杤原から早春の愛宕山南北縦走

猪名川町清水付近から愛宕山
平成25年 3月22日(金)
【天候】晴れ
【同行】みずさん、pikkuさん


 県道川西篠山線を篠山方面から南下し、大野山の裾を抜けてくると、前方にひときわ
目立つ三角錐の山容が目に入る。清水東の愛宕山である。実はこの愛宕山の西、猪名川
霊園の南にも愛宕山があるが、標高はこちらの方が100mばかり高い。早春の麗らか
な一日、山友とこの愛宕山系を南北に辿った。

 清水東の集落を南北に貫く車道沿いに一台をデポし、起点の杤原めぐみの森に戻る。
ところで、めぐみの森へは県道沿いの無人野菜売場に車を置くのが無難。確か数年前に
最初に来た時、駐車場という標識があったような気がして進入してはみたけれど、やっ
ぱり非常に狭い一車線で、軽四輪かミニ四駆以外は通行が厳しいようだ。舗装が途切れ、
轍が掘れた地道に雑木枝は張り出すわで、切返しを繰り返してほうほうの体で引き返す
羽目になった。やはり無理は禁物です。(^^;

 準備を整えて集落の中を進む。畔にはノビルやカンゾウが芽を出している。オオイヌ
ノフグリも満開である。「ホーホケキョ」ウグイスの声。大分うまくなったようだ。

墓地右手の笹の斜面から取付いた

 まずは愛宕山系の南の突端にある四等三角点『杤原』に挨拶することで縦走を開始す
ることにする。四つ辻を森とは反対方向に左に折れる。取付きを探すべく山裾を巻きな
がら暫く進むと古い墓地に出た。地蔵の石仏に、もとは立派だったらしい五輪塔の台座
に法輪が転がる。奥に方形の赤レンガ積み。火葬場の残骸らしい。斜面はと見上げると、
10m幅で膝丈くらいの小笹が繁茂しているが、その先は雑木林で何とか歩けそうだ。
薄い踏み跡らしきものもあるので一気に小笹を踏み分けると、落ち葉が分厚い雑木林と
なった。プーンとヒサカキの強烈なにおいが漂う。これこれ。このにおいを嗅がねば北
摂の春を満喫することにはならないのだ。(笑)

 いきなりの急登に息が切れる。しかも落ち葉が良く滑る。細いコナラの幹にすがった
りなぞして体を持ち上げていくと、徐々に傾斜も緩み尾根に乗った。意外やピンクテー
プがヒラヒラしている。我々以外にも物好きがいると見える。時折、コシダの原や倒木
が行く手を遮るものの、茨などもほとんどなく歩きよい。尾根芯を辿って5分ほどで、
松の倒木の向こう、コシダの間の小さな切開きに綺麗な四等三角点『杤原』を見つける。
意外やICタグがない。
四等三角点『杤原』

 小休止してほとんど高低差のない尾根を歩く。人一人歩けるくらいの踏み跡に小枝を
出しているのは、ネズミサシ、ヒサカキ、ネジキ、ソヨゴ、馬酔木、アカマツ、コナラ、
アベマキ等々、定番の植生である。台場クヌギもある。クロモジが小さな黄色い花を付
けている。秋のマツタケ区域の明示の為だろうか、関係者以外立入禁止の札をぶら下げ
たロープが出てきた。やがて右手に傾くと、目の下にめぐみの森を貫く林道の白い路面
がちらつきはじめる。それがだんだん高度差を詰めてくると、前方に東屋と炭焼き窯が
現れる。『ジャライバ』と呼ばれる小広場である。

 語源が良くわからないが、子供たちの遊び場だった由。初めて訪れた時もここで食事
をしたっけ。遠くまで広がる展望はないが南に開けているので明るく気分のいい場所な
のだ。

 舗装路歩きは止して、背後の斜面を丸木の階段道の健脚コースで峰池を目指す。10
0m強の高度差を一気に稼ぐ胸突き八丁だ。息が上がるが、シュンランが二輪、花をほ
ころばせて気分を和ませてくれる。汗ばんだ額を拭いながら、岩が転がる辺りまで上が
るとベンチが置かれている。南方向の視界が広がって、三蔵山や今井岳、羽束山などが
顔を出し、五月山から箕面に続く山並みの向こうに大阪市街の高層ビル群が霞んでいる
のが分る。前回に来た時は金剛、葛城からその奥の大峰前衛までが見えて驚いたのだっ
た。

