残雪の笠形山で「笠形太郎」に会う

平成12年 3月18日(日)
天候: 晴れ
同行: 単独
笠の丸から眺める本峰。山頂にあずまや


 しばらく近郊の300m内外の超低山ばかりをうろついてきた。そこでそろそろ遠出を
と思っていた矢先、今度の土曜は暖かい好天との予報に促されて、目指すは播磨の一等三
角点、名山笠形山。

 中国道福崎ICでR312に入り、県道34号で岡部川を八千代町方面へ遡行する。瀬
加中学校を左に見る頃、フロントガラスの向こうに目指す笠形山が姿を現してくる。流石
堂々とした山容。期待が膨らむ。

 船坂トンネル手前に登山口の標識。なぜかここじゃなかろうと考え、トンネルを抜けた
が、気が付くと八千代町の上三原。新設されたバイパストンネルが地図に記載されていな
かったのだ。行き過ぎたわいと、先程の標識まで戻って寺家の集落の中の道に入ると、仙
人滝コースの標識と神姫バスの瀬加のバス停。公民館前から左の狭い道を登って行くと、
突き当たりに石の鳥居があって、駐車場と大きな案内図があった。

神社コース登山口の大鳥居。緑の車が愛車、その隣の軽
が笠形太郎氏の車。太郎氏が立っているのが分かる?

 先着の車が4台。準備中の単独兄さんがいる。いかにも山慣れた感じだ。「今からです
か。」と声をかけると「そうです。この山もだんだん人が増えてきてねぇ。」と横の農家
の犬を撫でながらおっしゃる。「ということは何回も上っておられるのですか?」の問い
に「ほぼ毎週に近いなぁ。姫路から来てるんやけど、この山以上の山がなくてねぇ..。」
と笑っておられた。この兄さんが笠形山の主的存在の人だとは後で気づくことになる。
(TV番組の「動物奇想天外」の千石先生に似ておられますので、ここでは勝手ながら千
石先生と仮称させて頂きます。)

 駐車場横の鬱蒼とした杉林に入る。右に谷川を見ながら、ウラジロが茂る一間幅の石混
じりの道は、笠形神社の参道らしく、路傍には1丁毎に可愛い石仏が鎮座する直登の道で
ある。やがて林道笠形線の分岐に出るが、右の笠形寺へ向かう。

 笠形寺は播磨ではお馴染みの法道仙人が開創した寺で、笠形神社の神宮寺として往古は
大いに栄えたのであろうが、今はこじんまりと山の斜面にへばりつくように建っている。

 舗装路は寺域を穿ち更に登っていく。道は所々で林道に寸断されながらも、休み堂まで
ほぼ真っ直ぐである。その休み堂は切り開かれて明るくなった小広場の隅にあるあずまや
のことで、神社まで30分との道標がある。一息入れる。
 
 ここからはつづら折れの林道の登り。だんだん傾斜が強くなってくる。先行する夫婦の
方を挨拶して追い越して息を切らしながら行くと、この陽気に誘われたか、間近で今年初
めて聞くウグイスの大きな声だ。

 右に大きくカーブした所で前方に車が2台。笠形神社下の駐車地はここか。でもやっぱ
り下から上がらないとねぇ。

 神社へはここで右に折れ、あずまやの横を登って行くこと15分ほど。御祭神はスサノ
オノミコトというから八坂神社と同じ。こんな山中にと思うほど立派な神社である。中社
の欄間の獅子などの彫り物は一見の価値がある。そして亭々とした杉林に囲まれた境内に
は、一際周囲を圧倒する双幹の巨杉がある。高さは50m、目通りの周囲9.5mという
から大きい。又、昭和34年の姫路城改築の際の心柱になった高さ43m、周囲4mの檜
もここから切り出されたという。先程の夫婦の方も上がってこられ、感心しながら見入っ
ておられた。

笠形神社中社の見事な彫り物

 このあと登山道は神社の奥の杉林の間を縫っていく。溶け遅れた残雪が所々に。取り付
く感じで山腹に沿って進みまもなく現れた沢を横切ると、突然、杉林が途切れて劇的に明
るくなる。それもそのはず周囲には大きな木は1本もなく、カヤトとササ混じりのブッシ
ュなのである。鹿よけネットの横に木のテーブルが置かれていて、先着の初老の2人組が
休憩中、一望の元に見渡せる播磨平野方面を眺めておられた。

