学能堂山〜愉しみは山頂まで待つのだぞ

三多気の駐車場付近から眺める学能堂山
平成24年10月6日(土)
【天候】晴れたり曇ったり
【同行】別掲


 かねてからいい展望が得られると聞いていた。いつかは登りたいと思っていた。しかし
ながら対峙する大洞山や尼ヶ岳のように目立つ山容でもない。しかも登山道がほとんど植
林で非常に単調だとも聞いていた。そんなことで今まで食指を動かしかねていた。が、近
畿百名山、関西百名山の山なのである。選ばれた理由は多分、登山道の単調さを補って余
りあるその展望に違いない。ならばやっぱり展望のいい日に登っておきたい。それには今
の時期だろう。この連休初日を利用して皆さんに声をかけて登ってみることにした。

 奈良県側の神末上村から三重県側の杉平へ縦走するコースに集まったのは4人。名阪国
道の針ICのファミマ前で合流して、まずは旧美杉村の杉平へ向かう。最初は午王田公園
を車のデポ地に考えていたのだがはっきりせず、結局、三多気の桜公園に一台をデポする
ことになった。次いでR369を戻って御杖の旅行村を目印に左折、上村の公民館駐車場
を利用させてもらうことにした。

 里に登山口がある場合は取付きを見つけるのが難しい。最寄りの山際へ向かう道を歩き
はじめると我々の動向を見ていたのだろう。30mも離れた所で作業していた小父さんが
駄目出しをする。どうも橋が流されたのか架け替えなのか無いらしい。少しばかり迂回し
て神末川の清流を渡る。畑で小母さんが農作業。山の情報を収集がてら、登るのはこちら
で良いかと尋ねると「左へ行くといい。いいお天気で」と返してくれる。話しぶりから、
先日の台風の影響はなさそうである。(笑) 茅葺をトタンで覆った立派な民家の前に、消
火用のホースを収納する赤い箱がある。その横に『学能堂 4.1km』の道標が立つ。左へ
延びていくのがコスマ林道。すぐに鹿除けゲートがある。

上村の集落。軽四輪の前に赤い消火ホース格納箱
があって、学能堂4.1kmの道標がある

 左に石垣に囲まれた平坦地がある。隠し田だろうか。耕作されなくなった水田の跡らし
い。右にカーブしていくと水流に洗われ陥没したコンクリート路面。それから上は地道に
なって、湿った路面にヒルでも出て来そうな雰囲気だ。アケボノソウがそこここに花を咲
かせている。やがて車両の回転場所だったらしい広場。左手に建物があり、鹿ネット沿い
に切り開きの道が見えるが、広場の突当りまで行くと右に林道が続いており、目立たない
が道標が立っている。同じことならこの突き当りに立てればいいのにと思う。しかしこれ
には味噌があって、道標の向いた方向に細い山道があるのだ。しばしば直進してしまうと
いう林道からの分岐地点なのだ。注意すると地面に小須磨峠と書かれた私製プレートが見
つかる。

 杉の植林下の踏み跡ははっきりしている。ここもヒルが出そうな雰囲気であったが、幸
い被害ゼロ。蛭の姿も終始見なかった。但し、倒木が多い。間もなく右手を流れる渓流沿
いの小道になるが、ここでの倒木はまるで障害物レースみたいにひどかった。潜ったり、
乗り越えたり。足を踏み外すと谷へ数mも転げるので気が抜けない箇所もある。道自体が
せせらぎみたいな場所もあったりで、上村からのコースではこの付近が一番荒れていた。

 徐々に傾斜が厳しくなり谷も浅く流れる水音も小さくなって、ゴロゴロとした石の堆積
をひたすら直登して行く。その石の堆積部分だけ植林されていない。無風なのでこの時季
でも暑く、水音もしなくなった平板な急斜面に息を切らせて、汗を拭き拭き見上げるとよ
うやく次の道標が現れた。一枚脱いで一息いれる。しんどかったはずだ。見下ろした斜面
はかなりのものであった。

 ここで道は左に直角に折れてジグザグに登って行く。急坂だが、ジグザグなのでさっき
より少しはましだ。(笑) やがて植林を抜け出して広い緩斜面になると一気に踏み跡が薄
くなる。何処でも歩けるから踏み跡が定まらないからだろう。薄い踏み跡を拾いながら高
みを目指せば、前方に明るみが広がって来る。ここまで1時間のアルバイトでやっと稜線
へ近づいたようだ。林の中にコスマ峠の道標を見つける。でも想像したほど峠らしい雰囲
気はない峠である。(笑)
小須磨峠。神末は手前方向、学能堂山へは左方向へ登る

 コスマ峠(小須磨峠)からは北に方向を変えて広い尾根沿いを歩くことになる。学能堂
山まではまだ2.1km。植林の間の空間を行く一本調子の登りで結構つらいものがある。
それが雑木の林になると少し落ち着いた。登るにつれて三峰山から南に続く稜線が姿を現
してくる。木々が少々邪魔だが今日初めての展望だ。山頂での大パノラマへの期待が膨ら
む。

