山上ヶ岳〜秋立ちて大峰参り

鐘掛岩から望むパノラマ。左から稲村ヶ岳、大日山。中央に洞川の街。そこから斜め右下に清浄大橋で右の尖峰は大天井岳、右奥に四寸岩山
手前山中に、歩いてきた茶屋の赤茶色の屋根がある。画像では見えないが、遠く金剛葛城の山並みと紀ノ川沿いの市街も望めた

平成24年 8月 8日(水)
【天候】晴れ
【同行】単独


 最近、とみに腰が重い。予定はするのだけれど、左膝の違和感もあって、いざ当日とな
るとぐずぐずと...。これではいかんと一念発起して立秋過ぎの大峯山(山上ヶ岳)へ行
ってみることにした。調べてみればこれがなんと8年ぶりだったのでした。

 早朝出発とはいえ自宅発は6時半。やっぱり腰が重い!(笑) いつもはナビに逆らって
水越トンネルを抜けて奈良に入るところを今回はナビに従順に進む。(笑) ナビは南阪奈
を通れという。それはいいのだがその後の橿原から壺坂に抜けるR169が狭い。料金が
かかる割に効果は薄く、洞川までの所要時間はR309経由とほとんど同じであった。(^^;

 洞川のメインストリートを抜ける。土日と違い、旅館街も閑散としていて歩く人もまば
らで行者さんの白装束姿もない。通りに面した広間を箒で掃くお姐さんの姿が見えた。

 毛又谷の林道は通行止が解かれており(五番関から先はまだ工事中で通行止です)、いつ
ものように少し入った路肩の広まった辺りに車を駐める。山靴を履いているといやなアブ
がブンブン飛び回っている。えいやっ!と叩いたが、確かに手応えがあったはずなのに地
面にも落ちていない。シブトい奴めっ!

 目の前の毛又谷に架かる橋を渡り、山上川のせせらぎの音を右に聞きながら洞川の自然
研究路を進む。石畳の道は杉林の中で風はないが涼しい。川の傍に出るとこれから登る山
上ヶ岳が遠望できる。西ノ覗、日本岩、山頂部などが凹凸を繰り返している。ここら辺り
で標高910m、山頂は1719m。標高差は約800mだ。まだまだ遠く高い。ここし
ばらく左の膝の内側にやや違和感がある。あそこまで行けるだろうか。少し心配がよぎる。


案内図と見比べて下さい。尚、上の案内図は研究路沿い
下の写真は下山後に大橋茶屋付近で撮影

 入峯記念の石碑や弘法大師の石像などが林立する広場に出て、女人結界門からいよいよ
登山道が始まる。良く手入れされた杉林。カケスの鳴き声がけたたましい。子供の頭大の
石が転がるジグザグ道はウォーミングアップに丁度良いが、流石に登りになると暑い。一
気に噴き出した汗が目に入る。汗を拭き拭き、祠のある広場に出た。一ノ世茶屋の跡らし
い。以前は建物があったように思うが今は跡形もない。

 和歌山の大峯講が寄進した赤い金網の橋を渡って山上ヶ岳の懐へ分け入る感じで進む。
次の休憩ポイント、一本松茶屋辺りまで杉檜の人工林が主であまり面白みがないが、クサ
アジサイに混じってまだギンバイソウが咲いている。複数の葉が合体したような葉が特徴
だ。

 橋から40分ほどかけて一本松茶屋に到着。ザックを降ろし、サーモスの氷入り冷茶で
火照りを覚ます。出入り口に立つと心地よい風がある。それにかまけて10分近くもつい
つい長居をしてしまう。ここから山頂まで3960m、まだほぼ一里の行程が残っている。

 大分周囲も開けてきて、左手(北)にはピラミダルな大天井岳がある。あれ?向こうの方
がまだ高いぞ。下に眼をやると、木立を透かして五番関の東屋とトンネルの黒い口が意外
にそばにある。あんなに近かったのか。見た所、駐車する車もなく誰も登っていないよう
だ。

 一本松茶屋から凡そ10分も登ると、赤石原と名付けられた階段の踊り場に似た曲がり
角に出る。前方にようやく奥駈道が走る大峰の主稜線が姿を現すが、まだまだ見上げねば
ならないほどの高度差がある。今のところ幸い左膝は大丈夫だ。

 二少年遭難碑を過ぎると左に浅い沢を見ながら登ることしばし、洗掘された道が錯綜す
る。立木の幹に『七曲り』とある。ここまでくれば尾根まではもうすぐ、エゾゼミの声も
なんとなく励ましに聞こえる。(笑)

