貴公子花紀行〜ヒカゲツツジの向山を往く

平成12年 4月22日(土)
天候: 薄曇り
同行: 丹波のたぬきさん夫妻
咲き誇るヒカゲツツジ(向山三の山付近にて)


 「向山のヒカゲツツジはいいですよ」と丹波のたぬきさんご推薦の氷上の向山。以前、 同じく丹波の三尾山や夏栗山でも咲いているの見かけたことがあり、その程度だろうと一 種タカを括っていたのだが、案に相違してこれ程のものとは想像していなかった。眼福の 栄に浴させて下さったたぬきさんご夫婦に感謝です。m(_ _)m  前日のメールで10時過ぎに水分れ公園の駐車場着と、不埒にも予告したのに出発が遅れ 、少々焦慮したのだが、何とか10時過ぎに到着。律儀なたぬきさんご夫婦のオデッセイは もう到着しており、案内して頂けると云うことで、たぬきさん御夫婦は山支度のいでたち である。    もう一組のお客さん、OAPさんが遅れているという。中国道の渋滞にはまったらしい。 10時半前、悪いがお先に出発させて頂く。
石生から見る向山連山 左が五の山、右に清水山
 駐車場の前の向山縦走路案内板。約5時間の行程だという。眼前には屏風のような向山 連山。近頃運動不足の身には少々きついのではと、顔には出さぬが心の中で。(^^;  母たぬきさんのご意見で観音堂コースで登り始めることにする。春爛漫。溝の流れも心 地よく、少しトウの立った土筆。オオイヌノフグリ、ホトケノザ、タチツボスミレが今は 盛り。
ナガバタチツボスミレの可憐な花
 畑の横から少し登った観音堂の前庭に真新しい登山口の標識がある。我々3人、ミツバ ツツジのピンクに祝福されての出発である。  いきなりなかなかの急登である。一の山からの尾根筋にとりつき、良く踏まれた道を行 く。ヤブツバキが多い。落ち葉の中に点々と赤いアクセント。ウグイスがほんの間近で囀 る、雑木林の明るい道である。  やや平坦な所に出る。二の山、滝山とも云い、S33に古墳が発見され、石英班岩の板 石の下には、今でも40歳位の人骨が眠っているのだという。この尾根筋を利用した墳墓 は、平地に大きな古墳を造る以前の素朴な形式のものと思われる。ここもヤブツバキが多 く、それにもまして背丈を越える高さの満開のミツバツツジが圧巻であった。
ミツバツツジのピンクのカーテン
 それにしても道標がここかしこに立てられている。地元の方のボランティア作業に感謝 しながら、いそ部神社への分岐を過ごして、分水界尾根と名付けられた尾根を進む。ここ で小キジを撃てば、その時の加減で太平洋と日本海へ正反対に流れていくのだなぁと考え ると少し不思議な感じがする。  まもなく岩峰が現れた。岩座展望台とある。攀じ登ると眼下に石生の集落が一望。高圧 鉄塔の角を生やした高見城山、篠が峰や生野方面の連山が霞む。左前方にはこれから歩く 清水山、珪石山が若緑に映える。足下に駐車場も見える。おりしも1台の車が入ってきて 止った。OAPさんの車のようだ。たぬきさんが無線で呼びかけると元気な声が返ってき て、今から追いかけると言う。こちらもボツボツ登ることにする。  ヒメヤシャブシに花がついている。盛りを過ぎたアセビのクリーム色の花が登山道にば ら撒かれた様に転がっている。タチツボスミレの可憐な花に慰められながら、暫くの急登 に喘ぐと展望のない三の山で、それを越えた下りは急。設置されたトラロープに捕まって いると、先行の母たぬきさんの歓声。ふとみると眼前に目当てのヒカゲツツジが咲いてい るではないか。ヒカゲというその名の通り、山の北斜面に石楠花に似た葉をつけ、花は緑 がかったクリーム色である。早速撮影モードに入ったのは云うまでもない。ついでに数え るとおしべは10本であった。  次に現れたのは亜炭展望台。裸の尾根で、名の如く黒い石炭のようなかけらが散乱して いる。これが実は石炭ではなく頁岩だとは母タヌキさんの解説でした。  続いてヒサカキの特有の匂いの中を四の山へ。ここは展望もないので早々にパスして、 次の松の台展望所。ここもヒカゲツツジが満開であった。 
今を盛りと咲き誇る満開のヒカゲツツジ
 再びきつい登りを我慢して深坂北峰に着く。そしてここからつつじが岡展望所までが本 日最高のハイライト、ヒカゲツツジのトンネルである。これは凄いの一語に尽きる。普通 なら人の手が入り伐採されて、杉檜の林になるべきところである。そこにこれだけの群生 が残っているのは奇跡的でさえある。これからも大切にしてもらいたいものだ。  そのツツジのトンネルを抜けるとつつじが岡展望所。今度は北の春日町方面が開ける。 突き出た岩に立って西を見る。ヒカゲツツジが斜面を覆っている。そしてタムシバが点々 と白い彩りを添える。眼下に父タヌキさんが勤務される工場の青い屋根。黒井城址から続 く山並みから舞鶴道も手に取るようであった。  ここからは道もやや平坦になり、すぐに向山の三角点であった。
向山の三等三角点 展望は無し
ところで、向山の三角点は最高点にはない。展望もなくやや陰気な感じがするので、食事 は最高点の五の山で摂ることにしてそのまま進む。進むに従って、尾根筋はやや小広くな ってくる。向山平と呼ぶそうだ。ミヤマシキミの白い花とタムシバの白い花弁が目立つ明 るい場所である。  五の山に着く。ここが本日の最高点だそうで、三角点の場所より明るい感じの山頂であ る。ここで少々遅めのランチタイムとした。    一時間程の昼食の後、縦走後半の開始。アルペンムードの痩せ尾根の蛙子尾根を渡り、 岩峰の蛙子岩展望台を過ぎればすぐに蛙子峰。更に意外に明るい植林の中をアップダウン すると譲葉山との分岐であった。    更に清水山への分岐はそこから10分程。折角なので寄っていくことにする。  すぐに大きなガレ場に出る。慶佐次さんの「丹波の山」の清水山の項に書かれているの はこれだろうか。珪石の採掘現場跡との事だ。父タヌキさんによれば、S30年代の初め まで掘っていたそうだ。足元に注意しながらそこを抜けると、新しく整備された道は何時 の間にかは急傾斜となり、食後の重い体にはきついものがあったが、やがて前が開けて山 頂に着いた事を知る。  清水山の山頂は20畳位だろうか、疎林の囲まれた真中がポッカリと空き地になってい て、昼寝には最高のロケーションである。関電の巨大なマイクロウェーブの反射板がある 南側の展望が良い。柏原の市街が一望のもとで、八幡神社の三重塔も良く見える。東側に は譲葉山が眺められ、その奥に夏栗山と三尾山も頭を出していた。  無線によると、OAPさんは5時に姫路に着かねばならないとの事で、清水山分岐から そのまま下るとの事。その分岐へ戻る手もあったのだが、こちらはしばらく憩った後、こ のまま鳳翔寺へ下ることになった。  この道は氷上町と柏原町の町界尾根上の道で、町界を辿り柏原方面へ降りるなら、ミツ バツツジのトンネルの中を辿って行くことが出来る。だが道標にあった鳳翔寺へは、現在 まだ整備中のようで、だんだん怪しくなってくる。それでも父たぬきさん先頭で忠実に尾 根を下っていく。至る所にタヌキの溜め糞や鹿の糞がある。クモの巣もあり今日は誰も歩 いていない雰囲気。が、やはり下りの尾根歩きは難しい。薄い踏み跡をトレースするうち、 どうも柏原方向に下っているらしいことに気づく。西北方向に修正し小さな沢の源頭に出 て、植林の中を沢沿いに下ることにした。するとまもなく『寺』と彫られた石標が見つか り、鳳翔寺の敷地に入ったらしいことがわかる。うまく目的地に行きついたようで、やが てトタン塀が現れてきた。  夥しく土を掘り返した跡がある。辺りは竹薮で、竹の子を狙った猪の仕業らしい。人間 が珍重するものは獣も好きと見える。  竹薮から出た所は丁度、鳳翔寺の裏で、歴代の住職の墓の前から表の境内へと廻る。鳳 翔寺は江戸時代創建の藁葺きの本堂を持つしっとりとした寺で、高さ31m、幹周り3mの ツガの巨木がある。その塵一つない境内から駐車場へは10分足らずであった。  暖かい土曜なのにすれ違ったハイカーは意外や数組のみ。先週はJRと神姫バスの団体 客があったとか。本来、今日は登る予定ではなかったたぬきさんご夫妻にこちらの都合で ご足労をかけてしまったのだが、そのおかげで丹波の静かな花紀行が楽しめた。案内のみ ならず、山頂での缶ビールといい、お土産の黒豆パンといい、色々お世話になったたぬき さん、有難うございました。またのご縁を楽しみに駐車場を後にしたのは16時過ぎ。春 霞は来た時よりも濃くなっていました。

