ホノケ山〜三度目の正直で行く万緑の古道


奥野々の集落から望むホノケ山と菅谷峠(右の凹部)
平成23年 6月12日(日)
【天候】曇り
【同行】単独


 今週の週末も空模様が芳しくない。土曜も朝は雨で機先を制され、さりとて日曜も降水
確率は高め、前線の北上で昼から雨だという。だがちょっと待てよ。北上ということは北
部の方が雨の降りだしは遅いはず。そこで地域毎に降水確率をチェックすると、北陸方面
は雨マークがない。それなら高速の割引が終われば行き難くなるし、今の内にちょっと遠
出してみようか。今まで空振りしていた今庄のホノケ山はどうだろう。ICから近いし、
奈良南部など近畿といえども少し辺鄙な所よりは余程早く着きそうではないか。(笑)

 実はホノケ山はこれが三度目の正直なのである。以前、近くの藤倉山、鍋倉山に登った
時、登山道から三角形の端正な姿が北西方向に見えて、それがホノケ山だと知った時、一
度行ってみたいと思っていたのだけれど、最初は雨、二回目はよんどころない事情で前日
キャンセルと、どこまでも縁のない山だったのだ。そんなことで二年越しの山歩きが今日、
実現するというわけである。

 北陸道今庄IC近辺は何度か利用させてもらって勝手知ったる道。日野川沿いのR30
5を北上すると、奥野々への標識と共にホノケ山登山口の案内板があるのでわかりやすい。
トンネルを潜って間もなく奥野々の集落。前方にホノケ山の山並みが見えてくる。R30
5のトンネル工事で通り抜け不可の看板が出ると、右手に古びた「第二登山口」の案内板
が現れる。取り付きを探して右往左往することがないのがうれしい。しかも流石は福井県。
アスファルト舗装の林道だ。とはいえ一車線の、ほとんど離合不能のヘアピン連続の道は
両サイドから草木が張り出してますます狭く感じる。駐車場はまだか、思いを胸に長い時
間走るように感じる実際はそれほどでもなかったようだ。明るくなった先が林道終点の第
二駐車場。とはいうものの、林道終点の車両転回場を転用したもので車4台も置けば満杯。
既に先着3台が駐車していたが一番端に斜めに場所を見つけ車を止めた。こんな時、コン
パクトカーは楽である。(^^;

 車外に出るとやはり梅雨時だ。風はヒヤッとしているものの湿度が高く肌に纏わりつく
感じがある。帽子代わりの日本手ぬぐいの予備に小さめのタオルもズボンのポケットに忍
ばせておく。
ホノケ山第二登山口
『まぼろしの北陸道』とある

 案内には峠まで1時間、山頂まで1時間半とある。他に山頂付近のハチに注意なんてい
うのもある。ん?スズメバチ?以前、巣でもあったのだろう。秋口はともかく今の季節は
大丈夫だろう。遠くでツツドリの鳴き声がする。目の前の粘土質の小さな斜面を上がると
もう尾根道が始まり、すぐにギンリョウソウの出迎えを受ける。道は深く洗掘されて極々
明瞭で歩きやすいが、湿っていてどこかでナガムシがとぐろを巻いていそうな雰囲気があ
る。そんなことで足元に神経を集中していると倒木に頭をぶつける羽目になる。「痛っ!」
眼鏡が落ちた。頬骨付近を倒木に打ちつけたみたい。幸い眼鏡も眼も無事。もう少し打ち
所が高ければ笑い話じゃ済まされなかっただろう。フーッ。危ない所でした。

 コナラの洞にあるニホンミツバチの巣を迂回する。秋口なんかはこんなのを狙ってクマ
が出没するのだろうなあ。そういえばHPに目撃情報なんかがあったっけ。

 左手の谷通しにまだまだ遠く高いホノケの稜線を見、道が小まめにつづら折れを繰り返
すようになった頃だったろうか、おやっ?聞き覚えのある鳥の鳴き声がする。耳を澄ます。
おっ?アカショウビンだ。ほんのすぐそこのように聞こえるのだが姿は見えない。この眼
で見んものとしばらく佇んでいたものの、結局分からずじまいである。

 早くも滲み出した汗を拭き拭きの坂道を我慢すると一気に傾斜が緩んだ。まもなく木立
の中にT字路が現れ、瓜生野と墨で書かれた古い標識が木にかかる。ここが帰路直進注意
とあった瓜生野分岐らしい。地形図でいう標高402mポイント付近だ。小休止して汗を
ぬぐう。日本手ぬぐいで頭を包んだのが功を奏したのか、汗が額を流れ、眼鏡のレンズに
滴ることがなく鬱陶しくなくて按配がいい。

