入道ヶ岳〜風薫る鈴鹿の展望台

入道ヶ岳三角点峰から北方向を見る。中央が奥宮の峰、右手が北ノ頭。
奥の鈴鹿主稜は右から雲母峰、御在所岳、鎌ヶ岳、水沢岳、宮指路岳、仙ヶ岳、野登山

鈴鹿市小岐須町付近から入道ヶ岳
平成23年 5月15日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独


 もう10年来、近畿のあちこちの山々を喰い散らかしているけれど、なぜか鈴鹿は些か
縁遠く、足跡を残したのは片手に少し余る程度である。その名を上げてみれば、メジャー、
マイナー取り混ぜて、霊仙山、御池岳、雨乞岳、鍋尻山、高畑山、溝干山、イブネ、カク
レグラといったところか。鈴鹿の代表である御在所岳さえ未踏なのである。

 ところで鈴鹿にはセブンマウンテンというのがあって、これらに登れば一応、鈴鹿の主
要な山を制したことになるという。小生などは前述の如くいまだ雨乞岳のみであるが、も
う一山くらいは行っておこうということで、一番取り付きやすいという入道ヶ岳に登るこ
とにした。この山、実は山の会の定例オフが3月にあったのだが、思わぬアクシデントで
キャンセルした曰くつき?の山でもあるのだ。

 第二名神や石槫峠トンネルの開通で鈴鹿も三重県側のアプローチが楽になったものだ。
今日登る予定の入道ヶ岳も三重県側の山で第二名神がなければ食指を動かしていなかった
ろう。(笑) 7時に出るつもりが例によって20分ほど遅れて出発。それでも9時には目
的の椿大神社の駐車場に車を止めることができた。名神吹田から東名阪鈴鹿まで1時間程
度。速い。

 まだ時刻が早いのか駐車場には数台の車のみ。「野生の鹿、猿に注意」と掲示されてい
たがどう注意するのかな?
北尾根登山口である愛宕社参道

 椿大神社には帰りに寄ることにしてまずは神社の門前から神域に沿うて進む。上流のキ
ャンプ場の利用客の車なのか、あちこちに車が止まっている。ここまで車で上がってくれ
ば良かったかなと思うが距離的にはさほどのことはない。まもなく曲がり角に山本町の浄
水施設とその横に鳥居、自然石の長い石段が見えてくる。扁額には愛宕神社とあり、ここ
が入道ヶ岳のメインルート、北尾根コースの登山口だ。案内板と登山届のブースが置かれ、
案内板には谷コースは落石や土砂崩れがあるので注意とあるが、今、吾輩の脳裏で谷コー
スに鈷絶を示すのはヒルへの思いである。入道ヶ岳は鈴鹿でも名うてのヒルのメッカ、季
節にはヒルが沢山出没するのだそうだ。そんなこともあって往路は二本松尾根、帰路は北
尾根と谷は使わない予定。GWに山仲間でもあるS県出身のMさんが歩いたコースを逆に
辿るコースでもある。

二本松尾根コース登山口

 下山口を過ぎて更に川沿いに歩いていくと、すぐに二本松尾根への案内板が出てきて左
の川原を指している。そちらに顔を向ければ杉林に古い石積みがあり、そこにも案内板が
見えた。浅い小さな流れを二度ほど渡り、いよいよコースにとりつく。右に沢。ちょっと
湿った杉木立の下。ヒルが出るんじゃないか。速く乾いた場所へと足を急がせ右の沢が下
に遠のいたぞと思ったら今度は左からも沢が現れた。嗚呼。(^^;

 ダート林道が横切る所で道標を立て直している一組の中年男女ペアがいた。「間違って
林道を入っていく人が多いので...」という発言にジモティのお二人ではと直感した吾
輩。「ヒルどうですか?」と核心の質問を敢行する。「いますよ。”別れ”(小岐須乗越)
まで行けば後は尾根道だから大丈夫と思うけど、着いたら休みがてらチェックしてみて下
さい」「エッ?ムムム」当方しばらく絶句。”別れ”までは1ピッチだという。こんなこ
ともあろうかと、とりあえずスパッツは装着してきたけれど、この後しばらくはちょっと
ビビりながらの谷筋歩きであった。

