貴公子花紀行〜丹波のクリンソウの花園へ

サクラソウでは最も大きくなるクリンソウ
平成27年 5月10日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独


 もう一昔前になろうか。当時の新聞記事にクリンソウの群生地が三嶽の登山道脇で発見
されたというのがあった。それからいつかは訪れてみようという気はあったけれど、とん
とその機会がなく月日だけが流れていた。それが三嶽へ登るべく大タワへの県道を利用す
るたびに目に付くクリンソウ登山道の標識。なんだか花の時期に一度いらっしゃいと誘っ
ているよう。というわけで、快晴だというこの休日でかけてみることにした。

 いつものように8時半と遅い出発。市街地を出るまでは信号が多くて大変だが、一旦出
てしまえば快走できる。見えないところで過疎が進んでるんだろうなあ。最近ますますそ
んな気がする。今回はR173経由。山下を過ぎれば車もぐんと減る。

 いつもの城東支所前で北上する。田植えの準備か耕運機の入っている田んぼが多い。ゲ
コゲコ、のどかな蛙の合唱が車窓から聞こえてくる。

 花の時期だし、遅出だから出発地点の火打岩の駐車場に空きがあるか気になっていたが、
良かった、まだまだ余裕がある。目立つところでは福井ナンバーのバスが1台。そんな所
からも来るのか、結構有名なのだと些かびっくりする。

 準備を終えて登山口へと歩き出すと、ミニパトカーがやってくる。「今日は山開きなも
ので...」問われたお巡りさんの声が後ろから漏れてきた。(ほう、今日は山開きだっ
たんだ)まったく知らなかった。ウグイスがすぐ近くで囀る。

