近頃はハイカー人口の増加を当て込んで、町おこしの一環なのか○○トレイルと名づけ
られたコースが増えている。関西では高島トレイルが嚆矢だろうか。その高島トレイルの
北西にあたる江若国境山域にも余呉トレイルと呼ばれるコースが設定されている。その中
心をなす山の一つが大黒山。体調の面で些かの不安はあったのであるが、手付かずのブナ
の自然林があるというのでお誘いに乗ってみることにした。
7時に千里中央を出発、菩提寺PAでもう一台と合流して北陸道木之本ICでR365
へ。R365は昔、北国街道と呼ばれた古道。姉川の戦いや賤ヶ岳の戦いの時は軍兵がさ
かんに往来したことだろう。道に面した民家もどこか風情がある。
余呉、柳ヶ瀬を過ぎて、並走していた北陸道から離れてしばらく走ると椿坂の集落が見
えてくる。ここが今日の出発点。まずは登山口と最寄の駐車地点の確保である。それを探
して少しうろうろしていると、東の山裾に入る農道があり、これが今回の取付らしい。し
かし、何やら工事の真っ最中。そこでガードマンの方に駐車スペースを確認すると、上に
広場があるという。工事の車の駐車スペースの奥に確かに3台ばかりのスペースがあった。
用意を終え、爽やかな音を立てる谷川ぞいにダート道を登っていく。ヤブデマリだろう
か白い装飾花が目に鮮やかな植物とタニウツギが目立つ道は2mほどの幅だ。10分ほど
歩くと右の山肌がひょっとして落石があるのではと思えるくらいざっくりと削られた地点
に出る。HPからダウンロードした地図に採石場とある地点だ。これでコースは間違いな
い。次は取付地点というわけで、谷の方を注意深く覗いていく。するとピンクのテープが
あり、沢に架けられた金属製の橋が見えた。
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採石場跡からの登路。左の鉄塔、更に中央奥の鉄塔へと登る |
入口に例の火の用心マークが見当たらなかった(見落とした?)が、どこかで見たよう
な形状の橋はどうも関電の巡視路でよくみるものだ。辺りは2、3の沢が集まる合流点の
ようで、植物が繁り、ひょいとマムシでも出て来そうな雰囲気で、あんまり気分のいい感
じはしない。シシウドやモミジガサなどが繁茂する中で踏み跡が二股に分かれている。地
形図を見ながらここは右を選択して山肌に取り付く。
のっけから急登である。しかも粘土質でよく滑る。立ち木にすがりながら手足はフル稼
動。無風ですぐに汗が滲む。巡視路にしてはえらくワイルドであるが、斜面には爪先を乗
せるだけのステップが切ってあるので助かる。登る為に地面ばかり見ていて、造林公社の
ものかbQ9と書かれた杭を見つけたりしていたが、振り返れば一気に高度を上げていて、
採石場の最上部とほぼ同じ高さになっている。
取付から20分のアルバイト。不思議なことに巡視道は登るほどに良くなる。今まで木
々に囲まれていた前方が開けて、鈍い銀色の鉄骨が見えた。斜面に立つ鉄塔は越前嶺南線
bP14とある。ここまで一気に登ってきたが、幸い体調は順調で、先週の高見山でのよ
うな息切れもない。これならなんとか完歩できそう。(^_^/ 身体に酸素が行き渡るとこれ
だけ違うものかとあらためて思う。(^^; Tちゃんがスズコを見つけた。一見、とうが立
っていそうだったけれど、食べてみると案外柔らかである。
登るに従って小さかったジグの振れ幅がやや大きくなり、若干ながら傾斜も緩んでくる。
辺りはミズナラやコシアブラ、ヤブツバキなどの常葉落葉混交の木々に包まれた深い林で
ある。その分、鳥も多く、ヤブではウグイス、高い梢ではオオルリの声も聞こえたらしい。
周囲が人工林に変化し傾斜が大きく緩んで、やっと大黒山の南尾根に乗ったことが分か
る。Ca670mの尾根付近で一息入れると周囲を見回す余裕も出来て、小さなヤマボウシ
や地面近くのユキザサ、チゴユリ、ハンショウヅルの仲間、ササユリの苗などが目に入る。
不思議なことにどこから来たのかジエビネが1株だけ花をつけている。
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四等三角点『鯉谷』には妙理山への分岐がある
左上はYTC(余呉トレイルクラブ)の道標の拡大画像 |
