愛宕山〜中尾根からツツジ尾根を巡る

ツツジ尾根道途中より愛宕山
平成26年11月30日(日)
【天候】晴れのち曇り
【同行】別掲


 愛宕山へ初めて登ったのは、確かカーステレオから夏の高校野球の実況が流れていたか
ら、夏の暑い盛りだったと思う。今ではとても考えられないが、まだまだ元気モリモリだ
ったのだろう。その時は樒原の裏参道から登ったのだが、カンカン照りと猛烈な熱気に思
わず目眩に襲われ、ひっくり返りそうになったことを覚えている。それ以来だから15年
ぶりになる今回は、JR保津峡駅付近からマイナーな『中尾根』を登り、時間が許せばつ
いでに先の戦争で供出され廃線になったというケーブルやホテル跡も訪ねてみようという
趣向。愛宕山といえば清滝からの長い階段道というイメージが強いが、大きな木はないけ
れど雑木林のしっとりした尾根を堪能することが出来、先のイメージは大いに覆ったのだ
った。

 8時にいつもの千里中央のコンビニ前でMさんと待ち合わせ車に便乗させてもらう。摂
丹街道を亀岡へ向かっていると、イギリス産のクラシックカーと次々にすれ違う。そうい
えば能勢の国道沿いにあるイギリス風味の施設に人が多かった。なにかフェアでもあるの
だろうか。

