小雪舞う杉坂峠から奥山

592mピーク(西奥山)南面から眺める。手前の繁みの向こう側の台形が奥山。奥山の左、
末吉の集落の奥は昼ヶ岳の稜線。中央に大船山が顔を出し、有馬富士が右手遠くに見えている

 平成24年 2月12日(日)
【天候】晴れたり曇ったり一時小雪
【同行】水谷さん


 兵庫県の三田市は北部の篠山高原から南に相並行して流れ下る河川が多く、山並みもそ
れに合わせて南北に平行に延びている。その内の代表的なものが大船山を含む山並みだが、
その大船山の北側に奥山(鎌の尾)という山がある。何の変哲もない山なのだが、地形図を
眺めると面白いことに裾野が真円形をしているのがお分かりになるだろう。昔、山を始め
た頃、この奥山に登りに来たことがある。なぜこんなマイナーな山を目指そうと思ったの
か今となっては定かではないけれど、その時は残念ながらオオスズメバチの出現に敗退し
たこともあって、それからずっと気になっていた。今回はその奥山に登り、合わせてその
北に並ぶ標高500〜600mの稜線(青ヶ原)を廻ろうという欲張った魂胆。風邪回復後
の気楽な山歩きをする積りだったのに、とんだリハビリ山行となってしまいました。(^^;

 高平ふるさと交流センターに10時集合ということでMさんと約束し、9:45頃到着。
空いていると思った駐車場だが、地域のスポーツ大会でもあるのか満杯だ。その中にMさ
んの車がある。早速、一台で見覚えある観福寺の茅葺きの山門前を通って、サングレート
ゴルフ場沿いの県道を登っていく。大阪ではあんなに晴れていたのに、雪雲っぽい灰色の
雲が北の空を覆っている。阪神間に比べて裏日本に近い気候なのだろう。日陰には雪が残
り、道路に流れ出した沢水も凍っている。「県道ここまで」という道路標識付近、ゴルフ
場の管理道ゲート前で駐車する。やはり空気はピリッとしている。標高は300m位か。
振り返るとフェアウェイの向こうに里の風景が広がる。

 周囲は冬枯れのつる草が灌木に絡みつき、荒れた感じがする。ゆるゆると登っていく舗
装路は5分で行き止まり。そこが杉坂峠だ。倒木で荒れてはいるが、向こう側(東)は猪名
川町柏原。大野山の南麓の集落である。

杉坂峠。直進すると猪名川町。
青ヶ原へは左の尾根に取付く

 さて、まずは取付きである。見ればそれらしい明瞭な痕跡がない。とりあえず尾根まで
出てしまえば踏み跡があるはずと、登りやすい適当な所を選んで踏み込む。まもなく薄い
踏み跡が現れて10分ほどで尾根に出る。雑木の間を伝っていき、右からの明瞭な踏み跡
と出合うと、市町界を現す頭の赤い境界杭も出てきて俄然歩き良くなり、更に関電巡視路
と合流すると、それはもう我々にとってはこの上ないフリーウェイである。

 こんなマイナーな山域だ。誰にも遭わないだろうと思っていたら、巡視道に出る手前で、
前を行く単独小父さんに遭う。志手原から来たといい、聞けばこれから我々とほぼ同じコ
ースを歩くそうだが、ふれあいセンターに車を置いてここまでやってきたとはさぞ大変だ
ったろう。

 上空を高圧線が横切る。すると前方が開けて高圧鉄塔の下に出る。鈍色に光る脚を調べ
ると東播線bP0。大きな切開きの台地はドーンと目の前に大野山の全貌がある。北摂で
は一、二の大きな山容だ。どこか遠くで犬の声がする。柏原付近の民家の飼い犬だと思う。
まさか猟ではなかろう。願わくばこのまま吠え声が大きくならないことを。(笑) 流石に
尾根では北から寒風が吹き、雪面を抜けてくる風は冷える。早々に歩行再開。

 猪名川町と宝塚市の市町界でもある、ほぼ標高500mの稜線に沿った巡視路は非常に
よく整備されている。道の周囲はアセビとソヨゴ、アカマツ以外はまだ冬枯れの茶色が主
だが、四月の声を聞けば、ミツバツツジのピンクに染まることだろう。その巡視路を西か
ら北方向にカーブすると何の手間もなく、赤白の測量棒と共に四等三角点『向山』は路傍
にある。本当の向山と呼ばれる山はこの先の小さなピークなのだそうだ。

 巡視路名物、黒いプラ階段。山では少し無粋なものであるが、ここのは厚く落ち葉が積
もって隠され些かの違和感もない。ただ、北側の日陰は残ごり雪も多めであることも手伝
い滑りやすいので注意が要る。と云っている尻からズルッときた。くわばらくわばら。

 地形図でも分かる広い鞍部にやって来る。この辺りが古いエアリアマップ『北摂の山々』
に記載されている青ヶ原だろうか。ここから遠くない高岳北尾根に似た、北摂の雑木林の
良さを醸し出している。やはり雑木林は落葉樹主体でなきゃあ!と思う。(笑)

