栗沢山で束の間の夏山気分を味わう

栗沢山山頂。ガスに覆われてしまった
平成26年 8月31日(日)
【天候】曇り時々晴れ
【同行】水谷さん


 今年は全くの天候不順である。夏期休暇で軽めの夏山でもと予定していた遠征も台風や
その後の大雨で流れ、それなら8月末ならば大丈夫だろうと予定するとやっぱり降雨確率
が高いというのでまたまた延期、となるはずだった。ところが30日の朝、寝ぼけ眼の寝
床でタブレットのスポーツ速報を眺めていると、Mさんから携帯へ電話。現地の日曜の予
報が好転しているという。延期しても行けるとは限らず、ここは一か八か予報にかけてみ
るか。というわけで前日車泊と超短めではあるけれど、南アルプスへ束の間の夏を楽しん
できた。

 明るい内に現地着を狙って正午の出発。渋滞もなく順調に伊那インターを出る。飯田辺
りでは降っていた雨もこちらは降っていない。高遠の目抜きを抜けてR152を南下する
とやがて戸台口。山側へ折れて黒川に沿って1kmも行けば仙流荘の前に出て、見覚えある
南アルプス林道バスの停留所と事務所がある。駐車場は約七分の入り。天気も芳しくない
し、夏休みも終わりだし。ま、われわれにとっては幸いだったが、夕暮れも迫ってちょっ
と寂しい気もする。
明朝の午前中は降雨確率20%というが...
ガスに覆われた南アルプス方面
 6時に缶ビールと弁当を食ったらもうすることがない。後はバスの時刻を確認したり、 明日の装備を確かめていたら、恐れていた雨が降ってきた。もう行動範囲は車の中だけだ。 いよいよ寝る以外にすることがない。(^^; ルーフを打つ雨脚は強弱を繰り返して、あま り止む気配もない。予報は明午前中20%というが、今まで外しに外してきた経緯もある から本当に止むのかどうか心配になる。何度かウトウトを繰り返してもまだ夜10時。し ようがない。睡眠剤のお世話になるか。翌2時頃、眼を覚ましてまた寝たらしく起きたら 5時前であった。寝相が悪かったようでMさんにはご迷惑をかけたようだ。意識がないと はいえご容赦。m(_ _)m  予報通り雨は夜半に上がったようで雲は多いものの空は明るい。薄く青みも出てきた。 なんとか昼過ぎくらいまではもってくれろと祈るばかりだ。  5時半過ぎ。バス停の前はもう登山客が集まっている。やっぱり行く夏を惜しむ人は多 いようで、始発のバスは定員一杯で、定刻の6時5分、北沢峠へ向けて出発した。  戸台大橋を過ぎてしばらく、バスの前方に数台の車が停車している。と思ったら黒川の 川原へ下りていく。あら?競馬場でよく見かける馬運車もあるではないか。TVの時代劇 ロケをやっているのだとバスの運転手の言葉。昨日からやたら車がうろうろしていると思 っていたが道理でと腑に落ちた。エキストラ200人、馬8頭という大掛かりなものとい うことだったが、現場のセットを見ると意外とたいしたことはない。幅2mばかりの木の 柵が川原に数個置かれているだけである。後で調べたらフジの10月新番組、小栗旬主演 『信長協奏曲』ということであった。  ウンウン唸りながらバスは約20km強、1000mの高度差を登りつめていく。ガイド を兼ねる運転手曰く、今日はここ数日に比べ大分雲の様子がいいらしい。ガスも中腹にこ びりついているものの、鋸山も、甲斐駒もちらり姿を見せてくれる。右に左に展開する景 色を楽しんでいるうちに7時前終点北沢峠に到着。
午前7時。懐かしい北沢峠へ到着