 前方が明るくなって来る。つづら折れを行くと五番関からの奥駈道と合わさって赤い幟
の林立する洞辻茶屋である。灯りが点き、幟が出ていたので人がいるのかと思えば、売店
の窓口は閉じられている。うどん、コーヒー等が戴けるが、土日休日しか店は開けないら
しい。確かに平日のこの静けさではペイはしなかろう。展覧会に出開帳していたという役
の行者像に挨拶していると、単独小父さんが上がってきた。お不動さんに会いに来たとか
で、姿が見えなくなったと思ったら、洞辻茶屋そばの不動明王像前で般若心経を唱える声
が漏れてきた。
洞辻茶屋の前鬼像

 洞辻茶屋から陀羅尼助茶屋、松清茶屋と登拝記念の石碑の林立する間を抜けて行けば道
は二股に分かれる。上りは左の修行道を採るのが普通。油こぼしの急坂をジグザグに上が
ると小鐘掛岩から鐘掛岩の難所へとかかる。鐘掛岩は以前一度鎖を使って登ったことがあ
るけれど、今回は安直に右の巻道を辿って裏から登る。役の行者像と小さな祠のある岩の
頂からの視界が良く、山上ヶ岳の頂上方向以外、主に北を中心にほぼ270度のパノラマ
だ。快晴の空の下、北東方向には白髭岳や明神平、いつものピラミダルではなくおにぎり
形に見える高見山の姿も目に入る。北は何と言っても一月前に登った大天井岳に四寸岩山。
竜門岳も大きい山体が目立つ。遠く霞むのは金剛、葛城の山並みでその手前に五条など紀
ノ川沿いの市街地がある。西は奥高野の山々だ。双眼鏡があればタワーのある護摩壇山な
ども視認できるに違いない。深い緑の中には洞川の街並みが浮かぶようにあり、近くは清
浄大橋付近の駐車場らしき地面が白い。右手直下にはここもぽっかりと川上村柏木地区の
集落が認められる。奥駈道の走る尾根上には緑の木々に埋もれて茶屋の屋根がある。

 岩には大和高田に帰省中だという単独兄さんが一人休んでおり、雑談が弾む内にまた一
人上がって来られた。この景色を愛でつつの食事もいいのだが、行場なので遠慮して(た
ぶん飲食禁止でしょう)今日も日本岩で食事を摂ろうと先へ進む。

 大峰には発心門、修行門、等覚門、妙覚門と四つの門があるそうだ。その一つ等覚門を
くぐると目の前に山上ヶ岳の頂上部が現れ、その中腹には宿坊の甍が望める。少し下った
コルは誰かが造った庭園のような雰囲気で楓の緑が美しい。ウグイスが直ぐ近くで囀る。
下界の暑さは野鳥にも堪えると見えて、避暑にこんな高みまで上がっているのか。(笑)歩
き難い露岩上を少し登り返すと右手は有名な西ノ覗である。

 洞辻茶屋に行き着けば山頂はすぐそこだと些か錯覚していた。実際はそこから山頂部ま
ではまだ200m程度の標高差があり、等覚門からでも50mはある。途中でゼリー飲料
を補給したものの、もう正午も過ぎて些かシャリバテ。大分脚が重い。そんなわけで西ノ
覗は帰りに寄ることにする。その先の宿坊の辻は、右へ行けば龍泉寺を経て食事予定の日
本岩に直行できるとはいえ、ここは少々やせ我慢、敬意を表して左の大峯山寺への道を採
る。しかしまた登り。やっぱり腹が減った。妙覚門の石段をゆっくりゆっくり。境内に出
た時はやれやれ。正直ほっとした。

 大峯山寺の本堂にお邪魔する。気温16.6℃。下界の灼熱が嘘のような別天地。係の
人に聞けば朝はなんと13℃だったそうな。(@o@) ともする間に数人の若者を引き連れた
白装束の修験者が参拝にやって来て般若心経を唱え始めた。(今日目撃した唯一の修験者
だ。それほど平日は空いていた!)

