念願の桧塚劇場は秋真っ盛り

秋色の桧塚劇場正面舞台。中央が桧塚奥峰、右に桧塚

平成24年10月21日(土)
【天候】晴れ
【同行】単独


 何時か訪れみようと思うけれどなかなか実現しない場所があるものだ。前回の学能堂山
同様、桧塚劇場と呼ばれるヒキウス平もその一つ。かねて桧塚周辺は秋が季節として最も
相応しげに思っていたけれど、移動性高気圧が広く日本を覆い、今年一番の晴天が見込ま
れるこの日曜に訪れてみた。明神平は錦繍に染まり、タイミングとしてもドンピシャだっ
たのではないだろうか。

 折角、5時半に目が覚めたのにザックに物も詰めていない。おまけに新聞も読み始めた
らいつのまにか時間が経っていて家を出たのは6時半。おっと給油もしなければ....。(^^;
それでも大又の林道終点近くの駐車広場へは8時40分着。今日は混むのではと懸念して
いた割にまだ半分弱の入りで、出発準備のグループが二組、準備に余念がない。

 ところで、途中、大又付近だったか、色々噂を聞いたことのあるおばあさんに遭遇。道
の真ん中に立っているので停車すると、薊も明神も廻れる云々、こっちの道から登れとい
う。何度も来ているので知っているというと「なんや。そうか」と解放してくれたのだが、
ここが初めての者ならうかうかとしんどいコースを歩かされていたかも....。(^^; くわ
ばらくわばら。それに大又林道、駐車広場近くで路面が荒れている。6月にはどうという
こともなかったから、この前の台風の要らぬ置き土産なのかもしれない。雨水でアスファ
ルトや土砂がえぐられ、穴が深くなっているので、普通車は注意が必要だろう。現に小生
も気づかぬうちに少し腹を擦ってしまった。(^^;;

 準備を整えて出発。いつも思うのだが、駐車広場から登山口を経て作業道の終点までの
登りがつらい。四郷川左岸の道は崩壊したまま治される気配はなく、しかもこの時季、目
立った花もなく、唯一、林道終点から川の右岸に移り、何の木だか大木が一本ある辺りで、
匂いのきつい紫色の小花をいっぱい咲かせた植物の群落があったくらいである。シソ科の
植物らしい。匂いが強く、頭にヤマハッカの文字。但し、ヤマハッカは調べてみると名に
反して匂いがしないらしい。カメラに収めなかったので植物の記憶があやふやになって残
念だけれど、カメバヒキオコシだったかもしれない。

 最初の渡渉地点で先行グループで渋滞。旧あしび山荘跡のアルミ梯子のある渡渉点付近
でグループ二組の先を行かせてもらう。キワダサコ谷を横切り、明神滝の横をジグを切っ
て登り、滝上の流れを渡渉すると、大きなつづら折れのプロムナードだ。下ではまだそれ
ほど目立たなかった黄葉紅葉が高度を上げるに従っていい色に色づいてくる。おり敷いた
茶色い落ち葉の上にハウチワカエデの紅葉が舞い落ちている。見上げるとヒメシャラの葉
も色づき始めている。
明神平登山道にて

 水場で渇いた喉を潤す。何時飲んでも美味い水だ。そこからゴロ石の道を一登りで明神
平。意外や東屋には誰もおらず、アシビ山荘の蔭で2名が風を避けてコッフェルを囲んで
いる以外は単独行者が三ツ塚の方へ登って行ったのみだ。ザックを下ろし、東屋の蓮台に
腰掛けてアンパンを一つ口に入れてエネルギー補給をする。

 北側にそびえる水無山の南面が、午前中の日を浴びてえも言われぬ色である。もう十数
年以上も前、高見山へ初めて登った時も秋真っ盛り、まさに錦繍であったが、それを髣髴
とさせる風情である。思わずシャッターを切るが上手く捉えられたであろうか。

