竜王山、牛の子山、チンジンさん〜久々に能勢の山

竜王山山頂の祠
平成24年 1月22日(日)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】別掲


 ボタン鍋から一夜明けてオフ二日目。今日は久しぶりに能勢の山に登る予定。またまた
干支の山の竜王山だ。ところで能勢には私的に能勢三山と呼んでいる山がある。三草山と
堂床山。それにこの竜王山である。猪名川町の紫合(ゆうだ)近辺からは、三山が綺麗に
並列する姿を見ることができるので猪名川三山と呼ばれることが多いが、三山ともれっき
とした大阪府の山(堂床山は府県境)なのである。であるからしてやはり能勢三山と呼び
たいものだ。(笑)

 ところが近頃、地形図を見てみるとこの竜王山、『滝王山』と記述されている。滝らし
いものもないし、単なる誤植と思いたいが一度、国土地理院に聞いてみたいものだ。(笑)

 能勢町随一の繁華?な場所がR173の栗栖の交差点である。能勢唯一のスーパーやホ
ームセンター、コンビニが揃っている。渓谷の森公園を8時半過ぎに出て、猪名川町杉生
から府道を東進すると栗栖。そのコンビニで食料を仕入れ、府道を少し戻って南に折れる
と三草山の優美な姿が見えてくる。西に折れて長谷川沿いの新しい車道を長谷に向かうと、
直線状の車道が道幅を狭めてカーブする手前に路側の膨らみがある。

日本の棚田百選でもある美しい長谷の棚田と三草山

 下車すると暖かい。風もなく薄い靄がかかって空気はまるで初春の装いである。ちょっ
と軽めの服装でも十分みたいだ。才ノ神峠へ向かう道は左にカーブして経田橋を渡り、緩
やかに登っていく。歩いていくにつれ、眼下に日本棚田百選にも選定された長谷の棚田が
広がる。まだ茅葺き屋根の民家も残っており、ここが大阪府とはとても思えない長閑な風
景が展開する。某携帯会社のCMの犬に似た白犬を連れた小母さんが何処へと話しかけて
くる。「今から竜王山へ行きます」。

 才ノ神峠に近づくに従って道の傾斜は急になり、区画整理がされていない本来の棚田の
姿がそこにある。ガマと呼ばれる地下水路の石組みや野面積みに積まれた石垣の大きな石
に、米を作る農家の人の苦労が忍ばれる。その棚田も耕作する人が減っているという。所
々にある『農園〇番』という標識は貸し田の印であろう。振り返れば、剣尾山、横尾山、
城山など見慣れた能勢の山々の重畳と居並ぶ姿があった。

これぞ峠という才ノ神峠

 才ノ神峠ほど峠という雰囲気を持つ峠は少ない。6本以上の道が集まってきており、石
仏、法華の鬚文字の碑、道しるべなどが山際に建てられている。江戸期、多田銀山が最盛
期を迎えた頃は織るように人の行き来があったろう。槻並から屏風岩に出れば万善経由で
銀山は近い。また有馬への湯治客も行き交ったろう。そんな老若男女を見て来た石仏が、
以前、三体だったか盗難にあったと聞いたが無事戻ったのだろうか?

 峠を後にして裏山林道に入る。何時来ても薄暗くジメッとしてあまり好きになれない道
だ。しかも家電製品や家財などの廃棄物が道端に捨てられているのを見るのはたまらない。
業者の仕業か、住宅地近くに林道があると必ずこんな光景がある。(怒)

 シイタケ栽培地を左に見て、小さなピークをぐるりと迂回する感じで半周した辺りに竜
王山の登山口がある。裏山林道とY字型に右斜めに上がっていくが、登山口の標識らしき
ものはなくテープが巻かれている程度。隣にこれも薄暗い分岐林道があって間違いやすい
が、これは才ノ神峠方向に戻る道だ。

 しばらく進むと左手にまたシイタケ栽培地がある。その先は古い伐採地で踏み跡は明瞭
なものの、身の丈を越える笹が繁茂して歩き難い。しかも昨日からの雨で濡れているとき
ては....。ただ、少し笹が低くなると北摂の主に猪名川町や川西市、三田市辺りの山々が
一望できる。結局、この山で遠くを見通せるのはここのみだったことが後で分かる。(^^;

