水剣山〜蛭パワーに煽られて

屏風岩付近から水剣山。三つの峰からなることがわかる
平成24年 5月20日(日)
【天候】薄曇り
【同行】別掲


 世の中、日本百名山、花の百名山等々、一種の番付作りが盛んだけれど、関西でも近畿
百名山や関西百名山が有名で、やれ全山完登だ、あと一つだとかまびすしい。府県レベル
でみてみると、とりわけ兵庫県が熱心である。兵庫五十名山、ふるさと兵庫五十山、最近
ではローカルながら宍粟五十名山などというものもある。ある日、その宍粟五十名山をN
ETしていたら、水剣山という聞きなれない山を知った。それもその筈、宍粟五十山に選
定されるまでは地元にしか知られていなかった山である。近頃は歩く人も多く、幾つか山
行記があって、登山口と下山口が同じ所にあって、ぐるりと周回でき、しかも吊尾根が魅
力だという。普通、尾根歩きをすると登下山口が離れている場合が大半で、車二台で行か
ねばならないことが多い。でも水剣山なら車を回航する手間も省けるし、オフ会にも最適
ではないか。しかしながら今回の水剣山。なかなか急登の山でしかも蛭も出没するという。
選んではみたものの、最近はお手軽な山ばかりの小生、些か不安を抱きながらの山行であ
りました。(^^;

 回航時間が省け、中国道からもそれほど離れてはいないので、遠方のメンバを考慮して
集合時間は7時半と少し遅めにする。集合場所は例によって千里中央のコンビニである。
大阪発のメンバは7名。山崎の道の駅であと3名と9時に合流の手筈。曇り空なものの、
垂れ込めるという感じではなく雨の心配はなさそうである。予報通り、西へ向かうほどう
っすらと青空も覗くようになる。

 道の駅で参加者全員が集い、定刻通り出発する。新聞社系の地元情報誌主催の登山の催
しがあるとかで、登山口の大谷の集落に到着すると、我々以外の車が幾台か先着している。
折よく地元の人がいたのでことわって、お墓の向かいの駐車スペースに止めさせていただ
く。

 ヒルがかなり出没していると、今回特別参加いただいたジモティーのOさんの情報もあ
って、ディート入り虫除けを靴に万遍なく噴霧しておく。更に、蛭が潜り込みにくくする
為と、上がってきたらすぐわかるようにズボンの裾を靴下にたくし込んでおく。つば広の
帽子も被ってきたから、上からの落下攻撃も少しはましだろう。やられたらその時のこと
だと居直り半分で林道を詰める。(笑)

