残暑の近江路、三上山(近江富士)

                             平成9年8月24日(日)                              天候: 晴れ                                         同行: 単独      

   今日は名神も渋滞無しとのことで、先月行こうと思っていた三上山へ向かうこととする。出張の行  き帰りなど、新幹線からいつもその美しい姿を見ており、一度は登ってみたかった山である。        名神栗東ICで降りて国道8号線をしばらく北上する。今日は実にスムーズ、御上神社の駐車場に  自宅から1時間足らずで着いた。                                    身支度して、まずは御上神社に参拝。説明によると、当社は元官幣中社で御祭神は天照大神の孫、   天之御影之命とのこと。楼門、拝殿、本殿は鎌倉時代の建築で、中でも本殿は国宝、その他も重要文    化財。さすが古くから開けた近江の地、鬱蒼と茂った杉、スダジイと相まって、厳粛な気持ちになる。   しかし、境内が8号線沿いにあって車の音がひっきりなし。御祭神もおちおち鎮まっていられないよ   うだ。                                          
御上神社本殿(国宝)
   さて、参拝後、8号線を渡り、悠紀斎田跡の記念碑横の農道を行く。周囲の水田の近江米はもう    「実るほど 頭を垂れる 稲穂かな」と秋の風情。しかし、照りつける陽光は厳しい。           突き当たった集落を左へ。用水路の澄んだ水にはハヤらしき魚が銀鱗をきらめかせている。程なく、    裏登山口の標識。十数メートル先には表登山口の標識。マイカー登山には絶好のシチュエーションだ。     表登山道は中腹にある妙見堂の参道だったようで、古い石段が続く。参道入り口左手に新しい民家、   よく見ると妙見堂の額が懸かっている。戸が少し開いていたので覗くと、寺の本堂によく下がってい   る金色の天蓋のような物が見えた。現在はここが信仰の場になっているらしい。つづいて、右に案内   板。魚釣岩とある。昔、湖面がこの近辺まであった頃、神様が魚釣りした岩だそうだ。            説明板を楽しみながらゆっくりと石段を登る。石の割れ目から萩が顔を出している。蝉の死骸。ツ   クツクホウシの鳴き声。着実に秋は近づいているようだ。と感傷に浸っていると、左手に、廃屋。土   壁が落ち、畳もなく無惨な姿を晒す。ほどなく、裏登山口との連絡道分岐にさしかかると、参道が広   くなり、両側に灯籠が立つ。                                      左手に広場が現れた。妙見堂跡である。草むらに常夜塔の頭が転がっている。何か時間が止まった   ような錯覚に陥る荒涼とした世界。人間の営みも儚いものです。                      さて、ここからやっと本格的な山道となる。石ころだらけの道がうねうねと上に向かって続く。展   望はゼロ、杉の幼木と、赤松林、その下に雑木が茂り、山陰にはウラジロシダの群落。          前方に二越分岐の道標。そちらに寄ってみる。水枯れの防火用水池を横まで来ると人声。20名ほ   どの団体が小休止中。二越岩でクライミングの練習のようだ。失礼して岩の前面に出る。ようやく開   けた眺望である。今登ってきた麓の御上神社の杜、駐車場が小さく見えている。左にはこれから登る   頂上が顔を出す。                                         ところで、二越岩、結構大きな岩盤で、説明によれば約2億年前の珪酸を含んだ泥が固まったチャ   ートと呼ばれる水成岩とのことで、箕面の最勝が峰と同じ成り立ちのようだ。                小休止で水を補給した後、道をとって返し、再び登り始める。なんとなく荒涼とした感じの山道で   ある。岩がれとでもいうのであろうか、風化した石のざらざらした感じがする。しかし、なんとなく   風情といったものが感じられるのはなぜだろう。道が木漏れ陽で明るいからかもしれない。          5分程進んだだろうか。割岩が見えてきた。高さ3m程の大きな岩が一刀両断されたように真ん中   で割れている。丁度一人が横歩きで抜けられそうな間隙があるが、何かつっかえそうで今回はパス。      割岩を過ぎると、つづらおれの道は傾斜を増す。岩盤の上をトラバース?するような所もある。振   り返るとようやく稜線に出たのか、西南方向が開ける。若干の風も出てきたようだがなにせ暑い。陽   は容赦なく照りつける。日射病になりそうだ。目の前がクラクラ。                     岩の間を幾つか抜けて、前方に大きな岩盤。その出っ張りに注連縄。祠も見える。やっと頂上に着   いたようだ。頂上には、アマチュア無線交信中の方と、もう一人は午睡中。邪魔をしないようにやや   離れた松の 木の下に陣取り、リュックから水を出し一気飲み。実に旨い。おむすびを頬張る。山で   はご馳走は不要。                                            