 何時の間にやら傾斜はほとんどなくなり手入れされた小道がまっすぐ北に続いている。
そして存外あっけなく、右手に峰池の水面を見つける。すぐ先ほど正午を告げるサイレ
ンの音を聞いていたから、水際に木のテーブルを見つけ昼食とした。

 池の岸近くにはヒキガエルのものらしい夥しいゼラチン質の紐状の卵塊。全部が成長
すれば池がカエルだらけになりそうだ。(笑) 枯れ葉色からやや萌黄色に変わりかけた
池の周囲を東から北に向かう。この辺りは通称『くらがり山』と呼ばれるらしいが、山
中の台地で大きな起伏はなく、山というよりは丘というイメージだ。200mも行けば
道標が立ち、関電の火の用心標識もある切開きの三叉路。傍に綺麗な四等三角点『笹尾』
が埋まる。保護石なのか2、3の大きな石が横に転がっている。

通称『くらがり山』の山頂。四等三角点『笹尾』がある

 前回はここから引き返したが、今回はここから北北西方向へ向かわねばならない。地
形がのっぺりしているので、コンパスで常に進行方向を確かめながら歩いた方がいいだ
ろう。地形図に記載されないような低い尾根に乗れば、堂床山が右手に見え、林を透か
して前方に愛宕山の南峰らしい三角錐が頭を出して目印になる。踏み跡も真っ直ぐそち
らに向かっている。ツツジや馬酔木の枝が少々うるさいけれど、テープも適度にあって
歩きよい。

 やがて傾斜が増してくる。いよいよ愛宕山の南峰への登りに入ったようだ。頂まで標
高差は高々4、50m程度なのだけれど、食事後でやや苦しい。(^^; ネズの細い幹を
分け、あちこちに埋まる露岩を避けて行くと、杉、ヒノキが疎らに埋まる南峰の山頂で
ある。北に100mほど離れている本峰とは数mの標高差しかなく、北峰は50m余り
低いので、愛宕山は三耳峰というより双耳峰といった方がいいかもしれない。

 本峰への下りは堂床山と丸山の鞍部に似て、枯葉と粘土状の土壌が相まって非常によ
く滑る。と、別のことを考えて足元注意力散漫となった途端、ズルッと滑って尻もちを
ついてしまった。(^^;

 慎重に下って深い鞍部からの登り返し。鞍部にはパッと見でははっきりした踏み跡は
目につかなかったが、捜せば右遥かにちらちら覗く東の旭ヶ丘住宅地へ通ずる踏み跡が
ありそうである。

 本峰へは埋まる岩の間の登りで登り易い。掴まるに手頃な桧などの立ち木もある。お
かげで南峰から10分足らずで幾枚かの登頂プレートが架かる本峰(514m)に着い
た。
愛宕山本峰山頂

 本峰らしく南峰より広い山頂は小広場というか、中央に鎮座する愛宕社の境内といっ
た感じ。その愛宕社も最近は拝みに来る人も無いといった風情で、石積みの上に置かれ
た北向きの祠の屋根や木枠は健在なものの中身はガランドウである。それゆえ祠前に供
えられた数枚の賽銭もかなり古い代物だろう、緑青や錆が目立つのみである。

 10分足らず小休止して仁頂寺方面へ下山。地形図からかなり厳しい下りを覚悟して
いたが、南側よりはっきりした踏み跡があり、しかも古い道らしく適度につづらに折れ
て滑ることもない。これだけ顕著なのは、愛宕社が北向きだったしどうもその参道だっ
たのではないかと思える。尾根が細くなってきて木間がくれに西に清水の集落と猪名川
霊園が見え、東には細長い旭ヶ丘の住宅地。そこから犬の鳴き声が意外に近くに聞こえ
る。前方が開けると、前方にドーンと大野山。高圧鉄塔の目立つ高岳。弥十郎岳らしい
高みも見える。

 いつの間にか北峰は過ぎたらしく(というか小さな高みはあったが)どんどん下ると
小さな台地に古い廃共聴アンテナがポツンとある。参道跡を利用して埋められた黒いケ
ーブルが時折露出している。