 仙人滝方面への分岐を左に見て、右にヘアピンを切ってササ原の中を行く。快晴の空の
下、来て良かったと実感するのはこの時。笠形神社の神杉は早くも眼下遥かである。

 再び植林帯に突入する。ここからが延々と続くかと思われる恐怖の丸太の階段道。50
0段以上あるとの話を聞く。ゼイゼイ、息が切れるなぁ。老体?に鞭打ちヤッコラサ。

 何時の間にか周囲はまた雑木にとって変わり、アセビの蕾も顔を出す。やや湿った土と
木々の香りが心地よい。岡部川の水源の標識を見る頃には傾斜も緩んで、一寸余裕も出て
くる。足元に「笠の丸までもう一息」の標識がそれを後押し。それからササを分けて、前
方に小屋が現れ、ヒョイと飛び出した所が笠の丸であった。

 もっと大きなピークかと思っていたが、意外にこじんまり。丈の低いササが茂り、仙人
滝への分岐を示す道標と、残雪に囲まれた中にあずまやがある。その横に案内板があるが、
伊能忠敬以前の絵図のようで余り正確ではなさそうだが参考にはなりそう。それに従って
眺めてみるが、山の名も知らず、やや霞んでもおり要領を得ず。それよりも前方の笠形山
の本峰が円錐形で美しい。その山頂にもあずまやが2棟あって、歩く人が眺められる。小
休止して水を補給し、飴玉を口に入れていざ本峰へ。

 標高は900m近く、ここまで上がると流石に雪が増える。深い所ではまだ20cmは
あるだろうか。もっとも踏み跡にはほとんど無いが、日陰はシャーベット状で滑る。一、
二度危ない時もあったが何とか体勢を立て直す。ホーッ。

 踏み跡は一旦大きく下り、下りきった鞍部がグリーンエコー笠形コースとの出合い。そ
して上昇に転じた踏み跡は石がらみとなり、最後の急坂を登ったところが山頂であった。

山頂の一等三角点。影は筆者です。

 その瞬間、視野に広がったのは素晴らしい景観。360度の大パノラマとはこのこと。
西には雪を頂いた段ヶ峰、千町ヶ峰。その向こうのうすく白いのが氷ノ山。アンテナの有
るのは暁晴山、その手前が夜鷹山で、と横から誰かが教えてくれる。あれっ。さっきの千
石先生だ。(帰宅後、MLで島田さんに自称「笠形太郎」という御仁だと聞かされる。)
「また会いましたねぇ」
北には指呼の間に千ヶ峰。その奥の粟賀山。その左にうっすらと霞むのが東と西の床尾山
だとこれも千石先生。晴れれば和歌山から明石大橋、瀬戸内海から四国まで見渡せるそう
だが、京都の愛宕山から見た時に笠の形をしていることから命名されただけにさもありな
ん。

 ところで件の千石先生、居なくなったと思ったら、あずまやにある登頂記念のノートを
乾かしておられました。

 恒例の三角点タッチをして、さて食事だ。定番の助六とカップヌードル。まずはビール
を一口。いやー最高です。疲れも吹っ飛ぶその瞬間とはこのことでありました。

 流石人気のある山。三々五々登山客が上ってこられる。多い時で15人位は居たであろ
うか。それも徐々に減ってきた。それもそのはず、気が付けば1時間半近くも山頂に居た
ことになる。そろそろ下山にかかる。千石先生はというと、知り合いと千が峰までの縦走
の話をしておられました。

 笠の丸からは鹿が原から仙人滝のコースを採る。道標に従ってトイレの横から低いササ
の中の踏み跡を辿る。この陽気に雪が溶けて足元は悪い。雑木の間からやがて薄暗い植林
帯を抜けると、右側に大台ヶ原の正木ヶ原を髣髴とさせる笹原が広がり、ベンチが一脚。
鹿が原。その名そのままに真新しい鹿の糞が落ちていた。朽ちた木の扉をくぐり、暖かい
陽光の包まれ、破れた鹿よけネットに沿って進む。再びリョウブやアカマツ、ツツジなど
の雑木の中である。と、あずまやが見えてきた。話し声がすると思ったら、往路で一緒に
なったご夫婦が休憩中。挨拶してこちらも小休止。

 それからはご夫婦と同行することに。伺ったところによると、伊丹にお住まいで今日は
6時に家を出てきたという。マラソンがご趣味で篠山マラソンにも出場されたそうだ。

 やがて踏み跡は一気に急降下して行く。やや細くなった踏み跡を所々の道標と赤いプラ
杭、テープで補いつつ雑木の中を降りて行く。展望には劣るものの、往路よりも山路らし
い静かなコースである。