明神平の秋色

 スキー場跡のシダ原につけられた踏み跡をゆっくりと登る。この付近にはカマツカの木
が多い。赤い実が葉の後ろで遠慮がちに顔を見せる。ここに来るのはいつも11月で、そ
の時にはもう白々とした裸木になっているハウチワカエデも、まだまだ黄色い葉を大半残
している。しんどい息を吐きながら登りついた台高の主稜。遠く大普賢岳の頂上は雲を被
っている。倒木を跨いでやがて明神岳に行き着く。頂らしくない頂を持つ山だが、名の由
来となった穂高明神は何処にあるのか(あったのか)未だに謎である。(^^;

明神岳の登路付近から。円錐形の山は国見山

 風に当たって額の汗を引かせるべく一休みしていると、どこかで鹿が甲高い物悲しい声
で啼く。某ブログに「ピエ〜ル、ピエ〜ル」と外人の名を呼んでいるとあったが、確かに
そんな風にも聞こえる。花札にも「鹿にもみじ」とあるように鹿といえば秋が合う。そう
いえば能勢の地酒は秋鹿だった。

 明神岳の山名標識から凡そ20m東進して、ここは帰りに登り返すのが結構しんどいの
だと思いつつ、ほぼ一直線に下る。(^^; 大木はないけれど、ブナやミズナラ、ハウチワ
カエデの下草のない雑木林が美しい。少し登り返すと小さなピークでイナバウアーの木が
健在。どこやらでまた鹿が啼く。

 判官平と呼ばれる辺りで踏み跡は右に折れる。昔、峠道であったような深く洗掘された
一間幅の溝を過ぎると、まもなく1,394mピーク。桧塚へ直角に折れる地点に道標が立
つ。さて、桧塚劇場への玄関口はここなのだが、入口はどこだろう。それらしいテープ類
も見当たらないが、山頂の少し西側に南に向かう一筋の細い踏み跡がある。これに違いな
い。低い灌木の林の中、この獣道みたいな薄い踏み跡を辿って行く。獣道は時々分かり難
くなるけれど、尾根が複雑ではないので尾根芯を外さなければ問題はない。灌木帯から抜
け出るとそこはシダ尾根。ここで初めて枯株に巻かれた白いテープをみつける。側にあっ
た「山」と彫られたコンクリート製の境界杭も目印になるだろう。20mばかりで再び灌
木帯。尾根は南から東に向きを変える。いよいよ桧塚の対面へと向かっていくことになる。

 鹿には遭っても人には遭わぬだろうと思っていたら、小6くらいの男の子を連れた山慣
れた感じの男性が茂みから出てきた。聞けば桧塚劇場はすぐそこだということだ。男性が
現れた北の方向へ進むと、まもなく前方が明るくなってくる。

 地形図でいうと1,353m標高点ピークの西側、北側に舌状に飛び出した台地である。
思ったより狭い感じだ。桧塚劇場とはヌタハラ谷を隔てて対面に、桧塚から桧塚奥峰と続
く尾根が一望できることから山人の誰かが名付けた俗称で、より正式?な名はヒキウス平
と呼ぶらしい。ミヤコザサの笹原を想像していたが、蕨に似たシダが密生しているのだっ
た。そのシダ原に鹿でも歩いたようなかすかな獣道があり、それを辿って白骨化した倒木
の先まで出てみる。雑木の色づく季節を迎え、目の前にまるで猫が獲物を狙っているよう
な姿でドシッと構えた桧塚連山も、山肌にとりどりの色が散りばめられている。こちら側
でも太いシロヤシオが紅葉し、山々が一年で一番華やかな季節を迎えている。小生も食事
をしたことのある桧塚奥峰の岩混じりの頂では、山人が景色を楽しんでいるのが見える。
手を振ってみたが気づいてはもらえなかった。(笑) 

 しばらく佇んで元の尾根を引き返す。尾根を外さぬようにと進むと小さな裸地の高みに
出た。ここから右に折れるとなんだかぐんぐん下って行く。しかも歩き難くはないが往路
より木が密生している気がする。おかしいことに気づいてコンパスを出すとなんと南に向
かっているではないか。標高差20mほどを登り返して先ほどの裸地に出て地形図を広げ
る。どうも往路の尾根を見落としたらしい。北へそれも尾根芯のやや西側寄りを進むと往
路の尾根が見つかった。

