弥山〜天女花拝みにああしんど

弥山小屋
平成23年 7月 3日(日)
【天候】曇り
【同行】単独


 6月28日深夜に注文しておいたO社の一眼カメラが早くも30日に届いた。Net通
販は使いこなせば本当に便利だ。欲しい品物を求めに店へ出向いて空振りする失望を感じ
なくてもいいし、また時間も節約できる。実物に触れられないことが唯一欠点だけれど、
「これだ」と決め打ちできた場合はNetで安い店を探して購入すればよい。尤も、信用
できる店であることが前提ではあるけれど....。(笑) 

 購入したのはマイクロ一眼といわれる代物。コンデジよりちょっと差別化してみたくな
ったというのが後から取ってつけた購入の動機だが、要は衝動買いに近い。(^^; 山歩き
に持ち歩くには一眼レフは大きく重いし、大仰で億劫。そこで近頃、参入メーカが増えて
いるマイクロ一眼にした次第である。

 さて、買ったはいいが使わないとこれは宝の持ち腐れである。はて、どこでデビューさ
せようか。近頃は週末に限って予報が芳しくないことが多く、しかもころころ変わるので
直前まで決めかねていたのだけれど、今週末は比較的よさそうな雲行きである。更に天気
図では梅雨前線は北に上がっているので出かけるなら南の方が良かろう。というわけで、
丁度旬であろうオオヤマレンゲを愛でに大峰まで行って来た。そこで実感したことは、デ
ジイチほどではないにせよ、コンデジみたいにポケットからホイホイ取り出して気軽に使
えるものではありません。当たり前か(笑)

 免許証など2回も忘れ物を取りに自宅へ舞い戻ったりして、最終的に自宅発は6時20
分と遅くなってしまった。いつもながらのドタバタで、おまけに名阪国道では1BOXの
自損事故発生で思いがけずの渋滞。幸い発生したのが自車位置から1kmほど先だったの
で、なんとか短時間で離脱できたものの、R169の復旧改良工事で片側通行個所が多か
ったこともあって手間取り、行者還トンネル西口に着いたのはもう9時過ぎだ。遅いので
混んでるんじゃないかとの懸念もあったが意外にそれほどでもなく、登山口の200mほ
ど先まで行くと路肩はがら空きだった。とはいえ、用意している間にも2、3台が上がっ
て来、この場所も埋まるのは時間の問題だろうが...。(^^;

 トンネルを西に抜けてすぐの小坪谷を渡る橋のたもとに弥山、行者還岳の登山口がある。
谷の向かいの大きなヤマボウシが満開で、その苞の白さが光を反射して周囲が明るく見え
るほどだ。沢を渡る木橋も年数を経てやや苔むし、いい具合に周囲に溶け込んでいる。下
を流れる沢はいつもより水量が少ないようだが相変わらず澄んでいる。下山時の楽しみは
この冷水で顔を洗うこと。ほんとに気持ちがいいのだ。

 二つの沢の出合から始まる尾根を登る道は相変わらず急峻だ。ヒメシャラの赤茶色の幹
と滴るような緑色の雑木の森を見ながら、左に曲がって湿った露岩と石くれが多く歩き難
い斜面を上がっていくだけでもう汗が帽子の下を流れ始める。歩き始めてほんの小半時も
しない内である。早くも最初の立ち休憩。汗をぬぐっているとなんとも特徴ある啼き声が
森に響いた。おっ、アカショウビン。今年は福井のホノケ山以来2回目。結構、あちこち
にいるもんだ。

 予想以上に足が上がらぬ。踏ん張りが利かぬ。へろへろ。(^^; グループなら迷惑をか
けるところだろうが、そこは単独の気安さ。適当に休憩を取る。

 太い幹を持つシロヤシオの下草にササが増えてくる。風も吹き下ろしてきて稜線も近い
ことを示す。以前より鮮明さを増したジグザグ道を忠実に辿りながら、まだかまだかと靴
を惰性で動かしているとようやくトンネル西口出合の白いオフィシャル標識が見えてきた。
やっと着いたか。フーッと大きく息をつく。

