抜戸から能登又谷へ錦を纏う大御影山縦断

大御影山から北東方向を眺める。左奥は三国山、中央の白い
部分が明王ノ禿、その右の円錐が赤坂山で右奥はに乗鞍岳
平成23年11月 3日(木)
【天候】曇り時々晴れ
【同行】たらちゃん、水谷さん


 もう11月。そろそろ秋も深まりゆく時期である。近頃は温暖化の所為か11月に入っ
ても広葉樹の葉は青いままで、12月にならないと紅葉黄葉を見られないという年もある。
今年は二つの台風で葉が痛めつけられて悪コンディションだというがどうだろうか。先週
の鈴鹿の山に引き続き、今度は江若に聳える大御影山の尾根で確かめてみた。

 北陸道敦賀ICから国道27号線で美浜町に入り、関電嶺南変電所のある新庄方面へと
県道213号を南下する。旧宿場町の名残のある新庄を過ぎ、最奥の松屋集落にある「渓
流の里」前でMさんらと合流する。まず能登又谷林道を進み、大日開拓地跡への分岐付近
に1台の車をデポする予定だったが、土石流防止工事がまだ続いていて車は分岐付近で通
行止め。工事の邪魔になってはいけないので、やや戻った路肩の膨らみに車をデポするこ
とにし、もう1台で江若国境の抜戸へと向かう。途中、道の中央に30cm幅の排水溝が1
5mばかり続く工事区間がある。タイヤを落としては行かぬと思うと妙に緊張するもので
ある。(^^;

 抜戸には過去何回来ただろう。ほぼ1年ぶりの再訪となったが、以前にはなかった抜戸
・大御影山登山口と書かれた立派な道標が新設されている。先行車は軽四輪とホンダの車
の2台。用意をしていると熊よけの鈴の音が聞こえてきて、ホンダの主のご夫婦が大谷山
登山口から出てこられた。

 分かり難かった取付きとその先の踏み跡も年々はっきりしてくるようだ。イワウチワの
目立つ左手の斜面を登る。いつ来ても不思議に思うのは、洗掘された古道然とした道が忽
然と現れること。しかしこの古道を逆に下って行先を確かめると、その先で煙のように消
えるのだそうだ。やがてブナが茂る尾根に出るとほとんど平坦になり、ゆるゆるとした古
道を歩いて近江坂へ合流することになる。この辺りは4月の終わりになれば、カタクリや
イワウチワが点々と彩る本当に気持ちの良い尾根道である。

 合流して近江坂を大御影山に通ずる道を歩き始めると雲間から日が射し始める。くすみ
がちだった木々の葉が一斉に輝きを増したように思える。コシアブラなどウコギ系の明る
い黄色、ブナ系の深い茶色。カエデ系の深い赤や薄い赤、広葉樹が期待通りなかなかの熱
演を演じてくれる。秋を切り取ろうとカメラを向けるが、この鮮やかさ画像に閉じ込める
のは本当に難しい。

 時々東側が開けては車で走って来た粟柄林道が見え隠れする。奥には大谷山のなだらか
な山容がある。その向こうはもう琵琶湖である。前方にCa930mピークと大御影山が近
づいてきて、小さなピークを越えると100mほどで三角点(点名:野呂尾)が埋まる大
御影山の山頂に行き着く。

 山名板の横に立つと今日はなかなか展望が良い。今まで気づかなかったが、野呂尾の起
点となるCa930mピークの奥の山並みに明王の禿や赤坂山が意外に近い。双眼鏡を覗く
と小さな円錐の形をした赤坂山山頂に数人の登山者が居るのさえ認められるほどだ。その
向こうは電波塔が目立つ乗鞍岳。一際高い独立峰の伊吹山まで望めた。

 いつもより遅い昼食の後は、大御影山を北に下るという小生にとっては未体験ゾーンで
ある。能登又谷へ下るには白谷ルート、近江坂の鞍部からのルート、三重嶽の続きの大日
尾根から開拓跡地へのルートなどがあるが、今回は白谷ルートで降りることにし、大御影
山の山頂から東に見えるCa930mピーク方向へ向かう。踏み跡などはなく、背の低いハ
ナヒリノキなどが邪魔して歩き難い。高さ2mくらいの白い露岩付近からごく浅い谷を横
切り登り返すと、はっきりした小道が現れた。小道は無線反射板の辺りからやってきてい
るようで、何のことはない、そちらから踏み込めば苦労はなかったようだ。(^^; (大御
影山山頂の東側はトイレに使われた痕跡が多いので、我々の様には歩かない方が無難です。
(^^;  )

 本峰とCa930mピークの間の台地は高い木がなく本峰よりも断然展望が良い。とりわ
け素晴らしいのは北方向で、眼下に美浜町の街並みや格子状の田畑があり、雲谷山の右手
に若狭湾が見え、左手にわずかに覗く三方五湖の姿もある。東方向はすぐ間近になだらか
なCa930m峰。振り返れば丘のような大御影山と反射板を戴く峰がある。小道はやがて
雪の為に傾いだような灌木帯に入って北に方向を変える。要所にピンクのPP紐が結ばれ
ているのでこれを見逃さないように辿る。煩いほどだが広い尾根や台地のような平坦地で
はこの目印が大いに助かる。