 能勢では霧が濃く、この分では亀岡はさぞかしと思いきや、ほとんど霧らしきものが無
い。なにか狐につままれた気持ちで9号線を横切って駅前のイオンの駐車場。ここで9時、
Nさんらと落ち合う。
JR山陰本線保津峡駅。福知山線武田尾駅に似て
トンネルを出た橋上駅だ
 JR山陰線で保津峡駅へ着いたのは9時半かっきり。保津川に架かる橋の上に造られた 駅は無人駅。駅前には登山者の姿もちらほらしていたが、前を行くグループを見て驚いた。 容量が違うだけで後は小生のと色も全く同じノースフェースのザックを背負う女性がいた。 あまり選ばないだろうという色を選んだつもりだったが珍しいこともあるものだ。(笑)  件のグループは保津川大橋を渡って右に向かう。我々は左へ。保津川沿いに20分ばか り歩くと門扉のある林道があってその先のカーブを曲がると、スーッと斜めに上がってい く踏み跡がある。そうと判る道標など目印類は一切無いが、これが中尾根の取付のようだ。 近くに車の離合用の膨らみがあるから目印になる。
保津峡大橋を渡って車道を西へ。扉で閉鎖された林道を
過ぎると、愛宕山中尾根の取付きがある
 いきなりの急登。しかも土の斜面は昨日の雨で一層滑る。この前の皆子山といい、ここ のところ滑る山ばかりである。家には高三の受験生がいるが、自分が代わりに滑っておい てやろう。(笑)  ひとしきりきつい登りをこなすと、緩やかな尾根道になる。取付同様、テープなど印は 一切見かけず、薄くなったり落葉や枯れ枝に隠れたりするが、わりにしっかりとした踏み 跡がある。大きな木がなくヒサカキなどの雑木主体の林は明るい。時折甘い匂いがするの はウコギ科のタカノツメの黄葉の匂いだ。そんな所では地面が薄い黄色で覆われて、フカ フカと柔らかい。そういえば、鈴鹿の綿向山から竜王山へも地面が薄い黄色一色の明るい こんな尾根道があったのを思い出した。
急登をこなすと、こんな山道が現れる
 Y字路がある。左の巻き道の方が明瞭だが、直進する尾根芯の方を採る。倒木を潜った り、乗り越えたりしばらくアスレチックするが、見れば左下に先ほどの道の続きが見えて いる。素直に巻き道を採ればよかったみたいだ。 (^^; 再び合流してまもなく、米買道と 呼ばれる東西に横切る太い道に出合う。
「大岩」西30m程の辺りで米買道へ。画像左側からやって来た
 一間くらいはあるだろうか、荷車も通える幅がある。かつては亀岡方面と京都市内の鳥 居本を結び、丹波の米を積んだ大八車や保津川上流で獲れた鮎を運んだということだ。そ の米買道を20mも右(東)に行けば大岩がある。といっても見上げるような巨岩ではない。 岩の左手から道らしき溝のようなものが右にカーブしながら林の中に消えていくが、我々 は左手の斜面に向かう。踏み跡らしきものも見当たらず、急斜面で立ち木を掴みながら登 ることを強いられるが、藪は無く適当に歩きやすい箇所を選ぶ。やがて、右手に鹿ネット が現れ、そのネットの境目に狭いが歩きやすい空間がある。相変わらずの急斜面は続き、 鹿ネットの支柱とロープに注意しながらも、10分足らずのアルバイトで鹿ネットの上端 に達すると踏み跡が現れた。どうもネットで踏み跡が遮断されているようで、ネットの向 こう側に明瞭な踏み跡が見て取れた。
鹿ネット横を登ると再び踏み跡が現れる
 踏み跡が現れたことで格段に歩きやすくなる。適当にジグがきられているが、それでも まだかなりの急斜面だ。何度も立ち止まっては息を整えなければならない。拭いても拭い ても汗が流れる。この頃には皆さん押し黙り、黙々と登るのみ。先程までの盛んな会話も 途切れがちである。歩きに専念して気づかなかったが、雑木林がなくなっていつの間にか 手入れの行き届いた杉桧林の中を歩いている。さしもの急坂もようやく緩んできた。する とどこからか人の声が聞こえてくる。見回すと右手の高みに建物があるのがわかる。多分、 水尾の別れにある東屋だろう。やっと一息つける。(笑)
水尾別れの西側に飛び出した
