赤兎山〜秋色迎える白山展望台

赤兎山山頂から秋色の赤兎平と白山の山並み。御前峰山頂部はまだ雲の中だ。赤兎平中央奥に避難小屋が見える

平成25年10月19日(土)
【天候】曇り
【同行】別掲


 雨が屋根を叩く音がする。元々、奈良方面の山へ行く予定のところ、近畿中南部は雨の
予報に、急遽、北陸に矛先を変えたのだが、この降りじゃぁ北の方も駄目かも...。折
角遠征するのに雨に降られては元も子もない。とはいえ「やっぱり現地まで行ってみなく
ては」というようなことが今までにも多々あった。ここは腹をくくるしかない。(^^;

 6時に迎えに来てもらったが、途中ピックアップするメンバが若干遅れるという。下道
を走って時間調整しながら、7時半過ぎ深草BS。あとは福井目指してひた走る。滋賀県
北部に入ると路面に雨の形跡もなく、雲が切れて薄日も射し始める。予報通り。なんとか
空模様は心配しなくてもよさそうである。(^o^/

 途中休憩をはさんで福井北ICで高速を降りて九頭竜川沿いに勝山に入り、R157で
北東進する。杉山鉱泉の案内を左に見てしばらくで六呂師だ。辺りは滝波川沿いの山里。
”六呂”即ち”轆轤”。いかにも木地師が住んだという雰囲気がある。やがて赤い木根橋
の鉄橋を渡ると、右手にヘアピン状に小原林道が分岐する。『赤兎山、大長山登山口』と
手製だが目立つ看板が出るから見落とすことは無かろう。

 国道から少し入った所にある小原の集落。その外れに通行止のロープが引かれている。
横にプレハブ小屋があって小父さんが出てきた。林道管理料300円/人。途中にあった
公営の温泉施設「水芭蕉」の割引券をくれた。

 古いガイド等には悪路だと書かれていたが、流石、”有料”なだけあって道は全線舗装。
(ほんの一部ダートあり)「お金取ってダートやったら怒〜るでぇ」と突っ込みも入れたく
なるが、あまり冗談に興じてはいられない。ガードレールなし、対向車注意の一車線道が
くねくねと続くのだ。といっても割りに穏やかな登りなのでスピードさえ出さなければ走
りやすい。熊も出るというが、車の前を横切ったのは可愛いニホンリスだった。

 結構な時間を費やして標高も1000mを超えた頃、右手に30台は止められそうな駐
車場に到着。既に20台近くの車があり、今しも準備中のパーティもいる。簡易トイレに
水場もあり、これなら車泊も可能だろう。但し、夜は明かり一つないから、単独の場合ち
ょっと心細いかもね。(笑)
小原登山口

 準備を終え、林道をゆるゆると登っていくと左手にもう一つ小さい駐車場があり、更に
50mも行くと中地蔵と刻まれた二体のお地蔵さんの祠。平成6年とあるから比較的新し
いものだ。林道開設か禅定道復活かなんぞの記念に置かれたのであろう。その傍の木階段
を上がると、くすんだ緑の中に渋い黄色主体に色づき始めた雰囲気の良い林の中に、良く
踏み込まれた登山道が吸い込まれていく。この時期、キリンソウ、ツルリンドウ、タムラ
ソウぐらいと花は少ないが、その代わりをマムシグサ、ナナカマド、ムシカリなど赤い実
が目を楽しませてくれる。どこからか沢音がすると思ったら、この先、二度三度と登山道
は澄んだ水の流れる沢を横切る。

