梅雨の晴れ間に
     護摩壇山森林公園トレッキング

                           平成12年 7月 1日(土)
                           天候: 晴れたり曇ったり 
                           同行: 単独       

 この週末は少し遠出をしてみたい。予報は降水確率30%。雨が降っても歩き易い事を条 件に選んだ所は日本三百名山の護摩壇山。山渓の『関西百名山』の紹介コースを忠実に辿 ってみることにした。  翌朝。予報とは裏腹に青空も覗いている。前線が北上して活動が弱まっているという。 こりゃ暑くなりそうだ。  もやっていた空気も、紀見峠を越えると透明度を増してくる。高野山道路を登り、高野 山の奥の院前から高野龍神スカイラインへ。高度千mを越える山並みをぬって竜神温泉ま で繋がるこのスカイラインを走るのは2度目。今日は卯の花とホタルブクロの白が目立つ。  しかし車が少ない。結局、駐車地のごまさんスカイタワーまでに出合った対向車は指で 数えられるほど。追い越した車は1台だけであった。(料金:A区間 1150円 H12/7現在)  支度を整えがてら景色を愛でる。ここまで来ると流石に山深い。駐車場は東と北に開け ていて、神納川の谷の向こうに伯母子岳の稜線が綺麗だ。だがそれ以外はこの山域に疎く、 よく分からない。    ごまさんスカイタワーの横に登山口の標識がある。山頂までは0.5km、ほぼ一本調子の 坂道である。だがそこに一歩足を踏み入れると降るような蝉時雨。ハルゼミだろうか、ヒ グラシに似た鳴き声である。  丸太の階段はやがて石段になる。未明に通り雨でもあったのか、濡れて滑る。稲村ヶ岳 の事があるので慎重に足を運ばねばならない。  足元に余裕が出来たら左右を見廻す余裕も出来てきた。湿気と共に木々の匂いが鼻腔を くすぐる。トサノミツバツツジ、サラサドウダン、ネジキ。ブナが有る。ミズナラ、ツガ。 多様な植生。それらを愉しんでいる内に前方にあずまやと、護摩木を組んだような、山名 を書いた立派な塔が現れた。丸いもっこりした頂上だが、雑木が大きくなってきているの で展望はそれ程ではない。ここで道は南と東に分かれている。東は小高山まで続く稜線で、 その山並みにはNHKのテレビ塔も建つ。ここも一度辿ってみたいものだが、今日は小休 止を摂ってガイド通り南の道を行く。(南登山口まで660mの道標あり)
護摩壇山頂の護摩壇を模した山名標識
 苔の生えた濡れた石畳の道が下っている。熊野古道を彷彿とさせるこの道は小辺路の一 部なのだろうか?それとも最近整備されたのだろうか?ササの生えた湿った道なので、こ こでも滑りを警戒すると同時に、マムシが出ては来ぬかと緊張する。  ふと白いものに気づく。ササに囲まれ浮き出したようにササユリの花2輪。今年はもう 会えないと思っていたから感激であった。早速撮影モードに切り替える。
ササの間からササユリの花
 苔むしたブナやミズナラを眺めながら鞍部へ下っていくとY字路へ出た。左は登り基調 なので右の山腹を捲き加減の道を選ぶ。後で気づいたのだが、左はCa1340mピークを踏 む道だったのではあるまいか。惜しいことをした。  立ち止まってはヤマオダマキコアジサイをカメラに収める。やがて右に緑色のフェン スが現れた。下は切り通しでスカイラインが走っている。と思う間もなくジグザグに下る 急坂はスカイラインに合流し、その丁度目の前が森林公園ワイルドライフの入口であった。
森林公園入口から護摩壇山。左隅にスカイタワー
 あずまやで小休止、ザックをおろして汗を拭う。風は流石に涼しいが直射日光は真夏、 暑い。  階段で始まる遊歩道の途中から今来た護摩壇山が見渡せる。一枚撮影して再び、雑木林 へ。ここもなかなか雰囲気の良いプロムナード。所々に休憩用に木の縁台が置かれている。 ミズナラ、ヒメシャラ、リョウブ、ノリウツギに大きなブナ。ブナは直径1.5cm程の青い 実をつけている。名も知らぬ野鳥も多く、自然林は愉しい。  和歌山地方気象台のロボット雨量観測所を右手に過ぎると分岐。展望台へ350mとあ るがパスし、右のコースを採る。するとしばらくでまた分岐。展望台まで150mという。 馬鹿と煙はなんとやら。やっぱり一寸寄り道していくことにする。  ふうふういいながら登り切ると、狭いピーク。展望台(あずまや)があるが根太が朽ち ているのか立入禁止。展望も今一。ところが何気なく足元を見ると、スズタケの茂る横に 半ば破損した石柱が斜めに傾いでいるのを見つけた。その頭を確かめると十字の刻印。三 角点かなあ?しかし国土地理院の白黒標もなく、近くの木に奈良県香芝から来た人の木製 プレートが一つあるきり。後刻、案内所のお兄さんに山の名を尋ねるも不分明であった。 (筆者註: このピークは点名『五百原』三等三角点(1304.2m)と判明しました)  再び分岐に戻る。下に取付道路が見え隠れし出してまもなく、その道路に合流。ところ がここでびっくり。なんと総合案内所まで1650mという道標が立っているではないか。 「嘘やろー?何で案内所が遠ざかるの?」  道標が示すのは植林帯へ下る道なのだが、どうも一旦、谷底へ降りてまた登る道のよう だ。途中まで辿ったのだが、ますます下り基調の道はシャリバテの身にはつらい。ここは 取付道路を無難に行くべきと引き返したが、約15分で総合案内所に到着でき、この選択 は間違いではなかったようでした。  ここ森林公園は龍神村の管理で、総合案内所の他、喫茶・軽食堂、芝生広場、あずまや が整備されている。案内所の有る一角は丁度東に突き出たテラスのようで、北東には護摩 壇山の山並み、南側は鉾尖岳や果無山脈を始めとする紀伊半島の重畳とした山並みが連な っているのが見晴らせる。そして何よりもそのシャクナゲの多さに目を見張る。種類はこ の辺りに自生するホンシャクナゲ。その数、H10で6万本だとか。五月の花見時はさぞ かし。   案内所でパンフレットを頂いてから、向かいのあずまやを覗くとテーブルもあり、ここ で昼食にすることにした。先客は3人組のパーティと有田から来たという単独おじさん。 みんなスカイタワーの駐車場に車を止めてきたそうな。  食事の間に日が陰り雲がやや出てきたようだ。汗が引いて少々寒くなってきた。後片付 けをして後半の歩き。  車道の突端に「スカイラインまで80分(3350m)」の標識がある。このコースの白眉 とガイドにあるのはこれだなと期待が膨らむ。  最初は杉木立の下のシャクナゲの遊歩道。多くの遊歩道が枝分かれするが、道標が整備 されているので迷うことはない。  展望台との別れを過ぎると、予想に違わず雑木が主となっていい雰囲気になってきた。 ゴミがないのがまた良い。植生ではイタヤメイゲツが目につく。ツガやモミなどの針葉樹。 ヒメシャラ。野生のサンショウもある。  水音が近づいてきた。戸珍堂谷の源流域、長じて日高川になる流れだ。この遊歩道はほ ぼ900mの等高線を巻いてつけられたほぼ水平の道で、都合6つほどの沢を横切るが、 いずれも小さな滝を形成する。夏はこの水音を聞きながらのトレッキングがいい。道は北 から次第に東に向かう。戸珍堂谷を絡み終えたようだ。さっきまで居た森林公園の案内所 の建物が谷を隔てて南に眺められる。結構歩いてきたんだなァと我ながら感心。  スカイラインまで150mという道標が現れた。しかし二股になっていて、ここで少し 迷う。道標は真っ直ぐを示すが、道の整備状況は左の葛籠折れに登る道の方に軍配。まあ、 150mなので間違えたら戻ればいいやと坂道を採ったのが結果オーライ。胸突き八丁の 先にあずまやが見えてきて、スカイラインに飛び出した。  後はスカイラインの車道を歩いてスカイタワーに戻るのみ。しかし、暑い。アスファル トの照り返しに汗が噴き出し、めまいを覚える。しかも前方に現れた案内標識板はスカイ タワーまで1.6kmもあるという。思わず車停まってくれんかいなと淡い期待。が、誰 もこんなオッサンの為に停まってくれるかいっ!  幸い、しばらくすると雲が太陽を遮ってくれたので助かった。それでも、森林公園の入 り口のあずまやに到着した途端へたり込む。スカイタワーまで行けば販売機があるだろう と、残ったお茶を一滴残らず一気飲みである。  スカイタワーに戻る。10年ほど前に来た時はもっと大きかったと思ったが...。そう そう、あの時は竜神温泉に宿泊するつもりが、高野山で食べた葛きりが今流行りのブドウ 球菌に汚染されており、猛烈な食中毒。ここスカイタワーの職員詰め所をお借りしたなァ。 もっとも出すもの出せば3時間後にはケロッと治って、着いた旅館で早速、「内臓をアル コール消毒や」ちゅうてビール飲んだっけ。そんな他愛も無いことを思いだした。  自動販売機でウーロン茶を買い、入り口のベンチにザックを下ろしたときである。西方 向を何気なく眺めると、山並みの向こうに薄い2つの影が宙に浮いて見える。「?」。双 眼鏡で確かめるとなんと島影。地図を見ると広川町付近の紀伊水道らしい。売店の女性に 聞くと、晴れた日には四国も望めるのだという。流石、和歌山県の最高峰ではある。良い 思い出になりました。  駐車場は朝とはうってかわって観光客が多い。それもそのはず観光バスが着いた。かし ましさに早々に退散することにした。  帰りに2kmほど北にある笹の茶屋峠にちょっと立ち寄る。細い道の横の繁みに「熊に注 意」 との看板を見つけ背筋がゾクッ。ということは森林公園近辺にも出没することも...。 高原歩きよりこちらの看板の方が涼しかった護摩壇山トレッキングでした。