 相変わらず一本調子の下り道が徐々に洗掘された半トンネル状を呈すようになってく
る。20cmはあるだろうか。その底に厚く積もる落ち葉。こんな道が100m位続いた
だろうか。前方が明るくなるとそこは舗装路の終端で、仁頂寺の南端の民家の前である。
『北摂の山』の著者の慶佐次さんと同様、庭先の老犬に吠えられた。(笑)

矢印付近から民家の前に飛び出した。知らないと
まさかここが北側の取付きとは思わないだろう

 あらためて飛び出した地点を振り返る。教えらていたならいざ知らず、初めて登る場
合、目立たない所にテープはあるが登山口のプレートさえなく、まさかここが取付きだ
とは思うまい。(笑) 参道もこの辺りでは完全に消えているようである。

 後はブラブラと清水東の車のデポ地まで戻るのみ。旭ヶ丘への車道に出て、更に左に
ショートカットする。あちこちでウグイスが長閑に囀る。左手に愛宕山の起伏がある。
歩いてきた稜線を眺められるのはいいものだ。10分も歩くと清水東であった。

 杤原めぐみの森の駐車場で散会の後は、気になっていた電子基準点の見学に行くこと
にする。再び県道を北上すると、猪名川町島の大島小学校が見えてくる。邪魔にならぬ
よう近くの脇道に入って駐車し県道に戻ると、小学校の運動場隅のフェンス近くに銀色
に輝く金属ポールが見える。あれだなと直感し、フェンズ沿いに歩いて運動場ゲートの
重い門扉を引く。幸い鍵はかかっていない。お母さん二人に挨拶して電子点へ。高さは
3m位か。大きなバズーカ砲の砲弾のような形をしている。たもとには金属標識が埋設
されており、ポールには以下のような国地院の説明書きがある。

電子基準点『猪名川』。小学校の運動場脇にあった

『電子基準点は地上約2万kmの高さを周回するGPS衛星が発信する電波を受信し、
この地点の位置を観測するための施設です。受信データは、つくば市にある国土地理院
に毎日転送しています。この受信データは、土地の測量、地図の作成、地震・火山噴火
予知の基礎資料に利用されます。』
「ふーん、なるほど」初めてしげしげと眺めた電子基準点であった。

 先ほどのお母さん方と四方山話。大島小学校が猪名川で一番古い小学校であること。
立派な甍が見える寺が尼寺であることなどを教えてもらう。そうして、目の前にある愛
宕山をあらためて眺める。三峰が重なって全くのピラミッド。概して愛宕山と名付けら
れた山は鋭いが、島から見る愛宕山も例に漏れず端正で最も整っている。その山頂にあ
る社が北向きであり、島や仁頂寺、清水の人々が祀ったらしいことがこれによっても分
る。しかし、その参道も今は時折、山好きが歩くのみ。なんだか少し寂しい感じがした。

猪名川町島から眺める端正な愛宕山

 南の杤原から仁頂寺まで。短い食事の時間を入れて3時間程の南北縦走であったが、シ
ュンランが咲き、ヒサカキのにおいがプンプンする早春の北摂の山を堪能した山歩きであ
りました。



【タイムチャート】
10:00川西能勢口駅北ロータリー
10:50〜10:55杤原めぐみの森駐車場(駐車地)
11:07〜11:10墓地
11:23〜11:27四等三角点『杤原』(269.7m )
11:34〜11:36ジャライバ
12:02〜12:26峰池(昼食)
12:32〜12:35くらがり山(431.8m 四等三角点『笹尾』)
13:00〜13:03愛宕山南峰(Ca500m)
13:11〜13:19愛宕山本峰(514m)
13:29〜13:30愛宕山北峰(460m)
13:34廃共聴アンテナ
13:50仁頂寺南奥の民家
14:02清水東(車デポ地)



愛宕山のデータ
【所在地】兵庫県川辺郡猪名川町
【標高】514m
【備考】
 兵庫県と大阪府の府県境近く、堂床山の西に位置しま
す。南北に三つの峰が並んでおり、北の島付近から眺め
ると、一際目立つピラミダルな山容が望めます。南麓に
整備された杤原めぐみの森からのアプローチがメインと
なりますが、道標はなく、地形図とコンパスは必携です。
【参考】
2.5万図『木津』



■愛宕山GPS軌跡    南から北へ辿った(罫線は10秒=約300m 
国土地理院電子地図サービス、フリーソフト『カシミール』を利用しました)

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