今年の秋は真に巡り合わせが悪く、週末になると雨が降る。大した勢力もないのに全国
に大雨の被害をもたらした台風18号というのもあった。秋分の日の三連休も当初の予報
は芳しくないご託宣。それが珍しくいい方に転がる気配。それではと懐で暖めていた蒜山
にでも遠征してみようと思い立つ。下、中、上と三座縦走が面白そう。けれどしばらく山
らしい山にも行っていない。当然、体力は推して知るべし。しかも取付きから下山口まで
の移動は自転車を使う前提、それも変速機なしのママチャリとくれば大丈夫かいな?とな
る。(^^; 考え出せばあれやこれやと不安要素もきりがないが、要は現地へ行ってみねば
分からない。とりあえずその場その時に考えよう。世間ではこのことをよく言えば臨機応
変、普通は行き当たりばったりという。(^^;
まず事前に自転車が車に載せられるかチェック。するとハンドルの高さが問題だった。
懇意の自転車屋でハンドルポストを5cmばかり縮めてもらいなんとかリアから運び入れる
ことができると確認。助手席を最大限前に寄せた後、ゲートから斜めに入れて最後は寝か
せるという寸法。動かないように車のフックにロープで固定する。おかげで乗車定員は運
転手のみの1名になってしまった。(笑)
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ママチャリの積載。ロープで固定、助手席を前に引き
ポリ袋を被せて汚れ防止。お蔭で定員1名、苦労します |
5時半には出るつもりがやっぱり遅れて出発したのは5時50分。それでも道路はこの
時間は空いていて、8時半には最初の目的地、上蒜山スキー場の駐車場に到着する。広い
駐車場に先行車は10台位だったろうか。おお?電柱の横に1台のスポーツタイプの自転
車。同じ考えの御仁がいるみたい。こちらも片隅の草むらに邪魔にならないように自転車
をデポしておいて、蒜山山麓の県道を東に向かう。
結構距離がある。しかも当たり前だが上り坂もある。下山してきてほっとしているとこ
ろへママチャリでの上りはつらいだろう。だんだん弱気の虫が出てきて、中蒜山登山口の
案内を見たら二座縦走で十分だと、思わずそちらの方向へ舵を切ってしまっていたのであ
る。(^^;
塩釜ロッジの奥に登山者用の駐車場がある。こちらはもう十数台の車が駐車。今しも準
備に余念がないご夫婦がいる。正面に山頂付近がガスに覆われた中蒜山があるがまだ結構
遠いじゃないか。
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中蒜山登山者駐車場から中蒜山
朝はガスの中だった為、帰着時撮影 |
ロッジの敷地入口付近にトイレと勢いよく水がほとばしる塩釜の給水施設がある。まず
はトイレを済ませ、手洗いがてら水を含んでみる。美味い。冷たい。
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塩釜ロッジ横の中蒜山登山口。横に水汲み場、電柱に熊注意の表示が |
案内板で登山コースを確認する。中蒜山まで約2時間。そこから上蒜山経由で下れば、
自転車を置いた駐車場まで約5時間のコースらしい。累積標高差は凡そ900m。今の我
が輩にとってはこれで十分なレベルだ。熊注意の看板を横目に林の中へ誘う階段に足をか
ける。左手に龍神地蔵。塩釜冷泉を守る水の神プラスお地蔵さん。文字通りの神仏混交。
しばらくはコナラ、赤松、サワフタギ、ムシカリなどが目立つ平坦な自然林の中。ロッ
ジ方面からの人の声も消え、林を抜け出るとススキ野。右方向へ林道風の幅広の道が続く。
ツリフネソウが旬を迎えている。右手にブナの苗が沢山育ててあるのを見る。「蒜山にブ
ナを植える会」なる保護グループがあるそうだ。前方の一合目標識の位置から左折して再