 笹が収まると道は明瞭で迷うこともない。しばらくで右から上がって来る支尾根に乗っ
て左に折れる。支尾根に踏み跡のような雰囲気があったので、先の取付き近くの林道から
上がれるコースがあるのかもしれない。以降は杉林の中の斜面を真っ直ぐにひたすら登る
ことになる。

 やがてゴロゴロ散在した岩が徐々に増えてくると山頂は近い。最高点と思われる辺りは
かなり大きな岩が重なり、地から湧き出たような露岩も多く、磐座であったのかもしれな
い。旱魃に襲われた時には、いかにもこの付近で雨乞いの神事が行われたような雰囲気が
ある。山頂を北にやや下った所には、まるで斧を使ってスパッと断ち割ったような岩が天
に向かって立ち上がっている。高さは5m位だろうか。地上から高さ3mほどには岩棚が
あり、八大竜王の小祠が祀られている。祠の横の風雨除けのセメントブロックが少々雰囲
気を壊しているけれど、なんとなく神寂びた雰囲気は伝わってくる。

 山頂から北は綺麗な尾根筋で、竜王社の参道になっているのか踏み跡もさらに明瞭であ
る。しかも植林からガラッとうって変わって、雑木のプロムナードが続いて明るい。コナ
ラ、クヌギ、ソヨゴ、アカマツ、ツツジ類が混生する典型的な北摂の植生はことにアセビ
が多い。それらの木の間越しに、西には反射板を抱いた丸山と堂床山のピラミダルな姿が
見える。その間にも斜度は徐々に増し、立木で支えないと滑りそうだ。一旦下って登り返
した小ピークには四等三角点『長谷』が埋まる。ここも全く展望はないが、雑木に囲まれ
一息入れるにはいい場所だ。やがて落ち葉に埋まる宮峠が下に見えてきた。

竜王山から宮峠へ降りる。左へ行くと八坂神社へ出る

 東に八坂神社があるので宮峠と名付けられたという。ここもやや寂しいけれど峠らしい
感じがする峠である。北へ向かう広い道があるが、あえて尾根を辿ろうとしばらく進んだ
476m標高点あたり。踏み跡が消え、倒木や雑木の枝の張り出しで前進しづらくなる。
先程の広い道に出るべくコンパスで確認しながら西へ転進し、斜面を下る。するとすぐに
北東へ行くいい道が現れた。ところが30m余り西に降りたMさんらが北に向かういい道
があるという。半信半疑でそちらへ合流すると、なるほど先程の広い道の続きがこれらし
い。ならば今さっき降り立った道は北東の池へ向かう道なのだろうか。この付近、小道が
錯綜していて、コンパスを持っていてもややこしい。

 明瞭な尾根道が続くが、地形自体は錯綜していて徐々に判り難くなる。所々に分岐もあ
るのでどちちを採っていいのか難しい。最初のはっきりしたY字路は右の尾根道を採る。
時々、赤白鉄塔を頂く高い山が前方に覗くが高岳のようだ。

 小一時間は要したろうか。えぐれたような、雨が降れば水が流れるような小道を進み、
やがて左に小さな峠を見て右に折れる。なんだか沢の源頭みたいな場所で左下は広く浅い
谷だ。それがすぼまってくると、なんだか古い道らしくなり、私製の白いビニールテープ
の標識が細い木の幹に巻かれてあるのが目に付いた。牛ノ子峠だ。小休止。

 予想に反して、峠には牛ノ子山へ明快な踏み跡がある。その取付きに黄色いプラ杭も1
本。山腹を巻くように踏み跡は登って行く。但し、道なりにうかっとそのまま進んでいく
と降りていくので、適当な所で見切りをつけて斜面を登って行かなければならない。登る
踏み跡が定かでないのは何処でも登れるからだろう。それでも薄い踏み跡があって、ほぼ
一直線状に斜面を上がっていく。張り出した雑木の細い枝が少し煩わしいが、5分もかか
らずに灌木に囲まれた牛ノ子山山頂の切り開きに出た。四等三角点『牛ノ子』。きれいな
標石が埋まる。他の先達の記録にあるように、ここも展望には恵まれない。冬枯れの木立
越しでも赤白鉄塔を頂く高岳、鳴滝山の高みや、猪名川変電所の鉄塔らしきものも垣間見
える程度だ。それでも丑年には干支の山としてかなりのハイカーが訪れたという。

