大彦峠からサケビ越え環縦走

5年ぶりにサケビ峠へ
平成25年11月 2日(土)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】別掲


 ある山域を一度訪れると、立て続けに幾度か同じ山域に出向くことがある。今日歩く山
域もそんなことが数年前にあって、その際、幾つかの峠と三角点を踏んだことがある。今
回の舞台はその地域よりもやや東南側に当たる大彦峠から一度踏んだことのあるサケビ峠
へ至るという環縦走である。但し、懸念材料がひとつ。数年来の台風と大雨の影響である。
案の定、尾根筋はまだしも谷筋は大きく様変わりしていたのである。

 道の駅くつき新本陣に到着したのは8:15。既にUさん、Nさん夫妻の車が先着して
いる。全員が集合したところで道の駅から更にR367を北へ、県道783で左折して安
曇川の支流北川沿いに遡行する。雲洞谷の集落を過ぎて約2km、車道が大きくヘアピンを
描く所にサケビ越え(雲洞谷口)の古い白い標識がある。廃物置小屋があるので目印になろ
う。(路肩に2、3台駐車可)ここに車を2台デポしておく。

 川の水量が前回と同じくらいなのを確認した後、残る二台で北へ200mばかり引き返
すと、南に分岐している大彦谷林道がある。舗装林道だが路面には枯葉や雨で流れ出した
朽ち木が多く、小さな落石も散見されて普通車は少々注意する必要がある。蛇行しながら
高度を上げるとペアの高圧線が近づいてきて傾斜が緩むと、10台以上は止められそうな
広い切開きが右手に現れる。ここが林道の大彦峠(旧大彦峠は更に凡そ300m北にある
らしい)で、見慣れた関電の火の用心標識と白倉岳登山口の標識が南の巡視路階段の下に
ひっそりとある。因みに北にも階段があり、小一時間も歩くと雲洞谷山に立てるらしい。
林道大彦峠から出発。白倉岳登山道の表示があり
左の木に巻かれた白地に緑のテープが目印の様だ

鉄塔のある伐採地から見る雲海

 準備を終えて階段を上がる。巡視路だから良く手入れされている。ほんの5分で最初の
鉄塔、若桜幹線乙bV3の下。ついで6分ばかりで今度は甲bV5。湖北では良く見かけ
る猫鉄塔である。カーラジオで丹波方面は雲海だと報じていたが、どの辺りになるのか南
方向はきれいな雲海である。ここから東側の斜面に取り付いて登り、乙74、乙75と辿
る。鉄塔の立つ台地は概して北側の展望が良い。百里ヶ岳や駒ヶ岳などの若丹の山々が見
えているはずだが良くは分からない。ただ、下に見える谷沿いの小さな集落は上村らしい
ことは分かる。

 いつの間にか道は下から沢音が聞こえる谷の土の斜面をへつるようになり、前方の山肌
へと近づいていくに従って薄くなりはじめる。先行するMさんの足が止まる。すると雪が
ついた時期にこのコースを歩いたことのあるメンバから、これほど高圧鉄塔の下は歩かな
かった気が、鷲ヶ峰の山頂を踏んだはずだが等と声が上がる。確かに745mの鷲ヶ峰を
北から西へと巻いて歩いてきている。どこかでルートを逸れたらしい。今歩いているルー
トにも青いPPテープがあるから何らかのルートらしいが、廃道に近いのか歩き難いのだ。
という訳で今居る斜面を東に登って尾根に出ようということになる。しかし、これがなか
なか手強かった。かなりの急勾配に粘土質の土。ずるっと行けばかなり下まで滑落しそう
で少なからず緊張を強いられる。立ち木の株元から次の立ち木の株元へと、立ち木の無い
所は靴の爪先を土に蹴り込みながらなんとか脱出。先導テープを見つけた時はホット一息
を無意識についていた。

 Uさんはかなり前の所でテープが巻かれた場所があったという。多分、そこで逸れたの
だろう。しかし、尾根はなんと歩きやすいことか。ハイウェイに近い踏み跡がある。要所
に現れる白地に緑に巻かれたテープが白倉岳の登山路を示すようで、このあと烏帽子岳ま
で途切れず続いていた。
尾根の上はこんな錦が

 真っ盛りには些か早い気もするが、ブナ、トチ、タカノツメ、コナラ類はそろそろ黄色
みを帯び、紅葉しているのはウリハダカエデだ。大きなヌタ場がある。日が射し明るい尾
根には鹿の寝床も散見される。大きなアップダウンも無く歩が捗って、15分ほどで82
3m標高点までやってくる。北側やや下に高圧鉄塔が立ち南側が植林、北側が雑木の境目
である。