 これからの季節、水音は涼しげで耳に心地よいのだけれど、今日は恨めし気に聞こえる。
早く乾いた尾根道になれと願うが、なかなか左の沢が離れてくれない。今にも地面の一部
がユラユラとゆらめいてきそうで気が気でない。嗚呼、川原に降りねばならぬのか。足を
寸秒も止めてはならじと汗が噴き出るのも構わず先を急ぐ吾輩である。

 ようやく水量もほとんど尽きて沢音が聞こえなくなってくる。道は左手の高みに取りつ
き、杉林の広い斜面を上がるようになる。地面に日が射して明るい部分がある。ここなら
大丈夫だろうと一息いれる。「フーッ」 長袖スポーツシャツを脱いで額の汗を拭ってお
茶を一口。足元に被害なし。やっと人心地がついた。(^^;

 ジグザグを繰り返していた道がやがて山腹を巻きだすと、杉の植林帯だった周辺も雑木
が混じり始める。ついでロープが張られた暗いヤブツバキの林を右に抜けるとようやく小
岐須乗越(滝ヶ谷分岐)。道標を直していたお二人が云っていたのはここのことだ。もう
ヒルは大丈夫だろう。標高はほぼ500m。300m近く登ってきたことになる。T字に
分岐して二本松尾根をほとんど一本調子に登っていく道が上に伸びている。小休止。アン
パンを一切れ口に放り込んでエネルギー補給しておこう。お茶を二口。

滝ヶ谷分岐
左は小岐須渓谷へ、上がっていくのが頂への道

 傾斜はきついが登り難くはない。その傾斜が少し緩んでくると右手に綺麗な二本松避難
小屋の建物が現れる。一息いれるにはいい場所だ。この辺りからだろうか、登山道に小さ
な壷形の花がびっしり落ちているのに気づいたのは。ここまで目立つ花は少なく、ヤマツ
ツジの鮮やかな赤が印象的だったのだが、いつの間にか周囲にアセビが目立ち始めている。

 再び傾斜を増した道の真ん中に境界石。今まで樹林の中で展望の得られる場所は皆無だ
ったけれど、木々を透かして少し下界が望めるようになる。東側の平野部だ。いつのまに
かかなりの高さにまで登ってきたようだ。

 ロープ場、ザレた斜面、木の補強階段などが次々現れる。下から見上げた時、道標かと
思ったのはイヌツゲ・アセビ群落が天然記念物だという説明板である。

満開の大きな馬酔木の向こうに伊勢平野が広がる

 説明板を過ぎても相変わらず傾斜は厳しいが、下では壺形の花が地面が見えぬほど散り
敷かれていたのに、標高800mを越えるこの辺りではまだまだ文字通り鈴なりで、花に
魅かれた虫たちのブンブン唸る羽音が聞かれる。やがてそんなアセビの林の間から青空が
見え始めて頂上近しと思わせる。そして突然、低い笹原の斜面が前面に開ける。まだ少し
登らねばならないが、上方に木の鳥居が見え、先行の登山客が思い思いに座っていたり景
色を眺めていたりする姿がある。笹原とアセビの木立の境界を縫うような形で足を急がせ
る。ウグイスがそのアセビの茂みのほんのすぐそこで鳴き声を上げる。が、姿は見えない。
ものの5分とかからずに木製の鳥居横に出てその足元に三角点を見出した。

馬酔木の向こうに山頂の鳥居が見えた

草原状の入道ヶ岳南斜面。奥に雲母峰が覗く

 風はやや強いが寒くはない。入道ヶ岳は三角点峰、奥宮、北の頭からなる大きな山頂を
持つがアセビ以外に大きな木はなく、若者の団体ほか先客が思い思いに景色を楽しんでい
る。やや霞んでいるのが残念だが噂通り鈴鹿の展望台、申し分ない。まず鈴鹿の主稜線が
北に一望できる。今まで鈴鹿は西からしか眺めたことがなかったから新鮮な感覚である。
何より目立つのは鎌ヶ岳のピラミダルな山容で、その奥にはどっしりとした鈴鹿の盟主御
在所岳。遠くの秀峰は藤原岳だろうか。鎌ヶ岳の左には宮指路岳や仙ヶ岳からアンテナ施
設のある野登山へと続く仙鶏尾根。その向こうの独立峰は綿向山かも知れない。谷を隔て
て指呼の雲母峰の上空にはパラグライダーが遊弋している。東側は伊勢平野で鈴鹿の市街
地に光を反射する溜め池、碁盤目状の水田、三重用水などが認められ、伊勢湾の汀線もう
っすらと確認できる。秋の澄んだ空気の中でなら御嶽や知多半島まで視認できるそうであ
る。さもありなん。

