春冬せめぎあう須磨田三山縦走
須磨田山塊。中央が取付いた峠で右が黒谷山、左に遠城寺山
左端に天神岳。右端に『呼吸している大地』が見える

平成24年 2月26日(日)
【天候】うす曇り
【同行】別掲


 道路地図やWebの地図を何気なく見ていると、どうということはないにも関わらず、
興味を引く地域がある。その一つが今日の定例オフの舞台の遠城寺山、茗荷谷山、天神岳
の須磨田三山である。最高の天神岳でも450m足らずの低山帯。しかし三田と篠山の市
境に発する武庫川の流れに立ちはだかって大きく蛇行させ、南の黒谷山を合わせて小縮尺
の地図にも山名が記載されていることが多く、道路地図を見てははて何でだろうとちょっ
と気になっていた。HPを検索してもあまり記載が多くない須磨田三山。今回、山の会の
オフにかこつけて、実際に歩く機会に恵まれた。

 三山への最寄りの駅はJR福知山線の藍本である。小生は宝塚から乗車したけれど、藍
本9:04着の篠山口行には本日参加の他のメンバ5名がもう揃っている。天候は前日予
報よりも芳しくなく、車窓の外はどんより寒空が広がっている。雪はまだしも雨が降りは
しないかとちょっと心配になる。

波田橋を渡ると須磨田三山が見えてくる
右手の黒谷山北麓斜面の向こうに遠城寺山。左は焼山

 藍本駅はまた、人気のある虚空蔵山の最寄駅でもある。その登山者が多いではと思った
が、北風の強く吹く寒空の所為か、我々以外に駅の改札を潜ったハイカーの姿はない。綺
麗なトイレで用事を済ませて、西の駅前広場から旧街道を南下する。由緒を感じさせる酒
滴神社の門前を過ぎ、郵便局前の踏切を渡るとR176に出る。これを更に南下して、や
がて見えてきた波田橋を渡った所で武庫川沿いに東に折れる。前方よく目立つのは大峰の
行者還岳に似てやや南に傾いだ山頂を見せる焼山だ。右手にポコポコと凹凸するのが今日
の舞台の須磨田三山の山並みらしい。なるだけ車道歩きを避ける為、武庫川右岸の桜並木
のある地道を歩く。冬枯れの田んぼの向こうの山際にもう一本並行する道があるようだ。
エホバの証人教会の明るい緑の建物の前を進む。

 前方に広がる田んぼを貫く道路脇に、巨大で白い何やら風力計のようなものが眼に入っ
てくる。近づくと『呼吸している大地』との説明がある。なんと風力発電設備なのだそう
である。風の彫刻家、新宮晋氏の主宰する田んぼのアトリエプロジェクトの一環の造形ら
しい。折からの強風にゆっくりと羽根が回る。それにしても忽然と現れる異物体。当初は
地元の人もびっくりしたに違いない。

 実は今日の出発点はその新宮晋氏のアトリエなのだ。T字路に突き当たって山際へと一
本道を進むとそのアトリエの入口で「進入禁止」の標識がある。とりあえず通行許可を得
ようと敷地内に入らせてもらうと、巨大なオブジェが至る所にあって、風を孕んで思い思
いに回転している。どこかで見たことがあるような気がしたが思い出せない。(市立豊中
病院で見たようだ。新宮氏は豊中市出身)

 林の中に事務所らしい建物を見つける。中をうかがうが室内に明かりもなく今日はどう
もお留守らしい。申し訳ないが今日は無断で通らせてもらうことにして、建物横の雑木林
の中に延びるやや荒れた小道を見つけて猪除けの扉を開ける。

 まずは最初の目的地点、黒谷山と遠城寺山の間の峠へと向かおうとすると、右にも同じ
ような扉がある。覗くと小さな池だ。水面に白い船風のオブジェが数個、これも風を受け
て前後左右にうごめいているのが目に入る。池の堤で眺めていると何か曰く言い難い不思
議な空間に立っているような気がする。

池に浮かぶ白鳥の様なオブジェ
遠景の左が遠城寺山。縦走開始点の鞍部が見える

 ツツジなどの灌木の枝の張り出しや倒木がうるさいのを我慢して、林の中に伸びていく
踏み跡を辿ると、やがて幅2m、深さ1mほどのえぐれた流れに沿うようになる。山肌が
崩れた個所もあって次第に歩き難くなり、やむなく左岸に移れば流れから3mほど離れた
辺りに明快な小道が現れた。地形図にある点線路はこれであろう。昔から歩かれてきた道
のようで、あのオブジェのある池の端から延びてきたのだろうか。このまま続いてくれれ
ば、須磨田三山の主尾根の峠まで思いの外、不安なく進めそうである。(笑)