蛭の巣窟らしい杉林から登山は始まる
 歩くこと5分位で水剣山の西尾根と東尾根の標識がある。150分、180分とそれぞ れ括弧書きがあるのは山頂までの時間らしい。どちらも途中まで関電の巡視路を利用した 登山道にもかかわらず、千m未満の山にしてはアプローチが長い印象である。今回はオー ソドックスな反時計回りの環縦走。蛭は東尾根登山口から尾根に上がる迄の杉林に多く出 没するらしい。その杉林に一歩足を踏み入れてからほんの20m足らずで、もう前から「 居たっ!」の声が上がる。目を凝らすとユラユラと立ち上がって獲物を探す薄茶色の軟体 動物が、枯葉に紛れてあちらにもこちらにも姿を現す。立止まってムザムザ餌食になって なるものか。我々の足はいつもより速い。そう、忍者の水面歩行の極意「沈む前に次の足 を出せ」と同様、「たかられる前に次の足を出せばいい」のだ。(笑) それでも靴にしぶ とくへばりつく輩がいる。やがて平坦地からつづら折れに急斜面を上がる巡視路のプラ階 段に道は変わるが、蛭攻撃はまだ収まらず油断がならない。一行の中には手の甲に奴を発 見し慌てた人もいた。ただ、ここのところ雨が降らず、地面が乾き気味なので蛭の動きが やや緩慢なのが幸いしたのか、ディードの事前噴霧が功を奏したのか、大きな被害を受け た人はいない。小生も去年の千ヶ峰では臍の横を齧られたけれど、今回は靴にも上がって 来ず事なきを得た。内心ひやひやものだったけれどラッキーであった。(^^;  蛭を恐れて20分ばかり小休止も入れずにひたすら歩くと、何時の間にか杉林が赤松の 多い雑木林に変わり、乾いた地面を持つ支尾根の上である。第一目標のbV0の高圧鉄塔 が上部に姿を見せている。ここまで来れば心配ないとOさん。「フーッ!」太い息を吐い て一本入れる。蛭パワーに煽られて疲れを覚える暇もなく、標高差250m近くを一気呵 成であった。(^^;  しばらく緩やかな支尾根を上がって行けば露岩があちこちに現れて、その中には展望に 最適なものもある。眺め下ろす登山口の大谷集落の民家の屋根が小さい。そこから播磨西 線bV0の鉄塔はすぐそこで、鹿ネットを抜けると鉄塔の切開き。南に小振りだが形のい い長水山が控えている。初めて展望が広がったので小憩でも採っているのかと思いきや誰 もいない。熊蜂がブンブン音を立てていたとかで、鉄塔を過ぎた北側の斜面で一行は歩み を止めている。展望はないが明るく、ほんのすぐそこでウグイスの声がし、コガクウツギ らしい白い萼片を持つ花が風にそよいでいる。
登山路のど真中にある七本カシ
 しばらくは緩い尾根が続く。登山道の真ん中に「七本カシ」と名付けられた大きな株立 ちのカシの木を見る。小さなアップダウンを続けながら、もうしばらくは緩やかに続いて いて欲しいとの期待も空しく、再びの急登はカシやシイの常緑樹の落ち葉で滑る、滑る。 お蔭で思いの外、余分にエネルギーを消耗してしまう。ヤブツバキの紅い花がポツポツ落 ちている胸突き八丁を汗を拭き拭きやっと登り切ると、ここで初めて下りがあった。(^^; 小さなコルを過ぎると今度はまた穏やかな尾根の登りにかわる。しばらく続けると、樹林 が突然途切れて、青灰色の大きな反射板が右斜め前にある。存外早く808m標高点に到 着することができた。  808mの標高点ピークは南北に長く、吊尾根の東側の支点となる。南側に大きな梯( かけはし)の反射板が立ちはだかって視界を邪魔するが、その先には大展望が広がる。南 に目に付くのは明神山だ。そして北東方向遠くアンテナを戴くのが暁晴山。と小生にも分 かるのはそれくらいである。Oさんによれば、明神山の左で凹凸しているのが七種山塊で、 山並みの奥でもっこり盛り上がるのが母栖山だそうだ。関電の山崎実験センターのアンテ ナ群も見え、眼下は与位付近の揖保川の蛇行である。ちなみに吊尾根入口の上側に官界標 石(界標第八十八号)が設置してある。官界というからには設置されたのは明治時代だろ うか。元来は山崎藩の藩有林だったのかもしれない。西側にはこのあと下山時に歩く屏風 岩からbU9鉄塔のある尾根が指呼である。ただ水剣山の本峰は見えない。ここが一番展 望が良いということなので、少し早いが露岩が埋まる山頂で昼食とする。先ほどから時々 声が聞こえていたが、後から三々五々、地元情報誌の登山の催しに応募した人たちが到着 し、観望しては先へ進んでいく。総勢20名位が集まったそうである。
808m標高点ピークから南方向
梯の反射板の向こうに明神山、七種連山、母栖山、暁晴山などが居並ぶ

 時折薄日が射す中、小半時ばかりの大休止を終えて、反射板の峰から大きく下る。いよ
いよ水剣山の本峰への吊尾根歩きである。桧林の中なので展望がない。しかしまもなく岩
尾根が現れここで初めて南側の視界が開ける。振り返れば昼食を摂った反射板ピーク。眼
下は緑に覆われた深い谷だ。どこかでツツドリが鳴き、コゲラのドラミングが微かに響く。
静かだ。少し冷たい風が吹き上げてくる。
吊り尾根の岩場から下山路の西尾根。左に見えるのが長水山