 山並みの小刻みなアップダウンを右に左に巻きながら効率よく巡視路は続くので歩くの
が楽である。東播線bP2の鉄塔を過ぎれば東奥山と呼ばれる575m標高点ピークは近
い。あまり目立つ高みでもなく、薄く残った雪に覆われた小広い頂上からの展望もあまり
ないが、北側の木々を透かしてゴルフ場のクラブハウス様の建物がほぼ同じ高さに覗いて
いる。(猪名川町柏原のチェリーゴルフクラブと思われる)

 Mさんがシャリバテ気味だというので、誰も来ないだろうということで尾根を少し外し
た巡視道で昼食。雪雲で日が翳り、白い物がちらつきだす。じっとしていると寒くなって
くるので昼食時間はたった7分間だ。(@o@)

 東播線bP4の鉄塔を過ぎ、猪名川町と三田市の市町界尾根の小さなアップダウン。巡
視路は快適でぐんぐん歩が進む。その市町界を離れ、尾根の方向が北西方向から西へ変わ
った付近であっただろうか。薄く雪化粧した高みに登ると長さ60cm位の一本の石標が
ゴロンと転がっているのが目についた。表面には大きく『基点』と彫り込んである。何の
基点を示すのだろうか?その時、GPSに眼をやっていたMさんが驚きの声を上げた。な
んと経緯度が北緯35度ジャスト、東経135度17分ジャストだというのだ。この基点
石がまさか経緯度に関係はすまいが、妙な符合ではある。

『基点』と刻まれた石標。何の印でしょう?

 ようやく赤白鉄塔(東播線bP5)が建つ地点にやって来た。北から西にはここより高い
高原状の山々が並んでいる。土地勘がないのではっきりしないけれど、綺麗に裾野を引い
た三角形が目立つのは三国ヶ嶽だろうか。山頂付近に建物が見えるのが峰ヶ畑なのかもし
れない。北の奥の大きい山は篠山の三嶽に違いない。

 この赤白鉄塔のすぐ南のこんもりした地点が595m標高点ピーク(西奥山)。ヤブ山で
何のプレートもない。奥山に向かうにはここで巡視道とさよならして南に折れなければな
らない。そこで山頂と思しき地点から南に目指して降りてゆく。何となく獣道同然の薄い
踏み跡があるので辿って行くほどにどうもおかしい。575mピーク手前から現れたピン
クのPPテープも何も、一切の目印がぷっつり無くなった。次第に顕著になり始めた尾根
は下るべき南南西に向かう尾根と違い真南に向かっているようだ。西にもう一本尾根があ
るので、これは?ということで山頂へ登り返すことにした。戻った所で西方向を確かめる
とピンクのPPテープが見つかる。これだということで踏み込めば薄い踏み跡もあるでは
ないか。それは目指す尾根へと降りていく。頭の赤いプラ杭もある。もう間違いはない。

 そのピンクテープが途中で忽然と消えた。どうもマツタケ山の境界を示していたのでは
ないか。プラ杭はまだ続いているので今度はこれが目印だ。

 急に雑木が消えると、ほとんど背の低い痩せた小松ばかりの裸地尾根に出た。先達のH
Pにあったのかこれか。確かにすばらしい展望である。左手には所々雪を乗せたゴルフ場
のフェアウェイがある。その奥は昔歩いた昼ヶ岳、行者山の山並みで、とんがり頭を見せ
るのは大船山。目の前の台形状の山が最後の目標の奥山である。鎌の尾という別名がある
が、ここから見る限り、その台形の山容はお釜をひっくり返したようで、鎌は「釜」では
ないかと思える。斜め右には南北に長い羽束川沿いの田園が広がり、羽束山の右手には遠
く三田の市街地の向こうに芥子粒ほどの雄岡山、雌岡山まで視野に入る。西から北にかけ
ては峰ヶ畑始め母子、篠山に続く山並みで、北の方は灰色にかすみ、雪が舞っているよう
である。その雪雲が南を目指してどんどんこちらに流れてきている。

 この裸地尾根も曲者で、南に放射状に広がっており踏み跡が分からなくなる。やや歩き
やすそうな右手に振って降りようとしたが、すぐに雑木の抵抗が激しくなった。例の境界
杭が見当たらなくなったので、裸地に戻り辺りを確かめるとあった。尾根からやや左に下
るのが正解だったのだ。踏み跡はほとんどないものの歩き易さは歴然である。境界杭を追
いながらザッザッザッと落ち葉を蹴立てて急斜面を下る。やがて10分ほどで山の中の深
い皺のような布木谷峠に降り立つ。降り口の雑木の細い幹に黄色い残置テープがあった。