 広い道に出くわした。水尾道のようで建物(水尾別れ東屋)とは10mばかり離れた辺 りだ。歩いてきた場所を振り返る。赤いテープがあるがそれだけ。ここが中尾根の下山口 だとは初めて歩く場合、滅多に気づかないであろう。それにしても愛宕山、支道や枝道が 多い割に水尾道や表参道、米買道などメジャーコース以外は全く道標が見当たらない。メ ジャールート以外を使う場合、経験者の同伴や地形図とコンパスは必携であろう。  『水尾別れ』は西の水尾道、表参道である東の清滝道が合流して、北の愛宕神社へと向 かう地点。登山客を洛内方向とは反対の水尾へ向かわせようとする案内板が幾つも掛かる。 水尾へ降りても保津峡駅まで自治会バスがあり、京都市内まで40分なんていうのもあっ て、涙ぐましいくらいだ。聞けば水尾も小学校が休校となって久しく、未成年者はもう住 んでいないのだとか。名物の柚子も出荷量が落ちているそうで、将来、なくなってしまう のだろうか?  先ほどから聞こえていた話し声は東屋の中で休んでいたグループの声。と、立ち上がっ て三々五々出てきた人達の背を見てびっくり。どこかで見かけたザックではないか。そう、 保津峡駅で我々の前を歩いていた人達だったのだ。ツツジ尾根で登ってきたのだろうとは 推察したが、登り口は保津峡大橋の左側だと先入観があったので何となくストンと腑に落 ちない。下山で確かめてみよう。 (^^;  『水尾別れ』から神社までは約800m。両脇に老杉が佇む中、花売り場の建物を過ぎ ると直下に水尾の集落が木の間越しに見える。赤い前垂れをつけた石地蔵に見守ながら進 むが、歩行速度は上がらない。中尾根の急登でエネルギーを使い果たしたようだ。ひたす ら足を前に出し続けて、ようやく黒門を過ぎると右手に見覚えある休憩広場がある。以前 もここで昼食を摂ったのだった。あの時、よく冷えたお茶で生き返らせてくれた自販機( 当然代替わりはしているが)も社務所前の東屋近くに置かれている。(^^;
火伏の神様、愛宕さん本社参道
休憩広場から京都市街。中央の森は京都御所
東山連峰の向こうに山科。奥は音羽山
 食事前に参拝を済ませておこうということになり、東屋の椅子から立ち上がったはいい が、スタミナ切れの身で神社本殿までの石段がこれまたきつかった。高低差は50mはあ るだろう。ため息をつきながら一歩一歩。つらつら考えれば、愛宕山登山の標高差850 mは近畿ではあまり例が無いのだ。いうなれば近畿の馬鹿尾根だ。と心中悪態をつく。本 殿前に着いた時には思わず「ハァーッ。これで登らずに済む」(^^; 何はともあれ、小銭 を取り出して無病息災、家内安全を祈る。(^^;  休憩広場で昼食。平年より暖かい日とはいえ、流石に汗ばんだ中、座っていると冷えて くる。一応、愛宕山の最高点に当たる本殿には立ち寄ったし、三角点は最高点にないし、 しかもありがたみ?の少ない金属標識だしで、20分ばかりの休憩の後は三角点にも寄ら ずに次の目的地へと向かう。  参道を戻ると、花売り場の建物を50mほど過ぎた辺りで左に入っていく踏み跡がある。 750m標高点のピークを辿るやわらかく起伏した雑木の尾根だ。どこでも歩けるからは っきりした踏み跡はないが、それとなく人が入っている形跡がある。どんどん東へ辿ると やや右手にがっしりとしたコンクリートとレンガの壁を持つ建物の廃墟が現れた。旧ホテ ル跡だ。敷地はあまり大きくない。何に使われていたのか、狭く区切られた部屋があった りする。更に東へ。緩く下りの斜面となってその先が人手の入った広場のようになってお り、なんと先着の十数人のグループがたむろしている。近頃、近世の建物の遺跡を巡るの がブームになっていると聞いたことがあるが、その類の人達だろうか。広場の先にはホテ ルよりきっちり外観を残しているケーブルの愛宕駅の建物が立っている。その屋内に入っ て窓から覗くと、それと判るプラットフォーム跡や軌道敷跡が残る。鉄筋がむき出しの階 段で二階に上がってみる。雨水が漏れ、酸性雨の影響か、コンクリートのアルカリ成分が 溶けて、鍾乳洞で見られる石筍まがいに沈殿物がうず高くなっているのには驚いた。
ホテル跡の廃墟
戦中に廃止された愛宕山ケーブル山上駅舎の廃墟
 帰りは広場南側の水平道(参道へ繋がる昔の取付道だろう)を利用する。200mばか り進んだ辺りで木の梢に赤いバケツがかぶせてある。これがツツジ尾根の始点だという。 踏み跡はないが、下には東西に表参道が走っているはずなので、降りていけばそれのどこ かに出合うはずだから安心。歩きやすい場所を選んで、折り重なる枯葉の上を滑るように 降りてゆく。5分もかからず表参道に文字通り飛び出すように降り立つ。ミズオ199S 19の番号標識がついた電柱と、「28/40 火をつけた私の責任最後まで 嵯峨分団」、清 滝と書かれたオフィシャル案内板の前である。
ツツジ尾根突端から下ると表参道の清滝道に出合う