 旧大彦峠からの道はどこで合流したか見当もつかず、烏帽子岳まで直線距離にして50
0m辺りまでやってくると、何時の間にやら急登にかわる。その急登が落ち着いた頃、村
井からの道が斜め下から合わさってくる。ここには朽木山の会が立てた古い道標があって、
何時だったかこの付近で昼食にした覚えがある。

 再び増した傾斜をそろそろ舎利バテ気味で我慢する。瞬時、東側が開けて比良の山並み
が望めたが、あれは武奈ヶ岳だろうか。狭い烏帽子岳の山頂はもうすぐそこである。

 烏帽子岳というだけあって遠くから見たら急峻なのだろうが、造林公社bR5と刻まれ
た標柱があるばかりの何の変哲も無い頂で、眺望も木立を通して白倉三山が透かし見える
程度である。正午にも小一時間ばかりあり、昼食の場としても余りそぐわないのでもう少
し先に進むことに衆議一決。やおら西の尾根へ踏みこむ。ここも数年前に一度歩いたこと
がある。踏み跡は薄いがヤブもなく歩きやすい。古い黄色の残置テープも疎らにある。概
ね雑木の林であるが、杉林の下を歩く時もあり、尾根は緩やかに高度を下げていく。ここ
にも大きなヌタ場や鹿の寝床がある。糞も転がっていたが、ついぞその姿や鳴き声は見聞
きしなかった。
ブナの黄葉。白倉西尾根にて

 烏帽子岳から約20分、ちょっとした登りをこなして892m標高点を通過する。南に
木の間越しに眺められる、恐竜の背のように凹凸する白倉三山も大分遠のいた。更に20
分ほど歩くと明るい伐採地に出た。若狭幹線乙bW0の鉄塔の立つ尾根は、858m標高
点の約300m東の地点である。時計の針はちょうど正午過ぎ。適当に分かれて昼食とす
る。格好の切り株があったので座ろうとすると、大きな縞模様の蜂がブーンと飛び去った。
オオスズメバチらしい。ちょっとびっくりしたが、威嚇音もなかったし戻ってくる気配も
なかったので助かったが。どこか近くに巣があることは間違いないようだ。

 30分の大休止を経て午後の部開始。Ca860mピークの裾を巻きながらすぐに甲bW
2の鉄塔のある858m標高点ピークに行き着く。南西方向が開けて対峙する経ヶ岳、三
国岳の山並みが大きい。以前はここで巡視路に沿って西へ降りたが、今日はここで北西に
方向を変えてサケビ峠を目指す。鬱蒼とした杉林だが、先頭からなんとスズメバチがいる
との声が上がる。昼食前に見た蜂と同じ一族だろう。オオスズメバチは埋もれた株など地
下に巣を作るだけに振動に敏感だ。現れないことを祈りながら迂回して場を遠ざかる。

 踏み跡は現れたり消えたり。とはいえ、こちらもヤブがないので歩きやすい。尾根も明
瞭でしかもアップダウンも少ないときている。

サケビ峠直下。この辺りは問題なかったのですが...。
 サケビ越えは数年前に、今回とは逆に雲洞谷口からサケビ谷、杤餅谷を経て歩いたこと がある。古道らしいいい道が付いていたが、あれから一昨年の台風や今年の大雨、台風を 経て現在はどうなっているかわからなかったのが今回の一番の懸案事項。しかし、サケビ 峠から下る道は、踏み込んで見ると意外にしっかり残っている。「これなら」と安心した のだが...。  小さなナメ滝のある谷が右手に現れる。その斜面沿いの踏み跡は倒木や雨の影響で土砂 が流れて痩せて不明瞭になっている。なんとなく真直ぐに道が伸びているように見え、進 んでみると案外しっかりした道が復活する。そんなことが一、二度あって、プーンといい 匂いがすると思ったら大カツラが現れた。4段ほどあって3、40mの落差がありそうな 布滝の横、朽木山行会の古い道標がある。
布滝と大カツラのあるこの辺りから荒れ始め...。
道標を過ぎてしばらくで栃餅谷は深いV字を呈するようになる。すると道が不明瞭になっ た。上の尾根に上がる薄い踏み跡があるような無いような。しばらく周囲を探るとなんと 踏み跡をクサギの群生が覆い隠していたのだった。プーンと特有の臭いを抜けると、明瞭 な水平道が現れて一安心。フーッ。  辺りは栃餅谷の名前の通り、トチノキが多い谷筋である。その中に見覚えある大きなト チノキの枯れ木がある。直径1m以上、高さ3mはある大きな枯れ株は自然の植木鉢で、 前回見かけたナツエビネが今も健在であった。そのうちに何の木だか高さ30mはゆうに ある高木が佇立する大きな斜面を目の前にしてL字ターンする。
大栃のあるここまで来たらと早合点したのが大間違い

