てんぐの森から千丈寺山

松住大権現前の護摩広場前から千丈寺山の本峰
平成24年 3月 4日(日)
【天候】曇りのち小雨
【同行】単独


 10年以上も前に山の会のオフ会を催した三田の千丈寺山。北摂には二つしかない貴重
な一等三角点の山にもかかわらず、当時はマイナーな山であった。それがここのところの
里山ブームもあって、最近、東の麓の乙原(おちばら)に『てんぐの森』と呼ぶ里山公園
が整備され、随分楽に登れるようになったという。懐かしさも手伝って、この日曜、一度
訪れてみることにした。

 予報では前線の接近で昼過ぎから雨だという。が、朝、窓を開けてみるとやや白っぽい
けれど晴天が広がっている。これなら近場だったら雨に降られずに山から降りて来られる
のではと急遽、行先を物色する。そこで選んだのが千丈寺山だ。先週の須磨田三山からも
東に一際存在感の目立っていた山である。適当に荷物をザックに放り込んで、近くのコン
ビニで飲食料を仕入れて現地へ向かう。時刻は9時半。あら?予報通り西から雲が広がり
始めている。

 三田市志手原から北上し西国札所の花山院の前を抜ける頃、とうとうフロントガラスに
ポツリポツリ小さな水滴がつき始めた。ただ、まだ薄い日差しがあってこのままなら問題
はない。やがて左手に見覚えのある千丈寺山の山並みを見ると『てんぐの森』の案内が現
れた。それに従って乙原の集落の中を行き、新しい一車線のコンクリート道に乗り入れる
と車が7、8台ばかり置ける駐車場に到着。先行車が2台ある。

『てんぐの森』の駐車場

 早速準備して案内板を確認した後、歩きだそうとするとポツリポツリ程度だった雨がや
や繁くなる。一昔前のオフの時もみぞれ交じりの寒い日だったような気がする。偶然では
あろうけれど、小生にとっては天狗の伝説のあるこの千丈寺山は雨がつきもののようであ
る。(笑)

 山頂まで1810mの標識を見て、愛宕社の祠横のコンクリート道を100mばかり上
がると、土石流防止用の堰堤が現れる。その下手を向こう岸に渡って谷川の右岸に道はつ
けられている。続いてまた左岸に渡る。辺りは杉林に変わり、その下を丸木の階段がずっ
と続き、要所には説明板が設置してある。「動物の食べ物や糞」「炭焼きについて」など
だ。と、雨脚がやや強まってきたようである。一息入れるついでにザックカバーと折りた
たみ傘を取り出す。

 案外澄んだ流れは斜面が急峻なので幾つかの小さな滝やナメを作り騒がしく水音を立て
る。杉林を抜け、その流れをまた右岸に渡ったその先は明るい雑木林である。案内図にい
う「森のレストラン」はこの辺りだろう。アベマキやコナラが多いので春の芽だしの頃は
うす緑の若葉が綺麗だろう。

 谷も源流部となり、大小の石がゴロゴロ転がって歩き難くなる。丸木の階段は急になり、
要所にトラロープも用意されて、前方に見える稜線の鞍部に向かって一気に高度を稼いで
いく。最後に斜めにトラバースすると小さな湧き水のある祠に出た。庚申さんとはこれだ
ろう。そこからはようやく傾斜も緩み、道なりに林の中を辿ればまもなく東向きの松住大
権現の石の祠の前の小広場に出る。護摩焚きらしい跡があるのは一昔前のオフの時と変わ
らない。その時はここで食事と皆が持ち寄ったお神酒で乾杯したのが懐かしい。

一昔前と変わらない松住大権現前の護摩焚き広場

 松住大権現のある鞍部から南へ、小雨に煙っている千丈寺山の山頂までは凡そ400m。
今のところ雨の強まる気配はない。折角なので山頂まで行ってみることにする。意外に細
い尾根は真っ直ぐ南に向かう。ツツジ、ソヨゴ、アセビ、ネズにコナラ。典型的な北摂の
雑木林である。ただ山頂に近づくにつれ、モミだかツガだからしい針葉樹が増えてきて、
ちょっとした高山の雰囲気を漂わせる。その間、葉が落ちた木々を透かして時折、東西が
見通せ、ことに山頂手前の露岩からはいい展望だ。北にほぼ同じ高さの北千丈寺山があり、
その背後遠くには摂丹境の山並み。中腹に建物が見えるどっしりとした山があるが峯ヶ畑
か。東に目立つのは何といっても大船山だ。が、先週登った須磨田の山など千丈寺山の周
囲には過去に登った山もそこそこあるのに、今日はどうしたことか最初から土地勘がない
ものと決めつけてしまい、山座同定に熱心でない自分がある。(^^;