三角点のある湧出岩から眺めたお花畑
奥の繁みの向こうに日本岩がある

 本堂の前を南へ行くと通称お花畑。とはいえ花が咲き乱れているわけではなく、背の低
いヒメザサの原である。最高部に向かう踏み跡を辿ると石囲いの中に聖蹟の湧出岩があっ
て、その前に一等三角点が小笹に隠れている。二回目のご対面。石の頭をなでなで。引き
返してお花畑を南から西に辿れば左手に稲村ヶ岳から大日山がすぐそこに起伏し、その先
には近畿最高峰の八経ヶ岳、弥山の山体が大きい。更に近畿の背骨たる貫禄を十分に備え
て、大峰主稜が釈迦ヶ岳を経て南紀まで重畳と続いている。レンゲ辻への道標を見てやや
下れば、稲村ヶ岳に相対する大きな岩が見えてくる。麓からも望見できる日本岩だ。話し
声は先着の3人グループだ。囲んだ鍋からいい匂いをさせている。

 陽射しを遮るものとてないが、乾いた涼風が抜けるので暑くない。3人組とはやや離れ
た平坦な岩上で店を広げる。平坦といっても岩の割れ目にコッフェルや蓋などを落とすと
もう拾えない。ここは慎重に。(笑) 稲村ヶ岳を眺めつつ、サンマの缶詰をつついている
と、思いがけなく3人組から冷えたパイナップルのお裾分けを頂く。有難うございました。

 腹ごしらえを済ませて誰もいなくなった岩を降り、やや戻った左側。灌木の間のヒメザ
サの茂みにできた踏み跡を下っていくと龍泉寺の玄関前に出る。そのまま道なりに下ると
往路の宿坊の分岐だ。やがて西ノ覗にやってくる。平日なので行をする人もいないのか係
員も誰もいない。目が眩むばかりで岩から乗り出す勇気とてないが、岩の縁から少しばか
り顔を出してみる。白いキク科の小花が吹き上がる風に揺れている。岩の間から真正面に
洞川の家並みが見えたので1枚カメラに収めておこう。
 
夏の西ノ覗

西ノ覗の岩の間から望む洞川の街

 下山は左の階段道だ。西ノ覗や鷹ノ巣岩の屹立を左に見つつ降りてゆく。やがて表の道
と合わさって洞辻茶屋へと戻って一息入れる。後は下るのみだ。往路で二時間もかかった
のが下りは半分強の時間で結界門であった。

 いつもは洞川温泉なので今日は川合まで下って天川温泉へと廻ってみた。去年の台風の
被害復旧で天ノ川を渡る橋の架け替え工事中とあって、案内板で狭い道を誘導されて温泉
前の駐車場(有料で温泉利用者は1時間まで無料)へやってくる。川遊びの客も少なく、
ほぼ貸切状態の露天風呂に満足。しかし、露天風呂から見た川向かいの山抜けした赤茶け
た斜面は凄かった。受付の小父さんに聞くとこんなのが付近にまだ数箇所あるのだそうだ。
ここ数年、局所的な集中豪雨が増えている。日本も熱帯雨林化してきたのだろうか?

 途中でまたまた定番のコーラを買って帰途に就く。意外に空いていて往路とほとんど変
わらぬ時間で帰宅。今夜もまたオリンピックをゆっくり楽しもうかい。



【タイムチャート】
06:30自宅発
08:45〜08:55毛又谷林道(駐車地)
09:05女人結界門(清浄大橋)
09:20一ノ世茶屋跡
09:46〜09:54一本松茶屋
10:25〜10:32お助け水
10:42二少年遭難碑
10:53〜11:03洞辻茶屋
11:38〜11:58鐘掛岩
12:25大峯山寺
12:30〜12:35山上ヶ岳(1,719.2m(一等三角点))
12:45〜13:23日本岩(昼食)
14:20天竺平
13:35〜13:40西ノ覗
14:10洞辻茶屋
14:25〜14:26お助け水
14:47〜14:51一本松茶屋
15:10一ノ世茶屋跡
15:18女人結界門(清浄大橋)
15:30毛又谷林道(駐車地)



山上ヶ岳のデータ
【所在地】奈良県吉野郡天川村
【標高】1,719.2m(一等三角点)
【備考】
大峰山脈の主峰で『大峰山』といえばこの山上ヶ岳を指
します。女人禁制の山で、山頂に役の行者開山の修験道
の総本山大峰山寺があり、険しい岩場を利用して表行場、
裏行場が設けられており、特に西の覗きは有名です。
吉野からの逆峯の奥駈道が本道ですが、24kmと遠距
離の為、洞川からの道がポピュラーです。
■日本三百名山■近畿百名山■関西百名山
【参考】
エアリアマップ 山と高原地図『大峰山脈』



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