが次に控える『鐘掛岩』。途中の展望台迄は大した事は無いがそこから が険しい。しかし巻き道がちゃんとあるから心配ご無用。                岩の上に立つ。眺望は素晴らしいの一言。西から北にかけ波のように青い山並みが広が る。一際目立つのは大天井ヶ岳。奥に四寸岩山から吉野山。洞辻茶屋の屋根があんな低い ところにと思われる小ささに見える。遠くに洞川の街。ここから見ると、山に囲まれた猫  の額のような狭い平地と云うことが良く分かる。おっと、岩の凸凹によろけた。くわばら、
                   くわばら。
                        
鐘懸岩から北方面。右の鋭鋒は大天井ヶ岳。左の山あ
いが洞川の街並。中央右に洞辻茶屋の赤屋根が見える
 岩を降り先へ進む。リンドウが青い蕾みを沢山つけている。イワカガミも光沢の有る葉 を陽に輝かせている。                                等覚門を越え、岩の埋まる緩やかなアップダウンを行くと、右に岩場と断崖が広がって いる。これがマスコミでもよく紹介される『西の覗』。               
西の覗の絶壁。覗いている登山客と比べて下さい
「ありがたや 西の覗きにざんげして 弥陀の浄土に入るぞうれしき」          覗いてみる。岩が舞台の様に張り出している感じで、下は樹海。突端まで行くには足が すくむ。因みに修行料は1000円。岩場の下のロープ格納場所に料金が書かれてある。 「こら怖いわ」                                  小生の声を聞いてか聞かずか、隣で、登山道で抜きつ抜かれつした重装備の、年の頃30 位の単独兄さんが笑っている。装備、歩き方、かなりのベテランとお見受けした。    「今日は泊りですか?」                              「はぁ、今日は小笹の宿、明日は狼平で幕営です。」                 「一人で幕営って、怖くないですか?」                       「いやぁ、そんなこともないですよ。」                       白い歯を見せて笑った。                               兄さんと一緒に大峰山寺に廻ってみる。桜本坊、竹林院などの宿坊の前を通り、浄心門 を潜ると本堂である。よくこんな人里はなれた深山にこれだけのものを建てたもんだ。   本堂前、向かって右に起点の道標が立つ。大普賢岳から弥山へと続く奥駈道がここから 続くのだ。東には遠く台高の山並みが広がっていた。                  一等三角点は『お花畑』と呼ばれるヒメザサの原っぱの奥の雑木の高みで、湧出岳と名 付けられている所にある。笹原に付けられた獣道のような踏み跡を辿って行くと、三角点  と横に小さな石碑がポツン。見晴らしは無い。何か発掘しているのか溝が掘られてあった。 また金銅仏でも出土するのかな?                           さて、時刻は丁度12時だ。お花畑で弁当を広げるおじさんもいる。こっちも稲村ヶ岳 を見ながら食べようと場所を探しながら小道を進むと、向こうから3人組の中年おじさん グループ。                                    「ここ真っ直ぐ行くと何処へ出るんですか?」                    「日本岩いう岩があるねん。めしそこで食べたら最高やわ。笹原で食べてる人居てたけど  ありゃ素人やね。ハハハ。」                            耳より情報に御礼を言って足を速めるとすぐにレンゲ辻への分岐。ササと低い潅木の間 に細い踏み跡が吸い込まれている。これを使えば清浄大橋へ周回できるのだが一寸険しそ う。帰りに使おうかな。やめよっかな。NOVAしよっかな。後で考えよっと。      日本岩。成る程、おじさん達が云っていた通りの大景観、空中回廊のようだ。2週間前 の観音平とは正反対から見る稲村ヶ岳と大日山。左に弥山の巨躯。北には大天井ヶ岳の奥 に高見山らしき姿も。金剛、葛城はやや霞んで見分けられない。             岩の平坦な部分に陣取って眺望を心ゆくまで満喫しながら、アルミ鍋の熱々のレトルト ラーメンをすする。助六寿司をつまみ、ビールを空け、食後のコーヒーを飲む。この醍醐 味、最高の贅沢だ。(^_-)                            
日本岩からの稲村ヶ岳と左奥の弥山。レンゲ辻へはこ
の稜線を伝う。稜線左が神童子谷、右が川瀬谷の源頭
 1時間の食事タイムを終え、さて、どのコースで戻ろうか。レンゲ辻の分岐で思案。   レンゲ辻への道は、今眺めている稲村ヶ岳へ続く尾根上についており、直下の深い川瀬 谷へ降り、大橋へ出るルートである。同じ処へ戻るなら、行きに使った道は面白くないし なぁ。横で食事していたおじさん連中も「レンゲ辻はきついけどええで」と話していたっ け。行ってみようか。                                ササに灌木が茂る中をのっけから一気の急降下。木の梯子、岩場が現れ、崖っぷちや立 木に掴まり、手もフル稼働の部分もある聞きしにまさる険しさだ。が、自然林の中の素晴 らしい道でもある。シャクナゲの群落も現れ、季節にはさぞかしピンクに染まるんだろう なぁ。                                       小さな鞍部でヌタ場と思しき地点にでる。偶蹄目の獣の足跡。ということはカモシカ?    狭い痩せ尾根沿い、狭いがしっかりとした踏み跡をクネクネと辿ると、前方にやや木立 が疎らとなったほの明るい鞍部が現れた。レンゲ辻である。左側が先頃、遭難騒ぎのあっ た神童寺谷、右側が川瀬谷のそれぞれの源頭で、カール状に深みをましている。その間の 狭い馬の背に、女人結界門と天理大WV部の錆びた道標がポツンとあった。        稲村ヶ岳への道も楽しそうだが、ここは右折、川瀬谷源頭へ。スイッチバック式に踏み 跡が降っているが、それでもきつい傾斜、土と落ち葉が主体で良く滑る。周囲はイタヤメ イゲツなどカエデ類の大木が多い。秋深まればさぞやと思われる。            どこからか水音が聞こえだし、徐々に谷らしくなってきた。道はその谷の右岸を行き、 時にはその谷に合流する沢の中を行く。故に所々不明瞭。テープを拾いつつ進む。所々に 猛毒のトリカブトらしき花。しかし花が茄子紺でなくてピンクだ。(?_?)          陽が陰って暗くなってきた。ちょっと焦る。                     深くなった谷へ一気に駆け下り、左からの沢を渡って暫く、身の丈を越える大きな岩が 転がる所に、朽ちかけたあずまやを見つける。ガイドにある休憩所らしい。右から大きな 沢が合流、高さ2m程の滝もあるなかなか幽すいな場所だ。しばし休憩。         やがて植林帯が現れた。そして人間の頭ほどの苔むした石が無数に転がった賽の河原風 の箇所を過ぎれば、谷の左岸の踏み跡も明瞭になり、人里が近いことを示す。       徐々に谷の水量は増し、碧緑の水が深まってくると、数m直下に灰色のアスファルトが 見えてくる。最後の傾斜を降ると林道終点に飛び出した。                後ろを振り仰げば、先程まで立っていた西の覗きや鐘掛岩の絶壁が望まれる。「あんな 所へ登って降りて来たんや」と感慨無量とはちょっとオーバーかな?             ぶらぶらと今日の山歩を反芻しながら林道を下る。木材の運搬に使うのか索道作業所を  左に見て、20分ほどで大橋前に着く。時刻は15時過ぎ。茶屋前の湧水を頂く。うまい。  車に戻り、山靴を脱ごうと屈む。ゲンノショウコが小さなピンクの花を付けているのに 気づく。空には刷毛ではいたような雲が流れていた。                  帰りの土産は定番の名水豆腐。そして今回は下市温泉明水館で一っ風呂。彼岸花咲く大 和路、爽やかな秋の大峰の素晴らしさを満喫した一日でした。            