 もう大きな登りはないと思うと急に空腹を覚える。三角点峰は人が多いので北尾根コー
スの下山点でもある北の頭に廻って食事としよう。アセビの林の中を抜けると右側が切れ
込んだ縁を歩くようになり、井戸谷分岐の標識が出る。前方にはアセビに包まれた北ノ頭
で、少し登れば奥宮と北ノ頭の分岐。鎌ヶ岳と御在所岳の全貌が眺められる。しばし見と
れて右(東)に折れると宮妻峡への新道コースと北尾根コースの別れの道標があり、そのや
や東に座るに手頃な石を見つけて、食事の為に腰を下ろした。前に鈴鹿主稜、立って振り
返れば三角点峰と伊勢の平野部が見えるというなかなかのシチュエーションなのに誰もい
ない。時たま、北尾根から上がってくる登山者が通り過ぎるくらいだ。シューシュー湯を
沸かしている間、あちらこちらと展望を楽しんだ。アセビなどの木々はみんな南東に傾い
でいる。冬の北西の季節風がよほど強いのだろう。

北ノ頭から鈴鹿主稜の揃い踏み
左が鎌ヶ岳、中央が御在所岳、右は釈迦ヶ岳

 しばらくは小広い台地。アセビの群落の配置がまるで日本庭園を髣髴とさせる。借景は
勿論、雲母峰に鎌ヶ岳と御在所岳だ。やがて樹林の中の小尾根歩きとなる。小さな露岩の
上で写真を撮っている単独行さんがいる。確かに入道ヶ岳の三角点峰が良く見えるポイン
トだ。吾輩も一応押さえておくことにした。「結構、急でした」と単独行さん。「そうな
んですか。二本松尾根もきつかったですけど...」下山してから考えると、二本松尾根
が一番登りやすかったかもしれない。

 その時、甲高い喚声が聞こえた。山頂にいた学生連中かなと思いきや、なんと丁度頭上
数十mを飛び過ぎるハングライダーの乗り手の声らしい。こちらも「オーイ」と呼びかけ
手を振った。入道ヶ岳からすぐ隣に見えた雲母峰はハングライダーやパラグライダーのフ
ライト基地として有名なのだそうだ。

 ジモティの方から北尾根は長いですよと聞いていたが、長いから傾斜も緩いだろうと多
寡を括ると大間違い。結構、きつい傾斜がありアップダウンも多い。それに二本松尾根の
方が道が明快でしっかりしているように思う。これというきつい下りにはロープが準備し
てあるが、所々、広い斜面があって踏み跡が錯綜している部分がある。木々の幹に記され
た赤い〇印を見落とさないように注意する。ポイントE付近まで下りてくると、右手から
沢音が響き始める。滝でもあるのか水量があるのか結構大きな音だ。その内、木立に紛れ
て避難小屋の屋根が見えてきた。その扉の前もかなりの傾斜である。

 避難小屋を過ぎると自然林から植林へと景色が変わる。小さな鞍部から木の根が浮いた
痩せ尾根を越えると498m標高点だ。この辺りは植林に混じって常緑の広葉樹も多くて
うす暗く、積もった落ち葉が踏み跡を隠している。その中にフンコロガシの青い金属的な
光をしばしば見かけた。ここも鹿がおおいのだろうか。


 やっぱり油断していると危ない。ポイントCの辺りだったか。案の定、枯葉に足を取ら
れてすんでのところですってんころリとなるところだった。運のいいことに片手で立木を
掴んでいたことが幸いして、寝そべったような態勢にはなったものの、しぶとく尻餅は免
れた。この瞬間的な衝撃が怖いのだ。今思えば危機一髪。ほっと胸をなでおろす吾輩であ
る。

 急坂もポイントB、大久保分岐のT字路までやって来ると収まってくる。そろそろ高圧
線を通過する頃合いと思いつつ、明快になった道を行くと、中部電力の黄色い標識が現れ、
すぐに高圧鉄塔(亀山西名古屋線 bW0)下に出る。鉄塔の敷地は概して展望があるも
のだが、この鉄塔位置からはあんまりなかった。(笑)