び自然林の中へ入る。湧き水でぬかるんだ小道。左手からは沢音が聞こえてくる。
まだまだ傾斜は緩いが、小道はようやく山道然としてきて、鬱蒼とした中にブナの灰白
色の幹もちらほら現れてくる。綺麗な流れを横断して極く小さな高みを乗っ越すと今度は
ゴロゴロ石の枯れ沢だ。しばらく歩き難い沢の石を渡り歩いて抜け出ると徐々に傾斜が増
して、ようやく中蒜山の山腹に取り付いたことが分かる。
次第に傾斜が厳しくなる。それもほぼ一直線に登るから体力不足の身には結構しんどい。
汗がポトポト、眼鏡を濡らす。知らず知らずに立ち休憩の回数が増えてくる。
傾斜が緩んだところで石の祠が見えた。登山口の案内図にあった日留(ひるが)神社だろ
う。ここで五合目、標高は800m。一息入れる。今まで静かだったので誰も登っていな
いのかと思いの他、この辺りからちょくちょく人に行き合うようになった。もう降りてく
る人がいる。ご来光でも見物されたんだろうか?(笑) 再び、厳しい登りに変わる。木の根の浮き出た支尾根の鉄砲登りだ。七合目辺りでは鎖
場まで出てきた。ここは我慢のしどころである。八合目までやって来ると、森の中だった
のがいつの間にか大きな木が見当たらなくなって、振り返れば下界が時々見渡せるように
なる。展望を楽しむのにかこつけて立ち休憩だ。この間にほぼ同じペースで登っていたご
夫婦が先に行かれた。(^^;
ようやく稜線上に立つ。下蒜山からの縦走路との出合である。ほぼ一緒に上がってきた
方らと改めて眼下を見渡す。広い蒜山高原は雲の影響でまだらに日が射している。登山口
のロッジはどの辺りだろうか。
西へ向かうと笹原の向こうに立派な避難小屋があり、その先に数人の人がたむろしてい
るのが認められる。あれが中蒜山の山頂らしい。上蒜山への縦走路分岐を過ごして、10
mほどで岡山県と環境省が立てた立派な木製の山名標識と幾つかのベンチのある1,122
mの山頂である。ほぼ長楕円形の裸地の中央に鎮座する三等三角点の標石の頭をなでてお
く。
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中蒜山山頂。ガスが流れ残念ながら周囲の見通しがきかない |
しばらく休んでいると、小さなザックを背負った若い女性が上がってきた。トレイルラ
ンの練習の最中らしい。大分遅れて仲間がやってきたから、この女性が一番スタミナがあ
るみたい。大体、山では女の人の方が体力があると思うのは小生だけだろうか?(笑) こ
の後、遭わなかったのを見ると、犬挟峠へ下山したのだろう。まあ、しかしすごい。ここ
まででもヘロヘロのわが身、とてもまねはできません。(^^;
汗を拭いて行動食を一口。お茶で流し込む。風が体を冷やす。立ち止まっていると寒い
ので寒いので、早々にザックを肩に、避難小屋横に戻って北方向に笹と潅木の繁みの中を
下りていく。道は中蒜山の山頂北側直下に出て、まもなくして繁みを抜けるとそこは笹原
で、その先の小さな尾根の高みに立つと斜め左前方に上蒜山の山体が姿を現す。といって
も鳥取県側から絶え間なく流れてくるガスで、山頂から北半分は白いベールの向こうでは
っきりしない。それとは対照的に、眼下にはユートピアと呼ばれる上と中の両蒜山間に横
たわる笹原。そこに一筋、縦走路が白い。そして見る間にガスが吹き払われて山頂部がち
らり。おっとカメラを構える前にまた頂の姿が消えた。
ルンルン気分で下った鞍部は遮る物が無いので絶え間なく風が吹いて歩いていても寒いく
らいだ。後ろにはさっきまでいた中蒜山。もうあんなに降りてきたのか。(人間の足って
凄いねえ...)でも逆に言えばそれだけ登り返さねばならないのだ。(^^;
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笹原のユートピアとガスが流れる上蒜山
