行者還岳〜梅雨の晴れ間の稜線散歩

なしの木出合の北付近の奥駈道から見る行者還岳
大台側からの姿とはうって変わってなだらかなイメージだ
平成26年 6月14日(土)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】別掲


 梅雨の合間にぽっかり空いた好天。そんな形容がぴったりする週末、山の会の例会で指
折ってみればほぼ1年ぶりの大峰は行者還岳を歩いてきた。まだ花を見たことがなかった
クサタチバナが盛りで、そのお花畑では伊東きよ子の唄ではないけれど、さながら『花と
小父さん』状態でした。(爆) 

 7時、いつものように千里中央駅のローソン前に集合した北摂組は3名。南阪奈道路、
R309と乗り継いで集合地の行者還トンネル東口に向かう。トンネル西口は駐車料金1
000円が徴収されるようになったと聞いていたが、天女花の開花には些か早い為か、有
料化が敬遠されたのか意外に空いている。因みに簡易トイレも有料化されて100円が必
要である。

 いくら直線トンネルが出来たとはいえ、難所の弥山川右岸、やはり所要2時間では無理
だったようで、到着したのは9時20分で小半時近くの遅れ。書きおきがあって15分ま
では待ってくれていたらしい。ご迷惑をかけました。 m(_ _)m
行者還トンネル東口風景
ゲートの鉄枠に『酷道』のステッカーが(笑)

 トンネル横から延びるダート林道の土砂崩れの跡は物凄い。崖から下部へ流出した土砂
が道を乗り越えて下の斜面をえぐっている。幸い人間が歩くのに支障がない程度に復旧し
てあるので助かる。辺りにはそんなことは無関係とでもいうように長閑な鳥の鳴き声。ガ
クウツギの白い花が目立つ以外、緑一色に彩られた世界である。一時は川になったのでは
ないかと思えるような石に覆われた林道を5分も歩けば東口の登山口だ。木の階段を登っ
て植林の中を斜面に沿ってゆっくりと標高を上げていく。

