桑谷山〜巨杉と石楠花の南北尾根縦断

久多峠への下山路から見た桑谷山西峰
平成26年 5月10日(土)
【天候】曇り時々晴れ
【同行】水谷さん


 五月晴れが予想されるこの週末。京都北部方面の桑谷山は如何とのお誘いに、しばらく
佐々里方面にはご無沙汰なこともあって出かけてみることにした。新緑したたる中、ダイ
スギ、シャクナゲの群落と、最後はにわかサイクリング。なかなか密度の濃い予想以上に
愉しませてくれる面白い山でありました。

 桑谷山といっても知らない人の方が多いだろう。京都市最北の集落、久多の西南にある
三角点峰で、京都府では十指に入る高峰?(第9位)なのである。これを南から北へ抜け
ようというのである。まずは到着点の久多峠に自転車をデポする。ここは以前、フカンド
を歩いた時にやって来た所だ。ついで能見方面に下って出合の府道を左折し、桂川に沿っ
て南下する。5kmほど行って東から寺谷川が合流する地点が大悲山口。本山修験宗の峰定
寺への取っ付きである。府道から分かれて峰定寺へと通ずる車道を500mばかり進めば、
左から地道の林道が合流してくる。これが桑谷林道で、角に瀟洒な民家があるから目印に
なる。声をかけ、家の前の空き地に駐車させて頂くことにした。

峰定寺への道沿いの民家の前で桑谷林道が分岐する

 雪も多くて冬はさぞかし寒いだろう。沢山のマキが積み上げてある横を進む。桑谷林道
は桑谷沿いのダート林道だがそれほど荒れていない。杉も良く手入れされ明るい。しかし
両側は見上げるばかりのかなりの急峻さ。標高差も久しぶりに500m。体力不足を痛感
する今日この頃、登るとなるとかなりしんどいかも....。早くも弱気の虫が頭をもたげる。
(^^;

 歩くこと20分。右手の小尾根先端に関電のお馴染みの火の用心マークが現れる。立ち
木に古い桑谷山のプレート板もあって、いい踏み跡が小尾根を上がって行く。エアリアマ
ップ「京都北山2」にもある桑谷ルートの登山口に間違いない。

小尾根に付けられた巡視道が登山道

 なだらかそうなのは最初の見てくれだけで、小尾根は思ったとおり一気登りの胸突き八
丁である。振り返っても下の斜面の先が見えない。登りだからいいものの、下ってくる場
合、果たして上手く降りられるだろうかいささか不安になるだろう。エンジンが温まる前
だけにきつかったが、そこは関電道だけに、落ち葉に埋もれてはいるが黒プラ階段が設置
されており、また僅かでもジグが切られているのが有難い。お蔭で短時間でぐんと高度を
稼げる。

 やや傾斜が緩んだところで小休止。額に滲んだ汗を拭き、チョコパンとお茶で一息入れ
る。これで周囲を眺める余裕が出たところで驚いた。大きなアシウスギが幾本もあるでは
ないか。きつい登りで足元ばかり目が向いていて気づかなかったらしい。芦生の赤崎中尾
根ほどの巨樹はないけれど、それでも幹周り5mはありそうなのがあちらこちらに見られ
るダイスギの台地だったのだ。幹の窪みには異なる種の樹木を宿して、豪雪にも負けず伐
採にも遭わず数百年。その営みは感動ものでさえある。
急登をこなすとアシウスギの群れがお出迎え

 登りはまだまだ続く。桧の葉を大ぶりにしたような落ち葉が一杯落ちている。アスナロ
とも呼ばれるヒバだ。フカンドへ登った時も多かった気がする。そんな広針混交の林の中、
展望は全くない。再び厳しくなった登りにはプラ階段。頭上に見える高みを登らねばなら
ないのかと覚悟していたら、踏み跡はやや右にトラバースをはじめる。すると周囲が明る
くなって古い伐採斜面の下に出た。前方の林の向こうに高圧鉄塔の姿が現れる。この地域
によくあるネコ鉄塔である。巡視道はここで高圧鉄塔に向かってジグを切りながら斜面を
登りはじめる。

 高圧鉄塔には若狭幹線山側乙102、S44.4と表示がある。初めて展望が広がった
のは南方向だ。中でも城山のように頂が平な片波山(湯槽山)が目立つ。アシウスギの群
生地として有名だが、その横は井ノ口山だろうか。建設に不評のあった広域林道も山腹を
うねっているのがわかる。

