滝山〜雪化粧の大峰を展望する

ススキたなびく林道から滝山(左)と天和山。奥は大峰主稜
平成24年11月3日(土)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 かねがね噂は耳にしていたけれど、これほどの展望が得られるとは思っていなかった。
大峰山脈主稜の主だったところが一望なのである。北から大日山と稲村ヶ岳。奥に少しだ
け山上ヶ岳。近畿最高峰の八経ヶ岳、明星ヶ岳、神仙平に舟ノタワ、仏生ヶ岳に七面山、
孔雀ヶ岳、釈迦ヶ岳と続く。とりわけ大日山と稲村ヶ岳の姿が秀逸だ。今まで東からもし
くは北西側からしか見たことがなかったから、南西から見る姿は新鮮で、稲叢(いなむら)
というより刈りとられた稲の株元のようだ。ここは高野辻。これから歩く滝山の起点であ
る。

 大峰の奥駈道の靡である深仙の宿へと突き上げる赤井谷を辿って、釈迦ヶ岳へ登る一泊
二日の企画をTちゃんがネットに上げた。先週の砥峰高原プランとは打って変わって晴天
が約束された二日間。それが予定日前日、身内に不幸の連絡があって、母親の名代でお通
夜に行かねばならなくなった。長丁場で時間がかかる事が予想され、旭登山口からの戻り
を考えると、通夜に間に合わない公算が高い。それに時間に急かされて山歩きするのも好
きではない。それならと、初日に企画された高野辻から滝山ピストンだけでもと参加する
ことにした。

 初日の集合場所は道の駅大塔。途中で買った弁当を駐車場奥の日溜まりのベンチで食べ
る。時間があるので売店を冷やかしに行くと、入口には去年の山抜けの生々しい写真が展
示してある。聞きしに勝る深刻なものだ。向かいの民俗資料館前には十世帯ほどの仮設住
宅があり未だに災害の爪痕を実感する。

 Hちゃんが渋滞に捕まって少し遅れるという。先に高野辻まで。猿谷ダム湖畔の道は狭
い。対向車に注意だ。トンネル工事中で南側出口は熊野川の上。橋梁で直線的につなげる
ようだ。R168の迂回路を右折せずに直進、少し行くと五条市大塔支所(旧大塔村役場)
のくすんだ建物があり、その角を左折する。道は宮谷川沿いとなり、一軒家の料理旅館、
更に殿野の集落への道を過ごしてどんどん山懐に分け入っていく。道は所々小さな落石は
あるものの、1〜1.5車線の舗装路で存外走りやすい。川から離れると幾つもカーブを切
りながら一気に高度を上げる。ヘアピンを曲がると目の前にヤマドリの姿がある。繁みに
駆け込めばいいものを、慌てているのか暫く車道を走ってそれからやっとヤブに逃げ込ん
だ。

 何度かヘアピンを切って、傾斜が緩むと前方が開けた。ヘリポートのコンクリートの擁
壁の裾をぐるりと曲がると、林道殿野坪内線の始点で、右手には大峰山脈の大パノラマが
広がる。あれ?なんと九合目より上が白っぽい。雪か霧氷を被っているらしい。この時間
まであるとしたら雪であろう。氷ノ山初冠雪の便りは新聞で知っていたけれど、まさか南
近畿のここでもとは想像していなかった。あとは冒頭の記述のままである。

 テントを立てたりしていると、遅れていたHちゃんがやって来た。帝国の午後2時半。
全員で滝山へ向かうことにする。しばらくは林道歩きだ。地道だがほとんど荒れておらず、
一般車でも大丈夫そう。(但し、一ヶ所、雨水で土砂が流されている部分がある)伐採地
からは眼下の谷間に篠原の集落が眺められる。自治体のHPによれば、この辺りは木地師
の活躍した地域とのこと。山懐の隠れ里は独特の伝統文化を今に残しているということで
ある。
二つ目の木製階段で林道から山道に上がる

 1045m標高点の横を過ぎると、尾根に上がる木の階段が二箇所出てくる。その二つ
目の所から尾根へ上がることにする。林道始点から歩いて約20分の地点だ。地形図の林
道終点はまだ先であったが、結局ここから尾根に乗ったのは正解だったらしい。というの
は地形図の林道終点の更に先まで林道は延びているようではあるが、尾根と林道の標高差
はどんどん広がっていくからである。しかも尾根の南北方向はかなり急峻なのである。

 土砂が流れて半分浮き上がった木製階段を上がると尾根上に幾つか並ぶコブがいい色に
色づいている。概して天川村が植林、五条市(旧大塔村)側が自然林である。木立の中に入
ると黒い糞が落ちていた。タヌキかと思われたがひょっとしたら熊かもしれない。数年来、
この周辺でも目撃情報があるようだ。