 吊尾根というから険しく馬の背のようなものを想像しがちであるが、幅も広く踏み跡も
しっかりして危険な個所は全くない。岩尾根も長さにして10m位で、次々現れるのかと
期待したが唯一ここだけである。視界も林の中に閉ざされるが、今は若葉の綺麗な季節。
清々しさを愉しめばよい。モミの木が並木のように等間隔に生える場所を抜けると前方に
ようやく水剣山の本峰らしき高みが現れる。周囲が再び桧林となり、今回の反時計回りコ
ースで一番の急斜面の登りとなる。その為かめいめいが好きな所を登るのだろう、この辺
りの踏み跡はやや薄い。とはいっても上へ上へと目指せばよいのだが....。小刻みにジグ
を切って行きながら下を覗くとやはりかなりの傾斜だ。直径1mものモミの大木を過ぎる
と、さしもの急傾斜も終盤。上部に光の空間が見えてくる。

 登り切った所は水剣山の北東ピークの分岐である。水剣山には三つの峰があって、北東
ピーク(標高880m)が最も高いようだ。分岐から2分足らず、この北東ピークで初め
て北方向が開け、兵庫最南端の千メートル峰である黒尾山が格好いい。頂の廃アンテナ施
設も視認され、その管理道は山につけられた大きな傷のように見える。

 分岐に戻り直進するとすぐに水剣山本峰だが、狭い山頂は例の地元情報誌の登山参加者
で満杯。食事後の休憩中でしばらくは空きそうにもない。これは三角点を含めた山頂風景
の撮影も不可能だ。南西ピークも展望がないとのことで割愛して、一息入れただけで下山
に移ることにした。尚、本峰からは山崎市街が一望できることを付け加えておく。

 グーッと一旦下った後は割に緩やかな下り。しっかりした道が続く。これで周囲が見渡
せたら最高なのだけれどと無い物ねだり。bT5の石標が埋まる小ピークが明延ピークだ
と勘違い。明延ピークにはちゃんと私製プレートがかかっており、水剣山まで25分と時
間表示まである。

 地形図を見て分かる最後のきつい登りが屏風岩と766m標高点ピークの登りである。
やや疲れてきて歩みが鈍くなっている。(笑) bR6の石標地点を通過、屏風岩の標識を
見る。南北の尾根から見れば何の変哲もない岩だけれど、東から見ればそれなりなのであ
ろう、東側は10mばかり切れ落ちている。東尾根から808mピーク、吊尾根と一望で
きるのだが、肝腎の水剣山は木の隙間でしか見えない。そこから766mピークはすぐで
楕円形の山頂を持つ小山である。

 指導テープはここで南ではなく南東へ方向を振る。今さきに登っただけ下らねばならな
い。植林と雑木の疎らな林で体を支えるものがないので慎重に歩を運ぶ。ここで右手(西)
が初めて開けて、覗いたのは東下野の集落。老人ホームの大きな建物でそれとわかる。車
道をまるで芥子粒の様な車が走っているのが分る。

 下界ではとっくに咲き終わったジエビネが咲いている。普通よりややピンクがかった花
はなかなか美しい。今まで花を見かけることが少なかったから、花好きのオフ参加者にと
っても、ちょっと溜飲を下げていただいたのではなかろうか。(笑)

