天狗堂、サンヤリ〜念願の鈴鹿の鋭鋒へ

サンヤリと繋がる北尾根から天狗堂
平成25年11月16日(土)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 以前、竜ヶ岳や三池岳への登山路で西を眺めた時に、ピラミダルな山容をした山があっ
て気になっていた。エアリアで調べると天狗堂なるユニークな名を持つ山である。その不
思議な山名もあって、いつかはと記憶に留めていたけれど、なんと山の会の11月の例会
の舞台になるとは。勿論、いの一番に参加申し込み。またとない小春日和と天候に恵まれ、
鈴鹿の秋を堪能することが出来きた。

 7時過ぎに大阪組の集合場所の千里中央を出て、8時10分頃、集合地の八日市IC最
寄りのローソンに着く。山姿の人達が散見され、石榑峠近辺から鈴鹿に登る際の飲食料調
達基地になっているようだ。今日のメンバは9名。定刻の20分に全員が揃ったところで
R421を君ヶ畑に向かう。

 紅葉の名所、永源寺近くの里では、早くも駐車場へ呼び込む係の小父さんが幟を振って
いる。秋晴れ、繰り出す観光客も多いだろう。永源寺ダム湖畔の狭い道路を抜け、愛知川
を遡れば、色づいた木々が素晴しい。

 政所で愛知川の支流御池川沿いに脇道に左折する。ちょうどバスが一台。中高年の登山
者を下ろしている。多分、日本コバを目指す人達だろう。集落を抜けて旧政所小学校を左
に過ごし、重厚な感じがするお寺(光徳寺)の大銀杏を見て、その先のトンネルを抜けると
蛭谷の集落。もう木地師の里の一角である。君ヶ畑へはそこから更に右にヘアピンカーブ
を曲がり、くねる道を登りつめなければならない。

 君ヶ畑は50戸ばかりの集落でまさに隠れ里の雰囲気がある。君ヶ畑バス停を過ぎると
道は自然に御池林道となり、そのとばぐちに君ヶ畑にはそぐわない近代的な白い建物があ
る。ノエビア化粧品の高山植物研究所で元は政所小学校の君ヶ畑分校があった所という。
その前がやや広かったので車を置かせていただくことにしたが、研究所は敷地内もやや荒
れ加減で人の気配が感じられなかった。

 一同準備を終えて3分ばかり集落内を歩くと、大皇器地租(おおきみきじそ)神社がある。
コンクリート舗装の参道を上がると鳥居があり、巨杉が林立する境内。轆轤製法を教え木
地師の祖といわれる惟喬親王を祀る神社だ。その巨杉横に天狗堂登山口の案内標識があり、
登山届のポストが置かれている。標高はCa450m。案内板にポルトガル語もあるのは甲
津畑の雨乞岳登山口で見かけたものと同じだ。

大皇器地祖神社境内にある登山口
 右手に小さな配水施設を見て簡易階段の小道を上がる。のっけから急勾配でしかも落ち 葉ですべる。こりゃあ前途多難だなあ。(笑) 登るにつれ斜面だと思っていたのがいつの 間にか支尾根の上にいる。周囲はシロモジ、コシアブラ、タカノツメ、イロハモミジなど の落葉樹とマツ、カシなどの常緑樹の混交林。日の光に落葉樹の透き通る黄や赤が映え、 地面には団栗が落ち葉の間に転がっている。踏み跡が案外しっかりしているのは、NHK の共同アンテナがあるからだと先達のHPにあったように思うが、確かに黒いケーブルが 地面から露出している箇所がある。  天狗堂から南西に伸びる尾根に登りつく手前の南西側に、素晴しい場所があった。谷の 源頭のような開いたU字形に湾曲した地面はそれこそ黄色い落ち葉のじゅうたんである。 しばし立ち止まる。メンバからはもうここだけで十分じゃないか等と軽口も出る。(笑)
まさに錦繍
 南西尾根との出合には私製の道標がある。地形図の点線路が越える峠とばかり思ってい たが、GPSを確認すると峠のかなり東のようである。がとりあえず東に向かって出発。 忠実に尾根芯を辿っていく。一箇所、植林の間をクランク状に進む所があるのと、踏み跡 が薄い箇所もあってやや判り難い部分もあるが、要所のテープと尾根を外さなければ問題 はない。
南西尾根出合。私製の道標がある
 尾根歩きなのに林の中でしばらく展望が望めないのが残念といえば残念。しかし、山頂 でその不満も一気に解消されて余りあるそうだから、単独ならばそれを楽しみに登ること になるが、この人数、なんだかんだと四方山話をしている内に、雑木の向こうにいよいよ 天狗堂の端正な姿が顔を出すまでに近づいている。
ようやく現れた天狗堂。この辺りから急登が始まる