 この辺りから新緑の美しい二次林の樹林である。ツツドリやコゲラのドラミングが遠く
から聞こえてくる。広い尾根はやや荒れているが歩くに支障はない。踏み跡を外したが、
登るうちにすぐに復帰する。やがて開かれた所に出て若狭幹線山側甲100の高圧鉄塔下
に立つ。今度は西方向も開けて堂満岳、武奈ヶ岳、蓬莱山の比良山系、南東にカマクラ、
峰床山など京都北山の名山が望める。P813。芦生や若丹の山々でよく見かける小さな
プレートが雑木に架けてあった。

 もう枯れて久しい板取りされた杉の木の株を見る。近在に杓子屋の地名もあり、一帯は
木地師や山仕事の人々が活躍したのだろう。それにしても重さは100キロ近くはあった
だろう。よくぞ背負って運んだものである。

 ここまであまり花は見かけず、ムシカリの白い花が暗がりで目立つくらいがめぼしいも
のだったのだが、ようやく足元にイワウチワが見かけられるようになった。惜しいことに
花期はもう過ぎて花ガラが多く、たまに咲き遅れが一輪、二輪見かけられるのみだ。そこ
へ突然、左の斜面に満開のシャクナゲが現れる。葉裏にビロード状の毛が目立たない。ホ
ンシャクナゲである。今年は花色のピンクが濃く、花自体も大きい。丹波のヒカゲツツジ
も綺麗だったし、今年はどこも花の当たり年のようである。

 この辺りから左手に桑谷山の西峰らしい三角形の高みが見え隠れし始める。尾根も狭ま
ってきてもう一息。そしてタヌキの溜め糞を見かけた頃だったか、どこかに鹿か何か獣の
死骸でもあるのかひどく臭気が強くなった。突然、出現してギョッとするのもいやだった
が、幸いしばらくで悪臭は消える。やがて最後の急登をこなすと稜線の上、鹿ネットが現
れた。桑谷山の東峰から30mばかり西の地点になるようだ。「立入禁止 動植物の採集
禁止 奥山保全トラスト」白い立看板が目の前に立っている。帰宅して調べると、里山保
護を行っているNPO法人らしい。暫時、お目こぼしいただこう。

 桑谷山は地形のはっきりしない北山では珍しく、西の三角点峰と東峰からなる双耳峰と
されているが、相互で500mばかり離れているので別々の山といえばそうともいえる。
ま、それはそれとして、まずは西の三角点峰へ。石灰岩質らしい破片の散らばる斜面を下
って尾根を進む。鹿除けネットが北側にずっと張り巡らされている。といっても支柱が朽
ちたのかあらかたはもう地面にへたり込んで用をなさなくなっている。しかしこれがかえ
ってくせものである。油断すると靴やストックがからめ取られるのだ。何度かつんのめり
そうになる。さっきまでと違って低木が茂って枝が張り出し歩き難いものの、踏み跡は思
った以上にしっかりしている。途中に北側が見渡せる箇所もある。10分ばかりで最後の
登り返し。なんなく西峰山頂の小広場に到着する。四角が削られた無残な三等三角点標石。
展望がない所為で人気がないのか、山名プレートは意外に少なかった。
桑谷山西峰の三角点

三角点標石にGPSを置くと...

 東西両峰を結ぶ尾根に出た時から強かった北よりの風は収まる気配がない。曇りがちで
もあって、気温を確かめたらなんと9℃。風の強さから体感温度は2、3℃ではなかった
ろうか?朝が早かったせいかいささか舎利バテ気味なので、早めの食事をと風を避けて雑
木に囲まれた場所に陣取る。でもまだ10時半。今までで最も早いランチタイムではなか
ったか。(笑)

 往路より帰路は短く感じるもの。思ったより早く東峰に戻る。標高は931mで三角点
峰より高く、本来ならこちらが本峰だろうに、だだっ広い広場という感じの頂には山名板
さえもない。(笑) ここで巡視路は直角に折れる。(赤い矢印の案内板が置かれている)
桑谷山への標高差が最も小さいのでメインルートになっているらしく、巡視路はよく歩か
れている。左手、木々の向こうに桑谷山の姿もちらつく。二次林の明るい新緑は気分がい
い。そしてまもなく再び高圧鉄塔下に飛び出した。たぶん若狭幹線甲100だと思うが確
かめていない。東方向比良山系の展望がいい。