気分のいい雑木林の中を行く
 古道の雰囲気を残す道はごろごろ石で歩き難い部分もあるが、大した登りも無く続く。 一時間ばかりでブナ林に囲まれた猫の額ほどの広場にやってきた。小原峠で、小原からや ってくると、向かって右が赤兎山0.9km、左のやや下り加減の小道が大長山2.4km、 直進は川上御前への道と道標が示す。ちょうど一息入れるのにいい所で幾組かのパーティ が休憩中。後から柴犬を連れた家族連れも上がってきた。本格的な黄葉はこの付近の高度 まで降りてきているようで、淡い黄や濃い黄が織り交ざった木立がしっとりと美しい。
小原峠。左は大長山、右は赤兎山で直進が禅定道
 湿地の水溜りがあちこちにある盆地状の地形を抜けると、いよいよ加越国境の急斜面の 登りとなる。九十九折れの登山道の左右には下生えに混じって大きなブナが灰白色の幹を 見せ、地面にもその実を落としている。今年は不作と聞いていたが、見ればそこそこの数 の実が転がっている。  段差が合わない石の階段に消耗しながらジグザグを一気に高度を稼ぐと、木立が途切れ、 ピラミッド状の端正な大長山が山腹を色づかせながら目の前に姿を現わす。曇り空なので くすんで見えるが、日が射せばもっと鮮やかなだろうにとやや残念だが、大阪のあの雨を 考えれば「御の字」の空模様だ。まことに人間の欲は限りが無い。(笑)
ブナの黄葉を通して端正な大長山が
 時々開ける展望で疲れを癒しながら胸突き八丁を我慢する。地元の人の努力で道に被さ ってくる笹も刈られて助かる。その中に光沢のあるコイワカガミに混じって一際赤い実が ある。ゴゼンタチバナの実である。実を見たのは初めて。輪状の葉の中心に数粒重なって 1cm足らずの天然のルビーを連ねる。  大舟分岐までやってくると、もう急な登りは無くなる。周囲は笹が多くなって大きな木 が少なくなり、ダケカンバ、ナナカマド、イヌツゲ、ムシカリ等の低木が目立ってくる。 その間を一歩一歩進むと、前方、クマザサに囲まれた中に赤兎山の山頂を示す標柱が立っ ているのが見えた。そしてそこに立つと、目の前一杯に思いがけなくも白山の大展望が広 がっている。途中で下山する人にすれ違った時、白山は見えなかったとの返事だったのに これはどうだ。八合目から上はまだ雲の中だが、それも徐々に薄れていくようだ。大汝峰、 御前峰。別山、三ノ峰とズラリと居並ぶ。赤っぽい岩肌と対照的に、岩襞の部分には筋状 に雪が残る。二日前の17日にこの秋最初の冠雪があったとは、後刻、新聞で知った。
ゴゼンタチバナの実
 首を南へ振る。経ヶ岳や荒島岳がある。遠くには越美の山々の重なりがあり、中でも目 立つピラミッドは能郷白山らしい。北には大長山から取立山の峰々が、西には九頭竜川沿 いの山々が眺められ、ガスっていなくとも今日は大して視界は延びないだろう、雨さえ降 らねばいいやとやや諦めがあったから、この好展望に今までの疲れも一気に吹き飛ぶ思い だ。  赤兎山の山頂は六畳程度の丸い小さな広場で、南方向には鳩ヶ湯温泉への下山路が延び ている。広場中央には礎石以外はほとんどむき出しの三等三角点。なぜか点名は『赤鬼山』 である。こう云っては失礼であるけれど、多分お得意?の書き誤りなのではないか。(笑)
赤兎山山頂。点名はなぜか『赤鬼山』
 避難小屋の先が展望の特等席なので、遅い昼食はそちらでと小屋へ向かうことにする。 赤兎山の東側は赤兎平と呼ばれる二段状の広い台地になっていて、季節にはニッコウキス ゲやササユリ、イワイチョウ等が咲き乱れる別天地なのだとか。遠くに瀟洒な避難小屋が 見える。上側の台地の突端からは、間もなく雪に埋もれる前の灌木の黄色、朱色のグラデ ーションが美しい。その向こうにたたなづく白山。おりしも雲の隙間からまったく期待し ていなかった青空が覗き始め、日が白山の山々に射し始め、山襞の陰影を際立たせる。
別山と赤兎平
避難小屋付近から赤兎山を振り返る
陽が差し、黄葉が一際映える。後方は石徹白方面の山並み
 整備された木道を歩く。左右に赤池湿原の池塘が点在している。梅雨時にはモリアオガ エルの卵塊も見るという。ベンガラ色に塗られた避難小屋が近づいてくる。周囲にもマッ チして、赤兎平のランドマークといってもいい。瀟洒な中にも豪雪にも耐えられるよう非 常に頑丈な造作。中も清潔だ。その横を通ってわずかに登り返すと100mばかりで、台 地は裏赤兎山から三ツ谷への禅定道が通ずる尾根以外は、深々と白山と隔てる市ノ瀬の谷 へ落ち込んでいく。三ツ谷にむかって急激に切れ落ちる。だから突端からは赤兎山山頂の 展望以上に遮るものがない。白山の大パノラマ展望台たる所以だ。そこには太い木のベン チが置かれ、数人の方がダイナミックな景観を楽しんでいる。数日前の初雪を頂いた白山 釈迦岳、大汝峰、御前峰。室堂平から南竜ヶ馬場を隔てて別山、二ノ峰、三ノ峰、銚子ヶ 峰、更に石徹白方面の山々が続く。チブリ尾根や以前歩いた上小池から三ノ峰に至る道筋 も一望である。双眼鏡で覗けば、南竜ヶ馬場に建つ南竜山荘、三ノ峰の避難小屋がはっき りと見て取れる。室堂から西へ落ちる大きな沢には、砂防ダムが幾重にも施されてある。 あの辺りを砂防新道が通っているのかな?  まだらな日の光に刻々と陰翳を変える山襞。何時間眺めていても見飽きない。食事を含 めてどのくらい留まっていただろうか。だが到着が遅かったので、そう長居もしていられ ないのが心残り。後片付けをして引き返した避難小屋でもう一度東を振り返る。と、石徹 白方向の山並みの奥にうっすらとした別の山並みが見えるではないか。北アルプスか。双 眼鏡で覗くと8月にお邪魔した御岳らしい。こちらも白く冠雪しているようであった。  昼食直後だけに赤兎山への登り返しの階段道が意外にしんどい。2時を過ぎて登山客も 少なくなって、山頂には我々だけ。雲の隙間から青空も覗いて西日の当たる山肌がきれい だ。台形状をなす御岳がより鮮明に白く見えた。  再び小原峠まで降りてきて小休止。確かお地蔵さんがあるはずと川上御前方面へ確かめ に行くと、向こう側10mも行かない路傍に祠がある。中を覗くと小さな石地蔵二体と不 動明王が仲良く並んでいる。「白山禅定道 平泉寺」の標柱もあり、目を上げると木立の 向こうになんと白山の姿がある。昔の信仰者にとっては、禅定道を峠まで上がってきて初 めて仰ぎ見る白山との劇的な出会いということになる。因みに川上御前とは白山の産土神 で、禅定道を歩く者を守護する女神なのだそうだ。白山比盗_社の主神も女神だから、白 山を開いた泰澄上人も女好きだったのかな。(笑)
小原峠の祠前から白山