牛ノ子山山頂

 丁度正午なのでここで食事とする。広くもない中央の切開きを占拠していると、聞きな
れぬ話し声が近づいてきた。10名ほどのグループだ。そのグループに紛れて見覚えある
顔があった。低山徘徊派時代に山行をご一緒したこともあるMさんだった。何年振りなの
かこれは奇遇。しかもこんなマイナーな山で。(笑) そういえば、北摂の山を歩くきっか
けとなったKさんとも、京都の園部南部のマイナー山でが初対面だったのを思い出す。聞
けば我々のコースと丁度逆のコースを辿っているのだとか。このあと竜王山から三草山を
廻るということである。

 下山は牛ノ子の山頂から牛ノ子峠へダイレクトに行ってみようと南東へ降りてみる。道
はないが藪でもなく、鹿が歩けるような空間がある。すると同じ考えを持つ人はやっぱり
いるもので、残置テープが見つかった。さきほど峠で見かけた黄色いプラ杭も10m間隔
で埋まっているので、これを追いかけていくとまもなく峠道に合流した。地形図を確かめ
ると、降りた所は牛ノ子山の小さな尾根の先で牛ノ子峠の東の地点になる。峠にダイレク
トに降りるには真南に降りるべきだった。(笑) 灌木には真新しい黄色いテープに、多分
女性であろう綺麗な文字で、牛ノ子山と牛ノ子峠との分岐である旨の案内があった。

 ここからはほぼ真東に延びる尾根をトレースする。雑木のいい尾根で、春先はミツバツ
ツジが綺麗だろう。時折、南が開け、三草山と長谷の棚田が美しい。道は思いの他しっか
りしているが、難しいのはここでも分岐道の選択だ。尾根を行く道との分岐では左の谷道
を採ったが、右の踏み跡はどこへ行くのだろう。

 栗園に出た。道はまだまだ続いているが、その上に四十絡みの兄さんが姿を現した。お
お?一瞬、我々とは逆コースで歩いている人かなと思ったがどうもそうではないらしい。
シイタケのほだ木を切り出しているので注意して通れということのよう。ついでにチンジ
ンさんは?と聞くとそんな名は知らぬ。三角点はある?との問いにはそんな専門用語は知
らぬとのたまう。まあ、聞かぬまでもその上の尾根筋だろうと斜面をよじ登ろうとしたが、
これが粘土質のとても良く滑る斜面。すがる立木とて無く今回の一番の難所ではなかった
か。(笑) 靴のトレッドに一杯土を詰めて、ズルズルと登る。しかし登ってしまうと笹が
刈られていて歩き良い。切られた幹が転がっていたからさっきの兄さんの仕業か?(爆) 
その先は明瞭な尾根で、全面、よく手入れされた植林の杉林である。200mも歩いてい
けば古タイヤと共に四等三角点『向所』の埋まるチンジンさんが簡単に見つかった。

 何の変哲もない、高みでもない所で三角点やプレートが無ければ全くそれと気付かない
場所である。面白い名前については、地神もしくは鎮守さんが訛ったものではないかとい
う説に大方間違いはなかろう。ただ先の兄さんの話によれば、昔は姥捨山だったとのこと
だが真偽のほどは分からない。もう一つ面白いのは古タイヤが一直線上に南斜面に埋めら
れていること。多分、所有地の境界を示すものだろう。この古タイヤにそって行けば方向
が間違うことはない。タイヤに沿って下草もないなだらかな斜面を下りると、まもなく先
程の道の続きに復帰する。
(※ チンジンさんは私の居住地にもあって、古い榎のたもとに五輪塔があり、おできや
   頭痛に霊験あらたかだったという。)

 後はずっと杉林の中の深くえぐれた一本道である。途中に数基、なぜかポツンと古い墓
があるのに気づく。道祖神風の二人並んで彫られた石仏もあったが、どんないわれがある
のか、石仏にちょっと問いかけてみたい気がした。