   【タイムチャート】
    7:10自宅発
   10:00〜10:10ごまさんスカイタワー駐車場
   10:15登山口
   10:27〜10:30護摩壇山山頂(1372m)
   10:54森林公園入口
   11:10無線雨量ロボット観測所
   11:19山頂広場150m道標
   11:23〜11:25点名『五百原』山頂(1304.2m 三等三角点)
   11:30山頂広場150m道標
   11:37森林公園進入道路出合
   12:00〜12:40森林公園総合案内所芝生広場
   12:42戸珍堂谷コース入口
   12:50展望台
   13:10〜13:15スカイラインまで1560m道標
   13:35〜13:40スカイラインまで590m道標
   13:50スカイライン出合
   14:08〜14:11森林公園入口
   14:25ごまさんスカイタワー駐車場

 
  護摩壇山のデータ
   【所在地】和歌山県日高郡龍神村・奈良県吉野郡十津川村
   【標高】1372m
   【備考】 奥高野の奈良県と和歌山県の県境に聳え、日高川と熊野
川の分水嶺をなす和歌山県の最高峰です。屋島の戦いに
敗れ、逃れた平維盛がこの山で護摩を焚き、平氏の吉凶
を占ったが凶の卦が出て、再興を諦めた伝説から命名さ
れたということです。ごまさんスカイタワーからの登山
道は短いですが、ブナ、ミズナラ、ヒメシャラ、シロヤ
シオなどの原生林の中の道です。
森林公園の遊歩道は道標完備で大きなアップダウンもな
く家族向きで、これと組み合わせれば、秋の紅葉、春の
新緑には充実した歩きが愉しめるでしょう。尚、バスは
高野山から1日に2往復しかありません。
■日本三百名山 ■関西百名山 ■近畿百名山
   【参考】山と渓谷社 『関西百名山』



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