小原峠の石仏

 周囲が心なしか黄色っぽいのは、木々の黄葉の所為ばかりだけではないようだ。西に傾
き始めた日の光も、木立を貫く力はもう半ばは失って木々の懐はもう薄暗い。林道へ出て
上の駐車場に残る車は一台のみ。下の駐車場も櫛の歯を引くように減っている。管理ゲー
トの小父さんに会釈して国道に出たのは4時過ぎであった。

 天候の芳しくないのが幸いしたのか、御岳の時と違って高速道路も比較的空いていて、
スムーズに帰阪でき、9時前には自宅のTVの前で缶ビールの栓を抜いていた。コストパ
フォーマンス良く登って白山の大展望を満喫できる赤兎山。もう少し近ければ何度でも行
きたくなる山である。皆さんありがとうございました。
【タイムチャート】
06:00自宅発
07:35深草BS
11:00〜11:05小原登山口駐車場(駐車地)
11:09小原登山口(Ca1,150m)
11:59〜12:04小原峠(大長山・三ツ谷分岐)(Ca1,400m)
12:34大舟分岐(Ca1,550m)
12:54〜12:55赤兎山(1,628.7m 三等三角点『赤鬼山』)
13:16〜14:05赤兎山避難小屋付近(昼食)
14:20〜14:23赤兎山(1,628.7m 三等三角点『赤鬼山』)
14:39大舟分岐
15:04〜15:10小原峠
15:45小原登山口
15:48小原登山口駐車場(駐車地)

■同行 くぅちゃん、たらちゃん、水谷さん(五十音順)


赤兎山のデータ
【所在地】福井県大野市、石川県白山市
【標高】1,628.7m(三等三角点『赤鬼山』)
【備考】 手取川流域の渓谷を挟み、白山の西に派生する加越国境
をなす支脈に位置します。山頂付近はなだらかな笹原で
文字通り360度の展望で、なかでも白山の姿は圧巻で
す。また赤池と呼ばれる湿原があり、季節にはニッコウ
キスゲやイワイチョウなどが咲き乱れます。小原の他に
鳩ヶ湯温泉、白山禅定道の登山コースがあります。
【参考】
2.5万図『願教寺山』



■赤兎山頂からのパノラマ画像

避難小屋の東側、赤兎平の突端付近から白山。左から四塚山、大汝峰、御前峰、南竜ヶ馬場を隔てて別山、三ノ峰。中央手前に願教寺山の尖峰も見える
南側には越美の山々。荒島岳の右肩奥に能郷白山が尖る

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