 9月を前に一気に秋めいて、標高2000mは寒かろうと思いきやそれほどでもない。 仙丈ヶ岳への登路を右に緩い下りを行くと長衛小屋への分岐がある。左にとってしばらく すると、右下の川原に色とりどりのテントが見えてくる。前方に真新しい二階建ての長衛 小屋。玄関前の築山には前回と同じく赤紫のヤナギランが花開いている。  谷川を渡る鉄橋がアサヨ峰への登山路。いよいよ標高差800mの本格的?山行のスタ ートである。本格的なのは5月の鈴鹿竜ヶ岳以来3ヶ月半ぶりだから、正直なところ、こ なせるか内心ちょっと不安がよぎるのだが、ヤグルマソウの茂る湿った入口からともかく も登り始める。  しばらくウラジロモミだかトウヒだか、緑の濃い針葉樹の森の中を小道は初めは緩く、 次第に傾斜を強めながら登っていく。大気は涼しいが無風で、道端の苔やマイヅルソウの 葉の表面が濡れていることからも分かるように湿度が少し高いので、動くとすぐに暑くな ってくる。長袖シャツはザックに仕舞い、半袖一枚になる。樹林の中、展望はなく黙々と 高度を稼ぐのみだ。  ようやく広い山腹伝いから尾根状の斜面になる。高度を上げるに従って、シラカバから ダケカンバに木の相も変わってくる。それと共に登山道の傾斜も厳しさを増す。周囲を見 回す余裕も次第になくなり、足元を見つめて黙々と登ることが多くなる。標高差にして2 0mくらいの間隔でピンクのテープが巻かれている。これをワンピッチにして、テープを 追っては息の上がりを抑える為に立ち休憩。ゼイゼイ、ハーハー。なかなか息が収まらぬ。 次第に立ち休憩の間隔が短くなってきた。(^^;
南アの核心部が姿を現した
頭を雲に北岳をはじめとする白峰三山と右に塩見岳
 ハクサンシャクナゲやダケカンバ、ナナカマド、ハイマツなどの混生地を抜けると、つ いに森林限界。辺りはハイマツに覆われた斜面である。そのハイマツ帯を抜けると岩の折 り重なるの斜面。頭上に見えるあれが栗沢山かと思ったら、なんだ偽ピークである。栗沢 山はまだ稜線の先だったがラッキーなことに、昨日の天候からは信じられない光景が待っ ていた。北に雲を中腹にたなびかせた甲斐駒ヶ岳が屹立している。南側には白峰三山に塩 見岳、仙丈ヶ岳と、南アルプスの3000m級の主峰連が雲をまといつつ居並び、振り向 いた眼下の雲間には林道がうねる。これを見たさに登って来た様なもの。しばし見惚れた のだが、大展望としてはこれが見納めになるとはまだ気づいていない。
花崗岩で白く鎧われた甲斐駒ヶ岳が
 偽ピークから栗沢山までほとんど標高差はないのだが、何せ歩き難い岩稜帯、小刻みな アップダウンと浮石に注意したりと存外時間をとられる。やっと着いた栗沢山。名のある 頂をとりあえず踏んでホッと一息つく。
ハイマツの向こうにようやく栗沢山の頂が見えてきた
 「あれっ?」狭い栗沢山の頂で小憩を取っている間に、1kmばかり南にそびえる目的地 のアサヨ峰に続く岩の稜線へ、東からガスが上がってきたと思ったら、防波堤を越える高 波のように一気に乗り越えた。あっという間にアサヨ峰はガスの彼方に消えた。この分で は期待の展望は望み薄かもしれない。しかし、ずっとガスの中のままではなかろうとアサ ヨ峰方面へとりあえず足を踏み入れる。
アサヨ峰方面はガスの中だ
ガスが途切れた早川尾根の向こうに
アサヨ峰が姿を現した
 こんなにきつかったか?首をひねりながら、大きな岩が積み重なる稜線の小さなアップ ダウンをこなして行く。エアリアマップではアサヨ峰まではほぼ1km、約1時間の行程。 小さなキレットのある大きな岩を左に過ごして、少しと広い稜線になった頃。見る間にガ スが辺りを包んでしまう。視界はほぼ10m。岩にペンキで記された赤丸が目印。しばら く進むがいっかなガスは晴れない。冷たい霧粒も頬に当たりはじめた。コースを半分強消 化したところで、これでは目的の展望も楽しめないだろうということで、アサヨ峰は断念 することに一決、引き返すことにした。
アサヨ峰と栗沢山の中間点のこの辺りで引き返す