奥駈道と行者還トンネル西口の分岐

 やれやれ。顎を出しながらも尾根に上がったけれど、なんだか今日の空模様みたいに体
調もどんよりして、これ以上前へ進む気力が萎えている。ここのところの異常な暑さによ
る寝不足もあろうが、早朝のトースト一枚だけじゃ、やはりシャリばてが大きな要因にち
がいない。コンビニで買ったおにぎり弁当を開けて、おにぎり一個を腹に収めておく。す
るとまあ現金なもので、行ける所まで行こうじゃないかという気になるから不思議。とり
あえず足を前へ出そうではないか。(笑)

 尾根に登ればもう弥山直下まで小刻みなアップダウンがあるだけなのは知っているのだ
が、その小刻みが結構堪える。でも弁天の森辺りまで来るとちょっと調子が戻ったかな?
足取りも少し軽くなったような。西の布引谷を隔てて、大普賢岳の山並みに似た起伏を示
すは鉄山らしい。それにしても山また山のど真ん中の奥駈道を実感する瞬間。エゾゼミが
鳴き出した。しばらく雨も大丈夫だろう。弥山までは2km、聖宝宿跡までは1.1km。

 この辺りにはショウキランが顔を出すはずなのだけれど、行きも帰りも分らずじまい。
ちょっと残念だが、寄生植物なので同じ所に出るとは限らないから難しいものだ。その内
に目の前に弥山の山容が見え隠れし始めた。八合目から上はガスの中だ。今日も展望はだ
めか。そういえば、弥山には過去何度も来ているけれども、山頂から眺めが良かった試し
がないのである。(笑)

 今年はあらゆる植物の開花は相対的に一週間ばかり遅れているようで、バイケイソウも
ご多聞に漏れずまだ蕾が多い。奥駈道が走る尾根は広まったり狭まったり。ナツツバキの
白い花がポタポタ落ちているのを無邪気な顔で愉しんでいるように見える山伏姿の理源大
師像まで来た時である。先にいた数名の男性グループの人たちが何かを見つけたようだ。
像の向かって右の大木の苔むした幹に一羽の小鳥が居て逃げようとしない。それもそのは
ずヒガラだろうか、巣立ち直前の雛らしい。巣で羽ばたいたものの飛ぶ力がまだ足らず、
下に落ちたに違いない。しきりに鳴いているのは助けを求めているのか、それを聞いて親
鳥らしい二羽が近くに寄って来た。巣がありかが分からず、また人間の匂いがついて育児
を放棄されても困るのでこちらも手をこまねくしかない。幸い木の幹にはとっかかりが沢
山あるのでピョンピョン飛び跳ねながらでも上へ行けそうだ。最後まで見届けられないが
運が強ければ無事巣に戻れよう。
巣立ちしたのかヒガラらしい雛
親の声を聴いて振り返る

 理源大師像を過ぎると弥山への最後の登りだ。標高差約350m。薄暗い湿った森の斜
面をジグザグに登る小道になる。どこからかツツドリの鳴き声がこだまする。周囲は一層
暗くなり今にも泣きだしそうな感じがする。やめてよ。食事が終わるまでは我慢してよ。
急にまた赤明るくなったのはガス帯を抜けたからか。鉄製の階段を上がるともう弥山の小
屋まではもう一息である。どこからともなく自家発電のディーゼル音が聞こえ始める。上
に顔を向けると小屋の建物が見えはじめ、最後にバイケイソウの間を抜けると小屋の前だ。

 もう正午を廻っており、天女花見物は後にして、とりあえず雨が降らない内に食事にし
ようと、天河社奥宮への参道沿いの足場のいい所にザックを置く。ガスが流れ、本来なら
指呼にある八経ヶ岳の姿はない。ああ、ついに食べている最中にパラパラっと来た。これ
はいかぬと慌てて店仕舞い。ところが雨脚は強くもならずほんの一分で止んでくれた。今
のうちだ。天女花を愛でに行くとしよう。