 北から東方向(右)に折れる小高い部分に「コスマ峠」と書かれた大きなプレートが地面
に置かれている。それを確認し右(北東)へ向かえば、ひしゃげて壊れた鹿ネット(金網)が
現れて、向こう側はただの防火帯かと見紛うほどの荒れた林道である。遮蔽ゲートはなん
と時代物の木製の扉なのだ。(ここを下ると佐田峠へ出るらしい。林道が崩壊していなけ
ればだが。(笑))この先、鹿ネットが指導テープの代わりになり、忠実に鹿ネット沿いに
進むことになる。(鹿ネットがない個所には適所にテープがある)

 白石山はプレートが無ければ行き過ぎてしまう目立たない小さなコブで展望もない。た
だ雑木主体の明るい場所で、後続を待ちながら小休止しているとジエビネの株を見つける。
先人のHPで綺麗な花が咲いていたというシャクナゲは、ネットの向こうで台風で根を持
ち上げられたのか横倒しになっていた。

白土山北面から学能堂山

 全員が揃った所で歩行再開。するとすぐに下り。視界を妨げる雑木がなくなって前方が
開け、目指す学能堂山の全貌を初めて目にすることができる。台形状を呈する学能堂山の
山腹は植林に覆われているけれど、山頂付近は薄茶を帯びた緑で、カヤトのような草に覆
われているように見える。遠くに思えるが距離的には1km強。標高差も100m程度であ
る。いささかシャリバテ気味だけれど、食事はやはり展望のいい所でしたいもの。あそこ
まで頑張ろうということにした。

 次にピークが東俣山、その次が942m標高点ピークだがほとんど目立たない。県境尾
根を淡々と進んで行くが、道標のある鞍部から一気に傾斜は増す。先達のHPにもここが
きついと指摘のある最後の登りである。桧林でうす暗い。但し、地形図によれば標高差は
60m程度で、斜面の上部に明るみが見える。あそこまでだと喘ぎながら植林帯を抜け出
たけれど、なんだまだ頂上ではない。そこはチカラシバやカヤトの繁った斜面である。た
だ背後は遮るものがなくなって視界がぐっと伸び、薄青く一際ピラミダルな高見山の姿が
ある。山頂に着けば目の前もこんな景色が待ち受けているのだろう。それを楽しみにかつ
ては鹿ネットがあったらしい針金沿いに進む。もう10mほど登ってやっと頂上台地だっ
た。

 意外に広い山頂は南北に長く全く高い木がない。道標(上村4.1km、杉平3.4km)
から1mばかり離れて二等三角点がある。そしてどちらを向いても奈良と三重の山々に囲
繞されている。南に三峰山から修験業山、栗ノ木岳と続く山並み。局ヶ岳の鋭鋒が一際目
立つ。北を見れば大洞山から尼ヶ岳が大きく、倶留尊山や古光山があり、御杖の牧場や白
い円形が目立つ御杖の学校の校舎まで見える。そしてなんといっても高見山。近畿のマッ
ターホルンの面目躍如である。

学能堂山頂から登って来た稜線を望む
白土山の向こうに高見山の鋭鋒が見える

 立ち止まると少し寒いのでやや西側に降りて景色を愛でながらゆっくり昼食。記念撮影
した後、下山は三重県側の杉平を目指す。背の低い雑木林に人間が通れるほどの空間が開
き、赤い布が木の枝にぶら下がる。北側だからなのかシダの茂る薄暗く湿った感じがする
斜面を少し降りていくとすぐに植林下となり、左に折れて小さな谷沿いに進む。道は自然
にまた北に向きを変え、三重県の標柱を確認しながら緩やかに下って行く。またまた鹿除
けフェンスが出てきた。ここもフェンスが道しるべの代わり、フェンスがあると指導テー
プが見当たらなくなる。(笑)

 921m標高点に行き着く前に下降点があるはず。そろそろだろうと、よく手入れされ
た杉桧林の中を下る。多分、下降点は鞍部にあるはずとの予想は的中し、ぐっと下った先
に道標をみつける。杉平2.7kmの下に908mと標高がマジックで追加してあるが、こ
こは地形図の908m標高点ではない。立ち休憩一本。

 ここから踏み跡は一気に急斜面を下りはじめる。台風の仕業かあちこちに倒木があって、
潜ったり跨いだり、しばらくはアスレチック状態を余儀なくされる。落ちた枝で踏み跡も
隠れがちである。それが収まっても相変わらずの斜度で、見上げると今更ながら凄い斜度
だ。下を覗くとこれまた奈落の谷へ吸い込まれていくような錯覚を覚える。それにしても
よくもこんな斜面に植林したものである。徐々に谷らしき窪みに水が湧きはじめ、チョロ
チョロ流れていたのがいつの間にやら一人前の流れになっていく。下るに従って踏み跡も
良く踏み固められた杣道に変化する。ようやく傾斜も緩くなるとまもなく林道終点の小さ
な広場に飛び出した。