ほんのりピンク色をしたジエビネ
 辺りが台地状に平坦になり、枯れたブッシュの向こうに鉄塔が間近になって来た。穴の あいた鹿ネットを潜った先にbU9鉄塔がある。振り返ると木々を通してだが水剣山の三 つの峰が望める。北から西には明延ピークから明延集落に延びる緑の尾根筋がある。東は 午前中に歩いたbV0鉄塔のある東尾根だ。こうして歩いてきた道筋が見渡せるというの はなかなかいいものだ。ここまで来れば周回路はほぼ終盤を迎え、あとは巡視路を登山口 に向かって降りていくのみである。その前に一息入れておこう。  さて、残るは最後の標高差300mの一気下りである。とはいえ巡視路なので安心だ。 (^^; 常緑の広葉樹が大半を占める広い緩斜面を降りていくと自然に巡視路に誘われる。 東の谷側に出て急斜面に入ると巡視路名物?黒いプラ階段が現れてジグを切って降りてい く。ここでもカシやシイなどの常緑樹の枯葉が分厚く積もりプラ階段を隠しているので、 足の置き場所には気をつけねばならない。こんな時はストックが役に立つ。  どんどん降下するので耳がおかしい。口を開けて聴力を回復させると下から谷川のせせ らぎの音が湧き上がってくるのが分かる。それはどんどん大きくなって、周囲が杉林に変 わると白い流れが眼下にはっきりしてくる。しかし、こちら側の杉林に蛭はいないのかち ょっと心配。結局、一、二匹はいたようだが案ずるより産むがやすし。杞憂に終わって良 かった。渓流沿いを北に向かい、渡りやすい場所で2mばかりの沢を渡ればそこには行き に見た西尾根登山口の標識が立つ。午後2時ジャスト。大休止も入れて4時間半で周回し たことになる。5時間以上はかかるとみていたから、恐るべき蛭おそろしやのパワーであ る。(爆)   時間があるので当初の予定通り温泉で汗を流す。山は温泉とセットになっているプラン に勝るものはない。この水剣山には生谷温泉伊沢の里が帰り道にある。小生はここは二回 目。この前は野草を売っていたのを覚えているが、今日は集会室で地元の同好会が石斛展 を開催していたので見学させてもらう。ピンクの石斛が千円だった。買ったおいたら良か ったかな?(笑)   このあと大きな渋滞にも巻き込まれず、ちょっと遠出にもかかわらず5時過ぎには家の テレビの前。大相撲のこれより三役に間に合った。優勝決定戦平幕同志。6大関何をして いるの?(笑)  天候にも恵まれず中止の憂き目に遭い続けていたオフ会も、今回は久しぶりに山らしい 山に登れた心地がする。千メートルにも満たないものの、登りなら登り一辺倒、下りなら 下り一辺倒とメリハリのはっきりした骨のある山だった。参加の皆さん有難うございまし た。案内いただいたOさんにも感謝です。


■同行:さかじんさん、たらちゃん、たるるさん、ハム太郎さん、ひろぴぃさん、
    みずさん、もぐさん、OAPさん、Sachiさん(五十音順)

【タイムチャート】 
07:30千里中央ローソン前(集合地)
08:50〜09:00山崎道の駅
09:20〜09:30大谷集落水道施設付近(駐車地)
09:40〜09:42水剣山東登山口(Ca300m)
10:14〜10:15大岩
10:20〜10:31高圧鉄塔(播磨西線bV0)北側
10:36七本カシ
11:06〜11:43808m標高点ピーク(梯反射板)(昼食)
12:14北東ピーク分岐
12:16〜12:18水剣山(872.0m 三等三角点)
12:18706m標高点ピーク
12:39明延ピーク
12:50〜12:54屏風岩
12:57766m標高点ピーク
13:25〜13:31高圧鉄塔(播磨西線bU9)
14:00水剣山西登山口(Ca300m)



水剣山のデータ
【所在地】兵庫県宍粟市(旧山崎町)
【標高】872.0m(三等三角点)
【備考】 宍粟市山崎市街の北に位置します。千m足らずの山なが
ら、急峻な山で登りごたえがあります。以前は地元でし
か知られていませんでしたが、宍粟五十山に選定されて
からは登山客が増えました。登山口と下山口が隣り合わ
せとなっており、吊尾根を楽しみながら周回することが
できます。
【参考】2.5万図『山崎』


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