サンカヨウ咲く花の谷から氷ノ山


氷ノ山越付近から氷ノ山
平成23年 6月 4日(土)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 SRCの6月例会はUさんの企画で舂米から登る氷ノ山である。このところ雨などに祟
られている例会だが、今回も日曜の予報が好転せず、土曜に変更を余儀なくされるなど、
梅雨時特有の幹事泣かせの天候であった。花好きのUさんの企画だけあってとりどりの花
が出迎えてくれた。とりわけサンカヨウは例年はもう咲き終わっているはずが今年の不順
な気候も吉と出たようで、あれだけの花園を見たのは初めてだった。風も爽やか。久々に
梅雨の晴れ間を楽しみ、山の恵みを少しお裾分けしてもらった上に一っ風呂も浴びて、し
みじみ長躯した甲斐があったというものでした。(笑)

 氷ノ山は今回で3回目になるが鳥取側から登ったことはない。8時40分。R29沿い
にある道の駅「はが」に車3台が集合して総勢は6名。戸倉峠を越えて一路起点の鳥取県
若桜町舂米(つくよね)を目指す。

 舂米は東に屏風のように立ちはだかる氷ノ山の内懐にくるまれたような集落で、往古、
脇街道である氷ノ山越の重要な宿場でもあったようだ。現在はスキー場や県立の宿泊施設、
中国、北近畿第二の高峰氷ノ山の登山基地として整備が進んでいる。来週の山開きの幟が
R482沿いの至る所ではためいている舂米の集落を抜けて、自然ふれあい館「響の森」
の駐車場に到着は9時半。休憩も入れて自宅からほぼ3時間の行程である。

 まずは石造りの立派な自然展示施設「響の森」を訪ない、登山道の様子を確かめる。往
路に使う予定の仙谷コースは今年は雪が多く、いまだに雪田があり倒れた木もあって歩き
難いそうである。思いがけなかったのは施設のPRも兼ねた氷ノ山の案内図を頂いたこと
だ。仙谷から山頂までほぼ2時間半、上級コースなのだそうである。

 駐車場に戻って響の森の建物との間の遊歩道を行く。道はすぐに車道に合流する。タニ
ウツギが鈴なり。カッコウの啼き声が聞こえるが本物なのかテープを流しているのか判別
がつかない。(笑)
仙谷登山口

 人気のない建物が立つ曲がり角に仙谷登山口の案内板が立っている。湿り気を感じる杉
林の中に入っていくと、そのまま山道が続くと思いきや、すぐに大きな草原に出た。氷ノ
山スキー場のゲレンデである。トキワハゼかカキドオシの小花が散りばめたように咲き、
左手には騒がしい音を立てる仙谷の流れ。頂上まで2.2kmの道標があり、そして再び
道は杉林の中に。今度は正銘、林の中であった。

 沢に近いのでこの時期は例の褐色の軟体動物が出るのではないかと思うが、ここには不
思議にいないという。一応スパッツを装着してきたがそれは安心だ。そんな渓谷沿いの道
にはに茎の長い白い小さな花が目立つ。Uさんによればタチカメバソウというらしい。そ
ういえば葉っぱが亀の甲羅に似ている。花を子細に眺めれば大きさも形もヤマルリソウに
似た感じがある。同じムラサキ科の植物なのだ。この他、数は少ないがルイヨウボタンの
目立たぬが黄色い花も盛りであった。

 いつの間にか辺りの風景はミズナラやミズキなどの雑木に変わり、エゾハルゼミの鳴き
声が遠く近く。この辺りからそろそろお目当てのサンカヨウが姿を現わしてきた。花弁が
落ちてもう小さな実を準備しているものが多い。やはり少し遅かったかなと軽く落胆しか
けた時だった。目立たぬ所に二、三輪花をつけた小さな株が見つかった。やや盛りは過ぎ
てまもなく花弁が散ってしまおうかというような風情ではあったが、とりあえず間に合っ
た。(笑) 実はサンカヨウには何度かお目にかかっているのだけれど、花を愛でるのは伊
吹山北尾根以来これで2回目ではなかったか。この標高で花があるなら、上に行けば盛り
のものがあるに違いない。しかし大分株が減ったというUさん。歩を進めると中には茎の
みになったサンカヨウがあちらこちらに見つかる。どうも鹿の食害に遭ったらしい。貴重
な植物が至る所でどんどん減り、各地で笹藪が無くなっているのも天敵がいない鹿の個体
数の増加の所為という。山ビルの分布の拡大といい、深刻な問題ではある。