 峠は深く切れ込んでいるのでやや薄暗く、倒木も倒れ込んでやや荒れた印象がある。東
の末吉側に下れば200mも行けば林道へ出るらしいが、西の小柿方面はほとんど廃道の
ようである。一息ついて、さて、今回の最後の大きな登り、奥山への150mほどの登り
である。見るとテープ類は一切ないものの昔は良く歩かれた雰囲気が残る踏み跡がついて
いる。先ほどまでに比べれば巡視路のようなハイウェイとは行かぬまでも立派な国道?だ。
(笑) この奥山、鎌の尾というだけあって傾斜はきついのだが、古道らしく適当にジグザ
グが切ってあるので歩き易い。ただ、北斜面でやや深い雪が残っているのでスリップに注
意しながら、疲れでやや上がらなくなってきた足を懸命に前に繰り出す。一気に高度が上
がり、北が望める場所からは先ほどまでいた青ヶ原の山並みがある。赤白鉄塔が立つ山が
降る尾根を間違いかけた西奥山とも呼ばれる592mピークだ。(笑)

奥山北面から592mピーク(中央左)

 きつい登りも標高差が150mもないので、少し額が汗ばむ程度で広い台地状の山上に
出ることができる。しかし、かえってこちらの方が歩くのには難渋する。平地だというこ
とは、どこでも歩けるということで踏み跡も定まらないのだ。しかも雑木の小枝が張り出
して煩わしい。そのうちの一つがピンと跳ねて目尻を直撃する。「あっ」危なかった。も
う1cmもずれていたら眼球を直撃したかもしれない。(^^;

 疎らに古いテープが出てきた。それよりもやや大きめの境界杭が役に立つ。歩きやすい
場所を探りながら、ここでもその境界杭を追い、周囲より一段小高い所に上がるとそこに
綺麗な三角点が見つかった。三等三角点『非相山』である。

奥山の三等三角点『非相山』

 三角点の周囲には二、三の私製プレートが架かる程度でどこやらの労山のものが目立つ
くらい。もっと沢山あるのではと思っていたが、展望もないし、明快な踏み跡もないしで
は一般のハイカーは敬遠するだろう。(笑)

 踏み跡は消えたり現れたり。アセビに似た常緑樹が生えこんだ所に突入したりと、基本
的に南を目指して進む。ようやく露岩の目立つ下りになる。確か前回、といっても一昔も
前の話。この辺りまで来ていたはずなのだが記憶があいまい。石のゴロゴロした急斜面だ
ったのは覚えているが、もっとはっきりした踏み跡があったような気がする。落ち葉で隠
されてしまったのだろうか。328mピークとの鞍部まで来ると傾斜も楽になる。里の音
が風に乗ってくる。交流センターからだろう、甲高い子供の歓声も聞こえてくる。前方に
観福寺の裏山である堂山の姿が大きくなって来ると、眼の下に道標が見え、今日の行程が
無事終わったことを告げる。

 降り立った峠は堂山山上のとりで広場への丸木階段が目立つが、奥山への目ぼしい踏み
跡はない。この取付きについても、前回来た時はもっとはっきりしていたように思うが、
先入観からの錯覚かもしれないなと首を捻りながら西の交流センターへ直接戻ることにす
る。まもなく右下に見えた溜め池にはまだ薄氷が張る。篠山方面の山並みは灰色のベール
に隠され、と見る間に粉雪がちらつき始める。交流センターの建物の周りを子供たちがラ
ンニング。冷えた大気と違ってここだけはホットであった。

 リハビリにと思った山歩きも常と変らぬレベルとなってしまった。(笑) でもこれでほ
ぼ旧に戻したといえるだろう。それがあらぬか大阪に近づくに従って、空はあんな粉雪が
舞っていたとはとても思えない抜けるような青さでありました。



【タイムチャート】 
9:52〜10:00サングレートゴルフ場管理道ゲート前(駐車地)
10:05杉坂峠(取付き)
10:20関電巡視路出合
10:22〜10:25高圧鉄塔(東播線bP0)
10:30〜10:31四等三角点『向山』(535.0m)
10:55高圧鉄塔(東播線bP2)
11:00〜11:03575m標高点ピーク(東奥山)
11:18〜11:25575m標高点西約200m地点(昼食)
11:30高圧鉄塔(東播線bP4)
11:40〜11:42 『基点』石標 N 35°00′00″
       E135°17′00″
11:47赤白高圧鉄塔
11:50592m標高点ピーク(西奥山)
12:25〜12:30好展望の裸地尾根
12:50〜12:54布木谷峠(328m)
13:20〜13:25奥山(446.8m 三等三角点『非相山』)
13:40奥山南のコル
13:46359m標高点ピーク
13:55〜13:56とりで広場への峠
14:07高平ふるさと交流センター(車デポ地)



奥山(小柿)のデータ
【所在地】兵庫県三田市
【標高】446.8m(三等三角点『非相山』)
【備考】 三田市東部、大船山の北に位置する『鎌ノ尾』とも呼ば
れるマイナーな山です。地形図で見ると真円形をしてい
ますが、山容は複雑で北側から見ると台形に見えます。
展望には恵まれておらず、ヤブ山好きや三角点ハンター
向きの山でしょう。この為、ルートはほとんど整備され
ておらず、地形図とコンパスが必携です。尚、秋は松茸
山になると思われ入山注意です。
【参考】
2.5万図『木津』



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