トンネルから300m程で行者還トンネル東口の登山口
 道標がある。尾根(論所ノ尾)までやってきたようで、ここで90度折れて今度は急斜 面を一気に突き上げていく道に変わる。もともとここはナメゴ谷橋へのルートに東口から ルートが合流しているのだ。直登すればかなり厳しい斜面に微妙にジグが切られていて余 程歩きやすい。登山口をはじめ、古い丸太階段が設置されていたりとかなり手入れされて いるようで、西口に比べもっとマイナーな先入観を持っていたのでいささか調子はずれで ある。(笑)  周囲は自然林に変わってヒメシャラ、ブナ、ミズナラ、ツガなどの森。フカフカした腐 葉土に露岩。ジグは切られているといっても急登に一気に汗が噴き出す。体力不足の身に はきつく、汗を拭うのにかこつけて息を整える回数が増える。その間にもメンバは先を行 き、それを追いかけるのにまた息が切れる悪循環だ。(^^;ゞ  涼しい風が吹き上げてくる。稜線が近づいてきたのか。見上げるほどだった南に見える 稜線もよほど下がってきたとはいえ、幾らなんでもちょっと早すぎるようだ。そうこうし ていると前にもまして急登になってくる。左横に目をやった植林の斜面は45度位の傾斜 に見える。きついはずだ。  ようやく些かなりに傾斜が緩む。見上げた先の木々の間が明るい。「ん?今度こそ?」 耳を済ませると何やら話し声らしいのが聞こえてくる。声をかけると、はたして先行した Hさんら一行5名だった。合流したのはCa1380mの台地で、残念ながら一ノ垰ではな く、まだ高さにして80mばかり登らねばならないのだが、奥駈道特有のミヤコザサも現 れて稜線が近いことを示す。先が見えたことでまたエネルギーが湧いてきた。現金なもの だ。(笑)  ミヤコザサの中の小道脇の木の幹に羽化寸前のエゾハルゼミを見つける。鳴き声はジャ ージャーと大きいが、存外、華奢なセミだ。少し登ると道標が見えてきて奥駈道と合流。 やれやれ。これでしばらくは大きな登りはないはずだ。  ちょっと不思議なのだが、実際はどこが一ノ垰なのだろう。今いる所はトンネル東口や ナメゴ谷への分岐だし、天ヶ瀬方面にあるらしい旅館の古い看板もある。けれど標識と廃 避難小屋があるのはもう少し北だし、小谷林道に向かうのはやや南に行った辺りだ。おそ らくピンポイントではなく、辺り一帯を一ノ垰と呼ぶのだろう。まあ、そんな詮索は止し にして、今回のハイライトを楽しもう。ブナ、ミズナラ、ナナカマド、モミ、ツガ、ヒメ シャラ、ハウチワカエデなどがまばらに立つ中、笹原につけられた一筋の小道。大峰特有 の日本庭園のような趣に、今はカマツカの白い花とサラサドウダンツツジの遠目から見れ ば薄い赤茶色の花がアクセントだ。  やや下った所の、完全に廃屋になってしまった避難小屋の前には『一ノ多和』の標識が 立つ。錫杖も立てられているから靡の一つだろうが、他の靡に比べて神秘さは今ひとつ欠 ける気がするのは気のせいか。(笑)
尾根の上は如何にも大峰奥駈道という雰囲気がある
 5分足らずで「しなの木出合」。初めて行者還岳にお邪魔した時に使ったトンネル西口 からのルートの、奥駈道との出合がここなのだが、こんな名がついているなんてついぞ知 らなかった。太い幹の倒木があるがこれがシナノキなのだろう。世界遺産登録を期に設置 された立派な石標まであって、その前で小憩を取っていた泉南から来られたというご夫婦 から氷砂糖を頂く。これはいい。シャリバテには効果てきめん。今度から持参することと しよう。  西に時折顔を見せる弥山、八経ヶ岳や鉄山の大日山に似た尖峰を望みながらも、ここは 大峰にしては穏やかな女性的な起伏が続く。P1458はその中でも比較的分かりやすい ピークで東側に清明ノ尾と呼ばれる天ヶ瀬まで伸びる長い尾根を引く。明瞭な踏み跡があ り、R309のbX0標識近くの鉄梯子からここへと登って来られるらしい。途中には大 普賢岳のパノラマや廃林道に放置されたマツダのタイタンなどがあって自然林の面白いコ ースだという。いずれ辿ってみたいものである。  奥駈道は徐々に登り基調になる。稜線のやや西側をトラバースしながらヤマシャクヤク も自生する湿った石灰岩地帯を抜けるとクサタチバナの群落がある。シロヤシオはあらか た花が終わっているけれど、クサタチバナは今が盛りと名前の由来になったタチバナに似 た直径2cmばかりの白い花を咲かせている。ガガイモ科の草本でタチバナのような芳香は なく、鼻を近づけるとやや青臭い。有毒なのか美味しくないのか鹿の害にも遭わず、バイ ケイソウの群落の中にも生息地を広げているようで、奥駈道はしばし白いお花畑の中であ る。鹿ネットを過ぎると東側が開け、お花畑の向こうにテーブルのような大台ヶ原、手前 には綺麗な円錐形をした和佐又山。更に北東には大普賢岳から笙ノ窟尾根が起伏するのが 見える。地形図で言えばP1486の辺りである。
クサタチバナの群落。山腹の崩れはR309だろう

クサタチバナの花

 ここまで来ると目指す行者還岳も岩壁がはっきりしてくる。大台のドライブウェイから
見る傾いだ尖峰も、南から眺めれば単なるなだらかな山にしか見えず、とても行者が越え
るのを諦めたと伝えられる山には見えない。二箇所のヌタ場を抜け、警戒するアカゲラの
鳴き声をバックに下りに入ると間もなく天川辻である。今は撤去された関電の高圧鉄塔ゆ
かりの電線路安全祈願地蔵が置かれている。最初に来た時はここから西の大川口へと下っ
たが、現在は土砂崩れなどで立入禁止になっているらしく、道標に×印が入れられている。