 シカやイノシシの湯治場?の様な小さな池を左に見てまもなく、山上台地が終わりを告
げて下り基調になると、素直に延びたブナが現れ始め、徐々にその密度は増してくる。踏
み跡はブナの間を縫って続き、大御影山の西側の大日尾根に勝るとも劣らない良さがある。
踏み跡もいつの間にか近江坂に似て、古道然とした洗掘された道に変わっている。能登野
に出るよりこちらの方が海に近いので、昔は間道として使われてたのであろうか。道は急
斜面になるとジグザグを繰り返し、やや平坦になると真っ直ぐ伸びていくという典型的な
道のつけられ方をしている。ちょっとした小場に焚火の跡がある。山仕事の憩いの時に暖
を取ったのか。

 標高が下がって来ると下草にエゾユズリハが増え始める。691m標高点を過ぎると一
面のエゾユズリハの大群落となる。おかげで尾根を一本間違えた。概ね北へ向かえば間違
いないのだが、ゴールとする下山口は白谷と能登又谷の合流点だ。道を逸れて谷筋の崖か
それに近いような場所へ飛び出るとも限らないので、左隣に見えた小尾根がテープのつけ
られた尾根だろうと当たりをつけて移ってみると、果たせるかな予想通り古いテープがあ
った。(^^;

 一旦薄くなったエゾユズリハの群落はまたその密度を濃くし、その中をジグザグに下り
ていくのであるが、枝が生えこんだ上に倒木が前進を阻むことがあると、コースロストし
ていないか些か不安になることもある。ただ、人ひとりくらいの空間が開いているので、
コンパスで北方向を確かめながら辿ると、再びピンクのPP紐と黄色テープが現れた。そ
の内にさしものユズリハの群落から解放されると、さっきから聞こえていた水音が騒がし
くなってきて、左手下に白く泡立つ流れが垣間見えてきた。すると尾根を外れて右に折れ
るようテープの指示が出る。それに従うとそこは踏み跡もすぐ消えるような崩れやすいザ
レた急斜面である。指導テープも一瞬見失うが、注意深く周囲を見回すと、斜面を下りた
先に黄色テープが見つかった。踏み跡が定かでないので、下のテープに向かって歩き良い
場所を選んで降りていくしかない。持てる立ち木があれば掴みつつ、ズリズリと土砂と共
に下る。

 やがて右手に白谷の流れが現れた。岸辺に古い炭焼き窯跡が残る。どこからか漂うカツ
ラの甘い匂いの中、何度か渡渉しつつ白谷の岸辺を伝っていく。谷の左岸は岸壁になって
おり、踏み跡が最後に急に右手に折れた理由がこれで分かる。やがて左からやってきた能
登又谷本流の向こう岸に林道の土手が見えた。しかし本流の水量がなかなか多い。水に浸
かった石はヌルリと滑って危ないので、ええいままよと靴に浸水するのもものかわ、ズカ
ズカと流れを渡る。上がった林道には今津山上会が作ったらしい『大御影山 白谷登山口』
の古い道標と山火事注意のトチノキの下に立っていた。

能登又谷林道にある白谷登山口

 大日開拓分岐まではほぼ1.2km、15分弱の道のりである。ダート林道の路面はあま
り荒れておらず、この辺りまでなら一般車でもOKと思われるけれど、開拓分岐付近で土
石流防止の工事が行われており車の通行は不可能だ。今しも2台の重機が入って道ならし
の真っ最中。我々も通行を断って通らせてもらった。

 工事現場を通過ししばらく歩いていると、大日の開拓跡方向からやってきた白い軽四輪
が横で止まる。運転手はジモティの小父さん。大御影へ行ってきたのかと聞く。そして開
拓分岐の奥に新しい道を造ったのでまた歩いてくれろという。判然とせぬが確か、「屏風
ヶ岳」とか何とか云ったような。帰宅したらチェックしてみよう。(雲谷山の登山路沿い
の屏風ヶ滝のことのようです)

 緩くカーブした地点の路肩にデポしたMさんの車で再び抜土へ。早くも日が翳って、午
前中に歩いた大御影山南尾根が黒々と長大な姿を寝かせている。抜土には小生の車の他に、
朝もあった軽四輪が一台。まだ誰か作業されているのだろうか。帰阪しての打ち上げもあ
るので急いで装備を解く。落石を排除しながら、例の中央に排水溝のある難所?を慎重に
クリアして里に出る。四時過ぎ。懸念された渋滞にも巻き込まれず、いったん帰宅して7
時半には『泡の出る水』で喉を潤していた。

 錦の秋は日に日に標高を下げて、居宅近くの公園が染まるのも間もなくだろう。秋の恵
みも少しお裾分けいただいて充実の一日でした。

【タイムチャート】 
7:00自宅発
9:30〜9:45 松屋フィッシングセンター付近(集合地)
       と能登又林道(車デポ地)
10:05〜10:13抜土(駐車地)
10:14大御影山登山口
11:48近江坂出合
12:30〜13:00大御影山(950.1m 三等三角点)
14:30621m標高点
15:33白谷登山口
15:50能登又林道(車デポ地)
※註)寄り道ばかりの為、踏破時間はあてになりません



大御影山のデータ
【所在地】滋賀県高島市、福井県三方郡美浜町
【標高】950.1m(三等三角点)
【備考】 湖西最奥の江若国境上に位置する山です。展望も良く、
山頂や関電反射板付近からは雲谷山、野坂岳などの若狭
の山々や日本海、西に三重嶽、南に比良と、山深さが実
感できます。また近江側の麓の酒波寺から若狭に抜ける
近江坂の古道が通じており、山頂付近一帯は第一級のブ
ナ林。春にはカタクリ、イワウチワ、イワカガミが咲き
乱れる花の山でもあります。
【参考】
2.5万図『熊川』、『西近江と若狭の山歩きマップ』



 錦繍のブナ林四景
  
  

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