    【タイムチャート】
      6:15     自宅発
      9:04〜9:10  大橋茶屋駐車場(約875m)
      9:13     清浄大橋
     9:23     一ノ世茶屋
     9:48     一本松茶屋 
      9:55〜9:58  無名の岩先(小休止)
     10:15〜10:20 お助け水
     10:27      二少年遭難碑
     10:35     洞辻茶屋(大峰奥駈道出合)
     10:45     だらにすけ売店
     10:50     油こぼし
     11:00〜11:10  鐘掛岩
     11:21     等覚門
     11:30〜11:35  西の覗
     11:50     大峰山寺
     12:00     山上ヶ岳山頂(1719.2m 一等三角点)
     12:10〜13:05  日本岩(昼食)
     13:08     稲村ヶ岳道分岐
     13:37     レンゲ辻(女人結界)
     14:35     あずまや
     14:55     林道終点
     15:16     清浄大橋



   山上ヶ岳のデータ

    【所在地】 奈良県吉野郡天川村
    【標高】  1719.2m(一等三角点)
    【備考】  大峰山脈の主峰で『大峰山』といえばこの山上ヶ岳を指
          します。女人禁制の山で、山頂に役の行者開山の修験道
          の総本山大峰山寺があり、険しい岩場を利用して表行場、
          裏行場が設けられており、特に西の覗きは有名です。
          吉野からの逆峯の奥駈道が本道ですが、24kmと遠距
          離の為、洞川からの道がポピュラーです。
          尚、レンゲ辻経由の登山道は急傾斜があり、また沢付近
          では、踏み跡がやや不明瞭の為、足元、更にテープなど
          目印に注意が必要です。
          ■日本三百名山■近畿百名山■関西百名山
    【参考】  エアリアマップ 山と高原地図『大峰山脈』


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