行者還岳東側の木梯子の難所
 奥駈道は行者還小屋の前から行者還岳の東側の裾を通過していく。大きな岩の窪みに設 えられた靡を通過すると、いよいよ30mの岩場登り。といっても木梯子がかけてあり、 それほど危険はない。水場で口を湿して足元に注意しながら登っていき、切り返す感じで 笹原の中を上がる。それにしてもいつもここで方向感覚が狂う。ついつい七曜岳方面に直 進してしまうのだ。今回もキツネにつままれたような感覚であった。(笑)  シャリバテの身には徐々に増す傾斜が辛いが、頭上にシャクナゲの茂みが見えてくると 行者還岳の山頂は近い。シャクナゲを掻き分けると狭い円形の広場で、見覚えある三角点 と錫杖がある。  シロヤシオと同じくシャクナゲも花が終わり、めしべおしべだけが枝先に残っている状 態。サラサドウダンだけが鈴なりに花を咲かせている。唯一周囲が見渡せる山頂南側に行 ってみる。丁度傾いだ山頂の南面の岩壁の上になる。やや空間へ飛び出した岩から見ると、 樹海の中に行者還小屋を乗せた大峰主稜は右にうねって弥山、八経ヶ岳、仏生岳、孔雀岳 へと続いていくのが分かる。弥山小屋もよく見える。いつもガスがかかる国見八方睨から の展望も今日はいいだろう。  あまり登山客も上がってこなかろうと山頂で昼食にする。顔の前を飛び回るコバエがや や煩いが...。そこへ京都の仏教大のワンゲル部らしいグループがでかいザックを背負 ってやって来た。和佐又から今日は下の小屋泊まりだという。そこへ悠々お姫様状態?の 女子学生が遅れて到着。うーむ。山では女性は優遇されますなあ。(笑)   気温は15℃、下界より10℃は低いだろう。ジッとしていると半袖では寒いくらいで 食事は暖かいカップ麺にしてもよかったかなとちょっと後悔である。食後しばらく憩って 12時半過ぎ下山開始。戻った小屋の前で恒例の記念撮影。四方山話で盛り上がった後で、 またまたアカゲラに警戒音を発せられながら一ノ垰に向かって南下する。途中、太腿がつ るアクシデントに見舞われたメンバも出たけれど、幸い大事にも至らず、無事15時半、 トンネル東口に戻る。往路、奥駈道まで上がるのにヘロヘロだったが、帰りに下ってみて かなりの急登だったことが実感する。どういうわけかちょっと安心したのだった。(^^;  晴天に恵まれて久しぶりの大峰。近畿で山深さを感じるには随一の山域だろう。やはり 年に何度かは訪れたくなる魅力溢れる山々。幹事のHさん、同行の皆さんに感謝である。
【タイムチャート】
06:55千里中央駅ローソン前
09:20〜09:22行者還トンネル東口(駐車地)
09:28登山口
10:05〜10:10一ノ垰手前の台地状尾根(Ca1380m)
10:26〜10:30一ノ垰
10:42〜10:45しなの木出合
11:00P1458
11:35天川辻
11:40〜11:45行者還小屋
12:11〜12:40行者還岳(1,546.6m 三等三角点『行者還』)
13:05〜13:20行者還小屋
13:22天川辻
14:10〜14:15P1458
14:35しなの木出合
14:44一の多和
14:47一の垰
15:27登山口
15:35行者還トンネル東口(駐車地)

■同行: 北山さん、たるるさん、二輪草さんご夫妻、ハム太郎さん、水谷さん、
     SACHIさん(五十音順)
■今回のルートはこちら(山友さんの記録で代用させていただきます。(^^; )


 行者還岳
【所在地】奈良県吉野郡天川村
【標高】1,546.6m(三等三角点)
【備考】 大普賢岳、弥山、八経ヶ岳と続く大峰山脈の主稜線上に
あり、山頂を巻いて南北に奥駈道が通じています。どこ
から見ても判別できる特異な姿をした鋭峰で、あまりの
険しさに行者も引き返したというのが名前の由来で、山
頂南のテラスに立てば、弥山を始めとする大峰核心部が
一望です。
■関西百名山
【参考】2.5万図『弥山』、エアリアマップ『大峰山脈』



行者還岳から南を見た大峰主稜の展望。中央が弥山、左の尖った部分が八経ヶ岳。更に禅師の森の稜線と
続いて仏生ヶ岳、孔雀岳が覗いている。弥山の右胸付近の稜線上の尖峰が鉄山。左の尾根が歩いてきた奥駈道

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