 後続を待って再び植林の中、すぐ左手に枯れ枝に覆われた杣道が続く。この辺りまで来
ると傾斜もおちついてゆるやか。右手の谷川だけが騒がしい。変化の乏しい植林なのでど
んどん進むのみ。やがて植林の境目辺りからテープに従って植林帯の外縁に出て、藪っぽ
い踏み跡を15mばかり進む。マムシが出て来はせぬかと少々おっかなびっくりであった
が、谷川を渡る濡れた丸木橋を渡って一息つく。しかし、ここからが一番荒れた場所だっ
た。大雨の影響で土砂が流され、道は一部が完全にえぐられている。単独でこちら側から
登ろうとしたら多分引き返していたかもと思うくらいの荒れようだ。(^^; しかし、えぐ
られているのは数m。その先はしっかりした道で左に曲がっていくと先程の林道に合流し
た。

杉平の登山口。黄色に青い矢印と赤布きれが目印

 この取りつきには公式の道標はなく、青い矢印の私製プレートとテープのみで見落とし
て林道を直進しやすい。(林道の少し里に近い部分にも登山道の印があった。こちらと合
流するのだろう)まあ林道をそのまま進んでも合流するので問題はない。

 簡易水道施設横に出てきた。林道はここから舗装路。ここにも車が数台置けそうだが、
真正面に綺麗なおにぎり形の大洞山を見ながら三多気までぶらぶら歩く方が、伊勢本街道
の石灯籠や道しるべが見学できていいと思う。茶畑を右にし、小さな墓地を左にして大き
く右に曲がり込むと谷川を隔てて永昌寺の本堂がある。墓地に卵塔が見えたのがこれで合
点が行く。今は無住のようだが、庭の大きな百日紅が名残の紅花を幾つか咲かせていた。

R369の四つ角にある本伊勢街道の古い道標

 やがて旧伊勢本街道と合流(道標がある)して、まもなくR368との合流点である。
『左いせみち右しきつ』の古い石の道しるべがあるのはガイド本でも有名である。こちら
から登る場合はこの石標が目印だ。国道を横切って15分も歩けば、車をデポした駐車場
で、南に学能堂山の堂々とした山体があった。

 Tちゃんがこの近辺にクマガイソウが咲く所があるという。奇特な方が世話しておられ
るらしいが、寿司屋の辻を折れて現場に着くと、道路沿いの法面にクマガイソウの母衣を
思わせる特徴ある大きな葉が風に揺れている。いい場所を教えてもらったと車に戻る最中
だ。ふとよそ見をすると、光沢ある黄色い花が鈴なりなのが目に入る。キイジョウロウホ
トトギスではないか。民家の裏庭の石垣に垂れ下がって咲いているのだ。ワイワイ云って
いると伯母さんが出てきて裏庭も見ろという。言葉に甘えてみてみれば石垣一面がキイジ
ョウロウホトトギス。但し、少し時期を逸して盛りを過ぎていたのが残念だったが。おじ
いさんが好きだそうでセッコクも庭の一角に所狭しと置かれている。時々、鹿や猿が出て
来て悪さをするそうで、今は見る影もないと伯母さんは笑っていた。

神末の民家で咲くキイジョウロウホトトギス

 姫石の湯で一汗流して帰路に着く。途中の植林は噂通り単調であったが、それを補って
余りあるパノラマ。文字通り、愉しみは山頂まで待つのだぞの学能堂山だった。同行のみ
なさんありがとうございました。

【タイムチャート】
07:00江坂駅北(集合地)
09:40〜09:50神末上村公民館前(駐車地)
10:00小須磨林道始点
10:16〜10:18作業小屋
10:50道標
11:00小須磨峠(Ca820m)
11:22〜11:30白土山(Ca920m)
11:44942m標高点ピーク
12:04〜12:58学能堂山(1,021.4m 二等三角点)
13:19道標(杉平 2.7km)のある尾根降下地点
13:45〜13:54水谷林道終点の広場
14:15林道出合
14:22水道施設
14:32R368交差点(石標あり)
14:50三多気駐車場(車デポ地)


■同行 北山さん、修ちゃん、たらちゃん(五十音順)


学能堂山(岳ノ洞)のデータ
【所在地】奈良県御杖村、三重県津市美杉町
【標高】1,021.4m (二等三角点『石名原岳』)
【備考】 三峰山から北に派生する尾根に盛り上がる千m峰です。
中腹はほぼ杉檜の植林ですが、山頂は樹木がなくカヤト
とチカラシバの原で、高見山に大洞山を始めとする曽爾
山群、三峰山から修験業山、局ヶ岳等360度の大展望
を満喫できます。主要コースは三重県側の杉平、奈良県
側の上村からとなりますが、近百、関百の割に登山者は
少なく静かです。
■近畿百名山■関西百名山
【参考】
エアリアマップ『赤目 倶留尊高原』



山頂パノラマ画像
学能堂山から北から北西方向。左にみつえ高原牧場、奥は古光山。右に亀山と倶留尊山、国見山
学能堂山から南東方向。局ヶ岳の鋭鋒から右に栗ノ木岳、修験業山、三峰山と続く

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