登山道途中からの展望。小野の集落と羽束山

 露岩を越えると、さっきから聞こえていた話声の主が三角点の周りに車座に座って昼食
中である。4、5名の熟年男性グループだ。前を通らせてもらって千丈寺山大権現への参
道の小道へ。先ほどの露岩の下にこちらは西向きの祠がある。スサノオを祀る西麓の青野
にある感神社の奥宮なのだろうか。小さいけれど立派な祠である。山頂の露岩は磐座とい
うことになる。ということはその上に上がったのは罰当たりだ。(笑)

千丈寺山山頂の磐座らしい露岩。岩の西側に
千丈大権現の祠岩の向こう側に三角点がある

山頂の一等三角点。北摂では石堂ヶ岡と
ここにしかない貴重なものです(笑)

 三角点を含めた山頂の写真を撮るのがいつもの例だが、今日は先客がいるので三角点を
アップで撮る。風が少し出て体が冷えてきたのみならず、雨を避ける場所もないので昼は
下山後にしたためることにして山頂を後にする。短いが面白い細尾根を歩き、戻って来た
松住大権現の前。地面に小さな赤い実がコロコロ転がっているのに気づいた。ソヨゴらし
い。佇んで千丈寺山の姿を見上げていると、ちょうど正午のサイレンがあちこちで鳴りは
じめた。それを聞くとにわかにお腹が鳴り始めた。

 雨なので急ぎ加減の下山はほぼ30分で完了。愛宕社に寄り道したりして車に戻ろうと
したら、駐車場の上側の多目的広場に東屋があるではないか。先客は山頂手前ですれ違っ
たご夫婦らしい。雨宿りしながら食事できるぞと喜んで近づいたら、奥さんが「屋根、ヨ
シズですよ」見上げると確かに隙間から灰色の空が漏れている。(^^; 幸い、雨がまだそ
れほど強くないので木製の床机もあまり濡れておらず何とか食事の間はしのげそう。店を
広げることにした。

 千丈寺山からの帰途、往路を帰るつもりが何故か大坂峠から猪名川町方面経由になって
しまった。この経路、小柿の奥山からの帰りにも使ったのだが、途中に三田の地酒メーカ
ーの建物があったことを思い出す。たまには日本酒買って行こうかと寄り道することにな
った。(^^; ブランドは千鳥正宗。茅葺きの母屋横に店がある。入るとおかみさんが出て
きた。一通り説明を聞いて生原酒にしようと思ったが、手頃な生原酒の五合瓶は売り切れ。
かと言って一升は...。(笑) というわけでぬる燗に合うという純米酒の『三田壱』を
購入。ついでに母屋を見せてもらう。創業明治22年。年期の入った黒光りする柱。うす
暗い座敷の中に五段飾りだったか豪華な雛人形の赤い毛氈が鮮やかである。ここで利き酒
も可能なのだけれど、残念ながら車なので遠慮せざるを得ない。その代わりといっては何
だが、向かいの古代むろで古代米である赤米の甘酒があるので飲んで行けと仰るので遠慮
なしに。おき火で温められた薄赤色の甘酒は人肌加減。米だけなのにこんなに甘いとは。
木器(こうづき)。こんないい所ないよともおかみさんは仰っていたが、雨に煙る羽束山
はさながら南画の世界である。蔵元でうろうろする内に雨は本降りになって来た。こうな
る前に降りて来られて良かった。地酒も手に入ったし、それでは晩酌を楽しみに帰途につ
くとしよう。



【タイムチャート】 
09:30自宅発
10:35〜10:40てんぐの森駐車場(駐車地)
11:10〜11:14炭焼き窯跡
11:21〜11:22庚申さん
11:29〜11:31松住大権現
11:39〜11:44千丈寺山(589.6m 一等三角点)
11:58〜12:00松住大権現
12:30てんぐの森駐車場(駐車地)



千丈寺山のデータ
【所在地】兵庫県三田市
【標高】589.6m(一等三角点)
【備考】 青野ダムによって出来たダム湖の名の由来となった山で
す。一等三角点の山にもかかわらずマイナーな山でした
が、東麓に『てんぐの森』という里山公園が整備され、
登り易くなりました。展望もよく、山頂の露岩や南の前
山の展望岩からは北摂の山々が一望できます。『てんぐ
の森』へはJR三田駅から神姫バス「乙原口」が最寄で
す。
【参考】2.5万図 『藍本』


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