大天井ヶ岳〜雷雲に追い立てられて |
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久方ぶりに大峰方面に出かけてみる気になる。行先は大天井ヶ岳。五番関に上がり、新 道で大天井ヶ岳の裾を抜けて奥駈道を適当な所まで北上し、帰りは旧道で大天井ヶ岳に登 って五番関に帰ろうという粗々の計画である。土曜に行くつもりが、当日朝になってもど うもその気にならず、ぐずぐずする内に時機を逸して一日遅れの山歩き。予報は土曜から 下り坂。寒気の影響で大気が不安定だというが、南ほど安定しているようで、なんとか昼 過ぎ位までもってくれるだろうと期待して家を出る。大阪では薄曇りの空が水越トンネル を抜けて奈良に入ると白っぽいものの青空が広がる。予想通りと洞川までやって来る。 ところが計画は見事に頓挫した。まずその一。毛又谷沿いの林道が通行止なのである。 トンネル横まで楽して車で上がろうという算段がもろくも崩れた。自力で登るしかしよう がない。(^^; 道の付替えで毛又橋の袂の広くなった路肩に車を置いて準備する。
だ距離は書かれていない。右に緩くカーブする道を400mも行くと、重機が置かれて毛 又谷沿いの路肩崩落の復旧工事中。重機とバリケードで車の通行ができないようにしてあ るが、工事はここだけで注意すれば車が走るに支障はなさそうである。むしろ被害が大き かったのは、ここから1kmほど行った辺りの植林斜面の崩壊だろう。ただし現在はこれ も道路には影響なし。法面からの落石が所々にあるがこれもほとんど問題はない。要する に工事に支障があるから通行禁止にしているだけとしか思えない感じである。 谷音を聞きながらひたすら前に進んで林道分岐を大きく左に折れると、真上から「ジェ ーッ」。鋭い鳴き声はカケスだ。高さ10mほどの木の枝に鳩くらいの姿を見せる。青っ ぽい縞のある羽根が翻ると姿を隠した。 歩き出して小半時か。意外に早く前方にトンネル西口の東屋が目に入ってくる。と、背 後からバイクの音がする。はて登山者?振り返るとカブに乗った薄緑色の作業服の兄さん だ。ヘルメットには天川村とある。兄さん、登山口には目もくれずトンネルに入って行き、 残されるはトンネルを行くエンジン音の残響のみである。 東屋横の山桜がまだ咲いている。北海道の開花時期とほぼ同じである。もう金剛山より 標高は高いのだ。東屋の横から小道を薄暗い植林の中に入る。ゴロゴロ石が転がる斜面は 歩き難い。ようやくそれが終わりジグを切るようになった頃、上部の樹間にチラリと人影 が動く。熟年のご夫婦だった。大天井ヶ岳から降りて来たそうだ。「山頂は貸切、お気を つけて」の言葉を残してくれる。確かに、林道は通行止だし、登る人はめっきり減ってい るに違いない。 ちょっとした鞍部となっている五番関。南の山上ヶ岳方面には女人結界の門がある。北 の吉野方面は新旧道が二つに分かれているはずだが...。とその一つにテープで×印が ある。ここも通れない?といぶかしんでいると、背後に人の気配がして、なんと件の作業 服の兄さんが上がってきたではないか。手に通行禁止の貼り紙を持っている。どうしたの かと尋ねれば、新道を歩いた人から連絡があり、途中で土砂崩れがあり引き返さねばなら なかったのに、入口には何の案内もなかったと苦情があった由。五番関から2、30分の 辺りだという。計画頓挫の原因その二である。(^^; これまたどうしようもない。とりあえず山頂だけは踏みに行こうと左の奥駈道の旧道を 行く。モミだかツガだかが茂る緩い登り。流石に奥駈道だけあってよく踏み固められた道 が続く。それが一転、カール状の鞍部に出ると、東側が開けて向かいの山が見渡せるのは いいとして、足元は深くえぐれて赤土がむき出し、生えていた針葉樹が倒れて根を露わに しているものが数本。つい先、五番関で天川村の兄さんが話していた新道の土砂崩れとい うのはここの崩れたのが影響しているのかもしれない。