 シャリバテもあいまって、栗沢山へのちょっとした登りにもヒーヒーいいながら、山名 柱を再び見た時には再びフーッと大きく息を吐いた。  カップラーメンも湯を沸かす気も起こらず、とりあえずおにぎりを一つ。塩入り蜂蜜レ モンをゴクリ。これ山には持って来いの飲み物かも。  時折、薄日が射すこともあるのだがガスは一向に晴れず、辺りは白いまま。甲斐駒が見 えないのなら、若干遠回りして仙水峠へ降りる意味も半減してしまうということで、もと 来た道を引き返すことにする。ホシガラスが5mばかり先を旋回して降下して行く。尾羽 の白い模様が鮮やかである。  登り一辺倒の道だったのだと、下っていてあらためて思う。膝が笑い始めて、踏ん張る 力が弱ってくるのがわかる。こんな時、よく浮石に足をすくわれるたりするものだ。アサ ヨ峰への稜線でハイマツに足を取られて危ないところだったので、手足をフルに使って慎 重を期す。お蔭で掌にハイマツのヤニがこびりついてしまった。(笑)  現金なもので引き返すと陽射しが出たりするものだ。しかし、木の間越しに谷間を見れ ばやっぱり乳色。判断は間違っていなかったのだと、なんだか知らないが安堵感。やっぱ り後悔はしたくないものねえ。(^^;
登山路にて。清々しい緑
 登山口まで戻ってきてすれ違ったのは往路で単独小父さん、稜線でご夫婦と3名のみ。 北沢峠の辺りに比べ、まことに静かなものであった。12時半。バス停に到着。切符を買 って一息入れた。気温は12℃だったか。しかし何故か半袖でも寒くない。  13時。帰りのバスに乗車。運転手さんはよほど地元に詳しいと見えて、色々と展開す る景色や植物の解説をしてくれる。フジアザミ、タカネナデシコ、タカネビランジ、サラ シナショウマ、マルバダケブキ、フイサフジウツギ等々。群生するヨツバヒヨドリにはア サギマダラがフワリと蜜を吸う。  早朝、準備をしていたドラマロケ。下っていると運転手さん、わざわざ一旦停車してく れた。ロケ隊はちょうど川原で昼休みの休憩中。旗指物を差した黒装束が蟻のようにウロ ウロしている。小栗旬はどこだろうか?それとも今日は来ていないのかな?遠くでちょっ と分らない。残念。(^^;  『何それ珍百景』で紹介されたオブジェや案山子の列に出迎えられて仙流荘バス停に無 事戻る。午後1時。束の間の夏山だったけれど、少し溜飲はさがったような。(笑)  久々の本格的山歩き。どれだけ筋肉痛が出るかと懸念したのだが、翌日、なんと足の筋 肉痛はほとんど感じない。下山時に滑るのを防ぐ為、立ち木に捕まることが多かったので、 胸の筋肉の若干の違和感は納得であるが、足についてはまことに意外である。結局、ここ のところ山行きをしなかった弊害は小生の場合、元々難のある呼吸器系、循環器系から来 るスタミナ不足が決定的でした。(^^;
【タイムチャート】
12:00自宅発
17:00〜翌06:05仙流荘前バス停横駐車場(車泊)
06:45北沢峠バス停(南アルプス林道バス)
06:55〜06:57長衛小屋(アサヨ峰登山口)
09:22〜09:24栗沢山(2,714m)
09:52〜09:53アサヨ峰・栗沢山稜線中間点
10:20〜10:30栗沢山(2,714m)
12:11〜12:12長衛小屋(アサヨ峰登山口)
12:30〜13:00北沢峠バス停(南アルプス林道バス)
13:55仙流荘前バス停(駐車地)



栗沢山のデータ
【所在地】山梨県南アルプス市
【標高】2,714m
【備考】  南アルプス北部の展望台、アサヨ峰の北方に位置し、
早川尾根の北端を形成します。山頂は狭いですが、早川
尾根の岩稜、薬師岳などが展望されますが、なんといっ
ても南ア北部の盟主、甲斐駒ヶ岳の白亜の姿が特筆もの
です。北の仙水峠、西の北沢峠からが一般的です。
【参考】
エアリアマップ『北岳・甲斐駒』



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