 768mの標高点尾根に乗って、人工林の中で進路をやや東に振って、しばらく進んだ
シダが茂る小広場で小休止。Uさんの持参した饅頭で小腹を宥めておく。なぜならこれま
での尾根歩きでは余り標高を稼いでおらず、必然的に標高差200mの急登がいずれ始ま
るはずなのだ。

 天狗堂。他に天狗山、烏帽子岳、飯盛山などなど。全国にこんな名のついた山は多いが、
一つ共通点がある。即ち、例外なくピラミダルな山容で登下降が厳しいことだ。御多聞に
漏れず一気に傾斜が増してくる。登ればここも登るほど厳しい登りである。踏み跡も錯綜
というかはっきりしないというか。要はヤブもなくどこを歩いても厳しいので登山者は誰
も適当に登っているらしい。(笑) まだ先行テープに沿って行くとややまし。薄い踏み跡
が小さくステップを切ってわずかでも傾斜を弱めようとしてくれている。それでも時折、
ズ、ズ、ズーッと靴が滑る。登れる所は下れるとはいうけれど、ここは下りには使いたく
ないわ。(^^; ただ、南向きで暖かいのか立枯れの木が少ないので助かる。それらを掴み、
手足をフル回転させる。額に一気に汗。一歩上がるごとに周囲の視界も広がって、振り返
れば日本コバらしいテーブル状の山がもうほぼ同じ高さにある。

 あちらこちらに露岩が目立つようになって来る。大岩もあって、その岩の間をすり抜け
乗り越える。しかし本当にきつい。年数を経たホンシャクナゲやコイワカガミ、イワウチ
ワが咲く季節でも、それらが眼中に入らないかも。(笑) そんな斜面登りも右からの稜線
が近づいてきてようやくジエンド。立ち木の中に天狗堂の札がぶら下がるのが見えた。