ホンシャクナゲの当たり年。奥はP801
 今までとは打って変わって、岩が目立つやや荒々しい感じに変わる。と、露岩の陰に数 え切れないくらいのピンクの花束が目に入る。運よく、ちょうど満開を迎えたホンシャク ナゲの群落に遭遇したようだ。今年はどこの山も花が見事だと聞く。確かに表の年に当た っているらしく、これだけ咲き乱れるシャクナゲを見たことは少ない。しかも花が大きく 色が濃い。が、あんまり花に見とれていると足元が危ない。ここが一番の難所、トラロー プが張られ、ここを通過する誰もが握るのか、最寄の立ち木の幹もツルッとしている。存 外険しく見える801mピークとの間の鞍部に向かってしばらくは無言である。  801m標高点ピークに立つ高圧鉄塔は若狭幹線山側甲99とある。先の鉄塔より若干 低い位置にあるが、それに勝る大展望が広がる。東側の麓に静まっているのは久多の集落。 ということはその北方に続くのは市後谷山、経ヶ岳、三国岳の山並のようだ。その向こう に激しく起伏するのが白倉岳だろう。東には比良山系。ドーム状の堂満岳に一段と高い武 奈ヶ岳、更に蓬莱山がある。南東には鎌倉山や峰床山などがあって、更に西北方向に目を 転ずれば、目の前に久多峠の谷筋を隔ててフカンド。その西の大きい高みは小野村割岳と なるが、どこが山頂だか分からない。他に天狗岳や長老ヶ岳、百里ヶ岳なども視界に入っ ているのだろうが残念ながら同定できない。青空が広がり山頂でとはうって変わってぽか ぽかと暖かい。昼寝したくなってきた。(笑)
P801から東側展望。谷間にひっそりと
久多の集落。奥は武奈ヶ岳

 再び林の中で、結局、高圧鉄塔が最後の展望地となった。もうそれほどの坂道もなく、
淡々と降りていく。雷の直撃を受けて、内部が黒こげの杉がある。京都北山付近は雷雨の
発生が多いのかもしれないが雷杉をよく見かける。でも大体、杉ばかりなのはなぜだろう。
杉林の中を最後に急降下。眼下に府道の白い路面が見えてくる。南北縦走もフィナーレ。
久多峠はもう目の前である。
ゴールの久多峠。大悲山口までお世話になる自転車
 朝にもあった白っぽいセダンがまだ置かれている。途中誰にも遭わなかったから、フカ ンドの方へ向かったのかもしれない。さて、最終章はしばし「こころ旅」の火野正平の気 分を味わってみようと出発点までのサイクリング。といっても乗るのはママチャリ。(^^; 上り坂があったら苦しいが、基本的に下りしかないコースだ。峠直下の急坂で、ブレーキ がキーキー甲高い悲鳴を上げまくるのには閉口したが、急坂は思ったより短く、谷川に沿 うようになったら、あとは安定した植林下の下り坂である。車も滅多に来ず、まことに走 りやすい。谷川からはカジカの鳴き声。新緑と薫風があいまって、爽やかこの上なしであ る。あっという間に能家口。佐々里峠からの府道と合流して左折南下する。こちらも車の 通行は少なく、田植えの準備に忙しいトラクター、民家の庭先の遅咲きの八重桜やシモク レン、シャクナゲなどをのんびり眺めながらの走りだった。  大悲山口から桑谷の林道分岐までの500mには登りがあって若干立ち漕ぎもしたけれ ど、所要時間はおよそ25分で”トウチャコ”。10km近い道のり、歩いたら2時間近 くはかかっていただろう。  駐車場所を拝借させていただいた民家の方にお礼をと訪えば不在のようである。この場 を借りて御礼。ありがとうございました。南尾根のダイスギに北尾根のシャクナゲ群落。 そしてサイクリング。満腹の山日和でした。

【タイムチャート】
06:00自宅発
08:00〜08:05桑谷林道分岐(駐車地)
08:27〜08:29桑谷山登山口
08:45〜08:54アシウスギの台地
09:13〜09:18高圧鉄塔(若狭幹線山側乙100)
09:25〜09:29P813(高圧鉄塔(若狭幹線山側甲102))
09:49〜09:50桑谷山東峰西の肩
10:05〜10:20桑谷山西峰(924.9m 三等三角点『長戸』)(昼食)
10:36〜10:40桑谷山東峰(931m)
10:51高圧鉄塔
11:16〜11:28P801(高圧鉄塔(若狭幹線山側甲99))
11:45〜10:54久多峠(653m)
-自転車移動
12:20桑谷林道分岐(駐車地)

■今回のルートはこちら


桑谷山のデータ
【所在地】京都市左京区
【標高】924.9m(三等三角点『長戸』)
【備考】
京都市最奥部に立つ修験の寺、大悲山峰定寺の北、久多
峠の南に位置する双耳峰です。南側にはアシウスギ、北
側にはホンシャクナゲの群落があり、花期は見事です。
登路は南の桑谷林道、北の久多峠から延びる関電道を利
用できます。
【参考】
国土地理院電子地図、エアリアマップ『京都北山A』



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