小ピークをトラバースし、R365の旧道から登ってくると思われる西からの踏み跡と
出合うと、道はやがて大きく東に振って、bP13の高圧鉄塔下を抜けて、林の中で点名
『鯉谷』の四等三角点と顔を合わせる。YTCと記された余呉トレイルクラブの白い道標
がつましく立ち、妙理山との分岐がある。こちらも自然一杯のトレースのようだ。この前
後からお目当てブナの林が目立ち始める。
グネグネと一つとして真直ぐ伸びた幹はない根性ブナが集まっている一角がある。この
辺りは近畿でも指折りの多雪地帯。若木の時に雪の重みに耐えた結果の造詣だろう。
尾根は細くなったり、広がったりを繰り返しながらほぼ真北方向に続いていく。今まで
見かけなかったのが不思議なくらいだが、この辺りでようやくイワウチワが見られるよう
になる。
今まで明瞭なトレースで安心して歩いていられたが、P753で巡視路は右(北東)に
折れていく。こちらを歩いても東峰経由で遠回りながら大黒山に行けるが、谷に降りたり
して登り返しがきつい。直接に大黒山へ行くには左の薄いトレースである。但し、俄然、
踏み跡は薄くなり慎重にならざるを得ない。テープが散見されるのでGPSを参考に、こ
れを忠実に追っていく。時折被さるササが鬱陶しい。とくに尾根がやや広がった部分に多
い。ダニにたかられないか心配になる。やはり長袖で来るべきだったか。
滋賀南部の皆子山に似て、大黒山は麓からは全く姿を見ない山というが、直線距離で1
km程度まで近づくと、こんもりしたピークが見えてくる。この付近にも根性ブナが多い。
その中にはマンモスに似た形状の面白い樹もある。
大黒山の山懐の窪んだ沢の源頭部分に出る。ここも以前はササに覆われていたと思われ
るが、今は勢いがなくそれほどの抵抗はしてこない。倒木を避けて薄い踏み跡を辿り、目
の前の最後の高みを目指す。すると自然にブナ林に囲まれた尾根に出て、林道然とした思
いがけず広い道に出くわした。大黒山東峰方面からの巡視道である。
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ブナ林の中、巡視路に出る。防火帯ほどもある素晴らしい路だ |
道幅といい、ブナ林といい、扇ノ山の登山道に似た雰囲気があるブナ回廊だ。太い木は
ないが、若い勢いのある木が多い。それにしても整備された道のなんと歩き良いことか。
(笑) まもなく左に明快な道が見えた。そこに山仕事の小父さんが一人、声をかけてくる。
「ハイキング屋さんか?そっちへ行くと川に出てしまうで」
多分、高時川のことを云われているのだろう。大黒山の山頂へ行くだけだと答えを返して
おく。
大黒山の頂は分岐から5分弱。笹の繁った中の踏み跡を緩やかに10mばかり登った先
に、直径およそ5mの円形広場があって、その中央に三等三角点の標石が置かれている。
以前、標石の上に置かれていたという大黒さんの像はない。展望皆無の為か、もともとヤ
ブ山だった為か、山名板は小さな板切れが一つのみと簡素なものである。(潅木の高さ4
m付近にもあったらしいが見落とした)踏み跡は我々が今上がってきたものの他に、北方
向に中河内方面へ出るらしいものが一筋あるのみ。予定通り正午過ぎの到着。我々以外も
う誰もこないだろうとここで昼食とする。
40分ばかりの大休止の後、元来た方向へ下る。積雪時用なのか2mはあるだろう高所
に赤テープが巻かれている。これは降りる時の目印にもなる。なにせ頂上は円形で、注意
していないと下山方向を誤りそうなのだ。(^^;
くだんの小父さんの姿はなく静かなものだ。往路とは月とスッポン、想像以上に明快な
道が一直線に西へ下っていく。こちらがメインルートなのだろうが、山頂同様全くといっ
ていいほど展望はない。これほど眺望に恵まれない山も珍しいのではないか。途中唯一つ、
南西方向を見晴らせる箇所があり、三重、四重と青く重なる山並みに山深さを感じる。不
案内で山座同定も覚束ないが、中央の鉄塔が林立する山は乗鞍岳らしく、だとするとその
右は赤坂山や三国山に当たる。確かになだらかな高原状の山並みで、その向こうが琵琶湖
である。