天狗堂山頂の展望岩へ
 下りに利用する岩尾谷分岐はここからだと私製の標識が示す。確かめるとなんだか茂み の中にぽっかり空いた穴みたいな感じである。こっちもきついだろうな。(^^; 988m と標高を示すプレートもあるが、地形図の標高点は山頂の北部分にある。横たわる岩を右 に避けて山頂北部分に出ると東側に大きな岩がある。先に登ったメンバが絶景だというの で期待しながら登ってみる。すると展望岩の先は2、3人しか立てないが、聞きしに勝る 展望が広がっている。真正面に航空母艦のような御池岳。南に藤原岳、竜ヶ岳、石榑峠と 下って三池岳と続く。御池岳の手前には所謂”T字尾根”。そういえばここのところ立て 続けに著名な山を真横から眺めている。赤兎山から白山、綿向山から雨乞岳、そして今日 の天狗堂から御池岳だ。  岩の西側に風を避けて昼食とする。ポカポカと暖かい。久しぶりにカップラーメンの湯 を沸かす。  空腹を満たしたら、さてサンヤリへのピストン。展望岩の左手を巻くと案の定やっぱり 急傾斜の下降だ。ということはまたこの急傾斜を登り返さねばならぬ。それに山腹が人工 林で黒緑色に見えるサンヤリまで稜線上を結構な距離にも思え、「皆さんが帰ってくるの をここ待ってます。」と頭の中で悪魔の囁きが聞こえてくる。(笑) でも、じっとしてる と寒いしなあ。向こうにゃ三角点もあるしなあ。やっぱり行ってみようか。(^^;
天狗堂からサンヤリ
 さっきまでの小春日和が嘘のように急に風が強くなって冷え冷えする。北と南でこれほ どまで温度差があるのかと思う。そんな中、朽ちていないのを確かめて立ち木にすがりな がらの急降下。ズリズリ、おっと、踏みしめた靴が浮石に滑る。しかし天狗堂の北斜面は 南斜面ほど高低差がないのが救い。その先、サンヤリとの真ん中に975m標高点ピーク があるが、存外サンヤリまで大きな登りは無く、あまり手垢のついていない自然林の尾根 が待っている。無数の落ち葉を踏んでいくと、赤く色づいた艶々のコイワカガミが白っぽ い露岩の間を彩る。現れたホンシャクナゲの軽ブッシュを抜けきると、そこは975mピ ークで、植林との境目にある小高い高みだ。踏み跡は現れたり薄くなったりを繰り返す。 気づかなかったが途中には秋の恵みもたらす樹もあったようだ。やや尾根芯の西側を歩い てサンヤリへの最後の登りに入る。確たる踏み跡も無いので、適当にステップを切りなが ら登っていくと、あれ?単独兄さんが降りてくる。今日初めて出合った登山者だ。多分、 犬上川ダム方面から取り付き、天狗堂南西尾根を君ヶ畑峠辺りに出て北へ林道に降りるの だろう。そこから山頂はもうすぐそこであった。
天狗堂北尾根の清々しい雑木林
 サンヤリは「仏供さん山」とも呼ばれるという。この名も謂われはよく分らないが、天 狗、仏供、やはり木地師の信仰に関係するのだろうか。綺麗な三角点が置かれただけの何 の変哲もない猫の額ほどの小さな山頂からは植林の背が伸びてあまり展望はない。せいぜ い南に天狗堂、北に特徴のある茶野や、霊仙山の姿が目立つ程度。だが特筆物はその北東 側のブナ林である。一抱えもある灰白色の素直な幹が林立している。尾根を伝ってずっと そのブナ林の中を歩いて行きたい誘惑に駆られる。
サンヤリ山頂。傷のない綺麗な三角点が置かれていた
 あまりきっちりした踏み跡が無いと思っていたが、帰路、尾根芯を忠実に辿ると、薄い が案外確かな踏み跡が続いているのに気づく。往路は尾根芯を若干外すことが多かったか らだろう。その分、歩もはかどって天狗堂の姿も思うより早くすぐそこまで近づいた。  ところが好事魔多しとはこのこと。もう一歩で天狗堂の岩の下部に登りつけるところで 不覚にもスリップ。その拍子にザックのサイドポケットに入れたポリカーボネート(PC) 製の水筒が飛び出した。止まるものかわ、あれよあれよという間に落ち葉の急斜面をコロ ンコロンと転がり落ちる。やっとのことで止まったのは登路東側の急斜面を20mも下。 回収するのもしんどいし、一瞬あきらめがよぎったが見えているのにやっぱりもったいな い。ザックを置いて空身で回収に降りることにした。自分が転がらないように慎重に、そ して水筒片手に登るにも一苦労しながら、嗚呼疲れた。手に戻った水筒は傷があちこちに。 でもPCは強靭なのかよくひびが入ったり割れたりしなかったことである。(^^;  げっ そり?疲れてようよう展望岩に戻る。フゥー。でも天狗堂への登り、南斜面に比べれば標 高差も少なく思ったより楽で助かった。  もう皆さん先に進んだようで展望岩近辺には誰もいない。岩をまたいで岩屋谷分岐に戻 ると勢揃いしている。一口お茶で喉を潤したところで下山へと岩尾谷から御池林道に向か って出発である。  この天狗堂、どこから攻めても頂上直下はやっぱり急斜面みたいである。岩尾谷という だけあって、こちらは岩の空き間を選びながら降りる感覚(降り口が赤ペンキでマーキン グしてある)で、手頃な立ち木や岩を持たないと降りられない。そんなことで悪戦苦闘し ながらも、50mばかり下ってようやく岩がゴツゴツした地帯を過ぎ傾斜が緩むと、やっ と周囲を見回す余裕も生まれる。気づけば明るい素晴しい雑木林である。そして北斜面に 比べてやはり暖かい。  ここまで新しいピンクのテープがいい目印になる。これを追っていけば間違いはないだ ろう。それも往路の南西尾根より目印は頻繁にあり、降りていくほどに踏み跡も明瞭にな る。幹事のHさんがジモティーから聞いたところによれば、近頃はこちらから登る人も多 くなっているといい、標高差が少ないこともあいまって、こちらがメインルートになって いるのかしらん。一箇所、尾根から岩屋谷へ降りる箇所が少し尾根筋方向にずれているの に注意が要る。字が消えた白いプレートが地面に置かれてあり、左に誘導するテープもあ るが、ピンクテープに従ってそこから10mほど直進してから左に折れるのが正解。  植林帯に入る。再びかなりの、よくまあこんな土地に植林したものだと思うほどの傾斜 地だ。踏み跡は植林の作業道も兼ねているらしくはっきりしていて、細かくジグが切られ ている。それでも油断するとずるっと滑る。ここまで尻餅をついた回数は一人三回はくだ らないだろう。(笑) 何か地面が白っぽく見えたので近づくとホオノキの葉が一杯落ちて いるのだった。それに乗ると下に隠れた石に足を取られてしまう。  さっきから下から微かに沢の音がし始めていたのが次第に大きくなってくる。舞い下り るように下ってきた所は大岩の横で、谷川の流れの幅は2mばかり。ここにも白い私製の プレートが幹元に置かれている。  後は谷川の流れの方向に下るのみ。傾斜も緩やかでさっきまでとは大違い。足も楽であ る。林道出合の登山口までほとんど植林の下だけれど、一部自然林が残る。シロモジ主体 の明るい広葉樹の林は、西に傾いた日が透けてなかなかのものである。林道の白い路面が 見え始めるのは、そこから100mばかり先であった。
御池林道出合の岩尾谷登山口へ下りる