 ここからは巡視道兼用だから山道も広い。小尾根の上をしばらく進み、杉林のやや広い
斜面を下っていく。ちょっと比良の御殿山から坊村へ降りてくる単調な斜面に似ているが、
こちらはあれほど長くなかった。(笑)再び台地状の尾根になり、その先に伸びた尾根の
先端に社と鳥居が見えてきた。賽銭箱に三つ巴紋があったので椿大神社の奥宮かと思った
ら愛宕神社なのだった。

 愛宕社の自然石の階段は長い。急勾配で数百弾はある。下山する向かって右にちゃんと
エスケープ用の広いつづら折れ道があるが、こちらが最短距離なので見向きもせずにひた
すら階段を下る。(笑) 往路の石鳥居を潜ったのはそれからまもなくである。

 下山した後の充実感には安心感と満足感が入り混じった何と言えない気分がある。小路
から椿大神社の境内に入り、りっぱな拝殿前に立ち、無事下山のお礼をしておく。椿をか
たどったカラフルなおみくじ。神社の名前が綺麗なので恋愛関連の神を標榜しているらし
く、昨今のパワースポットブームとも相まってか女性やカップルの参拝者が目立つ。お守
りなぞも色彩豊かな華やかなものが多い、猿田彦とその妻のアメノウズメノミコトの夫婦
が祭神だからであろう。でも吾輩が知っているのは、アメノウズメがストリップの元祖で
あるということくらいだ。(笑)
椿大神社。名が綺麗な為か
夫婦神を祀る為かカップルが多い

 駐車場までの道すがら水晶などを土産にする店に面白いものが売られていた。”かんが
える”と名付けられた陶器製のカエルで、頬杖をついて腹這いになっている姿はなかなか
ユーモラスだ。小(といっても頭から足の先まで15cmくらいはあるが)が500円と安
かったので思わず土産にしてしまった。売れないんだか、路頭にずっと置かれていたから
か表面が妙に埃っぽかった。とりあえず一度水洗いしました。(^^;

 ほとんど車がなかった駐車場も今は七分くらいの入り。着替えをし、リアに道具を放り
込んで、車中で残ったアンパンうぃ一個。今日もお山で一日無事に遊ばせてもらって感謝。
三重県は遠いという先入観に反して、アクセスもいいしバリエーションも豊富。吾輩にと
って処女地も多く、これからなんだか癖になりそうな予感も。でも高速のETC割引が無
くなると、やっぱりちょくちょくは来れないかもなあ。

 小岐須町まで戻ると、頂きを文字通り入道にした(剃ったように木が生えていない)入
道ヶ岳が「そう云わずにまた来いよ」と笑っているようだった。



【タイムチャート】
7:20自宅発
9:00〜 9:10椿大神社駐車場(駐車地)
9:20北尾根コース登山口(愛宕社鳥居前)
9:25二本松尾根コース登山口
10:07〜10:14滝ヶ谷分岐
10:40〜10:41イヌツゲ・アセビ群落説明板
10:59〜11:04入道ヶ岳三角点峰(905.5m 三等三角点)
11:10鞍部
11:15〜11:52北ノ頭(Ca910m)(昼食)
12:30〜12:32北尾根避難小屋
12:40498m標高点
12:54〜12:56大久保分岐のT字路
13:14〜13:16愛宕神社
13:20北尾根コース登山口(愛宕社鳥居前)
13:38椿大神社駐車場(駐車地)



入道ヶ岳のデータ
【所在地】三重県鈴鹿市
【標高】905.5m(三等三角点)
【備考】 御在所岳の南、鈴鹿山脈の主稜から東へ延びた支稜線上
に位置し、鈴鹿セブンマウンテンの一つに数えられてい
ます。古くから南麓に鎮まる椿大神社の神体山として崇
められましたが、その山頂部分は広く三角点峰と奥宮、
北ノ頭の三つの峰からなり、とくに三角点峰は一面の笹
原で、北は鎌ヶ岳、御在所岳から藤原岳に至る鈴鹿主稜
線が、東から南は三重県の平野部の向こうに伊勢湾と3
60度の展望が得られます。

■近畿百名山
【参考】
2.5万図『伊船』



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