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今回、唯一の見晴らし。中央やや左手が乗鞍岳、右奥は三国山・赤坂山の稜線 |
洗掘された道は急斜度とあいまって非常に歩き難い。石車に木車、至る所に足を滑らせ
るものが転がっている。想像以上に下半身に力が入るのか、汗が額を濡らす。転がるよう
降って、案内図にあるブナの巨木の新緑が目に入った時はほっとする。確かに大きい。目
どおりの直径は1.5mくらいか。樹齢2、3百年はあろう。瘤だらけの樹肌に幾星霜の
風雪を経てきた風格が感じられる。しかも樹勢旺盛。なぜかスコップが一つ。根元に置か
れてある。
ブナの巨樹の側から少し降りると、樹間から白々とした車道の路面が覗く。登山口近く、
遭難騒ぎのポスターが貼られた辺りは風通しが良く、クールダウンに最適である。少し憩
ってR365の旧道、椿坂峠に立つ。登山口の印は色褪せて白くなった火の用心マークで
ある。ここまでえらく明快な登山道であったと思ったけれど、やはりここも関電の巡視道
であった。とはいえ、ここも気をつけていないと椿坂峠の登山口だとは気づかないだろう。
途中の登山道の明確さとの落差はものすごい。(笑)
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椿坂峠の旧R365出合。取付はいずれもこんな感じで注意しないと分らない |
さて、後半は椿坂峠から国道西側の江若国境沿いのトレイルを歩こうというもの。ここ
は周囲の山より低いのだが中央分水嶺に当たり、西に降った雨は笙の川となって敦賀湾、
東に降った雨は余呉川となって琵琶湖へと流れ込むのだ。巡視道入口からおよそ30m南
下した旧国道脇に一軒のログハウスがある。その横が別荘分譲地の管理道路。珍しく住人
の方がおられたので挨拶して管理道を進む。沢沿いの道でここもヤブデマリらしい花の白
さが目立つ。300mほど歩いた先、枯れ池のある分岐で左折して南に向かう。一軒の民
家を過ぎるとササの生えた荒地で、その先は杉の植林地帯である。トレイル入口を示すも
のは一切ないが、薄い踏み跡があるので、いずれ尾根に出ればトレイルの踏み跡に出合う
だろうと突っ込む。倒木や間伐材の木っ端が転がり非常に歩き難い。がとにかく前進ある
のみ。(笑)
300mくらいは進んだと思う。相変わらず踏み跡やテープ類が見当たらないが、東側
に小高くなった自然林の尾根が見えた。里に近い山では尾根に必ずといっていいほど踏み
跡がある。ここも例外ではなかろうと高低差20mばかりを登ると、案の定、ササやシダ、
潅木の繁みの中に獣道風な薄い踏み跡が見つかった。そんなものでもあれば格段に歩き易
い。後は尾根を外さぬように行けば県境に出合うはず。するといつの間にか指導テープが
現れたではないか。一体全体どこからやってきたのか、我々は首をひねるばかりである。
(^^;
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ようやく出た県境尾根。踏み跡が薄い部分あり。テープに注意 |
踏み跡は現れたり消えたり。テープも見失うのか現れたり消えたり。尾根も沓掛山より
北部側は広く複雑なので迷いやすい。県境尾根を忠実にトレースしていれば赤いプラ杭は
あるとはいえ、初心者だけで行くのは止した方がいいだろう。だが、沓掛山付近までやっ
てくると(トレイルはなぜか沓掛山を通過しない)指導テープも増えてくる。樹相もミズ
ナラやブナなど落葉樹主体の気持ちのいいものになる。その気持ちのいい林で一休み。沓
掛山は顕著な高みもなく展望もなさそうなのでパスした。
今歩いている県境尾根は大きなアップダウンもなく、スーッと素直にゆっくり標高を下
げていく感じだが、455m標高点の南側は複雑だ。谷が尾根に食い込んできて、ともす
ると西の尾根に引き込まれやすい。谷には少し水が流れていて、谷へ誘うテープもあるか
ら要注意である。
県境をGPSを見ながらトレースしていると、左側に往路の採石場跡と赤白の高圧鉄塔
が木の間隠れする。もう椿坂の集落にも近く、関電巡視路ともまもなく出合うはずだが、
高圧線もトレイルとほぼ平行だからなかなか近づいてこない。まだかまだかと思う内、や