大石ゴロゴロ。水の力まざまざと

 また見覚えあるトチノキの巨木が現れた。幹に巨木調査の標識があって胴回り5mとあ
る。苔むしてシダやツル植物を纏う巨木は栃餅谷入口の目印でもある。さあ、ここまでく
ればもう安心...のはずだった。が、そうは問屋が卸さなかった。上流部はそうでもな
かったが、下るにつれてそれぞれの支谷が合流して水量が増える為だろう、凄い様相だっ
たことが伺える。皮が完全に禿げた流木累々、そして杉の幹を見れば如何に水量が多かっ
たか一目瞭然。根が露出しているのみならず、水に浸かった部分の樹皮が剥がされて幹の
色が全く違うのだ。人の背丈以上あったのではないか。道は跡形もなく、歩き易い部分を
探して流れを幾度となく渡渉する。ただ、大水が出たことである意味、幸いだったことは、
川中の石が撹拌されて付着したコケ類が洗われて、滑りにくくなっていたことか。濡れた
石に乗っても全く滑らない。それから荒れてはいても、日頃よく手入れされていた杉林で
明るい。ともすれば、もしも...と考える気分を明るく変えてくれる。

 なんとか小一時間ばかりかかってようやく北川の流れが見えてくる。ところがホッとす
るのはまだ早い。ここから最後の本格的渡渉が控えている。北川を越えなくてはならない
のだ。幅は10mは優にある。以前は丸木橋があったというけれど少し増水すれば一溜り
もないだろう。とはいえ一度渡った経験があるのが強み、通常の流れであれば水深は20
cm程度しかない。事前にブティックの包装用ポリ袋を用意してある。これに山靴を突っ込
んでゴムで止める。そしてジャブジャブと突入。あら?片方が浸水っ! こうなればまま
よ。少々はゴアだから大丈夫というわけで一気に渡る。お蔭で大した浸水もなく結果オー
ライ!(笑)
最後の難関、北川渡渉大作戦
 ゴム草履で渡る人、ごみ袋持参の人、人それぞれで無事、全員渡渉、何とか車のデポ地 に戻ってこれた。心の中で万歳三唱だあ。(^^;  だが、今回はこれでまたまた大団円とはいかず。というのは道の駅に最短で行ける大彦 林道。戻るのではなくR367側へ下って、あと数百mという所まで下った挙句、土砂崩 れで通行不能だったのである。往路こっちから来ていたら、多分、縦走は諦めていたかも しれない。それにしても通行不能なら、林道入口に通行止の標識でもあげておいて欲しい ものだ。  こんなことで引き返したり、湖西道路の真野IC手前の渋滞(R161が混雑していた ようだ)に小一時間巻き込まれたり(なんで今日はこんなに車が多いんだ!?)しながら も、ちょっとした山の恵みを頂き、充実感に浸りながら後は比較的スムーズに帰阪したの である。  久々にワイルドで単独では難しい山域を歩くことが出来た。これで北の弓坂から大彦峠 まで、稜線が繋がったことになる。同行の皆さん、ありがとうございました。
【タイムチャート】
06:30千里中央ローソン前(集合地)
08:15〜08:25道の駅くつき新本陣
08:40〜08:45サケビ越え(雲洞谷口)(車デポ地)
09:00〜09:05林道大彦峠(駐車地)
09:10高圧鉄塔(若狭幹線乙bV3)
09:16
09:21高圧鉄塔(若狭幹線乙bV4)
09:38高圧鉄塔(若狭幹線乙bV5)
10:05〜10:10尾根道合流(小休止)
10:20P823
11:07村井コース出合
11:12〜11:20烏帽子岳(916m)
11:42〜11:43P892
12:03〜12:30高圧鉄塔(若狭幹線乙bW0)の伐採地(昼食)
12:39高圧鉄塔(若狭幹線甲bW2)
13:04〜13:06P795
13:43P685
14:03〜14:05サケビ峠(652m)
14:33布滝
14:57杤餅谷入口の大栃
15:33サケビ越え(雲洞谷口)(車デポ地)

■同行: 裏人さん、幸さん、たらちゃん、二輪草さんご夫妻、水谷さん
     水谷さんの友人ご夫妻(五十音順)

■今回のルートはこちら


白倉岳のデータ
【所在地】滋賀県高島市(旧朽木村)
【標高】949.9m(二等三角点)
【備考】 安曇川を挟んで、比良山系の西の山塊に位置し、旧朽木
村の最高峰です。烏帽子岳、白倉岳、中岳、南岳と連山
を形成し、朽木登山会が整備した明快な登山路がありま
す。ブナ林、芦生杉、オオイワカガミ、石楠花が見られ、
四季折々の良さが楽しめるコースです。尚、熊が生息し
ているようなので熊鈴は必携です。
【参考】
2.5万図『久多』、『北小松』



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