 御池川は川幅が30mはありそうな結構大きな流れで、アマゴか鮎釣り用だろう所々に
入川場がある。川の縁の大木が色づいて鮮やかな渓谷美を演出していて、単調になりがち
な林道歩きも飽きない。そしてもっとかかるものだと思った林道歩きも20分ばかり。前
方に駐車した車が見えてくる。

 山の形である程度予想はしていたけれど、想像以上に骨のある登下降のある山歩きであ
った。天候にも恵まれ、適度にワイルドな道に秋酣の鈴鹿を堪能することができた。満腹
です。幹事のHさん、同行の皆さん感謝です。
【タイムチャート】
07:00千里中央ローソン前(集合地)
08:15〜08:35ローソン国立病院前店(現地集合地)
09:00〜09:10君ヶ畑(駐車地)
09:15〜09:17大皇器地祖神社
10;05〜10:10南西尾根出合
10;40〜10:45Ca750m(小休止)
11:23〜11:25岩尾谷分岐
11:30〜12:10天狗堂(展望岩 988m)
12:40〜12:45P924
13:05〜13:16サンヤリ(958.0m 二等三角点)
13:31P924
14:05天狗堂(展望岩 988m)
14:06岩尾谷分岐
14:54岩尾谷出合
15:05〜15:10御池林道出合(岩尾谷登山口)
15:32君ヶ畑(駐車地)

■同行: 裏人さん、さかじんさん、幸さん、たらちゃん、ハム太郎さん、たるるさん
     ひろぴぃさん、水谷さん(五十音順)

■今回のルートはこちら


天狗堂のデータ
【所在地】滋賀県東近江市・多賀町
【標高】988m
【備考】 御池川を挟んで、鈴鹿の盟主、御池岳の西に対峙する位
置にあり、そのピラミダルな山容はどこからでも同定で
きます。山頂には大きな露岩があって、鈴鹿主脈を西か
ら眺める展望台ともなっています。登路は君ヶ畑、岩尾
谷が主ですがいずれも山頂直下は急峻で、先行テープは
ありますが踏み跡程度で、地形図、コンパスは必携です。
サンヤリ(仏供さん山)のデータ
【所在地】滋賀県東近江市・多賀町
【標高】958.0m(二等三角点『萱原村』)
【備考】 天狗堂の北1kmにあり、穏やかな山容をしています。
山頂は樹木が成長しあまり展望が利きませんが、山頂東
側のブナ林は一級品です。天狗堂とペアで歩かれること
が多いようですが、バリエーションとして犬上ダムから
の登山者もいるようです。
【参考】
2.5万図『竜ヶ岳』



天狗堂の展望岩から東面の眺め。鈴鹿主稜の手前は土倉岳、ヒキノに続く尾根で、その手前がT字尾根

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