 小さな谷に流れ込むこれまたか細い流れを幾つか越える。これが結構滑る。片足がズル
ッとした瞬間、留めようとしたもう一方の足も滑ってあっと思う間もあらず、ものの見事
に前倒しである。大事には至らぬが打った腰がちょっと痛い。(^^;

 水のない流れのちょっとした段差を灌木を支えに登るとその先はもう黒谷山と遠城寺山
の間の峠であった。『境』と刻まれた石標があり、東にもいい道が降っているのが看て取
れる。稜線には黒谷山にも遠城寺山方面にも存外、はっきりした踏み跡がある。ことに遠
城寺山方面には残置テープがうるさいほどつけられている。しかしこの残置テープ、えて
して肝腎な個所にはつけられていないから注意が要る。(笑)

 小憩して一つ目の遠城寺山へ向かう。人一人通れるくらいの隙間があり、鉈目も入って
いるので歩きやすい。マツタケか猟で人が入っているのであろう。稜線上に出ると今まで
収まっていた寒風がやはり強くなる。時に飛雪が混じるようだ。が、結局、雨にも遭わず、
最後まで小雪程度の雪で済んだのは雪嫌いの小生には幸運であった。

 遠城寺山は縦走路からは若干西に外れている。それほどきつい坂もなく登りついた遠城
寺山の分岐から左手のコシダの茂る中に踏み跡がある。5分足らずで山ランのものらしい
私製プレートが木に括り付けてある遠城寺山山頂である。小さな円形状の裸地は裸木とは
いえ灌木に囲まれて展望もあまりなく、唸り声を上げるほどの勢いで寒風が吹くので立ち
止まると直ぐに冷えてくる。早々に分岐へ引き返す。

 須磨田三山は遠城寺山方向から登ると、アップダウンを繰り返しながら次第に高度が増
すことになる。いつの間にか武庫川沿いに見える民家の屋根が小さい。その間、通過する
無名の峠に必ず踏み跡らしきものがあるのは、最短距離で移動したいのは人間の性、地図
を見れば明らかである。そんな小さな峠を越えて次の高みを目指すと、小さいながらやや
急峻な独立峰に上がることになる。
 
遠城寺山から向山へ向かう縦走路はこんな感じ

 地形図上では無名のピークだが、向山の私製プレートがある。『北摂の山』の著者が歩
いた頃には現役だったアンテナ施設も倒壊して久しいようだ。そのアンテナ方向に黄色い
プラ杭があるので、そちらへ引っ張られそうになるが茗荷谷山への稜線はそちらではなく
やや右方向である。気がついて少しの距離をトラバースする時、サルトリイバラに顔を撫
でられた。2cm程度の引っ掻き傷ながら意外に出血する。ズッコケるわ、引っ掻き傷を
作るわで何だか今日は所謂"インケツ"。又何か変事が起こらなければいいのだが。(^^;

 急傾斜を20mほど下る。その先、灌木の枝がまたうるさくなって来る。気をつけねば
サルトリイバラの棘でひっかき傷を作ったり、跳ねた枝で目を突いたりしかねない。痛っ、
三度目の正直か。眉の上を引っ懸けた。と、灌木の枝に明るい黄緑色の繭がぶら下がって
いる。ヤママユガの仲間のウスタビガの繭だ。冬木の茶色の世界を背景に良く目立ってい
る。コナラの葉などを食べるそうで、気がつくとあちらこちらにあるものである。

 緩やかな起伏が一旦終息して茗荷谷山への急な登りになる。茗荷谷山は三山の中で唯一
三角点(『天神谷』三等)を持つ。二、三プレートがかかる下に孤立する欠けのない綺麗な
標石は異様に白っぽい。

茗荷谷山山頂の三角点

 三山最後の天神岳のピラミダルな姿が左斜め方向に見えている。が、そろそろ食事タイ
ム。茗荷谷山を下った最初の鞍部を東に数m降りて風を除ける。ほんのちょっ外れるだけ
でこんなにも違うものか。一切風がない。日が当たればポカポカだけれど、残念ながらの
曇り空だ。

 ここまであまり展望の効く場所はなく、焼山や眼下の蛇行する武庫川、遠く摂丹国境の
雪を頂く山々が時に顔を出す程度であったけれど、珍しく東が開け、どっしりとした千丈
寺山に千丈寺湖、有馬富士、羽束山が見て取れる場所がある。遠くにたなびくようにある
グレーの山並みは六甲山系らしい。

 天神岳の最後の登りは前夜の雨で滴の残るコシダの茂る中、低山なのでそれほど標高差
はないものの、茗荷谷山手前の稜線から見えた通りのなかなかの急登である。狭い山頂は
南北に長い。地形図上では一番南に標高点が置かれているのでプレート類はここに集中し
ている。山ランのもの、近頃よく見かける北摂探検隊のもの。近くの木には、古くなって
色あせて茶色っぽくなっってはいるけれど大柿布らしいものもあった。