 標高980mの杭のある遊歩道との分岐を過ぎると今日最初の渡渉がある。ミソサザイ
の囀りを耳に、徐々に険しくなった道には短いが鎖場も現れる。赤子の頭大の石が積み重
なる登山道を進み、二回目の渡渉を終えた辺りだったろうか。地面に白に赤い筋の混じっ
たトチノキの花があちこちに落ちているのに気づく。見上げれば大きく太く周囲に枝を広
げた大トチノキの下である。この大トチノキは鳥取県でも一二を争う大きなものだという。
この巨木だけでなくこの谷筋にはトチノキが多い。私なら仙谷ではなく”栃谷”か”トチ
ノキ谷”と名を付けるだろう。でも些かベタ過ぎるか。(笑)
 
登山道の上に大きく枝を広げる大トチノキ

さながらトチノキ回廊だ

 崖の下、日蔭の沢にはまだ厚さ1m位の雪の塊が残る。枯れ木などが降り積もって黒く
なっているから一見雪とは思えない。締まっているので踏み抜く心配はなさそうだ。雪で
倒れた木の枝で歩き難いのを我慢して、再び沢を横切り対岸を登っていくと、ニリンソウ
の群落がお目見えである。一面のお花畑というわけではないが、適度な間隔をおいて、径
2cm程の白花が風に揺れる。蕾はほんのり紅色なのに咲いてしまうと白くなるのも面白い。

 右から沢が流れ込む辺りの標高が1100m。もうほぼ金剛山の高さだ。岩がゴロゴロ
転がる沢の最上部でもう水の音はしない。登山路は小さなゴルジュ状に狭くなった沢を行
くことになるので、初めて歩く時は少々不安に思えるが、周囲をよく確かめると岩に薄く
なった赤い〇印があるのに気づくことになろう。そして狭い岩の関門を越えた先にサンカ
ヨウのお花畑があった。まだ雪が残る百平米くらいの湿った斜面一面に鹿害を免れたサン
カヨウの白い花が見ごろ。ハナアブが花粉集めに忙しく飛び回っている。ここで何度目か
のしばしの撮影タイム。皆さんもハナアブよろしくあちらこちらと忙しい。さぞかしいい
写真が撮れたに違いない。(笑)
サンカヨウのお花畑

サンカヨウ

 幾つかの鎖場、ロープ場をこなして沢の源頭部も越えたらしく細流も全く途絶えた。露
岩と木の根が階段の代わりをなすような左手の急斜面を上がる。ネマガリタケが増えて来
たので尾根筋も近いようだ。

 ようやく支尾根の先端に上がって少しホッとする。とはいえまだまだ傾斜は厳しいのだ
が....。本来はブナの下をネマガリタケの茂みがびっしり覆っているはずだが、一間幅く
らい刈取られているので歩き良い。そんな隅でちょっと珍しいオオイワカガミの白花を見
かける。
白いイワカガミ

 ブナの周りを包むネマガリタケの繁みをよく見るとスズコと呼ばれる筍があちらにもこ
ちらにも顔を出している。そうだ山の恵みを少しお裾分けしてもらおう。するとすぐに持
参のレジ袋が重くなった。そんなことで歩くスピードはシャリバテも相まって格段に遅く
なる。それでも足を動かせばいつかは歩は進むもので、まだまだ上に見えていた稜線が次
第に近づいてきて、道が斜面を斜めにトラバースしだすと、まもなく仙谷口と呼ばれる北
尾根縦走路との出合に到着だ。すぐ近くに聳えるは甑岩。ベンチが置かれているので、皆
が揃うまでの時間、ザックを下ろし持参のミニ大福で小腹を宥めることにした。

 流石、メインルートは行く人還る人、人が多い。その中に混じって幅広の登山道は山頂
まで凡そ30分の道のり。山頂への最後の石積みの階段。急峻ではないが長くて歩き難く
て、小腹を宥めたとはいえ、シャリバテの身には意外に堪えるのだ。避難小屋が見えてき
たらそれもおしまい。広いなだらかな山頂広場が待っている。小屋の前の一等三角点の大
きな標石の周りには20名くらいの登山客が屯しているだろうか。気がつけばもう午後一
時を廻っている。ちょうど避難小屋の前の方位盤のぐるりが空いていたので、何はともあ
れまずはここに陣取って食事だ。ラーメンを啜る合間に眼を上げると、但馬から因幡の山
並みがあり、霞んではいるが扇ノ山の姿があり、とりわけ陣鉢山の端正な姿が目立つ。

 帰路は三ノ丸からスキー場もいいとのことであったが、下山後の一ッ風呂などを考えれ
ば時間が遅くなるので当初通り簡便な氷ノ山越からに決まる。甑岩から仙谷口を過ぎ、適
当にスズコを探しながらの北尾根道。鳥取側は茂みで見えないが、但馬側は鉢伏方面が箱
庭然とした風情で見え隠れする。なんとなく古いカルデラのような雰囲気がある。