して奥駈道の西側は人工林、東側は自然林という塩梅である。そして大天井ヶ岳への細い 尾根の突端に取りつく為の急登に入る。すると何だか周囲が少々騒がしくなってきた気配 がある。立ち止まって聞き耳を立てると地面の枯葉に当たる雨音である。近畿北中部と違 って南部の降り出しは昼過ぎと読んでいたのにもう降り出したのか。ただそれ以上強くな る気配はない。ここまできたらやはり三角点にタッチしないと悔いが残るというもの。も うしばらくの間、雨の神様に我慢しておいてもらおう。 なかなかつらいつづら折れ。何度か立ち止まって額の汗を拭きながらもようやく尾根の 上に出る。露岩の狭い尾根に桧をはじめ樹木の根が網の目のように浮き出て歩き難い。岩 を避けつつ進んで行けば、前方に見える高みが大天井ヶ岳の頂ではと何度か惑わされる。 狭い尾根の突端に上がり、それが徐々に広がると平坦になり、奥駈道の石標を見る。吉野 への奥駈道と山頂の分岐で、20mばかり先が大天井ヶ岳の頂である。五番関手前ですれ 違ったご夫婦が言われていた通り誰もおらず、土俵程度の広場にポツンと寂しげに三角点 が埋まる。北方向にモノレールの軌道が降っているのは前回来た時と同じだ。だが下り坂 の天候に展望はほとんどない。当初、独り占めしながらここで食事をと目論んでいたけれ ど、今は雨も上がって小康を保っているけれど、北西から灰色雲が近づいている気配で、 これではどうしようもない。何年かぶりの大天井ヶ岳、感慨に耽りたいところではあるけ れど、長居は無用と一息ついただけで引き返すことにした。
引き返すうちにまたポツポツと雨粒が落ちてくる。少々足を急がせて尾根から右に折れ て急斜面のジグザグの踏み跡へと下る。しばらく下るうちに疑問符が浮かぶ。薄い踏み跡 はあるものの小枝が張り出し今まであったテープもない。これは変だと戻ることにした。 こういう時の登り返しは疲れる。頭上に赤テープが見えて一安心。テープの傍で確認する と何のことはない直進方向にテープがある。降りるポイントが若干早すぎたみたい。何で 見落とすのだろう。やはり視線を下げ目の前近くの踏み跡ばかりを気にしていたからだろ う。心せねば。(^^;;
突然、ゴロゴロ、重低音の轟きが響く。鞍部に出ると冷たい風が吹き抜けている。さっき 薄日が戻ったと喜んだのに一転、これは一寸やばいかも。幸い今は樹木がカムフラージュ してくれているけれど、雷鳴の中、土砂降りになったらつらい。雨宿りできる所はと考え る内に、そうそう五番関トンネル横に東屋があった。とりあえずまずはそこまで雨が強く ならないように祈る。 五番関に戻ってきた。カタカタ音がする。何かいる?不審に思って見廻すと、目まぐる しく動くものが目に入る。よく見れば兄さんが張ったロープの真ん中の通行禁止の札が、 強風で勢いよく回転しているのだった。なーんだなんて納得している場合じゃない。早く 下山せねば...。 五番関からトンネル横へ下る間に、雲が急激に厚くなったのか周囲は日暮れのような暗 さになる。雷鳴も大きくなって近づいている様子だ。もう少しもう少しとばかり気をせか して10分ばかりで東屋まで降りてきて一息つく。テーブルにザックを下ろして携帯傘を 出そうとするが肝腎な時に出てこないのだ、これが。 (x_x) 空の様子を見る。雷鳴はす れども雨はまだ本降りではなさそうである。山で雷に体を露出させるのは怖い。今のうち に少しでも下っておこうと雨宿りの考えは切り上げて、林道を走るようにして、木々の枝 が道の上を覆う箇所まで逃げる。 運よく篠つく雨ということにはならず、なんとか20分ばかりで毛又橋の車まで戻るこ とが出来た。こういう時、濡れずに装備を解くことができるのでリアゲートが上下式の車 は助かる。一息ついたら急に空腹を覚えた。観音峰の登山口の休憩所なら濡れずに食事が 出来るわいと車を動かかけたら、急にバラバラとルーフに何かが当たる音がする。フロン トガラスにもバチバチ何かが弾けている。雹である。5mm位の直径がある。幸い下り方向 の西の空が明るいので急いで車を走らせる。予想通り洞川の街中では小降りの雨に変わる。 誰も同じ考えと見えて、観音峰の休憩所には雨を逃れた釣り客やハイカーがたむろする。 空いていた一角にザックを下ろす。久方ぶりのラーメン。まだまだ今日など暖かいものが 美味い。 少し時間があるので丹生川上神社下社に寄ったりして帰途につく。水越トンネルを抜け た頃には、霞んではいるものの雲もほとんどない青空が広がっていた。 今日は至る所で雷雨の洗礼があったらしい。昨日の土曜日なら今日ほどのことはなかっ たに違いない。思い立ったが吉日というのは山でも通ずる格言でもあるなあ。しみじみ感 じた一日だった。
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