っと「降り口あり」の声が前から上がる。飛び出た所はこれまた大黒山にあったような遊
歩道然とした巡視道。出合の朽ちかけたYTCの道標には柳ヶ瀬山、椿坂峠とあった。
合流点から少し下がった所にもブナの巨樹がある。こちらは素直な樹形ですっくと立っ
た優等生のような樹形。椿坂峠の樹に比べて”都会っ子”という感じで、太さも一回り細
いようである。更に下ると鉄塔工事の真っ最中らしく、ヘリコプターで運んだらしい鉄塔
の碍子や鉄製部品がブルーシートで山積みしてある。鉄塔敷地で景色を楽しみたいが、落
下物などあれば危険なので早々に離れる。
鉄塔からは再び樹林の中で、次いでごつごつした崖紛いの斜面をつづら折れに下る踏み
跡に変わる。幅が狭く水が沁み出した部分もあるからここも注意がいる。まもなく杉林と
なって飛び出た所はR365は目の前。火の用心の赤マークがある。椿坂峠から発する余
呉川に架かる橋を渡ると、車を置いた工事現場は200mばかり北である。ここも道標な
ど目立つものは皆無たった。
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R365と合流。道標無し、余呉川に架かる橋が目印だ |
早めに下山できたので名神も空いている。明るいうちの帰阪となったので、千里中央の
例の場所で打上げと称する飲み会。水分がなくなって干からびた体にアルコールとともに
水分補給。冷えたビール、最初の喉越しがたまりませんでした。
さて、最後に歩いた感想。今回のコース全般に言えることだが、登山コースの出入口が
判り難い。”余呉トレイル”と標榜し、あれほど立派なトレイル地図を販売する限りは、
途中の道の整備などはともかく、まずは分りやすい道標を最低限整備してからにすべきで
はないだろうか。中級者レベル以上、山の保護、村おこし、地元への金銭的還元等々、種
々の事情はあろうし、だからこんな素晴らしい自然が残されているのだともいえるが、小
生個人としての考えながら、少しその戦略には首をひねらざるをえないような気がした。
【タイムチャート】 |
07:30 | 千里中央(集合地) |
09:15〜09:20 | 椿坂北1kmの林道(駐車地) |
09:32 | 採石場前取付き |
09:56〜10:03 | 高圧鉄塔(越前嶺南線bP14) |
10:30〜10:35 | Ca670m尾根付近 |
10:58 | 高圧鉄塔(越前嶺南線bP13) |
11:04〜11:10 | 妙理山分岐(781.3m 四等三角点『鯉谷』) |
11:19 | 高圧鉄塔(越前嶺南線bP12) |
11:29 | P753(巡視路別れ) |
12:03〜12:04 | 巡視路出合 |
12:07 | 椿坂峠コース出合 |
12:10〜12:45 | 大黒山(891.6m 三等三角点『大黒山』(昼食)) |
12:46 | 椿坂峠コース出合 |
13:20〜13:21 | ブナ巨樹 |
13:25〜13:29 | 椿坂峠 |
13:56 | 尾根上の踏み跡合流 |
14:15〜14:20 | 沓掛山南の疎林 |
15:15 | 巡視道出合(沓掛山コース取付き) |
15:16 | ブナ巨樹 |
15:30 | R365出合(巡視路入口) |
15:40 | 椿坂北1kmの林道(駐車地) |
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■同行 |
幸さん、たらちゃん、二輪草さん夫妻、水谷さん
(五十音順) |
■今回のコースはこちら
大黒山 |
【所在地】 | 滋賀県長浜市(旧余呉町) |
【標高】 | 891.6m(三等三角点『大黒山』) |
【備考】 | 湖北余呉湖の北側の山々を巡るコースが余呉トレイルと
名付けられ、その中心となる山の一つです。展望はあり
ませんが、南尾根や東峰との間はブナ回廊と呼んでふさ
わしいブナ林です。
尚、余呉トレイルは巡視路利用部分以外は踏み跡不明瞭
部分がかなりある上、取付きも分かり難く、販売されて
いる地図や地形図およびコンパスが必携です。 |
【参考】 | 国土地理院電子地図 |
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