 登頂記念写真を撮ったりして一呼吸入れて最後の下り。実はこれからが今回の切所なの
である。最初、長細い天神岳の山頂部にはテープがあり、こりゃ楽勝かと思いきや、激下
りに入りしばらく緊張を強いられている間に無くなってしまう。いやコースを外したのか
もわからない。というのは素直に行くならば北に延びる尾根が比較的明快なのだが、今回
は藍本方面に近づく為と、地形図の実践路の先端に降りたいが為に、敢えて南に振りつつ
の下山なのである。時たま覗く焼山を目印にする。獣道があるかなきかの斜面は藪がない
のでどこでも降りられるが、朽ちた灌木が多いので安易にすがると非常に危険である。幾
度かボキボキと根元から折れて冷や汗をかく。気がつくと同じ高さだった焼山の頂上がは
るか上になっている。

 少々傾斜が緩むと古い炭焼き窯跡がある。ヤブツバキなどの常緑樹に混じってコナラや
アベマキも多い。苔がついた大きな石がゴロゴロ転がる斜面をトラバースして、更にズル
ズルと腐葉土を蹴立てて降りていく。先ほどまでとは打って変わって、傾斜が全体的に緩
んだので麓は近いだろうと思った矢先に杉林が現れた。些か不気味だがキイーキイー甲高
い音がするのは杉の幹が風で擦れる音だろう。

 植林帯に出てくれば山歩きの潤いはないが、必ず杣道があるので方角さえ間違えなけれ
ば安心である。下草もなく格段に歩き易くなった中、古い石積みを見るとまもなく明るく
なってきて、ヒョイと杉林の外へ飛び出すことが出来た。やれやれ。フーッと大きな息を
吐く。

桧林を抜けて武庫川河畔のこんな所へ出てくる

 そこはHPにある通り篠竹の原。しかしながら杉林との間に1mほどの切開きがあり、
それほど歩き難くはない。しかもうまく下山できたらしく地形図の実線路の先端にはほん
の10m程で出ることが出来た。あとは武庫川沿いにのんびり西へ戻るのみだ。

 分譲住宅地の取付け道路が出てくる。分譲しようとしたものの、売れずに放棄したよう
で自然に還りつつあるような殺風景な風景だけが残る。そんな中、須磨田三山への直登す
る取付きを示すらしい残置テープや布キレがぶら下がっている個所が幾つかあるのを目撃
する。やはり明確なこれという決まったコースが天神岳にはない様子がこれを見ても分か
る。(笑)

天神岳遠景

 歩いて行くにつれ、向こう岸の焼山が色々と姿を変えてこちらを見下ろしている。茂み
で今年初めてのウグイスの笹鳴き。寒い寒いと思っている間にも季節は着実に進んでいる
のが分かりほっと安堵する。

 藍本の駅までは約1時間の道のりであった。14時29分発の快速に間に合い、15時
半には大阪の人。HEP阪急近くの焼き鳥屋で泡とアルコールの世話になったのは言うま
でもない。本来、今日のオフの本当の目的はこちらだったりして。(笑) 3時間近くワイ
ワイと舌つづみを打ってお開き。外は若者中心に多くの人通り。世の中不況、不況、格差
社会などとマスコミはいいはやすが、とてもそうは見えない繁華街のイルミネーションが
広がっていた。




■同行: 幸さん、たらちゃん、二輪草さん夫妻、水谷さん(五十音順)

【タイムチャート】 
09:04〜09:10JR藍本駅
09:49〜09:54新宮アトリエ
10:15〜10:20無名峠
10:35〜10:36遠城寺山分岐
10:40〜10:41遠城寺山(370m)
10:43遠城寺山分岐
10:56〜10:57向山(Ca380m)
11:22〜11:25茗荷谷山(427.5m 三等三角点)
11:33〜11:50鞍部(昼食)
12:10〜12:16天神岳(440m)
13:16武庫川河畔
14:20JR藍本駅



須磨田三山のデータ
【所在地】兵庫県三田市
【標高】 遠城寺山 370m
茗荷谷山 427.5m(三等三角点『天神谷』)
天神岳  440m
【備考】  野々倉三山とも呼ばれ、虚空蔵山の南東部、千丈寺山
の西にある450m足らずの低山帯です。岩盤が固い為
か、南下してきた武庫川は流れを阻まれ、大きく蛇行し
ています。全山ほぼ雑木に覆われ、春のツツジの季節や
秋の黄葉の季節がおすすめです。但し、稜線部には踏み
跡はありますが一般コースではなく、歩く場合は地形図
とコンパスは必携です。
【参考】
2.5万図『藍本』



■須磨田三山ルートマップ  罫線は10秒(約300m間隔)です

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