 50m位下った鞍部は奥駈の靡の一つ、頂仙ヶ岳の遥拝所である。オオヤマレンゲの保
護区はその先にある。鹿除けの鉄製の扉を開けるとカラマツソウが満開。花はまるで白い
線香花火である。そして一番いい時期に当たったようだ。お目当てのオオヤマレンゲは旬
少し前といったところかまだ蕾が多く、その中の幾つかが葉の陰で雨に濡れ、ぼってりと
した花弁をやや重たげに広げている。鼻を近づけると馥郁とした香りがほのかに匂ってく
る。あちこちと鑑賞している間にもガスが流れていく。パラパラとまた来た。そんなわけ
で展望も期待できないので、今回は八経ヶ岳へ回るのは断念し戻ることにした。

馥郁と香る天女花

青々とみずみずしい苔(弥山・八経ヶ岳の鞍部にて)

弥山・八経ヶ岳の鞍部は幽玄の世界

 登山客が三々五々たむろする弥山小屋を後にして、誰もいない理源大師像まで戻ってき
た。あの雛はどこへ行ったのか。親鳥の声も全くせず、無事に巣に戻れたろうか。

 ガスが流れる高度帯を抜けたのだろうか、薄日で地上に影が出来るまでになった。明る
くなると気分まで明るくなるから不思議。反対に雨の降り出しの当てが外れたのか、ガマ
ガエルを二匹もトンネル西口の分岐に戻ってくるまでに見かけたのだった。

 一息つく。行者還岳まで行ってきたという単独小父さんが居る。クサタチバナはちらほ
らだったという。

 お先に失礼して急坂を下りる。往路で往生したが下りも結構往生する。やっぱりきつか
ったんや! (^^; そのうちにだんだん沢音が高くなってくる。左の沢からも音がし始め、
両方の沢に挟まれる先端に降りると登山口の木橋が見えてくる。思わず沢へ降りて顔を洗
う。塩が浮いて紅潮した顔に冷たい水が何とも心地良い。「ヒャー」思わず声が出た。

 薄日が射す中、山を下りて国道を走ると路面に水たまりが多い。カーラジオからは奈良
県に大雨注意報や雷雨注意報が発令されていたのだとか。それにしてはほとんど雨に降ら
れずに山歩き出来たのは幸運だった。

 最後にカメラの感想。まず一眼カメラにしては軽量が売り物のマイクロ一眼ではあるけ
れど、コンデジに比べれば格段に重く、やっぱりずっと首からぶら下げるのは目に見えな
い疲れがあるようだ。腰にぶら下げられるようなことを何か工夫した方がよさそうである。
装着していったのは標準ズームレンズ。これが意外と接写が効くのだ。花のクローズアッ
プ写真にマクロコンバータが必要かなと思ったけれど通常通り使うだけなら不要だろう。
但し、ネコノメソウみたいに小さな花が対象の時はこの限りではなさそうである。ま、カ
メラにお任せになった今回、今後は徐々に使える機能を覚えていきたい。しかし覚える尻
から忘れていくんだろうねえ。(^^;



【タイムチャート】
6:20自宅発
9:05〜 9:10行者還トンネル西口(駐車地)
9:15登山口
10:17〜10:27奥駈道出合
10:54〜10:55弁天の森
11:22〜11:27聖宝宿跡
12:17〜12:37弥山(1,895m)(昼食)
12:45〜12:55オオヤマレンゲ保護地域
13:05〜13:11弥山(1,895m)
13:48〜13:49聖宝宿跡
14:19弁天の森
14:40〜14:45奥駈道出合
14:40〜14:25小坪谷
15:30登山口



弥山のデータ
【所在地】奈良県吉野郡天川村
【標高】1,895m
【備考】 大峰山脈の主要な峰の一つで、最も目立つ峰でもあり、
観音峰山からはその大きな山容が迫ります。山頂には弥
山小屋、天河弁財天社の奥宮があります。国見八方睨か
らの展望も秀逸です。
【参考】2.5万図『弥山』



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