   【タイムチャート】
   8:40 自宅発
   10:00〜10:25 水分れ公園駐車場(約115m)
   10:48〜10:55 二の山(滝山)(298m)
   11:10〜11:35 岩座展望所(約415m)
   11:40 三の山
   11:46〜11:49 亜炭展望所
   11:57 四の山
   12:06〜12:12 松の台展望所
   12:25 深坂北峰(521m)
   12:30〜12:35 つつじが岡展望所
   12:40 向山山頂(三等三角点 569.0m)
   12:55〜13:45 五の山(591m)
   14:00〜14:05 蛙子岩展望台
   14:10 蛙子峰(562m)
   14:12 譲葉山分岐
   14:26 清水山分岐
   14:40〜14:50 清水山山頂(542m)
   15:40 鳳翔寺
   15:50 水分れ公園駐車場

  向山のデータ

   【所在地】兵庫県氷上郡氷上町・春日町
   【標高】591m(三等三角点569.0m)
   【備考】 石生奥山、八幡山とも呼ばれる中央分水界にある山です。
ヒカゲツツジの群落があり、4月下旬は黄色に染まりま
す。近年、地元の方々の尽力で縦走路が整備されました
が、清水山から鳳翔寺へはまだ整備途上です。
麓にいそ部神社と、日本最低の中央分水界を記念する水
分れ公園があります。最寄はJR福知山線石生駅です。
   【参考】2万5千図 『柏原』



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