竜王山〜湖南の干支の山を楽しむ

耳岩の南付近から竜王山
平成24年 1月 4日(日)
【天候】曇り
【同行】別掲


 その年の干支にちなんだ山に登ろうという干支オフ。毎年恒例となった感があるが、そ
の年の干支によって候補に多寡があり、去年は卯(うさぎ)で何処にしようか悩ましかっ
た。対照的に今年は辰年で候補は数多ある。ざっと数えただけでも有名どころでは吉野の
龍門岳、紀ノ川沿いの竜門山に鈴鹿の竜ヶ岳。北摂にも三草山の隣に竜王山(地形図では
滝王山)、茨木にも竜王山がある。辰すなわち竜。竜は雨をもたらす神として古来から信
じられてきただけに、雨の少ない瀬戸内から近畿にかけてはことさら信仰が篤く、龍神を
祀る社が多いのだろう。それらは当然、天に近い山の上に祀られることが多く、津々浦々
に有名無名の龍神の山があることになる。(例えば宝塚市北部の西谷地区には少なくとも
三つの竜王山がある)

 その中から今回選択したのは金勝アルプスの竜王山。JRとバスで乗り継げば大阪から
登山口まで凡そ1時間半。展望も良く、歩行時間も大休止込みで5時間程度と適度。出発
地点に戻ってこれて、しかもショートカットもあるとなればこれほどオフに最適の山はな
い。

 アクセスを調べると、最寄りの上桐生へ行く帝産バスは1月4日まで正月ダイヤで1時
間に一本、毎時00分のバスしかない。これを基点にJRは草津8:41着の長浜行の新
快速と決める。電車一本遅れの人もいたが、定刻には草津東口のバス停に今日の参加者8
人が全員集合する。

 ほぼ貸切状態のバス。運転手さんは何処から来たかと聞いた後、「今日は暖かいよ。朝
は4℃もあった」予報は寒いとTVで報じていたが、小一時間揺られて着いた終点の上桐
生でバスを降りたら、運転手さんの言うとおりそんなでもない。風がない所為だろう。早
めに一枚脱いでおいた方が無難なようだ。

上桐生キャンプ場入口。右は狛坂寺址、左は鶏冠山方面

 昔歩いた時には鶏冠山から時計回りであったが、今日は昼過ぎから下り坂の予報もあっ
て、竜王山から反時計回りのコースを採ることにして、バス停から東へ狛坂寺跡に向かい、
川沿いに林道を進む。オランダ(デ・レーケ)堰堤近くの橋では消防車が止まり、なにや
ら準備作業に余念がない。聞けば出初式の練習なのだそうだ。

 橋で左に折れる。デ・レーケといえばほど近くの湖南アルプスの堂山にもレンガ積みの
堰堤があった。今も各地に建造物が残っており、しかもいまだにその機能を果たしている
とは余程堅固な造りであるに違いない。質実で真面目な人柄を忍ばせる。

オランダ堰堤とデ・レーケの胸像

 T字路で林道天狗岩線と合流し右に折れ、谷川に沿って遡ってゆく。間もなく『逆さ観
音』の標識で少し寄り道すれば、東屋の横に山からずり落ちた三体の仏が彫られた岩を見
る。観音といっても本当は阿弥陀三尊だそうで、あのデ・レーケ堰堤の工事に石が足らず、
阿弥陀三尊の彫られた岩の一部を割ったところ、バランスを崩して落下して今の姿になっ
たという。まあ、なんとも罰当たりなことだが、廃仏毀釈の熱冷めやらぬ頃だから必要に
迫られてワーッとやってしまったに違いない。(^^;

 新名神の金勝山トンネル下の隧道を抜ける。その昔歩いた時には工事中だったところだ。
周囲は典型的な低山の雑木林。コナラ、アカマツ、ネズ、ソヨゴ、ヒサカキ等々。冬枯れ
の淋しい時期だけれど、ムラサキシキブの紫色の実やウメモドキの赤い実がアクセントに
なる。林道横の流れは風化した花崗岩質で白く明るい。ダートの林道は「警笛鳴らせ」や
「重量制限」の錆びた古い標識が残るが、徐々に自然の山道に還っていくようだ。