登山道側に咲くササユリ

 もうコアジサイの咲く季節だ。うすく青みを帯びた白い冠状の密集花からプーンと芳香
が漂う。時折、ササユリがポッポッとほの暗い中に浮かぶ雑木林の中、深く洗掘された道
が続く。途中の説明板には切通しが6mにもなる所があるとあったが、せいぜい2mだろ
う。(笑) しかし、蛇行するように急斜面を登っていく道は人間には勿論だけれど、荷駄
を運ぶ牛馬にはもっと優しかったに違いない。間もなく現れた『緑のダム ブナ林』の標
識近くに周囲のブナを従えるように大きなブナが一本、佇立する。蛇行した道の片側が開
け、奥野々の人里が眼下にあった。

深く洗掘された幻の北陸道

 急坂が終わってなだらかになった先には、広葉樹の囲まれた台地状の592m標高点が
見えてくる。そこから今日初めて聞く人の声だ。小広場にジモティの男性数人。草刈機を
持って登山道整備に来られているようで、ちょうど休憩中の様子である。ここには朝倉氏
の家臣だった佐々布光林坊の墓がある。朝倉氏滅亡後、勢いを増した一向一揆勢に敗れ、
敦賀方面に逃亡中に追手に追いつかれ、この地で自刃したという。登山道横の1m四方程
度の小さな石組が見えるがそれなのだろうか。山頂まで1000mの道標。標高差はあと
約150mだ。

 592m標高点からは下り坂である。ほんの数分で前方が明るくなり、切通しのような
菅谷峠(すげんたんとうげ)に出る。林道整備工事の看板には○○交付金を使って工事云
々の説明書きがあるが、要するに原発補助金で整備するのに違いない。おしなべて福井県
は他県に比して舗装された林道が多いように思う。利用させてもらう我々にとっては嬉し
いことなのだけれど、他方、あまり付加価値のない林道まで舗装するのは如何なものかと
訝しむのも小生だけではないと思うがどうだろう。そんな林道工事のお蔭で菅谷峠は無粋
な切通しに変貌してしまったが、ここで初めてパノラマが開けたのがせめてもの慰め。薄
い靄がかかり、おちこちの山々はかえって墨絵の世界のようだ。はっきり自信を持って同
定できるのは日野山だけだが、辿ってきた尾根筋が見えるのはいいものだ。ここからホノ
ケ山頂まではほぼ500m。凡そ30分の道のりということはきつい登り?少々臍を固め
て目の前の木の階段を上がる。振り返れば反射板を冠した足谷山が鎮まっていた。

菅谷峠からホノケ山方向。左の覗くのは
ホノケ山から北東に延びる746m峰

 ブナ林の緑に癒されながらだからあまり自覚せずに済んだのか。帰りに降りる際に改め
て気づいたけれどやはりかなりの急登だ。100m毎に案内板の表示があるのが励みにな
る。途中の地面にあった大きな窪みは炭焼きの跡なのだと説明板が語る。麓の農民が刃物
を打つのに最適な鍛冶屋炭(かんじゃ炭)をここで焼いては古道を伝って里に降り、現金
収入を得たという。毎日登り降りしていたのだなあと思えばその苦労が忍ばれる。3K仕
事は全て外国人に任せてしまうような現代人も、ご先祖様はこんなきつい作業をこなして
いたのだ。そんな急登も山頂まであと200mの標識が現れると緩やかな新緑のブナ林に
なる。
山頂付近のブナ林

 緑滴るブナの林の向こうに土俵のように盛り上がっている台地が山頂らしい。賑やかな
声が漏れてくる。土俵?に上がると20人ほどの団体さんが食事中で、聞くとはなしに会
話を聞いていると、語尾を延ばす独特の抑揚を持つ福井弁のようであった。とりあえずは
三角点(二等三角点『戸谷』)にタッチ。山頂の展望は木々が茂っているので全方位とは
いかない。東方向以外は西方向と南西方向の一部が木々の隙間から覗けるに過ぎない。そ
の西方向は日本海が望めるのだが今日は霞んでいてはっきりしない。但し、東方向は今日
もなかなかの絶景で、眼下に起点であった奥野々の集落。南北に流れる日野川の流域を隔
てて、越前富士とも呼ばれる日野山が美しく、うっすら雪を頂いた白山連峰が肉眼でも認
められる。方位盤によれば、その右に部子山や冠山、三周ヶ岳なども見えるそうだが、ど
れがどれだか。(笑) 

ホノケ山山頂

山頂から墨絵のような東方向
麓に奥野々の集落と左に見えるのは日野山

 気温19℃。三角点を含め山頂の写真は後で撮ることにして、ちょっと早いがポツポツ
来ぬうちに昼にしておこう。ベンチ含めて団体さんに占拠されているので、方位盤横の越
美の山並みが眺められる場所で店開きする。登山道でも多く見受けたが、目の前にも輪生
の大きな葉を持つ野草。クルマバハグマ。ヒョロヒョロと蕾を付けたか細い茎を伸ばして
いるのに蟻が器用に登るのを見ていたらコッフェルの湯が泡立ってきた。