 10分程経過しただろうか、ガイドに有る768mポイントの道標に到着。道標は直進
「ほうらい岩」左「仙人滝」と示す。しかし、ガイドには「ほうらい岩」経由「仙人滝」
とある。一寸迷う。だが、「ほうらい岩」は道標から20mほど急降下した所に有り、そ
の先は行き止まりなのであった。ここでは「仙人滝」へ進むのが正解。(尚、「ほうらい
岩」は和歌山の竜門山の明神岩に似た岩で、突端まで行くと足がすくみます。)

 ここから踏み跡は植林された山腹を忠実に辿る感じになる。その単調さを破るように水
音が次第に大きくなる。滝に近づいたようだ。炭焼窯跡を左に見てしばらくすると道標が
現れた。直進すれば笠形神社近くの往路の分岐に出るらしい。ここで直角に折れ、石ゴロ
を辿ると割合水量の有る滝が現れた。案内板によると、享保年間に姫路城主の榊原式部大
輔が雨乞いの為、農民千人に祈らせたからとか、天狗が住んでいたから等の説があり、高
さ35mとあるがせいぜい20mであろう。しかし、なかなか優美な滝ではありました。

 記念写真を撮っている時である。ふいにどこから現れたのか、単独兄さんが風のように
過ぎていくのが見えた。千石先生みたいだったが、ご夫婦と顔を見合わせ「えらい早い人
もいるもんですなぁ。」

 ここからは沢沿いに下っていく。再び植林が現れて抜け出した所が荒れた林道である。
林道といっても最早、車道としては廃道に近い。当初はアスファルト舗装してあったのだ
ろうが、出水でえぐれている。蜂の巣に似た白いものをつけた低木の群落を見つける。ミ
ツマタだろうか?次第に道は広くなり、ポッカリと口をあけたように空が現れた所が、登
山口案内板のある寺家の奥の里であった。左に今しがたまで歩いていた笠形山。右側の一
段と目立つ黒々とした部分が笠形神社であろう。良く歩いたものだ。

 ご夫婦は3:45だかの神姫バスの姫路駅行に乗るということなので先を急ぐことにす
る。仙人滝コースと案内板のある瀬加のバス停に着くと、折り良くバスがやってきた。今
までの同行に感謝してご夫婦と別れる。

 寺家の集落を登っていくと、車が下ってきて会釈される。笠の丸手前でお会いした初老
の2人組の方だ。慌ててこちらも挨拶を返す。
 
 車に乗っていると余り感じないが、歩くと結構勾配のある坂を登り、石の鳥居に戻ると
なんと千石先生が着替えの最中。「あらっ?ピストンされたんですか?」、「いや、滝コ
ースで降りてきたけど何処で抜いたんかなぁ?」、「仙人滝近くの繁みをサーッと歩いて
いたのじゃないですか?あそこにも道あるんですか?」、「う〜ん。僕にとってはあそこ
も道やから...。」「???」
えらい人も居たもんだ。でも妙にまた会いたくなる人でした。

 久方ぶりに充実した山歩き。好天の下、いろんな人に出会えた一日でもありました。

   【タイムチャート】
    7:50 自宅発
    9:50〜10:00 大鳥居下駐車場(約265m)
   10:17 笠形寺
   10:27 休み堂
   10:46〜10:52 笠形神社
   11:08 仙人滝コース出合
   11:25〜11:35 笠の丸(882m)
   11:40  神崎町コース出合
   11:55〜13:15 笠形山山頂(939.4m 一等三角点)
   13:35〜13:42 笠の丸
   13:52 鹿ヶ原
   13:58〜14:02 あずまや
   14:12 ほうらい岩
   14:35 炭焼窯跡
   14:40〜14:45 仙人滝
   15:00 林道出合
   15:20 登山口案内板
   15:30 瀬加バス停
   15:40 大鳥居下駐車場

  笠形山のデータ
   【所在地】兵庫県神崎郡神崎町・多可郡八千代町
   【標高】939.4m(一等三角点)
   【備考】 西播磨にある名山で播磨富士とも呼ばれています。頂上
は360度遮るものがなく、視界の良い日は大阪湾を隔
てて和泉山脈から明石大橋、瀬戸内海から四国、京都の
愛宕山迄見えるということです。
中腹には法道仙人の創建といわれる笠形寺や姫路城の心
柱を産出した笠形神社、北麓にはレクリエーションゾー
ンのグリーンエコー笠形があり入浴できます。
尚、仙人滝コースはやや踏み跡が薄い所もありますが、
その分静かな歩きが楽しめます。今回のコースの他に神
崎町、八千代町からのコースがあります。
■関西百名山 ■近畿百名山
   【参考】2万5千図『粟賀町』



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