登り返しがきつかった |
その登りがやってきた。それも半端じゃない。爪先上がりとていうのはこのことを指す
のだろう。用意された鎖を持つ手にも力が入る。流れるガスと潅木の茂みで、気を紛らわ
せることができる展望も閉ざされ、ここはひたすらシャリバテの身で高度を稼ぐのみであ
る。
上蒜山も東西に長い山頂部を持つ。ただ中蒜山と違って木々に覆われている。緩い登り
に変わった林の中を行くと林の向こうから人の声が流れてくる。ようやく所謂山頂に近づ
いたようだ。上蒜山の標識が見えるとその前で、先ほどの声の主らしい、二人の若者が談
笑しているところであった。
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ガスに囲まれた上蒜山山頂。ブナに囲まれ中蒜山に比べ静かだ
三角点は標識奥のクマザサを掻き分けるらしい |
笹とブナに囲まれた狭い上蒜山の山頂は見通しが全くない。三角点はガスが流れる中を
熊笹を掻き分けて200mばかり北西に進んだところらしいが、ダニが気になり、シャリ
バテもあって、もう戦意喪失、行く気なし。(^^ゞ 直ちに食事とする。すると中蒜山方向
から単独兄さん。聞けばやっぱりスキー場駐車場に自転車を置いて下蒜山から縦走してき
たという。元々滋賀県の人で単身赴任で岡山へ来たそうで、休みは山三昧。昨日は蒜山高
原の南に対峙する毛無山だったとのこと。その兄さんが先に下山していくと急に寂しくな
った。じっとしているとまたまた汗が冷えて寒くなってくる。当方も店仕舞いするとしよ
う。
南へブナを始めとする広葉樹の気分のいい稜線が続いている。それが開けると前方が見
晴るかされ、豆粒みたいな人間がちらほら動いているのが視認できるようになる。槍ヶ峰
と呼ばれるのはこの辺りらしい。そして前進するに従って、辿ってきた中蒜山から上蒜山
の稜線の雄大な景色が広がりだした。数組の登山者が休憩したり、あるいは食事をしたり
しながら景色を楽しんでいる。ガイド本に上蒜山往復の人も多いとあったがさもありなん。
八合目の標識辺りからは蒜山高原も一望できる。まさに"だいだらぼっち"の世界である。
なんだか下界からスピーカーの声が流れてくる。そこと思しきグラウンドにこれも豆粒
みたいな駐車の列。運動会か何かイベントをしているみたい。その方向へ向かって槍ヶ峰
の先端部から急坂を下る。やがて方向が西に変わって更にどんどん下る。ついに膝が笑い
出した。ふと草むら。ポツンとマツムシソウが咲いていた。
一旦、緩やかな尾根道。この辺りにあるはずだと、下福田山の三角点を確かめていた時
だ。急に繁みからガサガサと何かが蠢く音がする。すわ!クマか! 登山口の注意書きを
思い出して、ザックのクマ除け鈴を鳴らして後ろずさる。ムム。いささか驚いた。(^^;
多分鹿だったのだろうが、正体不明というのは気持ち悪いものである。とりあえず水分補
給で一息入れる。
六合目標識から尾根を離れて再び南斜面を急降下。またまた笑い出した膝をあやしなが
ら張り出した支尾根に乗る。五合目を過ぎると雑木の中となって、永らく楽しめた展望は
途切れる。その雑木林が桧の植林帯に変わる境目が二合目。涼しい風が吹き通る小休止を
取るのにいい場所で、小父さんが一人、立ち休憩中。なんと4時出発で岐阜からやって来
たという。以前、大山登山の途中に見た蒜山の姿がよかったので今回遠征してきたそうだ。
そんな四方山話をしている間に奥さんが降りてこられたようだ。それを機にお先に失礼す
る。
桧の植林下は急傾斜の上、細かい粒子の土が滑って歩き難い。尻餅はつかなかったけれ
ど、何度かスリップ痕は残してしまう。(^^; 景色も全く変化が無いのでひたすら下るだ
けだ。まだかまだかと思ううちに周囲が明るくなってきた。マムシ注意の看板が桧の幹に