 ヤキョウガ山の小さなアップダウンを過ぎてブナの林の中を抜ける。直径4、50cmの
ブナがネマガリタケの海の中に灰白色の幹をヌッと立ち上げる。多雪地帯にもかかわらず、
素直な幹が多いのも面白い。緩い下り道にかかると彼方から人声が風に流れてきた。

 氷ノ山越の峠にやって来る。旧伊勢街道の峠らしい峠には横顔が少ししゃくれ気味の見
覚えあるお地蔵さんが立ち、その背後には古い一本杉がある。『皆原村 先達半平 ゐ一
切』と刻まれた石仏の石はかなりの重さだろう。ここへ石を持ってきて彫ったのだろうか?
想像の翼が羽ばたくなあ。(笑) 因みに皆原村は氷ノ山の西、今は八東町の内にある。

 避難小屋の前には10名くらいの先客が小休止中。見ているとやはり舂米へ降りる人が
多い。我々も彼方になった氷ノ山山頂を仰ぎ見ながら一休みした後、西へ向かい坂道を降
りる。鳥取側のメインルートだ。

 木原八丁と呼ばれるつづら折れの坂道の傍にもサンカヨウが多い。だがここも鹿害に遭
って丸坊主のものも目立つ。他にはやはりタチカメバソウ。ヒョウノセンカタバミと呼ば
れるミヤマカタバミの変種。ニョイスミレだろうか白い小さな花のヒョロッとしたスミレ、
ヤグルマソウの大きな葉が目立ったが、仙谷では見られたルイヨウボタンは見つけられな
かった。

 沢の音が響きだすと周囲はよく手入れされた人工林に変わり始める。杉林の下に分岐が
現れた。道標の行先はどちらも舂米とある。一方は直進で一方は下り加減。下りすぎて駐
車場まで登り返すのがいやで直進方向を選択したが、いずれをとっても大差はなかったの
を後で地図で知る。こういうのを『後の祭り』っていうのだろうか。いや少し意味合いが
違う。むしろ持参している地図も出そうとしなかったのだから『宝の持ち腐れ』の方が正
しいか。(笑) 直進すると意外に早くほんの3分ほどで木立の向こうに茶色っぽい建物の
屋根が見えてくる。飛び出したのは氷ノ山キャンプ場の場内である。登山口の標識が一本。
ちょっと分かり難いかもしれない。
キャンプ場上部の氷ノ山越登山口

 清潔でゴミ一つないキャンプ場内の取り付け道路を適当にブラブラ下っていく。この時
間、大学のクラブの合宿らしい若者のグループ以外は閑散としたもの。顔を出したワラビ
を少し積みながら、響の森の駐車場は存外近くにあったのだった。


 往路で目に留まったふれあい温泉に寄り汗を流す。料金は400円と銭湯並みの安さ。
ただし、浴場内はボディシャンプーしか用意されていなかった。もっとも、ジモティと部
外者とで料金が違うので地元では銭湯代わりなのだろう。まあしようがないか。(笑)

 こちらへお邪魔すればお決まりのアーモンドマーガリンを「みなみはが」で購入して帰
路に着く。山、山の恵み、温泉と三点セットが揃った今回の氷ノ山。少し疲れたけれど充
実の山行であった。幹事のUさん、同行の方々、ありがとうございました。



【タイムチャート】
6:30自宅発
9:35〜 9:50氷ノ山自然ふれあい館駐車場(駐車地)
10:00仙谷コース登山口
10:28〜10:30遊歩道分岐
11:03〜11:15標高1100m標識付近
11:38〜10:45サンカヨウ群落
12:00〜12:02支尾根
12:35〜12:42氷ノ山北尾根出合(仙谷口)
13:05〜14:00氷ノ山(1,509.6m 一等三角点)(昼食)
14:20氷ノ山北尾根出合(仙谷口)
14:58〜15:10氷ノ山越
15:50分岐
15:54キャンプ場(氷ノ山越登山口)(910m)


■同行 裏人さん、かなぶんさん、たらちゃん、二輪草さん夫妻(五十音順)


氷ノ山のデータ
【所在地】兵庫県養父市(関宮町、大屋町)、鳥取県八頭郡若桜町
【標高】1509.6m(一等三角点)
【備考】 兵庫県の最高峰で中国山地では大山に次ぐ高さがありま
す。別名、須賀の山とも呼ばれ、冬季には文字通り白い
姿が各地から望めます。山頂はスズタケ、クマザサの草
原で360度の大展望です。登山道は鳥取側、兵庫県側
と数々ありますが、林道や高速道の開通で京阪神から日
帰り圏となり、加藤文太郎のホームグラウンドも登り易
くなりました。
■日本二百名山■近畿百名山■関西百名山
【参考】エアリアマップ『氷ノ山』



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