一本タタラにたたられた?初夏の西大台迷走

                          平成11年 7月10日(土)                           天候:晴れ時々曇り                                同行:単独         
 なぜか毎年一度は訪れたくなる大台ヶ原。乾燥注意報が出るほど梅雨らしくない晴れ間 が続く中、この土曜日の機会をとらえて、二年ぶりに西大台を歩いてみた。         ところが、未だに伯母峰付近に潜んでいるという妖怪『一本タタラ』にたたられたのか、 迷走の連続に終始した一日とあいなったのである。以下はその顛末記。          前日が遅かったので、午前5時起床は一寸つらい。案の定、6時丁度出発予定が15分 の遅れ。阪神高速、西名阪は思いの外順調に進むが、五ヶ谷で故障車とのことで予想外の 渋滞に巻き込まれてしまった。大宇陀では前に路線バス。吉野町国栖の県道では前の車が 対向車とすれ違えずに時間をとられ、伯母谷付近でも木材運搬の車との対向で停止。それ までもことごとく信号にひっかかるわで、今日は「ついてないな」の予感が高まる。    それでも9時半、予定より40分弱の遅れで大台の駐車場に無事到着した。今日は学校 のある土曜日で空いているだろうとの予想は的中、駐車場の中に駐車する事が出来たのは 今日の数少ない幸運?の一つである。                         準備を整えた後、売店で缶ビールを購入すると、そのまま何も考えずに森の中へ。左に 鹿の食害で減ったトウヒなどの木々を増やす為の育苗畑を見て進むが、何か違う。大台教 会が右手に現れるはずだが...。と思っている内に「シオカラ谷」の道標。こりゃ東大 台への路じゃないの。間違った。本日の迷走第1号。                  駐車場入り口の西大台の道標から再び森へ。思い出した、この路だ。一昨年はマムシグ サが咲いていたっけと下を見ると、そこにオモトの様な緑の実をつけたマムシグサ。      道標がある。ここもためらいなく直進する。                     涸れ沢を渡っていると、クリーム色の花が目についた。バイケイソウだ。初めて見る花 に早速撮影モード。                                暫く行くと、今度はナツツバキだろうか白い可憐な花が落ちている。がまたもや何かが 違う気に。水のある沢を越えるとまもなくドライブウェイに飛び出した。向こう側に筏場  ・安心橋を示す道標。何処で間違ったのかおかしいなと再び引き返す。本日の迷走第2号。  道標まで戻って誤りの原因が氷解、至って単純。新しく道標が立てられていたのだ。筏 場大台ヶ原遊歩道と書かれてある。これを七ツ池コースとナゴヤ谷コースの分岐と思いこ んでいたらしい。今日の小生はとくにノーテンキだ。                  小処コースを選ぶとすぐに本来の分岐道標が現れたので、七ツ池コースを往路とするこ とにして直進する。やがてバイケイソウの群落のある見覚えのあるナゴヤ谷の沢である。 沢を横切ると右手に松浦武四郎の分骨碑。武四郎は幕末の探検家、北海道の命名者で知ら れるが、明治18年から数えて4度目の大台登山中に亡くなり、本人の遺志を尊重してこ こに分骨したという。自然石が積まれた分骨碑は一寸哀れを催す程慎ましい。      注)本当の分骨碑は森の奧です。                           さて、歩行再開、沢沿いに進む。                          「ん?」踏み跡がやや薄い。ともすれば消えそうになるが、気づくとまた明瞭になる。 路が消えりゃ沢沿いに引き返せばええわいと気楽に考えていたが、コンパスを忘れてきた ことに気づき、俄然不安感が増す。                          やがて、前方に木橋が沢に架かっており、こちらと合流する地点に出た。これで少し安 心する。路は更に沢沿いについており、左の沢はいつの間にか深い谷となり、遥か下で岩 を噛む音を響かせるようになる。                           ここでまた何か変だと思い始めた。確か七ツ池コースは谷沿いじゃなかったはずだ。ど うもこの路はナゴヤ谷コースの雰囲気だがなぁ。 (^^;;                 立派な木橋が現れた。近くの木に中ノ谷と書かれた木札がぶら下がっている。エアリア マップを見ると、ナゴヤ谷コースの方に木橋の記述。と言うことはやっぱりナゴヤ谷コー ス。だが、さっきのバイケイソウの沢は七ツ池コースで通過するはず。キツネにつままれ た感じだ。                                     踏み跡が怪しくなったり、再び良くなったりを繰り返す内に、右手の巨岩から清水が湧 き出している地点を通過。「たたらの力水」と書かれてある。思わず手が出て喉を潤す。 甘露甘露。                                     いつのまにか水音が遠のいて、雨の際は河床になるであろう、路というか川底というか はっきりしない岩ゴロの歩きづらい路を降っていく。2年前、ここをヒー、ハーと登った 記憶が蘇ってきた。                                 やっぱりナゴヤ谷コースだ。それはやがてカツラ谷、高野谷に架かる吊り橋を見て決定 的になった。何処で間違えたんだろう。帰りに確認せずばなるまい。           高野谷の吊り橋を渡った所のブナか何かの大木に囲炉裏村の住人「杉の子さん」の情報 依頼の写真が貼られている。西大台から小処温泉方面へ向かう途中、行方不明になられた そうだが、それを見て心なしか緊張。                         開拓分岐に出る。誰もいない。降るようなハルセミの鳴き声と、ミソサザイなど野鳥の 声、それに沢音のみ。人工の音は皆無。怖いくらいだ。逆川を石飛びで渡渉して、朽ちた 階段を登り、倒木を避けながら歩いていると、突然「ピーッ!」という切り裂くような声 にドッキリ。雄鹿の警戒音らしい。と思うと「コツコツコツッ」とゲラ類のドラミングの 音。