かけてある。幸いマムシには出遭わず、蛇は槍ヶ峰からの尾根筋で無毒の一匹に遭遇した
のみだ。ポンと飛び出したのは牧草地の真ん前である。そこから両側に鉄線が引かれた一
本道。赤白のゲンノショウコが咲き乱れる畦道みたいだ。登山道と看板が出た所で百合原
の牧場横。乾いた牛の糞を踏んづけぬように進む。一応、タブレットのGPSで現在位置
を確認しつつ農道を更に南下すると変形Y字路に出る。道標があって、スキー場の駐車場
はヘアピン状に右に折れる道らしい。左手の広場には車が一台。無線に勤しむ男性一名。
やがて道は不動産屋の廃屋付近で車道と合流すると、すぐそこが駐車場であった。
さて、ここから懸案の自転車である。朝に車で走った県道を東へ。最初は快走できたが
まもなく問題の坂道。変速付ならさして苦もないけれど、こちとら自慢じゃないがママチ
ャリ。押して歩くことに。しかも追討ちをかけるように今頃晴れてきやがった。お彼岸と
はいえ、まだまだ陽射しは夏を髣髴とさせ、下山後に日陰のない中を自転車押して歩くの
はつらい。地形図にも記載のある蒜山高原自転車道(こちらは日陰が多い)はというと、
グリーンツーリズムとかなんとかの催しに参加したハイカーの団体に占拠されている。結
局、最後までずっと県道を走る羽目になってしまった。それでも撮影スポットで蒜山の姿
を納めたりして疲れを紛らわせながら途中の道の駅へ。ここまでくればもう少し。しかし、
県道から塩釜までは山すそへ入る道なので緩いながらも坂道だ。700mばかり北上して
ようやくキャンプ場に到着。ここまで駐車場から5.7kmほど。35分ばかり要したこ
とになる。時速では10km/hか。それでも30分は節約できたかな?しかし後で気がつ
いたが、もっと手前で斜めに塩釜に行ける道があった!!文字通り、後の祭りだ。とほほ。
自転車も積んで撤収準備終了後、ロッジの自販機で買ったコーラカロリーメイトを頬張
る。これが堪えられん。美味いっす。さあ、帰って半沢直樹でも見るか。往復450kmの
日帰り旅。三座が二座に縮小、汗だくではあったがなかなか面白い山旅でした。
【タイムチャート】 |
05:50 | 自宅発 |
08:30〜08:35 | 上蒜山スキー場駐車場(自転車デポ) |
08:52〜09:05 | 塩釜ロッジ登山者駐車場(駐車地) |
09:07 | 中蒜山登山口 |
09:45〜09:48 | 三合目 |
10:05〜10:06 | 五合目(日留(ひるが)神社の祠) |
10:42〜10:47 | 八合目 |
10:55〜10:58 | 三山縦走路出合 |
11:06〜11:15 | 中蒜山(1,123.3m 三等三角点『中蒜山』) |
12:10〜12:30 | 上蒜山(1,202m)(昼食) |
12:45〜12:50 | 八合目(槍ヶ峰) |
12:59〜13:02 | 四等三角点『下福田山』(1,030.8m) |
13:10 | 五合目 |
13:30〜13:40 | 二合目 |
13:51 | 上蒜山登山口の牧草地 |
14:14 | 上蒜山スキー場駐車場 |
14:48 | 塩釜ロッジ登山者駐車場(駐車地)(自転車移動 5.7km) |
蒜山のデータ |
【所在地】 | 岡山県真庭市(旧川上村、八束村)鳥取県倉吉市 |
【標高】 | 1,202m(上蒜山) |
【備考】 |
大山の南に位置し、中央分水嶺をなす中国山地の代表的
な山で、上、中、下の三山の総称です。南麓は広大な蒜
山高原で観光施設が整備されています。登山路は東の犬
挟峠、南の塩釜、西の上蒜山スキー場が一般的で、地元
の方々によってよく整備されています。
■日本二百名山 |
【参考】 | 2.5万図『蒜山』 |
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