 幾つかの枝道を過ごして、桐生辻の500mほど手前に狛坂寺跡への分岐がある。それ
に従って荒れた竹藪の平坦地を進むと、いつの間にか岩がちで急峻な、雨が降れば川にな
るような溝状の小道に変わる。それが終わると左手に野面積みの石垣が現れて、人の手で
ならされたような林の中の台地になる。狛坂寺跡だ。高名な狛坂の磨崖仏はそのすぐ先の
岩に彫られている。この下に新名神のトンネルがあると思うとちょっと不思議な感じがす
る。
狛坂磨崖仏

 縦6.5m、横4mの花崗岩に彫られた三尊仏を囲むようにして、七体の菩薩像が彫ら
れているという立派な石仏の年代は、奈良時代後期まで遡るという。渡来系の影響がみら
れるということだから、近江に多く住まわったという半島からの帰化人の手になるもので
あろうか。金勝寺の別院だった狛坂寺の当時の繁栄がしのばれるが、石仏の前には鏡餅と
お酒が供えられていて、未だに地元の信仰が篤いようである。また、三尊仏の向かいにも
磨滅が進んで全く判然としないが石仏が安置されてあり、その体にだけ冬の木洩れ日が当
たっているというのも、何か神々しい感じがするのである。

 狛坂寺跡までやって来るともう稜線は近い。少しの間だけ急登だが、岩がゴロゴロ目立
つようになると間もなく国見岩。なるほど見晴らしが良い。眼下に高速道が帯のように伸
びる。左手に目立つ山は以前に登った湖南アルプスの堂山らしい。山並み奥にアンテナの
目立つのは阿星山か。右手遠くには琵琶湖が霞む。春になって、置かれたベンチに腰かけ
て、こんな風景を眺めつつ駘蕩たるそよ風に吹かれてコクリコクリするのもいいものだろ
う。

 一息入れて岩の間を進む。次に現われる巨大な団子を積んだみたいな重ね岩にも石仏が
線刻してある。逆さ観音の説明板にあったように金勝寺の参道だったこの道。昔の人はど
んな気持ちで歩いていたのだろうか。

 白石峰は峰とは名ばかりだが三叉路で、コース的には重要な地点。右手に折れれば竜王
山から金勝寺。左は鶏冠山への縦走路。まずは本日の干支オフの目的地、竜王山へ向かわ
ねばならない。途中、可愛い30cmほどの茶沸地蔵が彫られた岩がある。磨滅が進んで
細かい表情は察するばかりだけれど、何だか自然にホッコりする石仏だ。

 次第に金勝寺の杉木立が右に近づいてくる。その前にこんもりした竜王山がうずくまる。
数日前に降った雪が北の日陰には残っており、竜王山に近づくほど増えてくる。杉林の小
さな鞍部をから登り返した山頂直下、金勝寺の奥宮である竜王社の前付近では雪が凍って
いる。少し滑りつつも、竜王山の小さな山頂は目の前だ。四等三角点が埋まる山頂は展望
がなかったように記憶していたが、北が若干開けていて、中央競馬の栗東トレーニングセ
ンターが一望できる。そして琵琶湖の対岸の比良の稜線は真っ白であった。

竜王山山頂から。左手前に栗東トレセン、右に三上山がある


 風を避けて山頂で食事を摂り、オフの記念撮影。女性陣の差し入れを頂いた後は白石峰
に一旦引き返す。そしてこの白石峰から鶏冠山の縦走がこの金勝アルプスのハイライトで
ある。耳岩、天狗岩を始めとして灌木に包まれた露岩の尾根を行くコース。鶏冠山までは
2km強、上桐生の駐車場までは4.3kmだそうだ。

 小刻みなアップダウンがあるとはいえ、基本的に徐々に高度を下げていくので歩きは楽。
尾根は狭くなったりやや広くなったり。岩の風化したザレ場、キンコウカの花ガラが残る
砂混じりの湿地なども通過する。どこから見ても耳には見えない耳岩を経て、続いて現れ
るのが湖南アルプスのシンボルともいえる天狗岩である。