 山頂も刈取り整備をするらしい。10分ほど五月蠅いですがと作業員の方が断りを入れ
た。それを汐に団体さんが腰を上げた。一気に静かになった山頂。すると丸い穴が開けら
れた朽木の幹から数羽の雛の鳴き声が聞こえる。おそらくコゲラに違いない。普通、こう
いう時は親鳥が警戒音を発して監視するものだが、どこに行ったやら姿かたちも見えぬ。
威勢のいい小母さん達団体さんの声に恐れをなしてしまったのかも。でも雛の声に誘われ
て、もうすぐ戻って来るだろう。(笑)

 やや肌寒く感じたので温度計を確かめると16℃に低下している。急激な気温の低下。
前線でも通過するのか、雨が早まるかもしれない。まだ周囲の山々もガスに閉ざされては
いず大丈夫かもしれないが、早めに店仕舞いだけはしておこう。とはいえもう1時間近く
も山頂にいるのだった。(笑)

 正午前。二組のハイカーを後に残して下山にかかる。道整備の方々が作業中。下草の笹
も刈り取られているが、クマザサらしくスズコを楽しめるチシマザサでないのは残念。(^^;
振り返り振り返りしながらブナ林を抜ける。菅谷峠では先ほどの団体さんが休憩中。お先
に592m峰への登りにかかることにする。

 再び、光林坊の墓のある592m峰。誰もおらず静かだ。往路では登山道整備の地元の
方々の姿に隠れて見落としたが、北陸電力の足谷反射板を示す小ぶりの金属標識が立つ。
足谷山へはこれが指す踏み跡を行けばよいのだが、少し辿って見たけれど、左右から露に
濡れた草々が被って近頃あまり歩かれていないように見える。さっきの菅谷峠から地図に
ない林道(それにしては立派な林道なのだが)を経由して、途中を端折って登られている
ことが多いようだ。山に貴賤はないというが、展望もなく三角点もないので食指も伸びな
い。(笑) ということで寄り道は止しにした。(笑)

 往路でもう一つで気になっていたケーブルカーの中間地点みたいに二股になる部分。往
路は上の道を歩いたが今度は下側の道を確かめてみる。すると電力会社の管理道に多い黒
いプラ階段があった。横に金属標識があり足谷反射板とある。これは反射板の管理道に違
いない。地図で確かめるとすぐ下に林道が走っているようなのでそこから上がって来るの
だろう。トンネル工事で林道を利用する人がおらず、廃れているように見えたが、工事が
終わればこの道も復活することだろう。

 瓜生野分岐を過ぎて南東の支尾根に折れる。ホノケ山方面を眺めるとガスが湧き始めて
いる。空模様は徐々に下り坂なのだろう。でももう何時降っても....。我ながら現金なも
のだ。(笑)

 駐車場に帰ると、登山道整備の方々にちょうど軽四輪が迎えに来て帰っていくところ。
切通しの上部に大きなササユリが二株四輪、風に揺れている。行きには気がつかなかった
がここの花が一番大きく立派だった。(笑)

 予想より下山が早かったので冠山の帰途に一度行ったことのある最寄りの花はす温泉『
そまやま』へ汗を流しに行くことにする。林道を下っていくとR305との出合にバスが
一台。大阪の観光バスらしいので下山中にすれ違った15名位のグループが乗って来たも
のだろう。(ホノケ山って大阪から団体も来るんや...)ちょっと吃驚である。

 R8を少し南下して日野川を渡って2kmほど東進する。花はす温泉『そまやま』は花
はす公園の前にある。前回は『はすまつり』のまっ最中だったから混んでいたが、今日は
露天風呂もゆっくりと入れる。上がってコーラ片手に車に戻るとポツポツと雨が落ち始め
た。今まで我慢してくれていて有難う。大阪に着くと本格的な雨でした。

 万緑の雑木の山を愉しませてくれたホノケ山。いい山です。

【タイムチャート】
6:40自宅発
9:18〜 9:25第二駐車場(駐車地)
9:46〜 9:48瓜生野コース分岐(405m標高点)
10:28〜10:30光林坊墓(592m標高点)
10:34〜10:36菅谷峠
11:04〜11:55ホノケ山(736.8m 二等三角点)(昼食)
12:15菅谷峠
12:20〜12:25光林坊墓(592m標高点)
12:50〜12:52瓜生野コース分岐(405m標高点)
13:06第二駐車場(駐車地)



ホノケ山のデータ
【所在地】福井県南条郡南越前町
【標高】736.8m(二等三角点)
【備考】 越美山地の西端、蕎麦どころで有名な今庄の西に位置し
ます。面白い名前は昔、山頂から狼煙を上げて急を知ら
せたことから「火の気」が訛ったものと思われます。全
山雑木の山で山頂近くはブナの自然林で、また、その肩
には幻の北陸道と呼ばれる古道が残されており、深く洗
掘された道は古の人々の暮らしが髣髴とされるようです。
【参考】2.5万図『今庄』



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