晩秋の風情に遊ぶ明神平から判官平 |
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数週間ぶりに週末が好天だという。そこで何処へ行こうか思案していた時に、オフをご 一緒したことのあるKさんの公開日記で、明神平へのアプローチである大又林道が普通車 でも通行可能であることを知った。先の台風で近畿南部一帯は大被害を蒙ったが、明神平 への登山道も例外ではないと聞いていたので二の足を踏んでいたところだった。黄葉見物 にはもう遅かろうが、裸のブナ林もいいものだ。2年ぶりに行ってみることにした。 立冬も過ぎたこの時期はもう日の出が遅い。休日にまだほの暗い時分に起きるのにはか なりのモチベーションがいる。ぐずぐずとして出発したのはようやく7時前。林道終点近 くの駐車スペースも9時には満杯だったとKさんの日記にもあったが、9時前に到着する と全く指摘通りの光景が眼前にあった。とはいえ先行車は10台程度。大又川に沿いにあ る駐車スペースの中央付近が流失している為に通行止標識が立てられ、約三分の二が使え ない状態になっているのだ。バックするか迷ったが、路肩にも駐車されている車列の先頭 はオートバイ。よく見ると通行止の標識とオートバイの間に3m位の空き間がある。そこ で通行止のガード標識を少し奥にずらしてスペースを作らせてもらう。コンプライアンス 違反。誠に申し訳ありません。m(_ _)m 聞きしに勝る状態である。案内板のある登山口から3百m程度は、土石流工事が実施さ れた時期に林道が延長されてコンクリート舗装されていたのであるが、道が川の左岸から 右岸へ移る前後は濁流があふれたのだろう、川側の路床が完全に流されている。残った路 上にも流木や土石が累々と。おかげで大きな石や流木を跨いだりのフィールドアスレチッ ク状態だ。以前、馬酔木山荘が押しつぶされた時もひどかったけれど、それに匹敵するか もしれない。直径2mほどの大きなドラム缶状の金属製円筒を3本埋め込んで、舗装路の 下、水を流すようにしてあったのが、流木で詰まって余計に川水が溢れたようだ。今も多 くの流木が引っかかったままである。
わらない。登山道自体には大きな被害が無さそうだと思ったのも束の間、山肌の崩落部分 があって川沿いを5mばかりへつらされる場所がある。他にも明神滝の上部の最後の渡渉 地点の石組の配置が換わってしまったらしく、以前に比べて非常に歩き難くなっていた。 標高千mより上では木々の梢の葉がほとんど落ちているので、登山道から明神滝が良く 見える。滝の上部の平坦地から、その先の明神谷の最後の渡渉部分を滑らないように慎重 岩を選びながら抜けると路肩にベンチがある。ここから先は穏やかな九十九折れの分厚い 落ち葉の山腹道。ヒメシャラ、ハウチワカエデ、カマツカ、ブナ、ナラ、モミなどが混生 し、よく出来た自然公園を思わせるような散歩道。先の渡渉点はこの遊歩道への関門みた いなものだ。落ち葉にはまだほのかに色づきが残る。すぐそこに散り遅れたカエデがあっ た。 少し薄暗くなったと思ったら、いつの間にか空が雲に覆われ山々にガスがかかり始めて いる。薊岳の特徴ある尖った山頂も見えない。しかし下界の方は日が当たっているらしく 明るい。杉林を抜けて明神平直下の水場で一息入れて水をすくい上げていると、また薄日 が射してきた。 明神平から先はどちらに向かうか決めていなかった。東屋で小休止し思案する。とりあ えず明神岳方面へ行こう。旧ゲレンデ周囲のブナはもう葉がない。三ツ塚分岐のピークに は登らないで、古い桧が生える白い露岩付近からトラバース気味に直接、台高縦走路の走 る明神岳の稜線へ上がる。急に風が強い。登りで汗をかいた体には冷たい。気温を確かめ ると10℃である。風を避けることにし、明神岳の山頂標識を凡そ50m東に過ぎた桧塚 分岐から稜線を北に降りる。 えらいものであれだけ強かった風が全くない。初めは薄い踏み跡を辿っていくと次第に 小道は明快になる。カマツカが多い。真っ赤な小さな実が照り輝く。周囲は葉を落とした 木立ちの褐色が主体だからこの赤はよく目立った。 7、80m下った鞍部。丈の低いシダが茂る平地の所々にはヌタ場がある。そういえば 今日はまだ鹿を見かけない。 小さな南北に長いピークを越える。振り返れば明神岳がきれいな形をしている。それよ りも西に盛り上がる水無山、国見山と続く台高主稜の山々の北側が意外に切り立っている。
桧塚方向へ右に直角に曲がる地点の辺りが『判官平』と呼ばれる台地である。ここに限 らず、付近には”平”と名付けられた台地が多い。明神平にしてからがそうだが、ヒキウ ス平や盆栽平などなど。風も弱く日当たりもいいので時刻も頃合い、この辺りでと店を開 く。気づかぬうちに白い湯気が恋しい季節になった。湯が沸くのが待ち遠しかった。 静かだ。誰も来ない。人工音といえば時折空高く飛ぶ旅客機。話に聞けば三重県側から のアプローチは林道が崩れており軒並み入れないらしい。それゆえか桧塚の周囲を歩く人 も少ないのかもしれない。すると、レギュラーコーヒーを片手に店を畳んでいたら、初老 の夫婦が通過して行った。(笑)
った大木がある。どういう種類の木だか。差し詰めイナバウアーの木とでも呼んでおこう。 フーフーと息を切らせて明神岳の稜線へ。右に薊岳から木ノ実ヤ塚の稜線があり、左手に は笹ヶ峰へと続く台高主稜がある。恐竜の背の様な大普賢岳は霞みの中にある。風が強い。 この秋、初めて手がかじかんできた。
再び、三ツ塚分岐をトラバースして明神平への斜面。カマツカの赤い実をカメラに収め ていたら、談笑の声が下から漏れてくる。天理大学の避難小屋裏にテントがあって数名の 中年男性の姿があった。広いスキー場跡に他に人影はなく東屋にも誰もいない。その誰も いない東屋で一息入れて下山の途につく。久方ぶりの明神平。黄葉、紅葉には遅かったけ れど、しっとりとした秋の風情を満喫した一日でした。
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