 ここで地形図を確かめると、高野辻から滝山まで標高差は100mばかりだが、歩いて
見ると想像より急峻なアップダウンがある。尾根は風が強くて、植林の下に入るとなお寒
い。気温は多分一桁台だろうが体感は0℃近いはずだ。しかしアップダウンに気を取られ
ている間は寒さを感じない。踏み跡は雑木林に入ると徐々に薄くなる。しかしなんとなく
踏み跡が見えてくるから不思議。直登が難しい斜面にもうっすらとジグザグが切られてい
る。ロープが垂らされた箇所もあったらしいが小生はそこを通らず気づかなかった。稜線
上に大ブナがある。傾いた陽射しに黄葉が輝いて、黒々とした幹とは好対照をなす。

滝山への尾根に立つ大ブナ

 ようやく前方に滝山らしき高みが見えてくる。それへ向けて岩がちな細い斜面を行くと
尾根の分岐で、東方向へほぼ直進すると川瀬峠を経て天和山へと続く尾根である。滝山は
北方向へ細尾根を左に折れる。ほんの少しでこじんまりした滝山山頂の三角点(三等三角
点『和田』)に着く。数人が立てば満杯の山頂にはプレートが二、三枚あるのみ。桧が成
長して360度の大展望は望めないものの、さっきよりやや霞みが強くなったけれど、東
には天和山の向こうに頂仙岳から弥山、仏生ヶ岳、孔雀岳、釈迦ヶ岳と続く大峰主稜が高
野辻より少し大きく見えている。西は唐笠山と白六山が目立ち、陣ヶ峰や高野三山をはじ
めとする紀州の山々が重畳する。山深さを実感する光景が展開する。

 山頂はゆっくりできる場所もないし、時刻はもう午後4時前。陽射しは傾いてもう赤み
を増し始めている。足元の明るい内に下山したいというわけで10分ばかりの休憩で元来
た道をとって返す。

 「登れる場所は下れる場所」という風な格言を聞いたことがあるが、往路で土が流れて
滑りながら登り、これは下るのに難儀しそうだと思った箇所も、案外なんなく下れる。そ
んなわけで意外に早く林道の木階段に着いた、ように感じた。未知の道は長く感じ、一度
歩いた道は短く感じるのは山歩きした人は常に感じることではあるが、調べると行きも帰
りもほぼ同じ所要の時間なのであった。(笑)

林道秋色

 高野辻に戻って来ると、一台の軽四駆がある。この辺りの自然保護をしているという小
父さん2、3名。本当かウソか熊に餌をやりに来たという。そういえば滝山登山道で黒い
糞を見つけたと話すと、白六山方面には一頭生息しているから、それはきっと熊のものだ
という。野獣臭い箇所や爪痕はなかったが、この辺り、十分信憑性のある山深さがある。
高野辻から見える皆伐地にドングリを植えたそうだ。十年もすれば熊の餌も豊富になるだ
ろうか?

 秋の日はつるべ落とし。四時半を過ぎるともう薄暗い。皆さんに挨拶して山を下る。往
きの集合地点の道の駅で小休止。明日は気を付けて行ってらっしゃい。



【タイムチャート】
10:00自宅発
12:10〜13:20道の駅『大塔』(集合地)
13:55〜14:30高野辻
14:51尾根への最後の木階段
15:10地形図の「林道終点」最接近地点
15:33〜15:40滝山(1,140.4m 三等三角点『和田』)
16:23尾根への最後の木階段
16:44高野辻

■同行: 裏人さん、さかじんさん、たらちゃん、たるるさん、ハム太郎さん、
     ひろぴぃさん、水谷さん(五十音順)


滝山のデータ
【所在地】奈良県五條市(旧大塔町)、吉野郡天川村
【標高】1,140.4m 三等三角点『和田』
【備考】 大峰山脈から西に派生する支尾根の一峰です。高野辻か
ら滝山の数百m近くまで林道が付けられており、登り易
くなっています。木立にやや阻まれますが、周囲の展望
が良く、高野辻と並んで大峰の展望台となっています。
尚、この一帯にはクマが生息しているという情報があり
熊鈴、ラジオ等を携帯したいものです。
【参考】
2.5万図『南日裏』『辻堂』



高野辻からのパノラマ画像

初雪を頂く大峰山脈遠望(1) 左から大日山、稲村ヶ岳。頂仙岳、弥山、八経ヶ岳。手前は左の滝山から天和山へ続く稜線

稲村ヶ岳を拡大してみると...。
右に山上ヶ岳が顔を覗かせる(150mm望遠にて)
手前に栃尾辻から弥山に続く尾根が見える

初雪を頂く大峰山脈遠望(2) 左から八経ヶ岳の肩から明星ヶ岳、舟ノタワ、七面山、仏生ヶ岳、孔雀ヶ岳、釈迦ヶ岳

 トップページに戻る

inserted by FC2 system