野生の森とはこれだ。来て良かったと思うのはこういう時なのです。(^^)/       前方に人影。4、5名の中年男女のパーティだ。久しぶりの人間との遭遇。その横が丁 度、展望台であった。(展望台といっても施設があるわけではありません。念の為)    前方に2年前と同じ風景が展開する。東の川の千尋の谷を隔てて、緑の中に山の家と思 しき赤い屋根。千石グラの右の大蛇グラには2、3の人影が望見される。滝見尾根の左に 見えるのは西の滝かなぁ。そんな深い緑の中の景色を楽しみながら、お茶で喉を潤す。ナ ツアカネとでもいうのか、トンボが多い。初夏だというのにここだけは秋の気分である。   ところでさっきのグループは前日泊まりだそうだ。四方山話の末に記念写真を頼まれた。  開拓分岐まで戻る。さっきの方達は吊り橋方面へ向かわれた。こちらはあらためて七ツ 池方面へ。周囲はブナやトウヒ、ウラジロモミの混交林。バイケイソウの白い穂。     ワサビ谷、高野谷を渡れば開拓跡。かつて人間が入植した跡というが、水は確保できる ものの、冷涼そしてその雨の多さには、普通の作物は育つまい。そしてやや大きなカツラ 谷の沢ををロープを掴みながら石飛びで渡る。                     涸れ沢を遡行するように進んでいくと、直径1m程の大きな檜が根本で折れている箇所 に出た。それにしても凄まじい折れ方だ。折れた自分の重みで更に折れた姿は凄惨。    七ツ池らしき箇所に出る。踏み跡やや不明瞭。                      雨で路が荒れるのか、こういう踏み跡が不明瞭な箇所がちょくちょくある。七ツ池のよ うに広場状になっている所が特に要注意。木に巻かれたテープ、そしてナンバーがふられ た赤い小さなラベルを見落とさないように進む。コンパスがあればなぁとつくづく思う。  ここまで来れば中ノ谷は近い。右から沢音が徐々に大きくなり、流れが見え始めた。路 も下りとなって岩が転がる中ノ谷に到着。ここで食事とする。              缶ビールを流れに暫く漬けておこう。その間に食事の用意をする。           食事中も誰も通らない。久しぶりに静かな昼食である。                山歩再開。小一時間で再び沢音が聞こえだし、それが近づいてくると、往路のバイケイ ソウの沢が見えてきた。武四郎の分骨碑に戻る。                    ところで、迷走第三号の原因である。周囲を見回していると気づいた。すぐそこに七ツ 池コースへの道標とロープが張られているではないか。何のことはない。そこを登らずに ナゴヤ谷の沢沿いに進んだのが原因だったのだ。なんでそんな行動をとったのか分からな いのだが、新田次郎の小説にもあるように、迷うとはそういう単純なミスの重なりから発 生するのだろうなと感じた次第。今思えば、たまたまナゴヤ谷コースと合流出来たのが幸 いだったわけです。(^^;                               迷走に次ぐ迷走であったが、なんとか無事駐車場へ。観光バスも数台駐車し、朝とは較  べ物にならぬ程の賑わいだ。そんな中、真っ先に売店へ。勿論缶ビールをグビリと頂く為。 途端に昨日の寝不足のせいか一気に疲れが出る。齢だなぁ。               いつの間にか少しガスが出てきたようだ。でもまだまだ明るい日差しの中、15時、一足 お先に帰途につくことにした。                            その帰途でも、ドライブウェイでニホンザルを目撃するわ、ガマの道路横断を対向車を 止めて助けるわと、いろんなハプニングがあった今日の西大台山歩。ちょっとしたスリル と緑のシャワーを満喫した面白い一日でした。                     追伸:それにしてもR169周辺は改修が急ピッチである。バイパストンネル、大滝ダム。    伯母谷ではループ橋が建設されるらしい。その分、吉野川には河床に重機が入って    ほじくり返され、山が削られ、川が息絶え絶えのように見えるのは私の偏見でしょ    うか。                                  
    【タイムチャート】       6:15     自宅発       9:30〜9:40   大台ヶ原駐車場(約1560m)      10:18     ドライブウェイ筏場道標(戻る)      10:30     七ツ池・小処、筏場大台ヶ原歩道分岐      10:35     七ツ池コース、ナゴヤ谷コース分岐      10:40     松浦武四郎分骨碑      11:00     中ノ谷の木橋      11:08  たたら力水      11:25     吊橋(カツラ谷)      11:27     吊橋(ワサビ谷・高野谷)      11:30     開拓分岐      11:45〜12:02  展望台(約1345m)      12:15     開拓分岐      12:20     経ヶ峰分岐      12:23     開拓跡      12:55     七ツ池      13:05〜13:50  中ノ谷      14:12     松浦武四郎分骨碑      14:29     七ツ池・小処、筏場大台ヶ原歩道分岐      14:40     大台ヶ原駐車場 


   西大台のデータ

   【所在地】  奈良県吉野郡上北山村
   【標高】   1,500〜1,300m
   【備考】   大蛇グラ、正木ヶ原、牛石ヶ原、日出ヶ岳等がある東大
          台に比べ地味な西大台は、本来の静かな山歩きを楽しみ
          たい人向けの地域です。大台ヶ原は日本有数の多雨地帯
          の為、人が入らない分、道が荒れやすく、やや不明瞭な
          箇所があります。赤テープ、番号付きの赤ラベルを見落
          とさないようにして下さい。
   【参考】   エアリアマップ 山と高原地図『大台ヶ原・大杉谷・高見山』


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