 もうほとんど傾斜はなく里に出た感じがする。辺りが一気に明るくなるとまた栗園に出
た。前方に民家の屋根が見え、白壁の綺麗な立派な蔵を持つ大きな屋敷の横から町道に飛
び出した。そこはこれからチンジンさんに行こうとする場合、とてもここに取りつきがあ
るとは分からない場所である。(笑) 

長谷の集落からチンジンさん

 町道を今井道場旧蹟の石碑で左折して川沿いの車道に合流する。我々が駐車した地点近
くの路肩には、京都バスの貸切バスが止まっている。団体さんが川沿いに下っていくが、
大方、ゼフィルスの森から三草山にでも登るに違いない。

 駐車地に到着。休憩含め4時間半弱の山歩きは、長谷の棚田を中心にぐるりとほぼ2/
3周した勘定で、1万6千歩だと万歩計の数字を眺めた誰かの声が聞こえる。私はという
と、チンジンさんの登りの頃からか、左の太腿裏が攣ったような違和感があったが、久々
の能勢の山もなんとか無事に歩き終えることが出来た。これで二日間にわたったボタン鍋
オフは無事に終了。ここで散会となる。見上げると、優美な姿の三草山(別名の美奴売(
みぬめ)山と呼んだ方がピッタリだ)がまたおいでと誘っているようであった。


【註】滝王山について国土地理院に問い合わせてみました。参考に回答を抜粋して上げて
   おきます。
   『国土地理院では、関係自治体からの申請に基づいて山名を表示しており、ご指摘
   の「滝王山」注記につきましても、平成13年3月の大阪府豊能郡能勢町からの申
   請に基づいて2万5千分1地形図「木津」において、平成14年4月発行分より、
   「滝王山」と注記しており、それ以降変更の記録はありません。また、電子国土基
   本図(地図情報)でも同じ表記をしております。』
   とのことです。


■同行:裏人さん、たらちゃん、二輪草さん夫妻、水谷さん、モグさん、
    ペンギンさん夫妻(五十音順)

【タイムチャート】 
9:20長谷川沿いの路側帯(駐車地)
9:56〜10:00才の神峠
10:09竜王山登山口
10:32〜10:42竜王山(570m)
11:00四等三角点『竜王山』(507.4m)
11:08〜11:10宮峠
11:50〜11:51牛の子峠
11:58〜12:23牛の子山(450.8m 四等三角点)
12:30牛の子山東取付き点
13:02栗林
13:10〜13:14チンジンさん(335.2m 四等三角点)
13:27向所集落の民家横
13:40長谷川沿いの路側帯(駐車地)



竜王山データ
【所在地】大阪府豊能郡能勢町
【標高】570m (四等三角点『竜王山』507.4m)
【備考】 猪名川町の紫合付近から北方を眺めると三つの山が並列
する姿が見られますが、これが右から三草山、竜王山、
堂床山で、私的には能勢三山と呼んでいます。三山の中
では展望も恵まれておらず、比較的マイナーな山です。
山頂は岩がゴロゴロし、その中の切り立った岩には八大
竜王の祠が祀られています。南にある才ノ神峠と北にあ
る宮峠を結べば縦断することが出来ます。
牛ノ子山のデータ
【所在地】大阪府豊能郡能勢町
【標高】450.8m (四等三角点『牛ノ子』)
【備考】  竜王山のまだ北方という、能勢でも奥まった部分に位
置し、展望もほとんどない為、アプローチにかける労力
の割に報われることが少ない山です。(笑) 従って、丑
年以外に訪れるのはマニアくらいなものでしょう。しか
しそれだけ静かな山行が楽しめます。
チンジンさんのデータ
【所在地】大阪府豊能郡能勢町
【標高】335.2m (四等三角点『向所』)
【備考】 長谷集落の民家の裏山という風情ですが、四等三角点『
向所』が置かれています。中腹以上はほぼ杉の植林に覆
われ展望もありません。珍しい山名の由来は『鎮守さん』
の訛ったものではないかということです。
【参考】2.5万図『木津』『妙見山』



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