汗もひいてきた。落ち着いたところで、先程の岩盤のところで景色を愛でることにする。この岩盤   は御上神社の奥宮に祀られている磐座で、御上神社の祭神が降臨したところだそうである。祠の裏に   は国旗掲揚台。端の切れた日の丸が翻っていた。                             さて、眺望は、西南側のみだがこれがなかなか絶佳。直下に、御上神社の杜、野洲川の流れ。そし   て稲穂が揺れる水田。左には名神。その奥にJRAの栗東トレーニングセンターも見える。そして西   には、琵琶湖の湖面が光り、比叡山が霞む。秋晴れの時に訪れれば最高であろう。            後発の茨木市から来られたという方と雑談を交わす。長命寺の方から廻ってこられたという。途中   のバスの中で運転手に「この暑いのに、山登りとはなんと物好きな」とあきれられたそうだ。小生も   この暑さじゃ誰もいないだろうと思っていたのだが、自分も含めて、結構物好きはいるものです。     裏登山口コースでとってお先に下山を開始することにする。                     歩き始めて程なく鞍部、苔の谷(姥の懐)。三上山は見る角度によって双耳峰に見えるが、その鞍   部がここ。しかし木々のため眺望はほとんど無し。登り返して、雌山、東の竜王祠。           ここからは、傾斜のきつい道が続く。シダ類が多い。倒木もここかしこにある。シーズンにマツタ   ケを見つけるのも体力がいりそうです。                                  そんなことを考えつつ、浮き石に足を取られないように注意しながらずんずん下っていく。しかし、   今回は沢らしきもの一度も現れない。水に縁のない三上山である。                     そうこうするうちに、地元の三上区の案内板。分岐する道がある。きっと、行きにあった表登山道    へつながる道だろう。これを過ごし、しばらく行くと、東屋やベンチもある公園風の所にでくわした。   御上神社の御旅所。天保義民碑も立つ。案内板によれば、1842年(天保13年)幕府の検地の不   正に怒った農民数万が、三上村の庄屋、土川平兵衛を中心に一揆を起こし、その要求を幕府に呑ませ   たという。しかし平兵衛は捕われ、獄死したということだ。                        辞世 「人のため身は罪とがに近江路を別れて急ぐ死出の旅立ち」   合掌               民家の間を抜けて裏登山口帰着は14:30。                           ぶらぶらと御上神社へ引き返す。再び、水田の中を行く。途中、悠紀斎田跡横の空き地で一休み。   三上山を振り返る。やはりご神体になるだけのことはある、なかなか秀麗な山である。頂上には例の   日の丸がそよいでいるのが見えた。                             
三上の集落と三上山
   ところで、悠紀斎田だが、昭和4年の大嘗祭に使う新米を収穫した所だそうだ。それを記念する建   物の中の色あせたセピア色の写真の中で、誇らしげな顔が往時を語っていた。              今回は500m足らずの低山だったが、存外険しい山で、久々に修験道した?感のある、残暑の近   江路、歴史探訪を兼ねた山行であった。                               Tシャツを着替え、缶ジュースで一服後、早めに帰路に就くこととする。               無事帰宅、16時過ぎ。                                 
 【タイムチャート】   10:40    出発   11:30〜50  御上神社   11:54    表登山口(約110m)   12:01    裏参道分岐   12:04    妙見堂跡   12:11〜20  二越(約220m)   12:26    割岩   12:45    三上山山頂(雄山)(432m)   13:20    下山   13:25    苔ヶ谷   13:30    東竜王社(雌山)   13:57    御上神社御旅所、天保義民碑   14:04    裏登山口   14:30    帰路出発   16:10    帰宅



   三上山(近江富士)のデータ

   【所在地】滋賀県野洲郡野洲町
    【標高】 432m
   【備考】  近江平野のいずれからも望見される秀麗な山で、そのピラミダルな姿から
         近江富士の別称があります。俵藤太秀郷の百足退治でも有名で、また、麓
        の御上神社の御神体となっており、頂上に奥宮と共に磐座があることは古
        代信仰の痕跡を残していて、奈良県櫻井市の大神神社と類似しています。
        東の麓には県立希望ヶ丘公園があり、そちらからの登山道もあります。
        尚、マツタケのシーズンは入山料が必要のようです。
        最寄駅はJR東海道線野洲駅です。
 
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