 フーッ。時計を確認すると15分位うろうろしていたみたい。木の枯株に白テープが巻
かれたシダ尾根まで戻って一息入れ、原因を考えてみた。@尾根から桧塚劇場まで100
mはあるような気がしていた(未知の道はえてして長く感じがちだ)為に、必要以上に直
進(南下)してしまったこと。A往路の尾根を西から来たのだから尾根芯の西側を歩けばい
いものをやや東側を歩いた為に尾根を見落としたこと。以上が主なところだろう。日頃、
テープに頼っていることを反省。(^^; 

桧塚劇場西の尾根から眺める立派な姿の明神岳

 シダ尾根からは南側に凹凸を繰り返す台高主稜が見える。尾根を歩いている時はただの
高みで山頂とは気づかない明神岳もここからは立派な姿だ。ここで尾根は北へと方向を変
え1、394mピークまで真北方向である。薄かった踏み跡が往路より明瞭に浮かび上が
って見えるのも何か不思議な感じである。

 1,394m峰のやや南の斜面で遅い食事の後片付けをしていると、帰路、シダ尾根の北
ですれ違った単独小父さんが戻ってきた。精華町から来られたとかで、ネットで桧塚劇場
のことを見聞きするので来てみたとおっしゃっていた。期待通りだっただろうか?ちょっ
と聞き忘れた。
桧塚への登山路にて。暫く見惚れていました

 奥峰に寄ってもいいのだが往復30分はかかるのが邪魔くさくなってカット。いかん!
最近とみに邪魔くさがりになっているなあ。(笑) 小父さんに挨拶して13時半、予定通
り下山にかかる。判官平までは10分ほど。左に折れて小さなピークに登り、イナバウア
ーの大木がある細い尾根を過ぎると、やがて明神岳の登りである。ほんの標高差100m
内外がまことにきついのだ。尾根にある道標が視認できるようになった後も長い。またま
た汗をかいた。午前中は雲が絡みついていた大普賢岳も今は全貌を現している。木ノ実ヤ
塚やジョウブツ山、峰山から白鬚岳、そして大台ヶ原とたたなづく山々である。

 明神平には14時半に戻ってくる。もう誰もいない。秋分を過ぎて日が傾くと光がとみ
に夕暮れのような赤茶けた色になる。今から下山して登山口到着は大体15時半になろう
から、夏場と違ってみんな早めに下山するわなあ。(笑) 案の定、下って行くと前から声
がする。作業道まで出てくると数人のグループが前を歩いていた。

 念願の桧塚劇場。今度はシロヤシオの季節に再訪してみたい。そこはそんな二度三度と
訪れたくなる期待通りの場所であった。



【タイムチャート】
06:30自宅発
08:40〜08:52大又林道終点駐車場(駐車地)
09:03登山口
09:52明神滝
10:26〜10:27水場
10:35〜10:45明神平(東屋)
11:10〜11:13明神岳(1,432m)
11:41〜11:42判官平
11:52〜11:531,394m標高点ピーク
12:10〜12:20Ca1,360mピーク北側台地
12:20〜12;35この間うろうろ
12:54〜13:281,394m標高点ピーク(昼食)
13:35判官平
14:20〜14:21明神平(東屋)
15:26登山口
15:35大又林道終点駐車場(駐車地)



桧塚劇場のデータ
【所在地】三重県松阪市飯高町
【標高】Ca1,360m
【備考】 台高主稜から東に派生する桧塚の尾根から、更に南東に
派生する支尾根にある1,353m標高点とその西の1,
360mピーク付近を指します。ヒキウス平と呼ばれる
一帯は北側に高い木がなく、桧塚奥峰、桧塚の山並みが
一望できることから山人の間では『桧塚劇場』で通じま
す。テープ類がなく、踏み跡が薄い箇所がある為、歩く
場合はコンパス、地形図は必携です。
【参考】
2.5万図『大豆生』『七日市』



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