 天狗岩を登るのは今回で二度目。前回は確か貰ったみかんを岩の隙間か何かに落として
しまった記憶がある。(^^; ごつごつした岩の累積で、適度にフリクションもあるので、
見た目以上に登りやすい。時計回りに岩を巻く感じで岩の上に立つと、そこは文字通り3
60度の展望台。湖東や湖南の平野から比叡山、雪の比良山系に近江富士。金勝アルプス
と呼ばれるだけあって、累々とした露岩が周りのあちこちに顔を出す。飽きない風景に冷
たい風が心地よい。
天狗岩の北の登山道から鶏冠山

 日が陰り始める。心なしか午前中より風が冷たくなってきたようだ。天狗岩から小一時
間の行程を経て、落ヶ滝経由で上桐生への分岐がある最低鞍部へと到着し小休止。ここは
一昨年の梅雨時だったか、キンコウカを愛でに来て、その後ここまで登った時、ついに雷
鳴が轟き始め、諦めて撤退した場所である。桐生のキャンプ場に着くまでにはザーザー降
りとなり、傘を持っていたもののあまりものの役に立たず、キャンプ場のバイオトイレの
建物の庇の下で濡れた体を拭いたのを思い出す。この時、心はもうオフの打ち上げにと移
り、3時のバスに間に合うように鶏冠山はパスして、落ヶ滝コースへと折れることになっ
た。

 この道は沢を下る道で、途中に露岩を下る場所が何箇所かあって、雪が残っていたり濡
れていると嫌なのだが、鞍部より下には全く雪はなく、岩には適当にフリクションもある。
小川程度の流れを幾度か渡って落ヶ滝への分岐を過ごす。ウメモドキの鈴なりの赤い実が
見事。その先の小さな高みを乗っ越すと鶏冠山コースとの出合はすぐである。道は広くな
り、やがて林道を横切り、徐々に流れを集めて水量が多くなった川を右に、植林を抜ける
と池が見えてくる。やや離れた汀に幾十となく置かれているのはミツバチの飼育箱のよう
だ。

 林道に出て、思ったより早くキャンプ場に着けた。バス停前に着いた時、3時までには
まだ20分あった。当然、バスはまだ来ていない。やはり気温が午前中より下がっている
ようだ。風も出て寒い。尾根を歩いていた時、北西から雪雲が広がってきているように思
えたが、それが的中したか、周囲は夕方のようにうす暗い。その内、白いものがチラチラ
したかと見る間に横向きの雪になった。

 10分ほどしてやって来たバスの中は暖かく一息つく。またまたほぼ貸切状態でバスは
草津駅へ。よく見るとなんと朝に乗ったのと同じバスだった。^^; 

 京都駅で下車してまだ明るいけれど最寄りの居酒屋で打上げ兼新年会。しばし外の寒さ
を忘れる。去年は色々なことがありすぎた。今年は是非とも干支通り昇龍と行きたいもの
です。



■同行:裏人さん、呉春さん、たらちゃん、二輪草さん夫妻、水谷さん、もぐさん

【タイムチャート】 
8:41〜9:00JR草津駅(集合)
9:20〜9:25上桐生バス停
9:40デ・レーゲ堰堤
9:45〜9:50逆さ観音
10:29〜10:31狛坂寺跡道出合
10:45〜10:55狛坂磨崖仏
11:08〜11:14国見岩
10:20重岩
10:26〜10:28白石峰
11:45〜12:15竜王山(604.7m (四等三角点))
12:31〜12:34白石峰
12:44耳岩
13:00〜13:17天狗岩
13:51〜13:53鞍部(落ヶ滝出合)
14:16落ヶ滝分岐
14:20北谷道(鶏冠山登山道)出合
14:40上桐生バス停



竜王山のデータ
【所在地】滋賀県栗東市
【標高】604.7m(四等三角点)
【備考】 金勝アルプスの主峰ですが、杉木立等で、展望には余り
恵まれていません。山頂に金勝寺の八大龍王社の祠があ
るので龍王山の名が付いたようです。北の鶏冠山にかけ
ては金勝アルプスと呼ばれ、天狗岩、耳岩等の奇岩が並
び快適な稜線歩きが楽しめます。とくに天狗岩からの展
望は360度で琵琶湖、比叡山、金勝アルプスの奇岩や
三上山等が一望です。
【参考】
2.5万図『三雲』



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