民家の間に登山口。迷惑がかからないように歩きましょう
 火打岩の三嶽への登山口は民家の路地裏から始まる。以前、一度歩いたことがあるので 迷わずやってくる。民家裏の畑の間を抜けると鹿除け柵とゲートが現れた。この辺りも鹿 が増えているのだろう。この後、山の中で鹿の警戒音をしきりに聴いた。  ゲートの扉を閉めると桧の人工林の中の土止め階段道。これが結構な急登。額に汗が浮 かぶ。がそれも一時。一直線の登りからジグを切るようになると少し傾斜が緩んで若干楽 になる。まもなくして人工林が途絶えて支尾根に出て周囲が気持ちの良い雑木の林になる と、冷たいくらいの風が吹いてきて一気にクールダウンだ。
陽光眩しい中に新緑が映え、清々しい登山道
 もうひとつ大きな尾根に乗った所が丸山や瀬利からの道との出合いで、近畿自然歩道の 標識が立つ。それには鳥居堂0.9km、三岳2.4km、火打岩バス停0.7kmとある。ま た黒岡川沿いの里をたずねる道、丸山水源地1.1km、となっている。火打岩に向かう途 中の瀬利の野辺に御嶽道と案内があるが、そこにつながるのだろう。単独小父さんが休憩 中で当方も一寸一息入れる。  合流してからはこの山中にあるのが不思議なほどの水平道である。若干のアップダウン にも短い巻き道がある。所々にある木々の途切れた場所からは、主に西側に展望が開ける。 但し、谷筋を隔てて隣の尾根が望めるだけだが....。しかしかえって自分が山中深くにい ることが実感できる。  古い石積みが残る鳥居堂跡を経由して、些か水平道歩きに飽きてきた頃である。ようや くクリンソウ群生地の標識が出、左に山道が下っていく。100mも行くと小さな流れが 現れ、架けられた丸木橋は夫婦橋。たもとにアンケート用紙と案内図を入れたポストが佇 んでいる。  開花時期に行き合わせるのは自然が相手だけになかなか難しいものがある。HPなどを 眺めると18日前後に訪れたものが多いので、今回は少々早いのではとの思いを胸にやっ て来たのであるが、順路標識に従って山道を辿ると、ポツポツとピンクの花が目立ち始め、 スーッと目をやった奥の陽だまりがピンクに染まっているのが目に入る。しめしめ、上手 く満開時期に行き合わせたようである。  クリンソウは日本固有種の大型のサクラソウで、花茎の周りに何段にも重なって花をつ けるところが五重塔の先端の九輪を思わせることから名がついたという。兵庫県のレッド データブック記載の植物でもある。  地元の守る会のメンバーの方が数人おられる。そのうちの一人の方によると、クリンソ ウも他の花々同様、今年の開花は早く、4月末には日当たりのいい場所の個体の蕾が綻び 始め、GW後半には盛りを迎えたとのことだった。仔細に見ると、確かに最下部はもう干 からびた花ガラになっている。しかし、最上部にはまだ蕾があるのでもう少しの間は花が 楽しめそうである。それにしても谷筋の4haを覆う夥しい個体数は17万本を超えるとの こと。播磨の千種地区に大規模な群落があるが、それに匹敵する規模である。鹿の忌避す る植物なのでここまで増えたのではないかとの話であった。  さて、一回りした所でちょうどいい時間なので昼食に。格好の場所は団体さんが占めて いるので、五輪塔が五基並ぶ奥から少し引っ込んだ場所を見つけて陣取ることにする。目 の前のクリンソウ畑を堪能しながら食後のコーヒーでまったりする。因みに五輪塔はこの 付近に散乱していたのを、守る会の方々が集めて積み直したとのこと。かつて付近にあっ た大寺、大岳寺所縁のものらしい。  食事をした後はまたあちらこちらうろうろしながら夫婦橋に戻って来、アンケートに答 えてポストに入れた後、登山道との分岐まで戻ってくる。ここで気まぐれ。先程、守る会 の人の話の中で出た群落発見の発端となった地点は登山道のどの辺りなのだろうかと確か めてみる気になる。  登山道は山腹沿いになお水平に続く。アンケートポストが左下に見え、ちらちらと引き 上げてくるハイカーの姿もある。そして200m位進んだろうか。笹が枯れて緩い湾曲線 があらわになった谷の源頭から20mほど先だけがピンク色に彩られているのが分かった。  そこからまもなくで四つ辻に出る。ヨートギ谷道の分岐で、篠山町教育委員会の朽ちた 古い道標が放棄してあるが、新しい道標が設置してある。そこで一息入れながらカメラを 構えていると、ちょうど守る会の小父さんがやってきた。  帰りは守る会の小父さんと一緒に。いろいろな話をお聞きする。群落発見のきっかけも やや詳細に聞ける。それによれば、久しぶりの同窓会の後で山へ登ろうということになっ たこと。登る途中でピンクの花畑が垣間見えたこと。以前からクリンソウが咲くことは地 元でも知られていたけれど、これほどの大発見になるとは思わなかったそうだ。また、火 打岩(ひうちわん)の地名の由来もお尋ねすると、その昔、珪石を掘っていたからではな いかとのことだった。珪石の主体はガラスや半導体の原料であるとともに火打石としても 利用された石英である。  途中の赤土尾根で小金ヶ岳にカメラに向けている間に小父さんとの距離に差がついてし まった。後は爽やかな風を受けながらゆっくりと登山口に戻る。  クリンソウの群生は想像以上、なかなかのものであった。立派なパンフレットもいただ け、しかも守る会はボランティアで保護活動されているという。今後の変わらぬご活躍を 期待した久々の花紀行でありました
【タイムチャート】
06:30自宅発
10:10〜10:15火打岩駐車場(駐車地)
10:22登山口
10:32支尾根
10:44〜10:45丸山・瀬利道出合い
11:00〜11:02鳥居堂跡
11:09クリンソウ群生地分岐
11:11〜12:30クリンソウ群生地(昼食)
12:37〜12:40ヨートギ谷分岐
12:54鳥居堂跡
13:12〜13:13丸山・瀬利道出合い
13:33火打岩登山口
13:42火打岩駐車場(駐車地)

■今回のコースはこちら


クリンソウ群生地
【所在地】兵庫県篠山市
【標高】530m〜550m
【備考】
篠山盆地北部に盛り上がる多紀アルプスの主峰三嶽の南
麓の登山道横で偶然発見されました。約4ヘクタールに
推定17万本が自生しているとのことです。自生地へは
三嶽登山口のある火打岩からほぼ1時間です。
【参考】
国土地理院電子地図



クリンソウの風景

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