 「清滝」の標識裏がツツジ尾根の続きらしい。ここが起点といってもいいのだが、変哲 も無い踏み跡があるだけで、それと示す標識はおろかテープも無い。しかし一歩踏み込む と桧の林に幅広の明瞭な踏み跡が伸びる。右手に鹿よけネットが現れる頃にはベンチ風に 並べられた丸太まである。中尾根に比べれば格段に歩きやすい。知る人ぞ知るコースなの であろう。  しばらく緩やかだった山道も、谷を隔てた中尾根がそうだったように、急坂が現れる。 ここも九十九折れにもかかわらずかなり急峻だ。体を支えるのに掴まる立ち木にも注意が いる。立枯れが多いのだ。赤松など生きている木の方が格段に少ない。倒木も多くやや荒 れた感じもするが、再び植林帯となって一気に降りると米買道との出合い、荒神峠の標識 があった。  ここにもベンチ代わりの丸太が並べられてある。教育委員会が立てた説明板には、今は 植林が邪魔しているが、かつては京都市街も望めたのだという。昔は茶店まであったとい うから、織るが如く人の行き来があったのだろう。  小休止して山すそを迂回する小道を行く。林の隙間からは時折、白っぽい京都市街が覗 く。尾根を忠実に辿る道はツツジ尾根というだけあって、下るに従ってミツバツツジが増 えてくる。右にカーブした所で愛宕山の全貌が望める展望地があった。南側から仰ぐ愛宕 山はどこから見ても端正な独立峰で、ここでもその例に漏れない。鶏冠のような山頂部の 杉林も良く分かる。一時前にはあの辺りに居たのかと思うと人間の脚も大したものだ。
全行程こんな感じの明確な踏み跡がある
 山陰線の電車の音やオートバイの騒音が徐々に大きくなってくる。保津川の対岸の峰も 見上げるくらいに高くなってきた。道はなおも真直ぐ南下していく。西に折れる気配はな い。ようやく西方向に下り始めたら、岩の上から保津峡が見下ろせる箇所があった。おり しもタイミング良く保津峡下りの舟もやってきた。更に電車の音がトンネルから反響して 聞こえてきた。早く来ないかとシャッターチャンスを待つ。ところが来たはいいが、嗚呼、 肝腎の舟が電車の陰に....。やっぱり素人にはそうそう上手くいかないものである。(笑)
JR保津峡駅を見下ろす。駅の陰に隠れたが、丁度川下りの船
がやって来た。川岸奥はトロッコ列車の軌道
 最後は岩がちの急斜面を下って車道に降り立つ。時刻は15時ちょうど。最寄の電柱の 標識はミズオ70で、岩陰には京大地震研究所の設置した地震計の見慣れぬ姿があった。
ツツジ尾根の取付き
 右すぐそこに保津峡大橋の姿がある。これで往路の疑問が解けた。やはり思ったとおり、 件のグループはツツジ尾根を往路に使ったのだ。現行の道は地形図の点線路より忠実に尾 根を辿っていたのだ。  保津峡駅に戻ってきたのは15:10。駅前の売店では水尾名物の柚子も売られ、ビー ルで和んでいるグループもいる。しかしそうゆっくりもしていられない。次の電車は2分 後である。  プラットフォームは結構混んでいる。ハイカーのみならず、ラフティングの若者グルー プ、カメラバッグを抱えたおじさん。電車がやってきた。いつの間にか空には厚い雲。帰 途の能勢ではパラパラと落ちてきた。暖かいのは今日まで。雨上がりには寒波がやってく るという。いい日に登れた愛宕山。同行の皆さんに感謝。
【タイムチャート】
09:00イオン亀岡店(集合地)
09:22JR亀岡駅
09:30〜09:32JR保津峡駅
09:50愛宕山中尾根登山口
10:48米買道出合
10:50〜10:51大岩
10:56鹿ネット
11:05〜11:09鹿ネット終端(小休止)
11:45〜11:48水尾分れ
12:15〜12:18社務所東屋
12:26〜12:30愛宕神社本殿
12:35〜13:00社務所前広場(昼食)
13:18ケーブル跡入口
13:22〜13:23ホテル廃墟
13:29〜13:32ケーブル跡
13:35ツツジ尾根下山口
13:40表参道出合
14:10〜14:16荒神峠(米買道出合)
15:00ツツジ尾根登山口
15:10JR保津峡駅
15:30JR亀岡駅
■同行: 二輪草さん夫妻、水谷さん、(五十音順)
■今回のルートはこちら


愛宕山のデータ
【所在地】京都市右京区
【標高】924m(三等三角点『愛宕』890.1m)
【備考】
京都盆地西北に一際大きな山容を持つ独立峰。比叡山と
共に京都を代表する山で、麓から望むと頂上が鶏冠の形
に見え目立ちます。
頂上には火伏せの神で有名な愛宕神社があり、本稿で紹
介したコース以外に、最もポピュラーな清滝コースや樒
雄、水尾など多彩なコースがあり、京都市民に親しまれ
ています。南麓は保津峡、東に下れば有名な嵐山です。

■日本三百名山■近畿百名山■関西百名山
【参考】
国土地理院『電子地図』



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